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第2話 初戦闘

「ぅ……ん………」


 強い日差しが僕の体を照り付ける。瞼の隙間から侵入してくる光は僕の脳を起こす為の役割を果たし、少しずつ意識がハッキリとしてきた。

 体を起こして目を擦り、地面にある布と木製の床を見て首をかしげる。

 ここはどこだ?

 愚問だった。すぐに昨日のことを思い出し、僕は体を動かすことに違和感が無いか確かめる。多少の違いはあるものの、動きそのものは特に阻害されることはないし、胸も小さい方だと思うので肩を凝ることもないだろう。


「あ、起きましたか!」


 僕が起きたことに気付いたティアが服の入った桶を持ちながら近寄ってきた。


「おはよう」


「おはようございます!……おかーさーん!起きたよー!」


 うっ……。寝起きにその叫び声は少しばかりくるものがある。けれど文句を垂れていても何も変わることはないため、僕は早速顔を洗うことにした。

 ……そう言えば何か重要なことを忘れている気がする。なんだったかな?ま、あまり気にしても仕方がないので気にしない方向で行こう。

 ティアの掛け声で恰幅のいい女性が慌てた様子でこちらに来た。その人は僕の目の前に来ると荒い息遣いを整えながら、両膝をついて胸の前で腕を交差させる。

 何が何やら、理解不能な状態に混乱する僕を置いて女性が挨拶を口にした。その言葉に、心底驚かされることとは知らずに。


「おはようございます。ネヴィル帝国第2王女、フォルン様」


 ネヴィル帝国と言うと、確か昨日ティアに教えてもらったこの辺り一帯を統治していた、ビヒティス帝国に負けた国だったか。その国の第2王女……?いやいや、そんなわけないでしょう。王族は少しだけ生きているらしいけれど、流石に僕が王族だなんてことは。

 と、そこまで思ったところで昨夜のことがフラッシュバックのように蘇った。脳内で再生されるそのステータス。職業欄には確かに「ネヴィル帝国第2王女」と書いてある。


「あ、あぁ……おはようございます……」


 途端にどう接したらいいのかわからなくなり、昨夜見たステータスの内容を詳細に思い出すことにした。そのステータスの内容は、驚きのことに能力値や装備など、全てがMFのメインキャラクターを引き継いでいた。

 これこそが僕が最強へと至らしめたものなのだけど、名前のところはフォルンだけど王女としての名前になっているところや、特技は一つなはずなのに魔法が増えているところも気になる。

 本来であれば一つのキャラクターにつき、職業……この表示では特技欄に変わっているけれど、特技は一キャラクターにつき一つだ。その大前提が既に崩れてしまっている。

 それはそれで、魔法は広範囲に使えたりするから便利でとてもいいのだけど、やっぱり気になってしまう。

 それに加えてレベルは99だ。もし今の僕がいなければ、この体はまた別の意思を持っていたはずだし、最初から99というのはあり得ないだろう。

 これらを考えると、一つの結論が頭に思い浮かんだ。それは、元々いた第2王女としてのフォルンのステータスとMF内でのフォルンのステータスが重なり合い、上回ったところをいいとこ取りしているのではないだろうか。


「こんなところで申し訳ありません。直ぐに朝食を用意しますね」


「あ、いえ、お構いなく。朝食は欲しいですが……」


「ふふ、わかりました。少々お待ちくださいね」


 母性を感じさせる笑顔を受けて、体がポカポカする。それにしても、どうして僕が王女だってことがばれたのか、それも聞いておかなければこれから先のことで困るかもしれない。

 ティアのお母さんが戻ってくると、その手には小さな鍋とスプーンが持たれていた。蒸気を上げている鍋の中身が気になり、覗き込んでみると山菜と川魚が一緒に煮込まれていた。どうやら米はないようで、それもパンもないみたいで食生活には難がありそうだ。

 と思っていると、奥からティアがバスケットを持ってきた。そのバスケットには僅かながらもパンが入っていて、手に取ってみるとフランスパンのように硬い。これは恐らく、お母さんが持ってきたスープのようなものに漬けてから食べるのだと思う。そうでなければ噛み切れる気がしない。


「ありがとうございます」


 お礼を告げて、手を合わせて心の中で頂きますと言って料理に手を伸ばした。スプーンでスープを掬うと滑らかな汁がスプーンから零れ落ち、山菜と解された魚の身が乗ったままだ。

 それを口に運んで見れば、素材そのものの味を最大限引き出している味に感動を覚え、その勢いでパンに手を伸ばす。硬いパンではあるけれど、スープに少し浸すだけ柔らかくなって非常に食べやすい。スープの味とパンの味が絶妙にマッチするので、これなら日本での食事と水準はほぼ変わらないのではないだろうか。

 そう思えるほどにレベルが高い。


「おいしいですね!」


 本当に美味しかったのでそう言うと、ティアとお母さんは顔を見合わせて顔を綻ばせた。僕はあっという間にそれを完食してしまい、お腹を摩る。少し食べ過ぎたかもしれない。お腹が苦しい。


「あ、そう言えば、ティアのお母さんはどうして僕が王女だってわかったのですか?」


「おやおや、何を言っているのですか?その真紅の瞳と赤の髪は王族の証ではないですか」


 それは初耳だ。ティアからも聞いていなかったし、ティアも僕が王族だなんて知らなかったはずだ。昨日の態度と今日の態度は明らかに違うから、本当に王族なのだと思う。


「う〜ん、正体を隠すにはどうしたらいいと思いますか?」


「そうですね、では夫に髪の色を変化させる道具を作って貰いましょう」


 おお、そんな道具が作れるなんて凄い。流石、異世界なだけはある。髪の色を変えるだなんて簡単に言っているけれど、染色剤なんかを作るのかな?その辺りは任せておいて問題なさそうだから、考えなくてもいいか。


「あと、瞳の方もお願いします」


「えぇっと、瞳の色は変えられないようになっているのですが……」


 そうなんだ?それなら仕方ないね。僕は「なら仕方ありませんね」と笑みを浮かべて言うと「申し訳ありません」と謝られた。ここで不毛な謝り合いをしても何者にもなることはないので、素直に受け取っておく。

 ティアのお母さんは僕に一礼してからどこかへ去っていった。

 さて、これで僕は暇になったわけだけど、そういえば湖の水はもう飲んだということなのかな?昨日の晩はティアもすぐに眠りについていたから、僕が寝ている間にしていたのか。どれだけ寝過ごしたんだろう。

 そうは思うものの、まだこの世界に来たばかりで分かっていないことも多々ある。今日はその確認をしておくことにしよう。自分のことを知っておいて損をすることなんて、ないからね。


「ティア〜、どこ〜」


「はい!フォルン様!どうしました?」


 やっぱり昨日とだいぶ態度が違う。もっと柔らかく接して欲しいと思うのだけど、この世界に来る前、日本で平凡な僕が首相や天皇に会ったりしたら反射的に頭を下げてしまうだろう。きっと、それと同じことだと思うので強要するのはやめておく。


「少し試したいことが色々あるから、人気ひとけが無くてそこそこ広いところってないかな?」


「ありますよ、ご案内しますね!」


 昨日の泣いている顔も可愛かったけれど、こうして明るい笑顔を見せてくれるティアもとても可愛らしい。もし僕が男だったのならアプローチをかけているところだ。そして玉砕するのだ。一瞬で。本当にあったんだけど、あまり思い出したくない。

 ティアの後ろをついて歩くこと数十分、立ち止まって振り返ってきたので、ここが先ほど言っていたところなのだと理解する。後で聞いた説明では、ここは村を守る結界のギリギリの範囲で、たまに魔物が来ることもあるから村人はほとんど来ないらしい。

 魔物と言えば、僕が獣だと思っていた昨日の狼も魔物だったらしい。魔物と獣の違いは魔力を持っているかどうからしく、魔力はおそらくMPのことだと判断している。


「ティア、ありがとう」


「はい!ではまたお昼時には呼びにきますね!」


 手を振ってティアが遠ざかっているところを見届けながら、豪胆な性格だな、とも思う。たまに魔物が現れるところに、仮にも王女を連れてくるなんて打ち首になっちゃうかもしれないよ。知らないけれど。

 とはいえ、折角連れて来てもらえたので僕は確認したかったことをする。

 まずは今着ている服のことだ。ステータスにある装備の欄を見てみると、ゲームでの装備が書かれていたのだけど、可視化されていない。そもそも本当に装備しているのかすら怪しい。

 今着ている服はふりふりのついたミニスカートに長袖の、袖口にふりふりがついていて、いかにも高貴な身分ですよ、と言っているような服。靴は5〜10センチくらいのヒールを履いていて、よく転けていないなと感心する。それらは全て赤を基調として、黒と白が次に多く使われている。

 よくこれで寝られたものだと、昨夜は本当に疲れていたのだと思う。だから、僕の装備は現在見当たらない。

 もう一度ステータスを開いて装備欄を見てみることにした。けれどそこには何も書いていない。ふと、ステータスの下に書かれているマップに赤い点が近付いていることに気付いた。

 これは、ゲームと同じであれば敵の反応だ。魔物が来るのだろう。僕は昨日のように避け続けられるか分からないので臨戦態勢を取る。

 すると、どこから現れたのか装備が可視化した。透明な羽衣に体を包み、指輪が煌めきネックレスが揺れる。頭にある姫の冠(ティアラ)は輝いていた。宝石で彩られていたヒールだったはずの靴は羽根が付いたものに変わっていて、飛べそうなほどに体が軽く感じる。

 これ幸いと思い弓を持ち弦をひき、スキルを発動させた。


【必中】【狙い撃ち】


 必中は必ず敵に当たるようにするスキルで、狙い撃ちは視界外の敵でもマップで見えていれば、そこに撃ち込めるという反則スキルだ。これにはとても世話になった。これからも、存分に使わせてもらおう。

 狙い撃ちを発動させた瞬間、僕の手から矢が離れ飛んで行った。それも凄いスピードで森の中の木々を縫い分けて飛来していき、遠くから炸裂音が聞こえたかと思うと、チロリンと音が鳴る。マップを確認すると、敵の反応が消滅していた。

 うん、敵の消滅確認音は鬱陶しそうだからオフにしておこう。ゲームではこの音を聞くと、一気に敵を倒した時の爽快感が凄くて心地よかったものだ。

 マップの端っこにある設定部分を弄ってオフにし、音が出ないようにした。これで良しだ。

 もうマップに敵はいない。緑の点がたくさんあるので、こちらは村の方向だろう。このマップは何故か点の表示はあるのに地形の表示が全くない。真っ黒に塗られたところにポツポツと点があるのだ。

 それでもキチンと機能していることが分かったので、これからも使っていける。

 ちなみにゲーム内では視界外ではなく画面外の敵ということになる。

 初めての戦闘だというのにアッサリと済んでしまい、少し拍子抜けしてしまう。けれど死体なんて見たら吐いてしまう可能性もあるので、これはこれで良かったのかもしれない。回避できる面倒ごとはできるだけ回避していくべきだ。

 戦闘を終了すると、装備が消えて元々着ていた服装に戻った。これは一体どういうことなのだろう?戦闘状態の時だけ装備が変わるのかな?だとすれば、昨日は何故装備が出なかったのだろう。昨日との違いといえば……。


「戦闘の意思があるかないか……?」


 断言は出来ないけれど、たぶんこれで間違いないだろう。けれど、戦闘以外でも装備を身につけられるかどうかが問題だ。不意打ちを受けたりしたらこの紙装甲の現在の服装は頼りない。元々、僕の装備は紙装甲なのだけど。

 HP強化もMP強化も付いていない防具なのだ。HP強化があればHPは増えるし、MP強化があればMPが増える。けれど、僕にはHP吸収とMP吸収がある。即死さえしなければ、余程のことが無い限り問題ないのである。


「フォルン様〜!お昼ですよー!」


 ティアの声が聞こえた方に振り向くと、遠くから手を振るティアの姿が見えた。もうフォルン様と呼ばれて反応していることに驚きつつも、僕も大声で返事をする。


「わかったー!すぐに戻るよー!」


「はい!先に戻ってますね!」


 こんなに大きな声を出したのはいつ以来だろう。それに誰かに呼んでもらう、なんてことも久しぶりだ。僕は小さな幸せを感じながらその場を後にした。

いきなり評価ありがとうございます!

ブックマークも5件という!

ありがとうございます!


俄然やる気が……!!!

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