第1話 ステータス
ワイヤレス通信で4人まで協力プレイが出来ると言われているマナ・ファンタジー。通称MF。
そのゲームは確かに4人まで一緒にプレイすることが出来る。友達がいれば。
僕に友達はいない。
つまり、協力プレイは一切したことがないのだ。
ずっとぼっちプレイをしてきた勇者、それが僕。
発売当時からしている僕は今年でプレイ歴4年目に突入する。
メインは弓のキャラクターではあるが、魔法のキャラクターや剣士のキャラクターを選んで遊んだこともある。その弓のキャラクターが最大レベルである99に到達したのは1年前。そこからは装備を固めるための周回プレイだ。
このゲームはターン制ではないため、プレイヤースキルも必要になってくる。
敵の攻撃に合わせてキャラを動かし回避行動を取ったり、ある程度のレベルまでの敵であれば自動で避けてくれたりもする。
装備を固めるための周回プレイが、ようやく昨日終わったのだ。
僕は高まる気分を押さえつけながらゲームを起動する。
瞬間、視界が暗転した。
「うっ⋯⋯」
ここはどこだ?
体を起こし、周囲を見渡すと、そこは知りもしない森の中であるということがわかった。
ふと、下半身がすぅすぅすることに気付き見てみると、膨らんだ胸が邪魔で見えなくなっている。
「へぁ!?」
そんな言葉を出した瞬間、バッと口を押えた。
なんだ、この声は。
膨らんだ胸といい、股間の喪失感といい、さっきの声といい、これではまるで……そう、まるで女の子 じゃないか。
つーっと股間に指を這わせると、やはりというか、喪失感の通りあるはずのものがなくなっていた。
しかし……見たこともない容姿である。
これは一体誰なのか、見当もつかない。
だけど、声の調子や目線の高さ、その他もろもろを考慮すると14〜16歳の間ではあるようだ。高めに見積もって16歳ということにしておこう。
僕は森の中を移動することにした。その場に居ても、何も解決しないと思ったからである。
少しして、湖が見えた。そこに走っていくと、砂漠などで発生する蜃気楼ではなく、本物の湖であることがわかった。
僕はその湖を覗き込む。
すると、艶やかな薄いピンク色の唇が一番に目に入り、思わず息を呑む。
続けてすぅっと通る鼻筋に真紅の輝きを放つ瞳。髪は腰まで伸びているようでその色は燃え盛る炎のような赤。けれどその色は微妙に違っていて、その違いを言い表せない。
そんな時、悲鳴が聞こえる。
「いやぁぁぁ!!」
声のした方を見てみると、何かが近付いてきていることがわかった。地面に落ちている枯れ枝をポキポキ折りながら走ってくる一つの影と、その背後にいるもう一つの影。
背後にいる影は人間ではないようで、どうやら狼のような獣に追われているらしい。
その獣は大して足が速いというわけではなく、こちらに逃げてきている女の子と同程度の速さだ。
僕は彼女を助けるかどうか、迷う。
戦えるだけの力があるのか?
今のこのか弱い体に、そんな力があるとは思えない。
そんなことを考えていると、いつの間にかすぐ目の前に女の子が来ていた。
抱きつくように飛び込んできた彼女を受け止めて、少し手前で止まった獣を見る。
グルルゥ
と威嚇してくる獣に恐怖心が沸き起こる。けれどそれ以上に、こいつは倒せる、という自信がどこからか湧き上がってきた。
女の子は完全に僕の体に密着していて、動く気配はない。
僕は、死ぬのかな。
走ってくる獣を見つめながらそんなことを思う。
獣はまだ走っている。
さっきよりも遅くなっている気がする。疲れたのかな?
でも、僕に近づくに連れてその速度は確実に落ちていた。何かがおかしい。
獣が遅くなっているんじゃない。
僕の体感時間が加速しているんだ。
そう認識した瞬間、獣の爪が僕を捉えようとしてきた。
躱す暇はない。目を思いっきり瞑って痛みが訪れるのを待っていると、いつまで経っても痛みが来ない。
どうしたのかと思い目を開けて状況を確認する。
視界には獣が大きく映っていて、縦横無尽にその自慢の爪を披露している。けれど、その尽くが当たらずに僕は全ての攻撃を躱していた。
獣の爪はゆっくりと迫り、僕の意思は体を動かしていないのに、まるで何かに操られてるようにして攻撃を避けている。
よくわからないけれど、これなら!
「うぉぉぉおおおお!!」
思いっきり殴る。
すると獣は一瞬怯んだようだけど、全く効いていないみたいだ。すぐに僕に攻撃を再開した。
どうすれば倒せる?このままだとやられないけれど、倒すこともできない。イタチごっこだ。
あぁ、でも相手の体力がなくなることを待っているというのも一つの手かな。
かといって、このまま避け続けられるとも思えない。自動で避けているというのは途轍もない不安が襲ってくる。
だから、倒したい。
でもその術がないのだ。
どうしようもない。
やがて獣も疲れてきたのか、攻撃が途切れ途切れになって来た。これならいけるかもしれない。
それでも警戒を怠らずに獣を睨みつけている。
獣は荒い息を吐きながら、攻撃をやめた。遂に諦めたのか背中も見せてゆっくりと歩いて去っていった。
僕にも追いかけてもどうしようもないとわかっているので、獣はそのまま行かせる。
次に僕の体に抱きついて震えていた女の子を見た。
あの攻撃の中、無傷でどうにか抜けれたようで柔肌には傷一つついていない。
「もう大丈夫だよ」
凛とした僕の声が女の子の耳に届き、女の子は恐る恐る顔を上げた。
満天の星空と月明かりに照らされてたその顔は、涙が流れていた跡があり、目元が腫れている。
その子の瞳は緑色で、髪も緑色で長さは肩ほどまで伸ばしているようだ。そしてとんがっている特徴的な耳。けれどその耳の長さは人とあまり変わらない。ピンク色のぷるりんとした唇が動いた。
「た、助けて頂いてありがとうございます」
おそらく14歳くらいだと思われる彼女。
そのか細い声は今にも消えてしまいそうなほど震えていた。まだ怖いのだろう。森の中で、夜空の明かりしかないのだから。
けれど、夜空は思っていた以上に明るい。現代日本では考えられないような大自然に、僕は目を瞬いた。
いつまでもこの場にじっとしていられないと思い、女の子を立たせる。
「そういえば、君の名前は?」
「え、っと、ティア、です」
「そっか、僕は、僕は〜フォルン。よろしくね」
「はい。よろしく、お願いします」
まさか女の子の容姿と格好で男の名前を名乗るわけにも行かず、咄嗟にプレイしようとしていたMFのメインキャラクター名を告げた。
フォルンとは僕が育て上げた弓職業のキャラクターなのだ。4年かけて、昨日ようやく全てが揃った唯一のキャラクター。
「ところで、ティアはどうしてこの森に?」
「それは、その、夜の湖の水は、万能の薬になると言われたので」
湖と言うと、さっきまで僕がいたところだろうか。あそこ以外に無さそうだし、きっと間違いないだろう。
「フォルンさんはどうしてここに?」
「へ?えーっと、僕は気が付いたらここに居たかな」
こんな小さな女の子なのだし、少しくらい話しても問題無さそうだ。
それからは湖に着くまでの間、この世界のことをいろいろと教えてもらえた。
まず今いる場所は旧ネヴィル帝国領帝城跡地で、湖はその城の中にある池のような扱いらしい。
数年前に戦いに敗れ王族は殆どが捕らえられたけれど、逃げきった人もいる。帝城は破壊されてなくなってしまったとのことだ。
このネヴィル帝国を戦争で打ち破ったのは、ビヒティス王国。旧ネヴィル帝国領の全てをビヒティス王国が手に入れ、ビヒティス王国はビヒティス帝国へと名前を変えた。
帝国になったことで周囲の国との諍いも多々起こり、今の情勢はとても不安定だそうだ。
そして彼女自身は旧ネヴィル帝国出身者で、この森の近くに住んでいる。父親が魔物との戦闘で怪我をしてしまったため、ここまで一人でこっそりやってきたらしい。
「着きました……」
本当に着いたことに驚いている様子の彼女を横目に、僕は今手に入れた情報を吟味する。
けれど、どうして僕がここにいるのかがわからない。ゲームをしようとした瞬間に、ここに来たと記憶が告げている。
「これで、お父さんは……」
湖の水を手持ちの瓶に入れ終わったティアは僕の方に駆けてくる。それを優しく受け止め、頭を撫でてやること数十分。
満足したティアの満面の笑みが見られて、僕はホクホクだ。
ひとまず、僕はティアを村まで連れて行くことにした。
湖から徒歩1時間半ほど。
僕たちは木造の家屋が50棟ほど乱立しているところへやってきた。どうやらここがティアの暮らしている場所のようだ。
「ここです!ありがとうございました!」
「いや、気にしなくていいよ」
「それで、その、フォルンさんは今日どうするんですか?よかったら、泊まっていきませんか?」
「いいの?」
「はい!」
ティアの願ったり叶ったりな申し出に頷き、泊めてもらうことになった。
実際、今日の夜はどうやって過ごそうかと悩んでいたところだったので渡りに船だ。
ティアの後ろをついて行き、一つの家の中に入る。その家はリビングと居間と寝室がごっちゃになっているみたいで、ティアのお父さんと思しき人とお母さんと思しき人が眠っていた。
特にお父さんの方は苦しそうにしている。
「フォルンさんはそこで寝てもらえますか?」
一番はしっこにある布団を指し示したティアの言う通りに、僕はその布団に潜り込んだ。
ティアは何処で寝るのかと思っていると、寝巻きに着替えた彼女が奥から出てきて同じ布団に潜り込む。
この布団はティアの寝るところだったのか。
「おやすみなさい、フォルンさん」
「うん、おやすみ、ティア」
それだけ言うと、余程疲れていたのかすぐに寝息を立て始め、起きているのは僕だけとなった。これでようやく、状況整理が出来る。
ここがどこかは理解した。おそらく、異世界だろう。ゲーム以外にも漫画や小説を見ていたからよくわかる。けれど、実際にこんな事が起こっているというのは今でも信じ難い。
そして、異世界に行けばチートも貰えるものが多い。さっきのひたすら躱す能力がチートなのか。それともまだ他にあるのか。
どちらにしろ確認する術を見つけないと、どうしようもない。
でも、本当に異世界なのであればゲームのような表示が出る可能性が非常に高い。だからと言って、視界の端にHP表示やMP表示はない。
もしかしたら、そう思い「ステータス」と強く念じる。
すると、予想通りと言えばいいのか、期待を裏切らないといえばいいのか、はたまた驚けばいいのか、おそらく今の僕はその全てを体現しているだろう。
目の前に表示されたステータス画面をスクロールしながら見ていった。
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ステータス
名前:フォルン・ル・ドリエ・ネヴィル
性別:女
年齢:16
Lv.:99
職業:ネヴィル帝国第2王女
特技:弓・魔法
弓スキル:詳細表示
魔法スキル:詳細表示
パッシブスキル:詳細表示
能力値
HP:1095
MP:2550
攻撃力:6393
防御力:850
体力:10
魔力:255(+15)
筋力:13
器用さ:255(+5)
命中値:255
回避力:255
移動速度:180%(+80%)
攻撃速度:150%(+50%)
属性耐性:All+255%
装備
頭防具:姫の冠(防御力+45・全属性耐性+45%・攻撃力+35%・魔力+10・器用さ+5・スキル値+3)
上半身防具:天の羽衣"上"(防御力+60・防御力+35%・追加防御力90・全属性耐性+45%・攻撃力+45%・スキル値+3)
下半身防具:天の羽衣"下"(防御力+60・防御力+35%・追加防御力90・全属性耐性+45%・攻撃力+45%・スキル値+3)
靴:天翔の羽(防御力+45・全属性耐性+45%・移動速度+45%・攻撃速度+30%・MP吸収5%・スキル値+4)
指輪:姫の証(防御力+25・全属性耐性+30%・追加攻撃力"風"+94・追加攻撃力"水"+65・追加攻撃力"光"+45%・スキル値+3)
耳飾り:星の煌めき(移動速度+35%・攻撃速度+20%・全属性耐性+45%・HP吸収3%・MP吸収5%・スキル値+4)
首飾り:神を降した者(追加攻撃力+45%・追加攻撃力"闇"+94・追加攻撃力"土"+65・追加攻撃力"火"45%・スキル値+3)
武器:神器・神堕弓(攻撃力+255・追加攻撃力"全属性"+45%・追加攻撃力+94・追加攻撃力+45%・HP吸収3%・MP吸収5%・スキル値+5)
アイテムボックス:詳細表示
ずっとこれ書きたかったんですけど、他の作品滞ってるのになぁ⋯⋯と思って書いてなかったのですが、遂に我慢の限界が来てしまいました。
これも他作品と同じように不定期になるのか、それはまだわかりませんがよろしくおねがいします。
計算
・攻撃力
弓装備なので、器用さ×2,55に攻撃力、追加攻撃力+値を全て足します。それに追加攻撃力+値%を割り出し、それを足します。属性入り追加攻撃力+値%を割り出し、足します。それに属性入り追加攻撃力+値を足すと、この値になります。
杖装備の場合は、魔力×2,55になります。
・防御力
防御力+値に追加防御力+値を足して、防御力+値%を割り出しそれを足すと、この値になります。
なお、四捨五入は適当です。