それぞれの
更に更に増えます
今回視点変更多いです。読みづらかったらすいません。
『今回の事件はあまりにも凄惨なものであり、警察は―――』
ピッ
『静かな町に突如齎された惨劇。今朝、日本海沿岸部で―――』
ピッ
『船内には刃物や焦げ後なども見つかり、最近の不可解な事件とも繋がりが―――』
ピッ
『凶器は鋭利な刃物と見られていますが、強引に引きちぎったような跡も発見されて―――』
ブツッ。
どの局にチャンネルを変えても、報道されている内容は同じであった。それだけ、この事件が重大なものだったのであろう。
ため息すらつくことなく、俺は淡々と昨日のことを思い出した。
―――殺した。ただ殺しつくした。
衝動に駆られ、本能の赴くままにただ殺戮の快楽に呑まれた。この手で獲物の喉を裂き、腕を引きちぎり、頭を潰した。
その感触は正確に思い出せる。血の暖かさ、肉の匂い、臓物の色、その全てを。
だがそれはトラウマという意味ではない。正確なデータとして、だ。
日課となった鏡の前での確認。
そこに立っていたのは、銀色のショートヘアーの少女であった。
能面のような無表情と均整のとれた体、大きくも無く小さくも無く全てが平均的な体。そんな普通の体に唯一おかしな、銀色の髪。
この日本でここまで奇天烈な髪の毛はいないだろうが、よくよく見ればもっとおかしな部分がある。
目、だ。じっくりと見れば目がずっと動いているのがわかる。瞳孔の部分がカメラのピントを合わせるように拡大縮小を続けているのがわかる。
そう、この体は機械となっていた。さながら、アンドロイドといったところだろう。
疎ましく思っていたこの変身異能だが、今日だけはこの変身に感謝しなければいけない。
全てをあるがままに、ただただ記録するだけの機械に変身できなければ―――俺は壊れていた。可能性ではなく、確定的に。
初めて人を殺した記憶と感触。耳に残る絶叫と悲鳴。鼻につく血と内臓の臭さ。
一人殺せば犯罪者、十人殺せば殺人鬼、百人殺せば英雄とはよくいったものだ。
何人殺したかはわからないが、少なくとも両手の指以上の人間はいた……と思う。殺意と言う麻薬にどっぷり漬かった俺の頭は、何人いたかなんて些細なことではなくいかに人間を殺すかだけを思考していた。
だが、狂気の快楽は殺意に染まっていた時だけ。正気に戻った俺に待ち受けていたのは、純粋で残酷な現実と後悔。
ただの情報として処理できなければ、俺はきっと罪悪感に潰され自殺を選んでいただろう。
「……」
じっと自分の手を見つめる。
一見普通の手に見えるが、よくよく目を凝らせばうっすらと間接に線が浮かび上がって見える。肌に見えるのは特殊な繊維のような質感で、触れば女性特有のやわらかな感触よりも先に金属的な硬さが返ってくる。
口の中は唾液よりもサラサラとした液体で覆われ、恐る恐る触った目は濡れてすらおらずガラス特有の冷たさが指へと伝わる。
そう、この体には血と涙どころか体温というものすら存在していないかった。
カッターで指先を傷つけようにも刃が通らず、思いっきて包丁を腕に叩きつけた時に僅かに破れた皮膚も数秒も経たない内に修復される。
ハハハ、俺も本格的に人外化してきたものだ。
だが胸と下腹部だけは妙に柔らかい。数々の本物(自分の)を触ったからわかる、これは偽物の感触ではない。もちろん体温など無いので冷たいが。
「愚劣」
くだらないと言おうとしたら、思ったより簡潔な言葉が飛び出てしまった。いままで口調や語尾を変えられることはあったが、まさか言葉自体を変えられる事態になろうとは思わなかった。
「疑問」
『なんでだろう』がなぜその二文字に縮小されるんだ。本当にこの異能は謎ばかりだ。
機械の体なのだから、もしかしたら変形機構の類もあるのだろうかろうかと色々と弄ってみる。
右手の中指を手の甲へと引っ張る。
カチャッと軽い音ともに中指は折れ曲がり、中指のあった場所から真っ黒な針が飛び出る。
「……困惑」
俺は見なかったことにして、そっと中指を元の位置に戻した。
しかし、中指を元に戻す時うっかり人差し指を内側へと押し込んでしまう。
すると今度は手首から一メートル近い銀色の両刃が皮膚を突き破って飛び出る。
もちろんだが俺の肘から手首までの長さは一メートルも無い。ついに物理法則すら無視し始めてか、いやそれもいまさらか。
押し込まれた人差し指を引っ張ると今度は引っ張りすぎたのか、手の平に穴が開き銃口が飛び出る。
「面倒」
俺の体は、かなり面倒になったみたいです。
その後、四苦八苦しながらなんとか右手を元通りに戻すことが出来た。流石に肘から大砲らしきものが出てきた時はびびった。
こうなると、検証といってうかつに触ることが出来ない。今回は刃物や銃器だけであったが、下手に触って自爆装置のスイッチなど押したくない。
単色のシンプルなシャツとジーンズに着替え、洗濯機を回すとグーと腹が鳴った。
時計を見ればもう正午近い、なにかあったかと冷蔵庫に手を伸ばしたところでふと気がつく。この体の食べ物って何だろうか。
兎とかネコとかなら辛うじてわかるが、機械の食べ物なんてわからない。すごい嫌な予感がするが、まさか油じゃないよな?
口も歯もあるから咀嚼は出来るし、食べれないことは無いだろうと少しだけ残っていた昨日の残りを口の中に入れる。
ボソボソとサンドイッチを食べると味の代わりに頭の中に円グラフが思い浮かんだ。
なんだこれと疑問に思うが、すぐにわかった。これ、サンドイッチの成分表示だ。
どうやら油を直飲みするのは回避できたようだが、残念なことにこの体には味覚というものがないらしい。塩味であるとか保存料が入ってるとかはかなり詳しくわかるのだが、データとして頭の中に表示されるだけで感覚として感じることが出来ない。
食事という数少ない楽しみもなくなってしまったかと少し落ち込むが、それでも空腹は空腹なので僅かに残っていたものも食べきってしまう。
昼と夕食ように何か買ってこようかとする前に、一応窓から外をチェック。
うん、人を見ても大丈夫。視界の中に変な分析結果が出るだけで、殺戮衝動はでてこない。
これなら外に出ても大丈夫だろう。
上に一枚分厚いのを羽織り、鍵を持って玄関の扉を開けて―――思考が停止した。
「あー……おはよう?」
そこには、困ったような顔をした茂と伊勢が立っていた。
*
とりあえず玄関の前で立ち話もなんなので、家に上げる。
しばらくキョロキョロしていた二人だが、二人とも床の上に腰を下ろした。ベッドの上に座ればいいのに。
『どうかしたのか?』
普通にしゃべると変な変換がされてしまうので、スケッチブックを取り出して筆談する。
「昨日の様子は変だったから様子見ついでによってきた。一応昼飯前だと思ったからバーガー買ってきたが……」
「その筆談に突っ込んでもいい?」
「ちょ、伊勢!もうちょい気を利かせろよ!」
「いやー、ハジメっちにそんな気遣いは無用かなーって」
『まあ、確かにな。後バーガーはありがたく貰う』
手早く包装紙を破り、腹に収める。いつも食べてたが、改めて数値で見ると結構カロリーが高いなこのバーガー。後塩分と油分の値がかなり高い。
今度食べる時は、別の奴にしなければいけない。こればっかり食べたら早死にしそうだ。
パパッと食べ終り、その調子でスケッチブックに次の言葉を書いていく。
『普通に話そうとすると頭の中で思い浮かんだ言葉が別の言葉に変換される』
「なるほど。ちなみにどんな感じ?」
「言語、短縮」
「あ、そういうことね」
「余計なことは一切話さない無口系……というか機械娘系か。よくみりゃ目もレンズだなこりゃ」
察しがいい奴らだ。
『ま、そういうこと』
「お転婆ロリに過激天使に後輩系人狼でミステリアス紅色の次は無口系機械娘……どんどん属性増えてくね」
「これで俺らのどっちかが主人公ならハーレムものの主人公になれそうなんだがなあ……」
『全員一緒で尚且つ全部俺だからな』
そんなお約束は無い。
「分身とか出来ない?」
『くだらないことを考えない』
「ちぇっ」
「伊勢は放っておいて、今回は異能とかありそうなのか?」
『異能かどうかはわからないけど』
右手をムチのように軽く振ると、それに合わせて手首から両刃が飛び出す。出来るかなと思ってやってみたが、案外出来た。長さは五十センチくらいだが、どうも先ほどよりも短いのは何故だろうか。
動作が少ないと機能開放が少ないとかか?
「おお!」
それを見た茂が興奮したように俺に近寄る。そういえばこういうの好きだったな。
「すげえ!かっこいいなおい!他には!」
『……まだあんまり検証してない』
「左手は!右手が剣なら左手は銃だろ!?」
無言で左手を突き出し勢いよく指を開く。
カシャっと音を立て手のひらから銃口が飛び出た。出来ちゃったよ。
「おおおおおおおおおおおお!!」
「ちょっと、落ち着いてしげちゃん。ここ一応アパートだから」
「これが興奮せずにいられるか!男の夢を再現した存在だぞ!?」
「いや知らないけど」
引くほど興奮する茂と冷静につっこむ伊勢。いつもとは逆の光景で中々珍しい、というか違和感のほうが先行するな。
しばらく騒いでいたが、両側の壁から息を合わせたように壁を叩く音が聞こえたところでようやく騒ぎは沈静した。後で謝りに……いくわけにはいかないよな、この体で。
せめて黒髪か茶髪状態じゃないと。
「あー、うん。無駄に興奮してすまなかった。それじゃあ、今回の異能は体から武器を出せるってことでい
い感じっぽいな」
「色々と仕込んであるみたいだし、機械だから身体異能も低くは無いだろうしね。万能型って感じかな?」
『まあそうだろうな』
「うーん、ちと困ったな」
『なにがだ?』
「機械と掛け合わせた二つ名が思い浮かばん」
『くそどうでもよかった』
心配して損した。
「【機械姫】とかでいいんじゃないの?」
「いや、今までのも全部二文字だったし全部それで統一したいんだよ。そうなるといい呼び名が思いつかなくてなー……【機姫】【械姫】【機嬢】どれがいい?」
『どれでもいい』
「そんなこといわないでよハジメっち!一生使い続ける名前だよ?」
『俺の名前は斉藤ハジメだけだ』
その後馬鹿騒ぎしながら結局【械姫】に決まった。
茂と伊勢は、その後しばらく駄弁った後帰った。
俺は知っている。
二人は、おそらく昨日の様子がおかしかったから来たのではないと。いやそれも厳密に言えば違うだろう。
その考えもあっただろうが、おそらく理由の大部分を占めていたのは不審船の話。
だが、二人はその好奇心を抑えきった。
異能が目覚めて不安定な時期に、異能者が起こした惨殺事件なんて聞いてはいけないと。
「……善良、友人」
本当に……よき友を持ったものだ。
合成音声のような笑い声が、部屋の中に小さく響いた。
*
「はあ……」
薄暗い部屋の中、腹が出始めた中年の男のため息が静かに響く。
「どうしたもんか……」
「およ、工藤さんまだやってたんですか」
「山田か。そうだよ、でもなあどうにもかけないんだよなー報告書」
工藤と呼ばれた男は万年筆の尻でコンコンと机を叩く。
「ああ、あの不審船の奴ですか。ありゃすごかったですね。余りに凄すぎて逆にペンキと人形でつくったアートか何かなんじゃないかと思いましたよ」
「そう思えるのはお前だけだよ」
実際に何件もの殺人現場へ赴いた中堅とも言える鑑識が現場を見て五人も吐いている。平然としていたのはもっとやばいものを見た奴か、それとも現実として認識できなかった奴だけ。もちろん、山田は後者寄りであった。
「DNAも取れてるし、最低でも四十五人以上の死体だ。海上保安庁にも調べてもらった結果、沖のほうで現場と思われる場所も発見した」
「へえ、海で見つけられるなんて頑張ったんですね。大抵流れちゃうのに」
「馬鹿、そんだけやばかったてことだよ。最低でも四十五人以上の死体だぞ?首やらなんやらが浮かび上がって真っ赤な水溜りみたいになってたそうだ」
「うへぇ、そりゃやばい」
「ああそうだ。こりゃ普通の事件じゃない。船には無数の刃物の跡に、焦げ跡。氷や結晶の類の欠片も見つかってる。おそらくこの件は本庁から最近流れてきてる情報の奴だ」
最近東京等の都市部に目撃情報が上げられている異能者なる存在。既存法則とは別の法則で、物理的にも科学的に不可解な現象を生身で再現する者たち。
「偽装……はないですよね」
「別のところで殺した奴を船で流して異能者がやったようにみせかけたってことか?そっちの可能性もあ
るっちゃあるんだが、鑑識がいうには死亡時刻は昨日の深夜で痕跡などを調べた結果不審な点もなく船の上で死んだことが確定。凶器は鋭い刃物と見られるが、最低でも一メートルほどの長さがあり船の傷跡から金属でも軽々と切断する程度の鋭さはある……現実の話とは思えねえな」
「切れないことは無いでしょうけど、よほど大型の機械じゃなければ無理ですよね。全員が無抵抗で機械の中に入ったってならわかりますけど、至る所に見られる抵抗の跡と死体の傷跡からそれも違うと」
「異能者、だな。本当に胡散臭い奴らだ」
冷めたコーヒーを一口飲む。ほどよい苦味が眠気を覚ましてくれるが、現実は変わらない。
「それで居残って書類仕事ですか」
「そういう関連の事件が起きたら本庁へ可能な限り詳しく書けって言われてるからな。まあ、今回は本庁のほうからも催促が来てる。はやく寄越せってな」
「お急ぎなら自分で来たほうが早いでしょうに。相変わらず本庁は……下っ端は大変ですねえ」
「いや、そうでもないらしい。東京のほうでいくつかでかい案件があるらしくて、本庁はてんてこ舞いだそうだ。まさに、ネコの手も借りたいって状況らしいぞ?今本庁行けばもしかしたら昇進できるかもしれんぞ」
「冗談言わないでください。俺はあんまり仕事したくないからここに来たんですよ」
「そういえばそうだったな」
初めて会った時の自己紹介が『あんまり働きたくないです』だ。まさかの言葉に呆気に取られ、何時間も説教をしたことは今でも覚えている。
それでも、山田は最低限以上の仕事はちゃんとしているのであまり怒ることは出来ない。というか、山田を見るといかに自分が無駄な仕事をしていたかがわかり、最初は意固地になっていたが今では効率よく終わらせられるようになった。同僚や家族からも柔軟に考えられるようになったと評判も上がっている。
「本当になんて書いたもんか……こんな大事になってなきゃ適当に書いたんだが」
「滅多にないトップニュースですよ?マスコミも新鮮なネタが欲しいからってうるさいですからね」
「それが奴らの仕事だ。さ、丁度いいから手伝え山田。終わるまで帰さんぞ」
「美女に言って貰えたなら嬉しかったんですけどね。その言葉」
それでも仕事に付き合ってくれるのが山田であった。
*
「どうなっている?!」
所変わって、豪華絢爛とでもいうべき部屋の中。一人の男が怒声を上げていた。
振り上げられた拳は勢いよく机へと叩きつけられ、けたましい音をたてカップが床へと転がり落ちる。
だが、それほどの怒声を至近距離から受けた若い男は平然としたまま首を傾げていた。
「おかしいですね?」
「わかっているのか!貴重な軍属の異能者が六人も死んだんだぞ!それも貴様のせいでだ!」
若い男の態度に、更にエキスパートしていく怒声。一言一言発するたびに、ビリビリと窓ガラスが揺れる。
それでも若い男の態度は変わらない。
彼がもちかけたのは提案であって、実行を判断したのは目の前にいる男だ。自分には責任は無いとはいわないが、全て押し付けられるのは若干不快、そう思っていた。
そもそも、民間人の被害を頭に入れていない時点で底が知れる。表には出さず若い男は鼻で笑い飛ばした。
「まだ日本では『開花』が始まったばかりで、更に言うと異能者が少ない地方を狙いました。あの人数を送
り込めば確実に成功すると思った矢先実際は一人としてたどり着いた者は居らず全員死亡……なんででしょうね?」
「それを貴様に聞いとるんだっ!」
「そうかっかしないでください。私とて予想外ですよ。こんなに速く対応されるとは……もしかして、別の国
からアプローチでも入ってましたかねえ?」
「ならどこの国が介入したか力を使え【占術師】!」
【占術師】と呼ばれた男は、肩をすくめカバンから水晶玉を取り出す。
水晶へ向かい【占術師】が一言呟くと、水晶は光を内側に灯し空中へと固定される。
「さてさて、昨晩の様子はっと……おっと、こりゃまずい!」
【占術師】は水晶を覗くと同時に顔をしかめて飛びのく。水晶玉は支えを失ったようにぱっと光を失い床へと落ちる。
柔らかな絨毯がしかれた場所であったが、ゴンっと大きな音を立て水晶玉は割れてしまう。
「おい、いいのか。お前の商売道具だろう」
「いいのか、と聞かれると駄目でしょうが、こいつはもう使えません。呪われました」
男が再び水晶玉へと目を向けると、先ほどまで綺麗な透明であった水晶玉は白く濁り中心部分は黒く澱んだ光が僅かに灯っていた。
「過去視に対するカウンターまでついてるとは、相当なやり手ですな。これは一朝一夕じゃ身につかないない技術、閣下におきましては我々と同時、もしくは先に『開花』した国の心当たりはありますか?」
「知るか。わからんならお前の力を使えば良かろう」
「いくら私の術でも、そんな大雑把には調べられませんよ」
【占術師】はカバンから取り出したビンの蓋を取り、濁った水晶玉に液体をかける。
ジューと液体が水晶玉に触れた瞬間沸騰し、数秒も待たないうちに全て蒸発した。だが、水晶玉は未だ変わらず濁ったままであり黒い光は残っている。
それを見た【占術師】は露骨に顔をしかめた。
「これは、本当にまずい。清水を使っても呪いが解けないとは……閣下、この部屋は封鎖して半径10メートル
以内に誰も立ち入らせないようにしてください」
「なんだと。お前がやったことだろう、なんとかしろ」
「あまり言いたくは無いですが無理ですな。というか、閣下も早くこの場から離れたほうが―――」
【占術師】が言い切る前に、それは起きた。
白く濁った水晶玉は一気に黒へと染め上げられ、無数の影の手がそこから湧き上がる。
床を壁を掻きむしりながら、あらゆるものを水晶玉の中へ引き込もうとする。
「ひっ」
「ちっ」
やっとこさ危険性に気がついた男にいらつきながら【占術師】は小さく舌打ちし、カバンから新たなビンを取り出し足にかけ、水晶玉を踏みつける。
「封絶。銀針禍縛」
【占術師】の靴の裏から展開された幾何学的な方陣が影の手を消し飛ばし、虚空から出現した銀の針が【占術師】の足ごと水晶玉を貫く。
だが【占術師】は苦痛に顔を歪ませることもせず、平然とした顔で足を切り落とす。
数秒後には足も黒へと染まり、水晶玉の中へと吸い込まれてしまう。残っているのは中心を貫く銀の針だけだが、それすら徐々に黒く染まりかけていた。
「早くお逃げを。まだ封印は完璧ではありませんので」
「あ、ああ」
青ざめた顔の男は、若干腰が引けた体勢のまま転がるように廊下へと逃げ出した。
それを見届けると、カバンから束ねられた紙を取り出し水晶玉へとばら撒く。
ひらひらと紙片は空を舞いながらも水晶玉へとたどり着き、一部の隙間も無いように埋め尽くす。
「紙檻・千銀針縫」
ハンドボールサイズの水晶玉が少し小さなバランスボールになるまで膨れ上がり、その上から無数の銀の針が貫く。
全ての針が球体を貫いたのを見届けて、やっと【占術師】は一息ついた。
「本当に強力な呪いだな。触れた物質の崩壊させるなんて、一歩間違えたら都市ごと滅びかねない呪術を躊躇い無く使うとは……少なくともこんな馬鹿な真似をするには導師の連中ではないことは確実だが、よほど姿を見られたくないか。まさか、他国ではなく自国の人間ではないだろうな」
ぶつぶつと呟きながら【占術師】は部屋の外へと歩いていく。
切り落とされたはずの右足はいつの間にか再生していた。ただしそれは人間のではなく銀色の鱗で覆われ、ナイフのような爪が飛び出た龍の足であったが。
「まあ、見切りをつけるなら早めのほうがいいかな」
にやりと笑うその顔に、縦に割れた瞳は黄金に輝いた。
伏線ばっかはっていくスタイル。
ちなみに二人の刑事の出番はおそらくもうない。
変身バリエーション
・黒髪
・白ロリ
・【天使】
・【人狼】
・【死神】
・銀髪→【械姫】(new!)←