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皆殺し

もっともっと増えます

 次の日、朝目覚めた俺は不思議な感じに気がついた。


 体がとても軽い。まるで、重力と言う枷から外されたように。

 そして気分がとてもいい。今まで生きてきて感じたことのないような高揚感。昨日の空腹感は、既に消え去っていた。

 色々と疑問には思ったが、とりあえず起き上がる。

 ふとんを跳ね除け、ベッドから降りても体の軽さは変わらない。今まで鉛の鎧でもつけていたような気分だ。

 いつもの鏡の前に立つ。

 予想していたとおり俺の姿はまた変化していた。

 昨日の茶髪から変わり足元近くまで伸びた真紅の髪、褐色の肌、愉快そうに三日月を描く口、そして黒目と白目が反転した右目。

 片方の目は元の俺と同じ黒い目であるが、そんなの慰めにもならない。ダメ押しとばかりに色が反転した目の中央には六芒星がくるくると回っている。


「嫌ガラセカ」


 ガラガラとしゃがれたような、カラカラと子供のような、老若男女全ての声が混じった音にエコーがかかったような声が飛び出た。


「アア…アア…テステス。マイクテスト中」


 聞き間違いかと思い再び発声しても、声は変わらない。聞いてるだけで頭が痛くなってくるような声だ。

 とにかく、今日は大学に行くのは無理だろう。こんな声では会話すら間々ならない。

 今日はとても調子がいいのにな。

 ため息をついてカーテンをあける。

 雲ひとつ無い青空。今日はいい洗濯物日和だ。

 外をぼーっと見ていると、脇の道を若い女性が歩いていくのが見える。犬の散歩のようだ。

 こんなに早くから散歩とは中々気合の入った女性だ。あの柔らかな首を裂き、黒い髪の毛を血で濡らせばどれだけ美しく―――っ!

 咄嗟に窓から離れ、カーテンを閉める。

 俺は今何を考えていた?首を裂く?血で濡らす?なぜそんな思考が飛び出る?

 窓を閉めて外を覗く。少し遠いが、大通りを車が次々通るのが見える。


 気だるげな表情をした少年。足を捥ぎ、指を落とせばどんな顔を見せてくれるだろうか?


 憂鬱そうなサラリーマン。飛び出た腹に肉を削げば、とてもスマートになるだろう。


 ばっちり化粧を決めたOL。『我』に任せてくれればもっといい血化粧をしてあげる―――


「ウップ」


 次々と湧き出る残虐な思考に、胃から何かがこみ上げてくる。

 朝食をたべていなくてよかった。もしも何か食べていたなら、確実に吐いていた。

 これは、本当にまずい。偶然とはいえ窓を開いて外を確認したことに感謝した。もしも何も知らず大学へ行こうと外へ出たら、何をしでかしたかわからない。

 いや、本当は理解していた。外に出たら俺は、『我』は確実に人を殺していた。


「本当二困ッタモノダ」


 今日が金曜でよかった。講義数が少ないから欠席数が少なくてすむ。

 異常事態にありながらも、俺は比較的冷静だった。今現在進行中で異常事態起きつづけているので、危機管理機能が鈍ってしまったともいうが。

 殺害衝動は確かにやばいが、人を見なければ冷静でいられる。聞くだけで不快になる声も、出会ったら即通報レベルの見た目も人に会えない現状としてはそれほど問題でない。

 今一番問題なのは……


「飯ヲドウスルカダナ」


 冷蔵庫の中身はからっぽであった。つまり食べ物がない。

 一昨日の【天使】と昨日の【人狼】の時に、全部食べつくしてしまったのだ。

 補充しようにも外に出るわけには行かないので、買い物にもいけない。


「ツンダナ」


 どうでもいいところで、俺はピンチに陥っていた。


          *


「それでお呼び出し?」


「まあ、今回は結構まずい状態らしい」


 俺―――鈴木茂は頼まれたものを片手に斉藤の家へと向かっていた。

 頼まれたものと言っても中身はただの食べ物。コンビ二の安いおにぎりや弁当だ。


「どうも、えらく目立つ容姿に人間を見ると錯乱するらしいぞ」


「目立つ容姿って前のでも十分目立ってたけど……外に出られない理由はもういっこのほうかな?」


「多分そうだろ。錯乱するって事は、人間に恐怖を感じるってことだからあんまり強くない妖怪とかそうい

うのに変身でもしたのか?」


「太陽の下、だったら【吸血鬼】で決定だったんだけどね」


 適当に伊勢と予想をしながら歩いていると、斉藤の家が見えてきた。

 ふむ……


「ついたはいいが、どうやって渡せばいいんだ?」


「玄関の前において連絡すればいいんじゃないの?」


「そうか」


 階段を登り、玄関の前にレジ袋を下ろして一旦その場から離れる。

 電話をかければ、ワンコールよりも速く繋がった。


『ドウシタ?』


 だが予想していたものと違い、聞こえてきたのは妙にエコーがかった不思議な声であった。


「お、おう。頼まれたもの買ったから玄関前に置いといたんだが……風邪でもひいたのかその声」


『風邪ナラドレホドヨカッタカ……アマリ聞イテモ不快ナダケダロウ。チャット二変エルゾ』


 それだけ言われると通話は切れて、代わりにチャットアプリが起動した。


 《はじめ:ありがとう。これでようやく空腹の苦しみから逃れられる。まさに天の助けであった、本当に感謝いたす》


「おおげさだなあいつ」


 あまりにも仰々しい表現に思わず笑ってしまう。


「荷物の受け取りは無事終わったみたいだね」


「あいつ自体は無事じゃないみたいだけどな」


「とりあえず、話ができるか聞いてみたらどう?」


「……ま、そうだな。このままさよならじゃ、ちょっと心配だからな」


 好奇心がないとはいわないが。


 《しげる:金はまた今度でいいぞ。調子はどうだ?》

 《はじめ:調子自体は最高だ。今なら空も飛べそうなぐらいいい》

 《しげる:それは逆にまずいんじゃないか》


 空腹で大分混乱しているようだ。


 《はじめ:本当に、調子はいいんだ。人を見ると駄目なんだ》

 《しげる:どんな風になるんだ?足が震えるとか、頭が真っ白になるとかか?》

 《はじめ:そうじゃない。だが、詳しくは言いたくない》


「言いたくないときたか」


「基本面倒なことがあったら素直に話して巻き込もうとするタイプの斉藤っちが珍しい。重症だね」


「無理に聞くのも悪いだろうから、また今度にするか」


 《しげる:わかった。なら今回の姿の写真とか送れるか?一応確認しておきたい》

 《はじめ:それならいい》


 数秒もしないうちにチャットに一枚の写真が貼られた。


「これは……」


「さすがにやばいね……」


 チャットに貼られた写真に写っていたのは、右目を手で隠した人影であった。

 そう、それは今までのような美しき少女ではなかった。

 まず最初に目に入ったのは、白であった。 

 剥き出しの骨、目と思わしき穴の中で赤い光をたたえ、手で隠しきれない右目の部分からは黒い霧のようなものが漏れ出ている。

 それは、まさに死神とでもいうべきものであった。


「今回のは【死神】だな」


「しげちゃん、現実逃避しないで」


 チャットに断りを書き込んで、その日は帰路へとついた。

 写真はすぐに消したが、手で隠された部分から僅かにのぞく白の光は、寝床につくまで頭から離れることはなかった。


          *


「フム、重畳重畳」


 食い散らかされたおにぎりのビニールが机の上に散乱する。

 朝から何も食べていなかったせいか、思ったよりも多く食べてしまった。

 冷蔵庫から取り出したお茶を一気に飲み干す。

 ほぼ満タンに近いぐらい入っていたお茶は、砂漠にたらしたように俺の体に飲み込まれていく。

 二リットル近くいっきに飲んだが、不思議と苦しくなることはなかった。

 空腹という感覚はある。腹を満たしたという感覚もある。だが、満腹という感覚は無かった。

 どれだけ飲んでも食べても、一定の量を過ぎれば別のものへと変換されている感覚。


「コレガ、今回ノ俺ノ力ダロウカ」


 満腹にならない異能、というよりは食べたものを何らかの力へと変換する異能。迂闊に判断は出来ないが、その何らかの力を行使しなければおそらく無害であろう。

 俺は食事の後片付けをし、パソコンの電源を入れる。

 先日伊勢によって知ることの出来た、他の異能者の情報収集のためだ。

 幸いと言うか、今日は時間はありあまっている。

 ひとまず、ネットの掲示板を漁るか。


 ―――三時間経過


「ウーン」


 色々と調べたが、あまり有用な情報を見つけることは出来なかった。

 そもそも情報の正確性が低い掲示板に頼ったことが間違いだったかもしれない。いや、確実にそうか。

 書くたびに内容が変わってたり、そもそも妄想みたいな内容ばっかりだ。

 ニュースサイトも調べたが、あまり表沙汰にはなってないようだ。

 見つけても二~三件。それも、書いてある内容など十行もないようなものだ。


「ドウシタモンカ」


 やることがなくなってしまった。

 暇つぶしに茂とチャットでもしようかと思ったが、反応が無い。伊勢はいわずもがな。

 異能の検証もいいかもしれないが、今回のは姿からは予想が出来ない。

 一番何かできそうなのが魔眼っぽい右目だが、こっちも反応が無い。鏡を使って自分に使うのは流石に無理だ。

 体の調子は絶好調。気分も最高。

 だけど外に出たらOUT。暇でしょうがない。

 こんなに調子がいいなら空も飛べそうだけどなっとその場をジャンプしてみる。


「……オヤ?」


 ジャンプしたはずなのに、下に落ちない。

 下を見れば足は完全に床から離れている。だけど、空中に固定されたように体が下へ引っ張られることはない。

 飛んでる?適当に思っただけなのに?

 泳ぐようにして体を動かすと、そちらの方向へすいすい体が動き始める。

 何もしなくても、頭の中で思えば体が空中をスライドしていく。

 なにこれ楽しい。

 その後も、色々と試してみたが頭の中で想像すればそのとおりに動くことが出来るようだ。今ならムーンウォークどころか微動だにしないで走ることすら出来る。見た目が気持ち悪いからやらないが。

 だが一人暮らし部屋の中は流石に狭く、少し動くだけで壁やら天井にぶつかってしまう。

 空を飛べた興奮は次第に鎮まってしまい、鳥かごに詰められた感じから鬱憤が溜まっていく。


「ドウニカシテ外二……」


 そこで俺は肝心なことに気がついた。

 俺は、決して外に出ることが問題なのではなく他の人間に出会うことが問題なのだ。

 普通なら町の中で人に出会わずに外を出歩くなんて出来なかっただろうが、今なら出来る。空には……人間はいない。

 三日月のように歪んだ口が、更に歪んでいくのを感じた。


          *


「ヒーハハハハハハハハハハハハハ!」


 あらゆる声が混ざり合った絶叫が空へ響き渡る。

 日は既に沈み、空には大きな月が浮かんでいる。

 冬の冷風が全身を吹きつけるが、この体に寒さなんて言葉は無かった。むしろ、猛烈な勢いで風が気持ちいいくらいだ。

 バサバサと一応着てきたコートが音を上げ、びゅうびゅうと耳元で鳴り響く風音が心地いい。

 ああ、空を飛ぶとはなんて気持ちのいいことなのだろうか。

 一瞬とはいえ、俺はこの体になれたことを感謝した。


「ドコマデイケルカ?」


 限界を試すため、今度はひたすら空へと昇る。

 雲を突き抜け、ただただ上を目指すこと数十分、気がつけばそこは成層圏であった。


「スゴイナコノ体」


 それでもまだ余裕がありそうだったので飛び続けたところ、あと一歩で宇宙のところにまで差し掛かってしまった。

 風はほぼ無く、下を見れば地球が青く輝いているのがよく見える。昔テレビで見た光景とほぼ同じだ。

 しばらく無心で漂っていたが、流石にずっと見ていたら飽きてしまった。時計などもってないし、壊れたら嫌なのでスマホも持ってきていないから正確な時間はわからないがかなりの時間は経っていると思う。

 そろそろ帰るかと、俺は地球へ向けダイビングした。

 降下してしばらくして、俺は重要なことに気がついた。


「ココハドコダ?」


 自分の家がどこにあるかさっぱりわからない。

 意味がわからない人はインターネットの世界地図から徐々に拡大しながら自分の家を探してみるといい、いくら住所がわかるからと言ってそう簡単に見つかるものではない。

 検索できれば簡単だが、残念なことにそんな機能は現実には無い。

 しばらくそれらしき場所を探してふらふらと空を飛んでいたところ、やっとのことで大学を見つけることが出来た。

 それなりに大きな大学をさえ見つけられれば、後は簡単だ。大学を基準にして北へ行けば、俺の家が見つかる。

 そう安堵し、大学を見た。見てしまった。

 急激に右目が熱を持ち、ある場所を拡大する。

 そこは講義棟の出入り口。丁度講義が終わったのか、溢れ出る学生たち。

 まずいと思ったときには遅かった。


「ガッ……!!」


 咄嗟に目を右手で隠すが、脳裏に焼きついた光景から死神が誘う。


 ―――殺せ!殺せ!殺せ!


 頭の中がどす黒い殺意で染まっていく。

 高ぶる殺意と、募る焦燥感。ただただ思考が、悪意で染め上げられていく。


「マズイッ……!」


 いつの間にか左手には大きな鎌の形をした真っ黒な殺意が握りこまれていた。

 瞬時に手を離そうとするが、大鎌は接着剤で貼り付けたように離れない。それどころか、徐々に手になじむように大鎌は形を変えていく。

 必死に抵抗するが、内から溢れ出る殺戮衝動が右手を顔から引き剥がす。


 ―――惨く、杜撰で、無情な悲劇を。死という冒涜を!


 死神が高らかに謳う。それはまるで喜劇の主人公のように。

 とにかくこの場から離脱しなくてはいけない。ここにいたら、俺は俺でなくなってしまう!

 侵食する殺意から逃げ出すように、俺は全力で北へと飛んだ。


          *


 どこまで飛んだかなんてわからない。

 周囲は全て海。人影なんて欠片も見えない、ただ空に浮かぶ月が静かに照らす場所。

 それでも尚、俺の中の殺意はあらぶり続けていた。


「イイ加減……収マレヨクソッタレ……!」


 全力で左手を握りこむが、反発するようにガタガタと震える。

 まずい、まずい、まずい!

 何かを斬らなければ、何かを殺さなければこの衝動は収まらない。

 胸の中で静かに殺意の炎が燃え盛る、頭の中で暴虐の死神が軽やかに謳う。ただ殺せ、殺し尽くせと。


「何カヲ、何デモ……!」


 衝動が抑えれきれなくなったその時、視界の端に一筋の光が飛び込んできた。

 右目は勝手にそれを捉え、それを脳へと映し出す。

 船。それも大型の。

 右目は歓喜するようにそれを拡大する。

 船の上には、人がいた。甲板の上に五人と、何故か映し出された五十人以上の人影。

 何故、ここにいるかはわからない。何をしにここにいるのはかわからない。

 だが、一つだけわかることはある。


 ―――殺せ殺せ、全てを殺し尽くせ!


 あそこにいるのは―――『我』の獲物だ!


 俺は死神の手をとった。

 手を、歯を打ち鳴らして喝采する死神の奥に、天使が微笑んでいるような気がした。


          *


 揺れる船の上、集団はそのときを待っていた。

 二十台から三十台ほどの、男女が入り混じったこの集団には二つの特徴があった。

 それは全員が同じ国の人間であり、異能の力を持つということ。

 一ヶ月前から突然出現し始めた、科学人類の叡智では説明できない力を持つものたち。彼らはすぐに国によって管理された。

 抵抗したものもいたが、国には既に強力な異能者がおり、全て秘密裏に鎮圧された。

 何故国がこんな突飛な現象に直ぐに対応できたかはわからなかったが、それでも彼らの力を抑えるだけの準備は出来ていたということはわかった。

 彼らに持ちかけられた、いや命令されたのは一つ。


『試験小隊として、日本の都市を襲撃せよ。相応の成果を出せば、相応の待遇をしよう』 


 命令に従ったとして、その約束が守られるとは限らない。だが、彼らは従わなければならなかった。逆らった先に待つのは、死だけだとわかりきっていた。

 貸与された大型高速船に乗り、幾人かの異能持ちを使い周辺を監視、船内の人間は襲撃の合図を待っていた。

 意外なことに、無理やり命令されたことに反して彼らの士気は決して低くは無かった。

 前金として渡された金と、それ以上に他人とは違う特別な力を持つと言う優越感。実際、彼らの中には軍隊を相手にしても勝てるかもしれない異能を持ったものもいた。

 そんな強大な力を持って相手をするのが、兵隊一人もいない地方都市。

 船内にいる人間は、いつ自分の異能を開放できるのかとを心待ちしていた。  

 かくして、そのときは訪れた。


 ―――最悪の相手をもって。


 ガクンと船が急に動作を停止する。

 故障かとざわめきが船内に広がり始めたとき、甲板で悲鳴があがった。


「まさか、襲撃か?!」


 全員が一斉に立ち上がり、甲板を目指す。

 甲板にいたのは、五人の監視。しかしそこにいたのは、三人しかいなかった。


「何があった!」


「敵襲です!空飛ぶ何かが―――」


 叫ぶようにして返答する男の首がぽんと飛ぶ。

 それを見た後続が悲鳴をあげ、自分が死んだとも気づかず男は首だけのままパクパクと口を動かし続けた後、静かに息絶えた。


「敵襲だ。各員戦闘体勢に入れ!」


 異能もちの中でも軍の階級をもった男が命令するも、一度起きた恐慌は中々収まらない。

 それを見て舌打ちする男だが、彼らの大半が民間人であったことを思い思考を切り替える。

 ひとまず、襲撃者を見極めなければいけない。


「感知系異能は、我々の後ろへいけ。一人だけ残り船内に待機!」


 その言葉に、しゃがみこんでいた男達は喜びの表情とともに立ち上がり―――その表情のまま息絶えた。

 三つの肉塊が海面を叩き、ぽしゃんと情けない音を立てる。


「どこだ!どこにいる?!」


「隊長、上です!」


 その声に、全員が一斉に上を見―――息を呑んだ。

 そこにいたのは、まごうことなき死神であった。

 純白の骨格。身にまとうは焦げた襤褸。両目に異なる光を灯らせ、巨大な鎌を片手に担ぐ。

 誰も、動けなかった。

 足場は不安定な船の上。異能は完璧に使いこなしてるとはいえず、隣にいる人間がなにができるかすら知らない状況。

 単純な戦力差は五十対一。

 だが、目の前を浮かぶ死神は一瞬にして五人の首を落とした。

 数など問題にならないほど、圧倒的な実力。


「こんなの聞いてないぞ?!日本人はまだ対応できてないんじゃなかったのか!」


「知るか!とにかくここは奴を仕留めて――」


 続きの言葉は紡げなかった。

 死神は誰にも感知されることなく、その大鎌で脳天を叩き割っていた。


「ひっ!し、死ね化け物!」


 目の前で人体が真っ二つになるという光景から、一人の工作員が咄嗟に異能を発動する。

 突き出された手から紫電が弾け、一直線に死神を貫く。


「や、やった―――」


 その光景に喜びの声を上げた一人は、背中から突き出た刃によって切り裂かれる。

 死神は笑って立っていた。まるで何事も無かったかのように。


「ば、馬鹿な!今のは確実に!」


「うろたえるな!手品はわからんがこのままでは犬死だ!全員でかかれ!」


 暫定的に司令官とされた男が剣を抜き放ち叫ぶ。

 動揺していた工作員たちも次々に武器を手にし、火の玉や氷の槍を展開していく。

 死神はカタカタと歯を鳴らして笑うだけ。


「スマンナ」


 一瞬、船内にいた全ての人間が息を呑んだ。

 瞬きの間に七人を殺した死神が初めて話した言葉が、まさかの謝罪。

 すぐには理解が追いつかなかった司令官は、ある確信を持って笑みを浮かべる。


「そうか、お前が出来るのはだまし討ちだけ。正面から全員を相手はできないってことか」


 その言葉を聞き、船内に安堵の雰囲気が広がった。

 どこまでも強大なはずの敵が、一気にちっぽけな存在へと化した気がした。

 それどころか、武器を構えながらも口笛を鳴らしているものすらいる。

 彼らと死神の立場は逆転していた。


「どうした、降伏すればそれなりの扱いをして―――」


「実ハナ、オ前ラガ何カナンテ知ラナインダ」


「……はっ?」



 ―――あくまでもそれは、彼らの中だけであったが。



「何を言っている。さっさと武器を海へ捨てろ」


「ドウシテモ、ドウシヨウモナイグライニ衝動ガ抑エキレナクナッタ。デ、丁度イイトコロニオ前ラガ現レタンダ」


「おい、さっさとしろ!」


「何ヲ思ッテ、何考エテ、何ノタメニココニイルカナンテ知ラナイ。タダ求メルコトハヒトツ」


 死神の右目が光を放ち、純白の骨格は黒い霧へと包まれる。

 そこにいたのは、まごうことなき美女。

 真紅の髪を夜空に舞わせ、色違いの目と三日月のように歪む口で残酷な笑顔を浮かべる、人間の皮を被った悪魔、否―――【死神】



「タダタダ我ノタメニ―――死ンデクレ」




 月が照らし静寂が支配する船の上、波に揺れて死神が笑う。 


「ヒヒヒ、肉ハイイ感ジダッタガ骨ハヤワカッタナ。モットモット、硬イヤツガイイナ」


 死神はただ笑う。

 血の湖と肉片の原の上で。血に濡れた大鎌を片手に、右目を輝かせ。






『緊急ニュースです。今朝、日本海沿岸部に不審船を発見。通報を受けて警察が捜査したところ、多数の肉片と血痕が発見されました。その遺体のほとんどが原型はないようですが、ほぼ確定で人間のものとされ、DNA鑑定をしたところ少なくても四十人を超える人間のDNAが検出されました。これを受け、警視庁は数日前から確認されている不可思議な現象も関係しているのではないかと捜査を進めています』

死神と楽しきワルツを


感想など頂けたらありがたいです。


変身バリエーション

・黒髪

・白ロリ

・【天使】

・【人狼】

・紅髪→【死神】(new!)←


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