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【天使】

どんどん増えます

「おはようございます」


「おう、おはよう。今日ははやかっ……たな……」


 挨拶をして顔を上げた茂がそのまま固まる。もちろん、他の学生も同じように硬直している。

 半ば予想していたことであり、半ば諦めかけていることだ。

 まさか―――


「……ハジメ…なんだよな?」


「はい、そうですよ」


 ……ゴスロリ少女が、金髪巨乳美女へと変わっているとは予想できないだろうからな。



 朝起きたとき、昨日よりも体が重いことに気がついた。

 ちらりと下を見ればそこには布団を押し上げる巨山が二つ。

 どうやら白髪ロリ形態から、黒髪クール形態に戻ることが出来たようだ。どうせなら男に戻って欲しかったが、無理だろうなとは思っていた。

 横に転がるようにして起き上がる。すると、視界に金色がちらついた。

 一瞬貧血かと思ったが違う、頭の上から金色の糸のようなものが垂れている。


「………」


 洗面所へダッシュ。歩くたび胸が揺れ少し痛いが気にする暇などない。

 たどり着いた先、鏡の前にいたのは美しい金の髪の女性であった。

 カーテンが閉められている薄暗い室内でも輝きを失わない金色の髪の毛、手に平に乗せても余るほど巨大でありながら下品になり過ぎない程度の大きな乳房、少し垂れ下がった瞳、全体的にほんわかとした雰囲気の優しいお姉さんと言った感じだ。


「なんで、こんなことに」


 軽やかな鈴のような声。いい声だろうね、でも全くもって嬉しくないのは何でだろうな。

 しばらく理不尽な現状に打ち砕かれていたが、今日も大学はある。そう長いこと沈んでいるわけにはいかない。

 パジャマから着替えるために箪笥を開くと、ゴスロリではなく普通の女物の服へと変わっていた。今度は、ブラジャーも揃っている。

 死んだ目で引っ張り出すと、小ぶりなスイカが収まりそうなほどカップが大きい。

 前に聞いた話では、ブラジャーをつけないと胸の形が崩れて更に肩こりがひどくなるらしい。

 形が崩れるのは……まあ、どうでもいいとはいわないが、そこまで重要ではない。だが肩こりはいただけない、肩こりは結構きつい。


 試行錯誤しながらブラジャーをつける。今までつけたことがなかったので少し胸元窮屈な感じがするが、サイズはピッタリだ。嬉しいんだか嬉しくないのかさっぱりわからない。大分感覚狂ってきたな俺。

 よく考えたら、パジャマだけはずっと変わってないんだよな。パジャマに何か鍵でもあるのだろうか……パジャマなのに。

 現実から目を逸らしながら適当に服を取り出し、淡々と身に着けていく。鏡で確認すると、中々いいセンスの着合わせだった。何も考えずに適当に着たのに、ここまでセンスのいい着合わせになるとは……俺の隠れた才能とやらだろうか?これっぽちもうれしくないな。

 げんなりとしながら日課となりつつある舌の確認をすると、以前の二本の線を組み合わせた模様が消失していた。

 どこか別の場所に移ったのかと探すと、案外それはすぐに見つかった。

 目だ。目の中心にバッテンに丸が追加されたような模様が追加されていた。しかも金色の目に対して真っ赤な模様。なにこれ超目立つ。

 片目ならガーゼでもつければよかったかもしれないが、流石に両目につけるわけにはいかない。


「サングラスなんてあったでしょうか?」


 予備の眼鏡ならあるんだが。

 というか、地味に口調も変になってる。完全にお嬢様口調だ。そんな細かいところまで気にしなくていいから、早く元に戻る方法を確立させて欲しい。

 鏡と睨めっこをしているうちに、時間は刻一刻と過ぎていった。

 気がつけばいつもの出発の時間まで後十分。いまから朝ごはんを作る訳には行かないので、ひとまず昨日半分残した食パンを口に入れる。

 グーと威勢よく腹がうなり声を上げた。解読するなら『そんなんじゃ足りねえよ!』だろうな。

 もう一枚取り出し、牛乳で胃に流し込むが腹の声が収まる気配はない。

 いつもなら二枚で済ませているところを、八枚食べてようやく腹はうなり声を収めた。だがそれでも、まだ小腹が空いているような感覚がある。今度の体はえらく大食漢だ。いや、大食乙女?


「あら、時間は?」


 しまった、時間はと時計を見ると、出発時刻を十分もオーバーしている。

 全力で走れば、まだ間に合うかもしれない時間。


「いってきます」


 今日も車が全部止まりますように。そんな若干失礼なことを願った。


          *


 不埒な願いが神様に届いたのか、今日も車は止まってくれた。微笑みかければ一発だ。ちょろいぜ。


「お前凄いな。信号いらずか」

「ふふ、そんなことはありませんよ」


 今日は午前で講義も終りなので、はやばやと抜け出しいつものファーストフードショップで話し合いとなった。かなり振り出しに戻った気もしないでもないが。


「なんかもう、あれだね。ちょっとこの変化は流石に弁護できないというか……本当にどうなってるの?」


「ふふふ、本当にそうですよね」


「さっきから気になってるが、その話し方はどうにかならないのか?別人と話してる様な感じがするんだけど」


「残念ながら、この話し方はどうにも変えられないようでして……ご不快なら筆談にいたしましょうか?」


 あらあらと頬に手をあて、首をかしげてしまう。意識してないと何気ない仕草が出てしまう。やばい、だいぶ侵食されてきてる。


「いや、それはいいんだけど……」


「なんか年上のお姉さん相手してるような感じがして、すっごいやり辛い」


「お嫌いですか?」


「ぶっちゃけ超うれしいです」


 とことん純粋な奴だ。


「おい、伊勢!」


「いやいや、考えても見てよしげっちゃん。こんな美人で色っぽいお姉さんと知り合いになれる機会なんてそうそうないよ!」


「でも、中身ハジメだぞ?!」


「そんなこと、些細な問題だよ!」


「些細じゃないだろ?!」


 白熱する議論。熱意は認めるが、内容がくそくだらないことが残念すぎる。

 熱弁する伊勢を横目に、黙々とバーガーを口に詰め込む。この体は運動性能がかなりたかいが、そのかわりに超高燃費みたいだ。昨日はSサイズのフライドポテト一個でも腹いっぱいになったのに、今回はLサイズを二個にバーガー二個つけてもおやつ感覚。どんな胃袋してるんだろ、俺。


「ああもう、落ち着け伊勢。それで、見た目以外に変化とかあったりする?」


「舌の模様が消えて、目に移ったぐらいですね。あとはそうですね……」


「お、君可愛いね~」


 他に何かないかと考えているところ、無粋にも若い男の声が割りこんだ。

 ちらっと目を向ければ、ニヤニヤと軽薄そうな笑みを浮かべた五人の男がいた。いや、そんなテンプレいらないから。


「おお、正面から見るともっといいじゃん。俺たちと遊ばない?」


「ちょうど今からカラオケ行くんだよ」


「そんな童貞くさいやつらよりかは、楽しませちゃうよ?」


 ジャケットと裾がだるついたズボンを着る男が、俺の肩に手を乗せる。

 ピリっと、背筋に電気が走った。膨張する不快感、圧倒的ないらつきと湧き出る憤怒。

 ―――ああ、ちょうどいいか。こいつらで

 俺はそっと、肩に乗せられた手を握り―――軽く握り締めた。

 ゴキンッと、硬いものがこすれる音がした。


「へっ―――ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」


 手首を外されたことに気がついた男は一瞬だけ間の抜けた顔をして、痛みで絶叫した。

 突然あがった絶叫に店内が騒然となる。レジに控えていたスタッフが、大急ぎで店の奥に走っていくのが見える。『俺』としてはこれで終わらせたいわけだが、どうにもそうはいかないようだ。


「て、てめえ!」


 ジャケット男の後ろにいた男が、拳を固めて殴りかかる。

 俺はそれを左手で軽く受け止め、笑顔で肩に手を添える。

 ゴキッと、先ほどよりも大きく音が鳴った後絶叫がもう一つ増えた。

 ああ、ああ、なんと心地いい音。『俺』の中にいる『私』が歓喜の声を上げる。もっともっとその声を聞きたい、もっともっと苦痛をと『私』が叫ぶが『俺』はサドではないのでなんとかその衝動を押しとどめる。

 こちらは敵意が無いと教えるため、残った男たちににっこりと微笑む。

 さて、これでどうになかればいいんだ。


「ば、化け物!」


 だが、努力空しく恐慌状態に陥った青ジャケットがバタフライナイフを取り出す。

 行方を見守っていた客たちも流石にそれを見ると悲鳴を上げながら店から逃げ出していった。光り物を振り回す奴がいたら危ないからな。

 真っ直ぐ胸に突き出されたナイフを、『私』はそっと握りこむ。粗悪品であったのか、ナイフは軽い音をたてて割れてしまった。

 呆然と男は柄だけになってしまったナイフを見つめている。

 『私』はバラバラになったナイフを離し、男の首元にそっと手を当てる。


「さようなら」


 それだけいうと、男は恐怖からか特に力を篭めてもいないのに失神してしまった。

 後二人はもう逃げ出している。『俺』は、ふうっと一息つきテーブルに残っていた炭酸を飲み干す。


「大体こんな感じで、力が強くなってるみたいです」


 こくこくと、伊勢と茂が人形のようにカクカクした動きで首を振る。

 そこで俺はやっと気がついた。


「少々やりすぎましたでしょうか?」


「いや、遅いだろ」


 サイレンが遠くから響く中、冷静な茂の突込みが妙に空しく聞こえた。


          *


 警察からは中々解放されなかった。

 店にいた客や、茂達の証言もあったが流石にこんなか弱そうな女性(自分で言うのもなんだが)がそんなことをやったとは信じられなかった。わかる、その気持ちとてもわかる。どっちかというと自分も暴走してたし。

 その後、ドラマでも定番のアメの熟練刑事とムチの若手刑事のコンビっぽいのから色々と聞かれもしたが嘘は言っていないので、いや、嘘は言えないので全て突き通していった結果、多少過剰に反応はしたけど相手も悪いということで決着がついた。戻ってきた二人が怯えてた?そんなわけはない。ただにっこりと微笑んで、あまり公にはしたくないと頼んだだけだ。


 さて、現状確認として今の俺の状態をざっくりと纏めると超人となる。先日までとはえらい違いだ。

 握力だけで相手の間接を外し、ナイフを握り締めても皮膚は切れず、不良程度の攻撃なら簡単に見切ることが出来る。最後に一番特殊な異能が、人の悪意を感じることが出来ることだ。

 伊勢の行動はたまに人をちゃかすことがあるが、そこに悪意はない。だから何も起きない。

 しかし、不良の言葉と行動には悪意があった。だから話しているときに不快感を感じ、触られた瞬間憤怒を覚えた。

 そして更に言うなら、それを応用してある程度の嘘を見分けることもできる。

 悪意がない嘘はほぼ無い。検証の結果、ネットの掲示板やテレビからでも嘘を見つけることが出来た。嘘がある場所を見たり聞いたりすると、舌に苦味を感じるのだ。そのせいで迂闊に周りを見ることが出来なくなった。見るたびに苦味感じていたらやってられない。猛烈に甘いものを食いたくなる。

 というわけで、現在俺は喫茶店でパフェを貪っていた。


「はあ……」


 俺から聞いた情報をメモに纏めた茂が、飲み物にも手をつけずため息を付く。


「なんというか便利と言うか、面倒くさいと言うか」


「ぶっちゃけると、俺なら嫌だね。どうせなら悪意のある場所が黒く見えるとかならよかったのに」


「本当に、正直な方ですね。はむ」


 んん、口の中に広がるイチゴの甘酸っぱさとアイスクリームの甘さが苦味を消してくれる。こんなに甘いものが美味く感じるとは思わなかった。


「最初の黒髪状態は時間が短すぎてわからない。白髪状態も特になし。だけど金髪状態になったら急にこの変化……さっぱりつながりが見えないな。もしかして、その状態以外のときでも何か特別な異能があったの

か?」


「それにしては、今の状態が強すぎでしょ。安もんとはいえナイフ素手で砕いたよこの子」


「粗悪品だったのでしょうね」


「一応金属製品であるはずなんだけどね」


 苦い笑いで伊勢はコーヒーを口に運ぶ。コーヒーは前はよく飲んでいたが、今は飲む気がしない。苦味ならそこらじゅうを見るだけで補給できるからな。


「他には何もない?」


「そういわれましても、もう心当たりはありませんね」


「いやいや、絶対何かある笑顔でしょそれ!しゃきしゃき答えなさいって」


「そうだぞ。ほらカツ丼……じゃなくて、チーズケーキでも食うか?」


「ふふふ、乗りがいいですね。でも、残念ながらありませんよ?後チーズケーキは頂きますね」


 茂から貰ったチーズケーキはとても濃厚でおいしかった。タルト部分がサクサクしているのがポイントだろう。相変わらずこの店のケーキは美味い。


「ちゃっかりケーキだけもってきやがった」


「意外としたたかだね」


「まあ、前のときも貰えるものは貰うっていう性格だったしな」


「ところで、しげちゃん。さっきからハジメっちをがん見してる男の子がいるんだけどどうしよう。俺も未来予知って言う異能覚醒しそう」


「おっと、用事思い出しちまった。ここは奢るから一足先に帰らせてもらうぜ」


「逃がすとでも?」


「これ以上警察にお世話になるのは嫌なんだよ……!!」


「一人だけ逃げようなんて甘いんだよ……!!」


「ふう、おいしかったです」


 イチゴとミルクのパフェとチーズケーキとショートケーキ。

 少々お値段は張るが、それでもそれ相応のいい材料を使っているがよくわかる。このショートケーキの生クリームを食べれば、いつか食べたコンビ二ケーキの生クリームが油かなにかであったかと思うほどだ。

 チーズも濃厚であり、それであれながらいつまでも口に残らないくどさ。どんなチーズを使っているのだろうか?


「よ、よし食べ終わったな!それじゃあ、もう遅いし送ってくよ!」


 妙に焦った表情の茂が突然腕を掴む。悪意は感じなかったので、そのまま引っ張られるようにしてつれていかれる。何焦ってるんだこいつ。


「伊勢、会計!」


「おっちゃん、釣りはまた来たときまでとっといて!」


 千円札三枚と注文用紙を店主の前に置き、若干走るようにして店外へ急ぐ。

 店主も怒ることなく、笑顔で親指を立てていた。乗りいいなこの人。


「あの、一体どうしてこんなに急いでらっしゃるので?」


「いいから、少しだけ俺に任せてくれ。二度目なんて俺はいやだからな……!!」


 二度目?以前話してた終電を逃したことだろうか。でもまだ、夕日がでているから大丈夫だと思うが。


「そこまでだ!」


 引っ張られるがまま歩いていると、後ろから声がかかった。

 振り返ればそこにいたのは、高校生ぐらいの少年であった。

 精悍な顔立ちに短く刈られた頭、運動でもしているのか筋肉がついているのがわかる肉体。熱血少年といったところか。


「女性を無理やり連れて行くなんて卑劣な!彼女から手を離せ!」


 携帯を片手に、少年は叫ぶ。あれは、すぐにでも警察を呼ぶぞっていう合図かな?

 それに対して、誘拐犯容疑者の二人は……


「あっちゃあ……」


「やばい、むっちゃ痛い子だ。絶滅危惧種に近いタイプだよあれ」


 とてもわかりやすく頭を抱えていた。そうしたいのもわかるが、もっと隠れてやって欲しい。

 周囲を見ればちらほらとこちらを見ている野次馬。大通りではないとはいえ、人通りがある場所だ。突然大声が上げられたら、つい見てしまうのだろう。


「どうしますか?」


「いや、あの……ハジメっちは大丈夫?」


「?なにがですか?」


「いやあの、不快感とかそういうの」


「あの少年は完全に善意で行動しています。悪意はありません。まあ、それが正しい方向に作用しているかときかれれば頭を傾げざるおえませんが」


「だよね~……」


「おい、何をこそこそ話してる!?」


 声を張り上げる少年だが、よくよく見れば足が震えている。勇気を振り絞った結果の行動のようだが、もうちょっとタイミングを選んで欲しかった。

 茂を見ても、頭を抱えているだけ。伊勢を見たら、目を逸らされた。

 しょうがないと小さくため息をつく。これ以上見世物にされたら、たまらないからな。


「私は、私の意志で行動しています。誘拐なんてされてませんから大丈夫ですよ」


「そうやって言えって脅されたんだろ?!」


「あ、いやそういうわけでも……」


「大丈夫だ、もうそいつらに好き勝手にはさせない!」


 ……あっ、なんか悪意関係なしにいらっときた。これ説得無意味なパターンだ。


「本当にどうします?」


「とにかく俺っちとしては警察沙汰は勘弁」


「ならしょうがないですね」


 結論は決まった。

 頭をかかえる茂の腰を掴んで、持ち上げる。


「へ?」


 大丈夫かと不安に思ったが、あまり重くはなかった。やっぱりこの体超人だわ。


「それではさようなら」


 茂を肩に担いで伊勢と共にダッシュ。三十六計逃げるが勝ち。


「ちょ、ちょおおおおおおおお!」


 茂の奇声が夕暮れの町を切り裂いていった。


          *


「ぜえ…ぜえ…死ぬかと思った」


「ほんとやばいなその体」


 正直すまないとは思っているが、あれが最善手だと思う。

 茂は足はあまり速くない。あそこで走って逃げても、熱血少年に追いつかれる可能性があった。

 少年も最初は呆然としていたが、慌てて追いかけてくるのが見えた。追いつかれても面倒なので、割と全力で走ったため茂は街中ジェットコースター(上下あり)を味わう結果となった。

 つまり、あの少年が悪い。当然だな。

 うずくまる茂の横に、自販機で買ったオレンジジュースを置く。


「すいません」


「い、いや大丈夫だ。ありがとう」


 缶に手をつけ、勢いよく飲み干す。豪快に飲み干した茂は、大きくため息をついて立ち上がる。


「俺の体重は八十後半。それを軽々持ち上げたってことから今のお前の状態は超人といってもいい。情報を纏まるなら、見た目の異変は目だけ。潜在的なものは、剛力と悪意の判別。よってお前の今のお前に仮称をつけるなら【天使】だ!」


「え、しげちゃん?どしたの?」


「ぶっちゃけると【正義】とどっちがいいかと迷ったが、お前のその姿は【正義】より【天使】のほうがふさわしいだろう。よっし、反論がないってことは決定だな?それじゃあまたな!」


 一息にそれだけ言い切った茂は、こちらを見ることなく走り去っていった。

 残されたのはテンションに乗り切れなかった人間二人。

 彼はいったいどうしてしまったのだろうか?もしかして、街中ジェットコースターで頭がおかしくなってしまったのだろうか?

 もう一つ、考えたくないが……こんなに騒動に巻き込んでしまったことで、嫌われて―――


「それはないとおもうよ」


 伊勢は、きっぱりと否定した。


「しげちゃんはそんなやつじゃないし、それに嫌ってる奴に『またな』なんて言わないよ」


「そうですか……ではなぜあのように急がれていらっしゃったのでしょうか?」


「……ま、見た目は女性だけど中身は男だからいっか。男にも、矜持ってものがあることぐらいわかるだ

ろ?」


 つまり、女性に抱えられたことが恥ずかしかったと。

 うぶか、あいつ。中身は俺だぞ。


「私一応男なのですけれど」


「中身はね。でもしゃべりかたとか見た目からして、完璧に女の子でしょ?ま、咄嗟の言い訳みたいだった

けど【天使】って名前もピッタリだし、これからそう呼んでいい?」


「謹んでお断りさせていただきます」


「わお、すげえ丁寧に断られちゃった。まっ、状態は【天使】ってことにさせてよ?毎回毎回、黒髪とか白

髪とか風情が無いからね。あっと、そしたら他の状態にも名前付けなきゃね……う~ん、いいのは思いつかないからそれは今度見たときにしようか。それじゃあ、まったねーハジメっち」


 ぽんと頭を軽く叩き、伊勢も雑踏へと消えていった。

 俺は、頭に手を当てる。

 恐怖してる感じはなかった。たった一人で五人の不良を叩きのめし、軽々と男を持ち上げる華奢な女性。それは、とても恐ろしい存在だろう。

 でも、伊勢はいつものように接してくれた。そして、『またね』と言ってくれた。


「……私も帰りますか」


 恵まれた友人をもったなと、俺は初めて神様に感謝した。


 




 翌朝、俺は神様を呪った。

 鏡の前には、活発そうな茶髪の少女が死んだ目で立っていた。

 俺が求めたのはバリエーションじゃないだよ、くそったれ。



変身バリエーション

・黒髪

・白ロリ

・金髪巨乳→【天使】(new!)←

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