オワリ
三話目です。気をつけてください
あらゆる事象は突発的に発生する。
そこに人類の意思が介入しようと、結末がほんの少し変わるだけ。主流たる歴史が変わることはない。
世界の歴史にとって、人類が30万人死のうが300人死のうが大した障害は無いのだ。
ただ、ほんの少しの期間に増殖した生ものがちょっと減るだけ。
「異界開闢 崩落天地 壊々灰々」
そう、この瞬間に起きる惨劇も大した出来事ではない。
たった
「―――『天砕虚牙』」
たった数千万人の死でさえも。
空間の歪みが生み出した不可視の牙が一斉に大地を貫く。
ビルが頂点から押し抜かれ潰れ、道路には巨大な風穴が開く。
命が消えていく。老若男女、思想理念生まれ嗜好全てが無意味に等しい。ただこの場にいた、それだけの理由で死んでいく。
破滅を呼んだ者は、それを不満そうに見ていた。
彼女にとってそれはホンの挨拶がわりの一撃。自分が来たのだからさっさと出て来い、その程度の意味しか篭められていなかった。
だが、一向に姿を見せぬ尋ね人に『それ』は苛立ちを増していく。
ついに怒りが頂点に達しもう一度右腕を振り上げた瞬間、丁度真下から放たれた銀の針が『それ』の右手を貫いた。
『相変わらず品性も知性も感じられぬ行動だ』
『それ』の直ぐ上の空間が歪み、そこから白銀の龍が現れる。
龍は侮蔑の目で睨み、更にもう一発の銀の針を放った。
高速で放たれた銀の針は吸い込まれるようにして『それ』の胸を貫く。
しかし『それ』は笑った。残酷で残虐で凶悪な笑みを浮かべて。
「これは彼らの望みじゃ。それに、お前も人のことを言えぬよ。【占術師】などと謳いながら国を影から操り黒幕気取りか?ガラクタ」
『ただ壊すだけしか能が無い貴様よりはマシだ。どうやって私の居場所を掴んだ』
「おやおや、随分バグっとるもんじゃな。わざわざ貴様がこちらに喧嘩をふっかけておいてどうやって、かと?」
『それ』は体を貫く銀の針を掴むと、一気に引き抜く。血が滴る銀の針は一瞬にして腐り、ボロボロになって風へと消えていった。
『こちらから……?……なるほどそういうことか。ようやく理解できた。あの日船を襲ったのは貴様か。それならあの馬鹿げた呪詛にも納得がいく』
「何のことかは知らんが、とにかく貴様は殺す。今度こそこのゲームを終わらせてやろうぞ。主催者が生き絶えて幾星霜、審判役もなにもかも消え去ったこの舞台に意味など無い。ゲームを狂わせたガラクタも消してしまえば後の教訓となろう。もっとも、次などありえぬがな」
『……本気か?』
あきれ果てた表情で、白銀の龍はため息をついた。
『祖なるものはどうしてここまで頭が弱いのか……先の敗北があってもなお、まだ『全権』たる私に勝てると思っているのか?【屍龍】』
「……『全権』?」
きょとんとした表情で『それ』―――【屍龍】は頭をかしげ……
「くっくっく……くははははははは……―――ギャハハハハハハハハハハハッ!」
全力で笑い転げた。
「ひははははははははははははははははっ!ガラクタ風情がようほざきおるわ!しかしまた、わしを笑い死にさせようとは中々良き戦術。大分愉快な頭になってきたなあガラクタァ!」
『狂気に浸りすぎて判断すらままならないようだな。先の戦で貴様は完全な形で我々に敗北した。再び舞台が整ったことで降臨できたようだが、まだ再降臨してそう時間が経っていないはずだ。なにせ、貴様が開花した場所は一番最後であるからな。『龍化』すらできぬその体でなにをしようというのだ。時代遅れのロートルが』
「お前も随分ガタがきてるようだなガラクタァ!数百人がかりでもわしを封印することしかできなかった雑魚共風情で!それに―――ここにはたくさん”材料”があるぞぉ!ギャハハハハハハハハハハ!」
嘲笑とともに、【屍龍】は高速で手印を結びはじめる。
だが、白銀の龍はそれを許さない。開かれた口からは、槍といえるほど巨大な銀の針が雨のように降り注ぐ。
しかし【屍龍】に動揺は無い。邪悪な嘲りを浮かべながら、ただ右手の人差し指を小さく振る。
ドンと空間がひしゃげる音と共に、白銀の龍が頭から大地へと叩きつけられた。
『ガッ……!』
「ギャハハハハハハハハハハハハ!この程度のことにも気づけぬとは、メモリーもいかれてたかガラクタァ!わしはとても心優しくてなあ、折角だから持ってきてやったんじゃよ!」
パチンと指が鳴ると、何もない場所から無数の白い塊が出現する。
その正体は手の骨。人の手首から上の部分だけが、カチャカチャと音を立てて手印を結ぶ。いやそれはもはや手印というべきものではない。骨だけとなったそれは人間には決して曲がらない角度まで指を曲げ、あらぬ方向へと回転し、奇怪な印を結ぶ。更にその数は百以上。その全てが規則的に動き、一糸乱れることなく術を結び続ける。
これこそが【屍龍】の真骨頂。多数の手骨を用いることで詠唱そのものを大幅に短縮させる禁忌の中でも極めて忌み嫌われし外道の技。
『貴様!またそれかっ!またもや死骸を弄び汚すかっ!』
「なんじゃそのことも忘れたのか、月日は残酷じゃなあ!さあ、準備は既に終了!開幕と参ろうか!」
『貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
再び空へと飛び上がり、白銀の龍は全速力でタックルをしかける。
しかし、【屍龍】の行動を止めるにはもう遅かった。
「百手演舞 空間断裂 異界顕現」
―――『金剛九頭龍』
空間が、震える。
【屍龍】の背後に空けられた異界への穴が、無理やりこじ開けられていく。
「さあさあさあ、お主が言う『全権』とやらの力を見せてみよ!できるものならなあ!」
世界が、震える。
空全体を全て覆うまでに巨大化した異界の穴から現れるのは、異形の龍。
全身が透き通った物質―――金剛石で構成された、この世界にあるべきではない外法の存在。
『なぜだ……!こんな未来はありえるはずは……!』
「相も変わらず占術ごときにそんな幻想を抱いているのか。その笑止レベルの勘違いも、戦争の結末もご自
慢の占術で覗いた結果じゃろうな。認識阻害すら気づかんとは、術師の端くれとして恥ずかしいわ。潔く死
ね、ガラクタ」
やれ。【屍龍】は無情に右手を振り下ろした。
金剛龍は喜びの咆哮をあげ、白銀の龍へと殺到する。
だが、白銀の龍は金剛龍に比べてあまりにも小さく、せいぜい食いつけて二体。他のあぶれた七体は不満そうに唸り声を上げる。
「おお、可愛い子じゃ。なあに、餌は他にもあるじゃろ?久しき召喚じゃ、たんと食っていけ」
そっと【屍龍】が首筋を撫でると、あぶれた金剛龍は再び咆哮をあげて餌へと食らいついていく。
身じろぎをするだけでビルが崩壊し、噛み付くだけでアスファルトが砕け散る。咆哮のたびに世界が揺れ、金剛の体躯は血に濡れていく。
【屍龍】はそれを見て、満足そうに嗤う。
「ひはははははは、これでこの国は脱落。いやはや、幸先よし。紛い物は死んだ。残っている裏切り者共は【皇帝】と【天空】と【伽藍】か?まあいい、日本へと戻るとしようかのう。それにしても本当に良き景色じゃと思わんか?『俺』様よ」
【屍龍】は哂う。翠の髪をたなびかせ、黄金の瞳を輝かせ。
「今度こそ……このゲームに真なる終わりを」
僅かな後悔を滲ませながら。
*
翌日のニュースは大混乱であった。
時系列順に記すならまず全国での異能暴動。動機こそ判明していなかったが、多数の死傷者を出し被害額も膨大。十分大事件と言えるだろう。
そしてその後突如出現した『人狼騒動』。暴動が起こった場所に人狼らしき生物が出現し、その全てを鎮圧していったというもの。ここまで聞くと正義の味方や褒め称えられるものに聞こえるが、その続きが問題であった。
異能者を鎮圧した人狼は、無抵抗になった異能者を喰ったのだ。巨大な怪物は生きたまま解体して、小さな人型は一飲みして人狼の胃袋に収まってしまった。そのため情報を聞きだすこともできず、行為の残虐さから人狼は素直に褒め称えられることはなかった。
そしてきわめつけが隣国の滅亡だ。
こちらも詳細は一切不明。何らかの緊急連絡が日本に通達され、とりあえず現地に赴いたら滅亡していたと言う。
現地へ赴いた人間は驚愕したと言う。
天を貫かんとばかりに地面から突き立つビルの群れが一夜で消え去り、何もないまっさらな更地へと変わりはて、生存者は人口に対して1パーセントもなかった。生存者に何が起きたか尋ねようとも、皆が皆錯乱した様子で化け物がとしか口にせず、そのまま発狂してしまう。
マスコミもどれをトップニュースにすればいいかわからず、大混乱であった。
事の大きさなら隣国の滅亡が一番だが、情報が少なすぎる。異能暴動や人狼騒動はそれなりに集まってはいるが、隣国に比べてあまりにも規模が小さすぎるし、人狼騒動に関しては内容が内容だ。このまま発表するのは少しばかし問題がある。
その結果が……
「なんか構成滅茶苦茶だな」
「しょうがないよ。情報少ないんだもん」
トップが異能暴動でその中に小さく人狼騒動が書かれ、号外として隣国の事件を報道するというものだった。
「マスコミなんてそんなもんだろ」
「おい、その姿で足組むな。パンツ見えるぞ」
「見たらぶっ殺すぞロリコン」
「口悪いなー流石【悪魔】」
「抜かせ」
ちなみに今の俺の状態は白ロリ、茂命名【悪魔】状態だ。理由は口が悪いから、それだけだ。
一つ小さく欠伸をして、もう一度新聞を手に取る。
書いてある内容が薄いわりに枠が大きく取られた内容を見ながら、俺は思う。
人狼で同じ臭いのする奴を片っ端から追いかけてぶん殴ってきたが、その結果最終地点があのビルであった。残っていた字や臭いから、おそらく彼らは隣国の工作員であったのだろう。
何が起きたかはいまいち理解が及んでいないが、隣国は滅んだ。
これでしばらくは騒動も起こらず、静かに過ごせるだろう。
「斉藤さんでよろしかったですか?」
ふと、突然背後から名を呼ばれた。
一体誰かと振り向いて、思わず固まってしまう。
そこにいたのは、警視庁所属異能対策課の影橋であった。
あれって夢じゃなかったのかと愕然としていると、影橋は懐から警察手帳の亜種のような何かを取り出して言った。
「あなたに異能者疑いがかかっております。どうか、ご同行願えますか?」
威圧感を感じさせないよう優しく、さりとて逆らえないような強制力を感じさせる微笑。
まだまだ、静かには暮らせそうに無いようだ。
俺は気づかれないように、静かにため息をついた。
おれたちの、たたかいは、これからだ!
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
変身バリエーション
・【巨人】
・【悪魔】←
・【天使】
・【人狼】
・【死神】
・【械姫】
・【屍龍】
最終回にしてやっと埋まったっていう




