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閑話 表裏一体の抑止力達

短いデス

あと主人公はでません。

「嬉しいことに死んでますかーそれとも悲しいことに生きてますかー影橋さん」


「ちょ、姉ちゃん!病院でそれはまずいよ!」


 賑やかな奴らが来たなと、影橋はため息をつく。


「一応は大丈夫ですよ。右手はしばらくお出かけしましたが」


 影橋がちゃかしてそう笑うが、実際にそう困ってはいなかった。彼の異能は応用すれば四肢の欠損どころか内臓機能すら応用できるものなのだから。

 だがそんなことは知らない茶髪の少年―――栗崎剣太は気の毒そう目を向け、少年に姉と呼ばれた少女―――栗崎鷹子は心底楽しそうな笑みを浮かべている。

 本当に対照的な双子だと、影崎は再びため息をついた。


「それより栗崎姉弟、あなたたち持ち場はどうしたんですか?暢気に見舞いなんてしてる状況じゃないって

ことぐらいわかっているでしょう?」


「やだなー報告ですよ報告。室長が入院しちゃったからわざわざ足を運んできたんでしょうがー、もう」


「本当に破天荒な姉ですいません……」


「ああいいですよ剣太くん。若干諦めてますから。それで、報告は?」


「はい、関西ですが異能者登録完了率10.1%。予想していたとおり十代から三十代までの登録率が最低を

記録しており、いくつかの若者の異能グループも確認されました。ある程度のグループはこちらで処理しました。暴力団が異能を保有しているのも確認しましたが、どうも構成員の中で異能保持者と一般人によるいざこざが発生しているらしく近々内部抗争が発生しそうなものがいくつか。鎮圧部隊の派遣はこちらで申請しておきました……事後承諾で申し訳ありません」


「大丈夫です。剣太くんの判断なら間違いは無いでしょう。それで、残っているのは?」


「ええっと……比較的早くに結成されたものは深部に潜ってしまっているので追跡は危険が生じるということ

で調査から撤退。名前は確か……」


「有名なのは【無明の魔眼】と【無限の魔剣】と【千本鳥居】と【貪徒羅武(ドントラブ)】だっけ?頭痛そうな名前ばっかだよねーあはははは」


 鷹子を無視して剣太から渡された書類へと目を通す。

 この名前は誰が考えたんだろうかと疑問が浮かぶが、そこは重要ではないので流す。

 重要なのは……


「隣国からの工作員はどうでしたか?」


「始末したのでも168人、内13人が異能者でした」


「やはり数が多いですね」


「最近と言うよりは昔から潜入していた者も多かったみたいですけど。それでもやはり最近侵入したものの

が増加しています。空港でなんとかできないのですか?」


「上もその件に関して色々とやってるみたいですが、芳しくないですね。一目で見分けがつきにくく、観光客に紛れられると手が出せません。下手なことになると外交問題に発展しかねませんし……ところで、始末は」


「あ、大丈夫です。目撃者が出る前に回収しています。事後処理もバッチリです」


「よろしい、やっぱり副長に剣太くんを選んだことは間違いではありませんでしたね」


「えへへ、それほどでもー」


 鷹子は白々しく頭をかく。

 覚めた目で剣太であったが、上司の前であったことを思い出し襟を正した。


「ところで、影橋さんはどうしたんですか?随分な怪我みたいですが…」


「少々へまを踏みましてね。異能者の確保をしようとしたら、これですよ。いやー強かった」


「えっ!?」


「あはははははは、やられてやんのー」


「ちょっと、姉ちゃんは黙ってて」


 注意をしながらも、剣太は驚愕を隠せない。

 何せ正面からの戦闘能力に関してはあれだが、任務遂行能力はトップ、つまり目的のためならどんな外道的手段にでも手を出す影橋がやられたのだ。


「あの中学生(ぼくら)相手でも容赦なく目潰しやら急所狙いやら不意打ちやらしまくる影橋さんがやられたんですか?」


「剣太くん意外と根に持ってますね……」


 実力は認めているが、その件に関して恨まないとはいっていない。


「正面に注目を集めて背後から模擬弾で一発、ちゃんと頭を狙って昏倒させたんですがねえ……そこからがやばかったんですよ。倒れた瞬間に天使の輪みたいなのが出てきましてね、何かと思ったら輝きだして【影】が全部弾け飛んだんですよ。その後も光の槍みたいなやつが両手から出して、影は少しでも触れたら消滅、念のため用意しておいた実弾の狙撃銃も使ったんですが弾丸を素手で弾かれるとは思いもしませんでした。後は右腕を犠牲にして何とか脱出、武器のストックほとんどなくなりましたし散々でした」


 軽く笑い飛ばす影橋であるが、全く笑い事ではない。


「それって、恐れていた無効化異能者ってやつじゃないですか!?」


「いいえ、多分相性が悪かったんでしょう。影だって元の大きさなら使えましたから。問題なのは、私が負

けてしまったということなんですよね。それも片腕を失って」


「うっ……気づいてましたか」


 異能対策課は満場一致で結成されたわけではない。むしろ、反対のほうが多いといえた。

 『自分達には理解できない不可解な力を使う危険分子』、それが異能者に最初に与えられた評価。理不尽と言えるかもしれないが、国家の判断としては当然ともいえるものだ。

 異能者の存在を知った政府は当初、問答無用で全員逮捕という方針であった。しかし、どこからか横槍が入ったのかその態度も徐々に軟化し、最終的に登録すれば逮捕はなしというところまで落ち着けることができた。


 だがそれは、あくまで異能対策課が抑止力として機能できるパターンだ。

 配属初日、それも室長が名も知れぬ異能者に不意打ちまでして敗北しむざむざ帰還したという醜聞は、政治家達の不安を煽るには十分すぎる材料であった。


「会議は喧々囂々の状況でした。影橋さんの代わりに出席しましたが、ひどいものでしたよ。トイレのために姉を残して一旦離席したらお通夜みたいに皆青い顔で俯いてましたが」


「ちょーっと質問してみただけなんだけどねー、大人の言うことって汚いねえーあはははははははは」


 カラカラと鷹子の笑いごえが響き渡る。現場を見ていない影橋であるが、容易に想像できることであった。幼児のような無邪気な見た目で邪悪さを隠して、痛いところを突きまくったのであろう。退院したらぐちぐち文句言われるんだろうなと少しだけ嫌な未来が見えた。


「ほどほどにしておいてあげてくださいね。彼らは聖人ではなくあくまで人間なのですから」


「わかってますよーふふふーのふー」


「姉ちゃん……あんまりふざけてるとおかず一品減らすよ?」


「真に失礼いたしました影橋室長」


「本当にこの姉は……」


「いいです。気にしてませんから。それより他の場所も報告はあがってきていますが、関西と東京以外は問題はないみたいです。ということで次の指令は、私の仇討ちでお願いします」


「意外ですね。てっきり自分でやるとか言い出すと思ってましたが」


「異能の相性最悪ですからね、むざむざ敗北しにいくきはありませんので。こちらが容疑者の顔となりますので、よろしくお願いしますね」


 影橋は一枚の写真を手の影から取り出す。

 ブレがひどくピンボケもしているのか歪みに歪み、何があるのかがさっぱりわからない写真。

 しかし、写真の真ん中だけがくりぬかれたように鮮明に写しだされていた。


「罪状は公務執行妨害、登録拒否、暴行、殺人未遂の異能容疑者【天使】の捕縛を」


 暗闇の中で瞳と天輪を燦々と輝かせ両手に光の槍をもつ、まさしく【天使】と言うべき姿が。


ちなみに彼らの出番はもうないことはない。


感想など書いていただけたら素晴らしくうれしいです。


タイトルに閑話の追加をしました


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