世界樹の木の実は巡っていく
タン、タン、タン。
葉がところどころ紅に染まる頃。
少年は、今日も街の丘にある世界樹の下で縄跳びだ。
ヒュンヒュンヒュン。二重跳びに変える。いつもやってるから、もう慣れたものだろう。
しばらく回していると、突然彼の頭上に何かが落ちる。木の実は、彼の縄跳びに弾かれて地面へ落ちる。
「そう言えば、世界樹の実を見たら、そばの日が当たるところに埋めなさいって言ってたっけ」
少年は辺りを見回して、道の近くの日が当たるところに植えた。
その時、小さなしましまの獣が、土を掘って木の実を埋める彼を見ていた。身体を止めて、少年をじっと見る。
やがて、作業を終えた少年が道を歩いて帰ると、その獣はそこへ一目散に駆け出した。土を掘り返して、木の実を抱えると、もとの森へ引き返した後、狩人の家の側に埋める。食糧を無事確保出来たその獣は、満足気に去って行った。
それから時は流れ、草木が芽吹く季節になった。
それは獣に忘れられたあの実も例外ではなく、芽を出し、葉を広げ、太陽の恵みを一身に浴びる。狩人はそれに気づかず、狩りの為に数日間の旅に出る。流石世界樹とでも言うべきか、その間にその木はぐんぐん育っていった。
そして数日後、狩人が家へ帰ってきた。
「俺のいない間に何が起きたんだ...」
狩人が家に帰ると、その木は狩人の家に影を落としていた。とはいえ、疲れて心身共にボロボロの彼に何かできるはずもなく、結局その日はいつものように眠ったのであった。
翌日、狩人が、昨日の収穫物を街に売って帰ると、家の前に人影が見えた。なにやらうろうろしている。
「そこの君、何か用かな」
やや警戒して尋ねると、その人は逆に尋ね返す。
「あなたは、僕が人外でも恐れませんか?」
「俺は狩人だ。人外程度じゃ驚かん」
狩人がそう答えると、彼は安心したように言う。
「では、この姿でいる必要はないですね」
彼が言い終わる前に、その姿はぼやけ、たくさんの枝と虹色のオーラで構成された人型の何かになった。
「おっと...。これはこれは。あなたは幻術が使えるのですか」
さすがの狩人も目を見開く。動物ですらない彼の姿には驚きを隠せなかったようだ。
「ええ、少しね。宜しければ、あなたの家に住ませていただけますか?なにぶん、この木から生まれたばかりでして、住む所が無いのです」
そう言って彼は、狩人の家のそばに生えた世界樹を指差す。それを見て、狩人は目を見開いた。
「あなたがあの伝承の!どうぞ、お気になさらず」
「ありがとうございます」
街の伝承には、『世界樹が生え出ずるとき、その守護者は現れ、その近辺を幸福に包み込むだろう』と書かれていたのだった。
そしてその翌年、街は活気に包まれた。
伝承の守護者は、ときどき人の姿で街へ降りて街の生活を楽しんでいる。街側も彼のために部屋を作った。
狩人の生活も向上し、大切な人もできて穏やかな日々を送っているのだった。