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友達とケンカした

作者: 茶太朗

「ゼッコーだ。」

 僕とユウタ君はケンカした。なんでケンカしたかはわからないけど、『ゼッコー』という言葉だけが耳に残っていた。

 学校からの帰り道、いつもより空が高かった。トモダチとケンカしたのに晴れてるなんて何でだろう。家のバラも満開だ。何でだろう。僕だけがイヤな思いをしているみたいだ。

「ただいま。」とひとりごとを言ってみる。

 両親は仕事だからダレもいないんだ。

 とりあえずテレビをつけてみたけれど、見たい番組はないみたいだ。

 僕は三人がけのソファーのど真ん中に座り込んだ。

 おもしろくない、おもしろくない、声をだしたい、だれかと話がしたい。

 考えれば考えるほど、奥歯をかみしめてしまっている。

 僕はランドセルから乱暴に漢字練習帳を取り出した。今日の宿題は漢字の書取り百字だ。普段ならイヤな宿題だけど、今は何も考えたくない。だからちょうどいい。算数の宿題じゃなくてよかった。

 八十字くらい書いたとき、玄関から声がした。お母さんだ。

「荷物があるから運んでちょうだい。」

 僕はパンパンに詰まったレジ袋ふたつを玄関から台所まで運んだ。その間に一言も話さないどころか、お母さんと目さえ合わせなかった。

 今は口を開けば、いい言葉は出てきそうにない。イヤな言葉はよけいにイヤな気持ちにさせるだろう。だから僕はだまっていた。

「どうしたの、学校で何かあったの。」

「べつに、何もないよ。」

「あらそう。」

 お母さんは色々と聞く方じゃないし言う方じゃない。『自立心』を育むためだとか。

 でもこれ以上『ストレス』を増やさないでほしいというのが本心じゃないかと僕は勝手に思っている。

 晩御飯はカレーだった。今日の給食もカレーだった。給食のカレーより、家のカレーの方が断然おいしい。もはや別の食べ物だと思っている。それでも今日お昼にカレーを食べたばかりなんだよ。

 僕はいつもより少しだけ早くベッドにもぐりこんだ。でも目をつぶると『ゼッコー』がくりかえされる。

 起き上って小窓を見ると、そこには僕が写っていた。

「ユウタ君が悪いんだ。」

 窓に映った僕が言う。

「いつも悪いのは僕じゃない。ユウタ君だ。」

 そう、そうなんだ、悪いのは僕じゃない。「虫採りで一匹も採れなかった僕に、自慢げに見せびらかしたよな。」

 でもユウタ君はアゲハチョウをくれたんだ。

「遠足のとき、公園に咲いていた花をキレイだと言ったら女の子みたいだと笑ったんだ。」

 でもすぐにあやまって、花の名前を知ってるなんてスゴイなって言ったんだ。

「今日なんて、鬼ごっこしていて三回も鬼をさせられたんだよな。」

 僕は足がおそいから仕方がないんだ。それをユウタ君のせいにして怒ってしまったのは僕の方だ。でも途中からなんで怒っているかも分からなくなってしまったんだ。窓に映った僕は全部でたらめだ。ユウタ君は悪くない。何より僕はユウタ君と話したい。ユウタ君と遊びたいんだ。

 僕はベッドにもぐりこむと固く目を閉じた。

 あやまろう、『ゼッコー』なんてイヤだから。


 小窓から光が差しこんでいる。スズメの親子がさえずっている。朝が来たんだ。

 僕は走って学校に向かった。途中の信号がいつもより長く感じた。もうすぐ学校だ。

 下足箱の前にユウタ君がいた。僕は息を切らしながら近づいた。

「昨日はごめん、だから『ゼッコー』なんてなしにして。」

 そう言って頭を下げたのはユウタ君だった。

 僕はびっくりしてしまった。あやまらないといけないのは僕の方なのに。

 僕はあやまることができなかった。あやまるかわりに出た言葉は、

「ありがとう。」

 僕は自然に笑顔になってしまった。

 ユウタ君は面食らった顔をしていたけれど、すぐにぼくと同じく笑顔になった。

 トモダチとケンカした。

 でも仲直りできた。

 仲直りなんかじゃない、前よりもっと仲良くなれたんだから。


読んでいただきありがとうございました。


他にも長い物や恋愛物など書いていますので、よろしければ読んでみてください。


重ね重ねありがとうございました。

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