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04 ケンタウルスの蹄から

斗真(とうま)、斗真……」

「ジョージ、ジョージ……」

 衝突は瞬間、光と闇は渦を巻きジョージの記憶は遠く深い場所へと飛ばされていた。

最初から日本という国に足を踏み入れた事はなかった生誕。

雨の続く夜に聞かされたエジプト神話の新解釈風おとぎ話。

幼少の日、母に連れられて初めて目にした都会、古き良き都ロンドン。

大英帝国の新しき女王クイーン・エリザベス5世を見たときの事、遠くセピアになり始めていた記憶に色が戻る。

肌に感じる光が本物の太陽からの暖かさと錯覚を起こすほどに鮮やかに晴れ上がった風景の中で、彼は走っていた

「母さん!! 母さん!! やったよ俺!! ついに特待に王手だよ!!」

 草木の青の香りが鼻腔を鮮やかにくすぐる夏の手前、イギリス本土ブライトン・ウッディングティーン、ファルマロード。

南に下ればすぐに海へと出られる街、その一角にある家には様々な草木を咲かせる箱庭を見渡す事ができるガーデンデッキが組まれていた。

木の素材そのまま、色を塗ったりニスをかけたりしないそれは少々ガタつきも出始めていたがジョージの母、セリーヌ・キャラハンの静養を助ける憩いの場所。

「あわてないで斗真、挨拶をして」

 声の中に芯がない、そう柔らかすぎて風に飛ばされてしまいそうな声が返ってきた息子に微笑む

「俺は……」

 俺は斗真じゃない、そう言い返したかったジョージの威勢を緩めるほどに母の顔色は白く儚く見えていた

「ああそうだね、おかえり母さん」

 今戻った自分が、母を迎える言葉をかける。

キャラハン家の変わった挨拶にセリーヌはうんうんと頷いて応える

「ただいま、私も昨日旅から帰ったわ、そして今日の旅の始まりに斗真が来てくれた。嬉しいわ」 

 母セリーヌは病弱だった。

こんな病弱な人が風邪も引かないであろう野蛮人鷹夜源助と、どうして一緒になったのか不思議でならなかった。

 大学生だった頃やってきた考古学者鷹夜の講義を聞いて、その世界に夢中になった。

それが出会いだったと聞いていた。

色気も惚けもない話。

母は講義に来た男のやかましい声の中に、発掘現場という遊園地の夢を見た。

そう言って目を輝かせた姿で、後は父親の事などなにも聞きたくなかった

「聞いてよ母さん、俺、月面マラソンの高校選抜に入ったんだよ」

 病弱な母にあげたい言葉は活力のある活動の出来事ばかりだった。

「月面? 月面って、あの月を走るの?」

 ゆっくりと顔を上げ青い空の中に月を探す瞳を前にジョージは喜び勇んで繰り返していた

「そうだよ、あの月だよ」

 指差す中天、この年新学期の9月を前に前年の記録と体力測定、宇宙空間への適正値ラインを根性で乗り切ったジョージはイギリス高校選抜の一人として月面マラソンの参加が決まった。「このまま大学選抜に入ったら家族も連れて行けるんだよ、母さん宇宙には環境コロニーというのがあってね。空気も地球のものよりずっと綺麗なんだよ。きっと母さんの体よくなるよ」

「今だって良くなっているわ、それに地に足がつかないところは怖いわ」

 息子の情熱に押され気味になりながらもセリーヌの希望は実にささやかなものだった。

「私はここで十分、それに源助さんは宇宙には来られないでしょう」

「あいつの事なんてどうだっていいだろ、俺が母さんをちゃんと」

「やめてよ、面倒見るなんて言いださないでよ。私まだそんなに衰えてないわよ」

 息子の思案をやんわりとなだめる手は困った笑みを見せる

「あの人は貴方のお父さんよ、もっと源助さんと仲良くして、斗真」

「あいつは母さんを置き去りに自分の事ばかりしているじゃないか……」

「そんな事、昨日もVメールを送ってくれたのよ。新しい発見があったって飛び上がって説明してくれて……」

「やめてくれよ!! そうやって家族のふりをしてるんだ。母さんが倒れ時だってあいつは帰ってこなかった!!」

「翌週に帰ってきたじゃない斗真、寂しかったの?」

「寂しいの母さんだろ!! あいつは母さんの事大事にしないで土遊びしてるただのバカだ!!」

「そんな事……」

 母は常に父の味方だった。

愛する旦那なのだから当然の事だったが、息子は納得はいかなかった。

 枯れた学科、考古学。

地面を這い、それがたとえ1万年前の糞であっても宝だと飛び上がる人種。

宇宙時代に入った今、有用な資源でも見つけられるのならばまだしも骨や喰いカスを見つけた事を嬉々として報告する父親、源助を認める事はできなかった。

そんなものより、儚すぎる生の中にいる母の肩を抱いて、机に向かった生活を送ってほしいと少年は切に願っていたが父親と話をする機会はなく、顔を合わせて話をしたくもないと考える年頃になってしまっていた

「ああ、大きな声を出さないで斗真」

「……、俺の名前はジョージだよ。セリーヌ・キャラハンの息子、ジョージ・キャラハンだよ」

 顔を背けてしまった母に強く言えない、だけど父親とつながりを持つ名前はいらない

「そうね、私の息子。源助さんが私にくれた宝よ。斗真その名前も大切な宝なのよ」

 どんなに言っても母はジョージを諭した

一番近くにいる息子の言葉を聞いてくれなかった。

そう考えてしまうほどに、父との事については頑なだった

「母さん、俺は」

「斗真、貴方も私の事を気にせず大きな空に旅に出て」

 ほんのすこしの間、2週間ほど地球を離れる。

目標があった月面マラソンで名を馳せて、去年の雄であるバース大学へと特待で入る。

数少ない家族として母を連れていける。

父のように置き去りにしてはいかない、その意思を強く確認こして無理に笑った

「絶対に母さんを連れて行くから、俺は勝って、有名になって、……」

 罵倒は言えなかった。

俺はあいつと違う、どこに行くにも母を連れていく、負けの人生を歩まない、名を馳せて、近年の大気汚染でシェルターブロックのない土地には行けない母に良い環境を用意してあげたい。 そんな息子の決意をやはり母は軽く、まるで風を纏うように流すのだ。

月に行く自分に、優しく笑って言う

「源助さんも斗真も旅に出ても忘れないで、貴方達が旅に出ている間私もこの小さな世界で旅をしているの。だから帰って来たらお母さんに「おかえり」と言って、そして互いの旅の話をして楽しい夕食会をしましょう」

 箱庭の世界を旅した母は、あの日も同じように自分を送った。

ジョージの記憶の最後に残る生前の母はやはり笑っていた。



「ジョージ……ジョージ……」

【斗真、斗真……斗真なのか?】

 頭の中に何度目かの光が浮かぶ、闇の中で走る光がまぶたの中に侵入してきたとき、ずっと耳に届いていた言葉に意識が着火した

「俺はジョージだ!!」

 瞬間的に自分が軽い脳震盪を起こしていたのだと理解したジョージの前に、息が届く位置に顔があった

「母さん?」

【違うぞ】

 即答。

歯切れの良い声の相手は、サンバーカーニバルから出てきたような艶やかで場違いな衣装をまとった女だった。

体をすっぽりと覆う赤白黄色と派手なマントに幾何学模様を飾り、さらに場違いなオーバーニーのハイヒール。

赤色の影で見え隠れする顔、母のおっとりとした目とは違いきつく棘を持つような目、おそらく青色と思われる目は黒目の部分が異常に目立ち白目の部分が薄いガラスのように見えている。

シベリアンハスキーのような目、何より気になったのは頭にかぶっている大きな帽子だった。

金髪を隠してしまうような大きなキャスケット? 体の上、頭の上に大きな円形UFOがのっているようにも見える。

それだけでも十分おかしな帽子から金色の管がいっぱいなびき、よりこの姿を滑稽なお祭り女に見せている。

 なんだこのチンドン屋は。

正直な感想が喉まで登って、慌ててエアシューターを叩いた。

「はっ!! そんな事より!! やばい空気無くなってないよな!!」

 緊急待避所を兼ねて作られているエアロックの中、「酸素残量5%」の表示が真っ赤に点滅している。

その赤い点滅の下で変な女はジョージの真似をしていた。

ドア乗っかを太鼓に見立てたようにジャブのポーズをにこやかにして爽やかに見せて

【激しいなジョージ!! 祭りの前哨戦か!!】

「ああん、何言ってんだお前は……、頼むぞ、空気……出てくれよ」

 残量5、すでにないにも等しい薄味の空気で2人の人間が生き残れた事自体が奇跡だ。

非常用のプラケースを開けて上に隠してあるボタンを叩く、ゆっくりだが空気が新しく入ってくる音を事を確認したとき、飛ばされていた専用ヘルメットに自分の名を呼ぶ声がある事に気がついた

「アーロン、無事か!!」

「ジョージ!! ジョージ!! よかった!! 無事なの?」

 レシーバーから唾を飛ばす勢いでアーロンは安堵の声を聞かせていた

「俺は大丈夫だがちょっとばかし頭を打って気を失っていた。コロニーはどうなった、隕石は激突したのか?」

 相手を心配させない程度で自分の事を説明、それ異常に知りたい現状報告へとつなげるジョージにアーロンは頭を打った事を気遣う

「頭、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だ。今は内港のエアロックにいる。酸素も十分だが衝突があったのなら外はやばい、状況を正確に知りたいんだ」

【失礼だな、ぶつかってないぞ】

 帽子アタック、ヘルメットを抱えるジョージにチンドン屋女は抗議する。

必死に音を追うジョージを大いに邪魔して

「お前にぶつかったとかいう話じゃねーよ!!」

 大事な話に割り込んでくる変な女は怪訝な目で、手を振って離れろと指示するジョージにつきまとう

「アーロン、外の様子はわからないのか?」

「わからないけど、衝突はなかったのかも?」

 酸素の供給がコロニーの状態を示す一つの指標でもあるが、外が見えないままでは対策の打ちようもない。

とにかく現状をすぐに知りたいジョージに、イカれたかっこうの女は迷惑そうな顔を見せてにじり寄る

【衝突などしない、安全第一だぞ】

「ちょっと待てお前、こっちの方が大事な通信中だ……ってっはっ? 衝突はなかったって事か?」

「そうだよ、多分だけどぶつかっていないよ。振動はなかった……ただ、重力制御になんらかの問題が発生したのかも、こっちの重力が薄くなってきているんだ」

 アーロンの言葉からわかるのは、コロニーが回転を止め始めているという事。

重力を作るために回転しているそれがとまり、コロニー内部の全てが無重力へとシフトしているという事

「管制室までいかないとダメか……ノイズが多すぎでどこにも繋がらない」

「こっちもだよ、ジョージとだけ繋がった、奇跡だ」

【おい、宴の会場はどこだ】

「おい!! いい加減にしろよ!! 割って入るな!!」

 必死の会話に割って入るお祭り女を払う、そんな悠長事はしていられないジョージはエアシューターの空気流入量を確認してエアロックドアへと向かった

「いいか、お前、ドアを開けたら「C」の表示のある方に向かっていけ、掲示板に出てなくても地図を見ればわかるから。そっちに行くんだぞ」

【そこで宴なのだな】

 この騒ぎを宴と注意する気力があるなら現場に集中したい。

ジョージは二度頷くと

「そうだ、ある意味祭りだ今の状態は、だからまっすぐいけ。そうすりゃ人がたくさんいるところに着くからよ」

 Cは実験棟も含むコロニーの中核部、逃げた人たちがシェルターに入っていれば一番人のいる場所でもある

【いっぱいいるのかー!! うむ、楽しみだな!!】

 話が交錯しているが、女を送っていく時間はない。

コロニー内部がどうなってしまったのかはわからないが、衝突が回避されたのか、そうでないかを確認するのは急務だ。

「ジョージ、危なくないの?」

「酸素の供給が止まらないって事は外も大丈夫だ、事態を知るには管制室に行くしかない」

 ダッシュのためのストレッチを止めてドアを開ける。

少しの気圧差で体が前のめりになるがそのまま壁を蹴って飛んだ。

ドアを開いた瞬間アーロンが何か叫んでいたようだったが、エアロックがつないだ空間の中でノイズの波にもまれ言葉が聞こえる事はなかった。

 飛び出したそこは、非常灯だけに切り替わった清楚な廃墟。

コロニーの中に響く非常事態音と眩しく導を示す非常灯だけという薄ら寒い世界で、振り返らなかったジージ、その背後のエアロックの中は誰もいない虚無な空間になっていた事に気がつきもしなかった。



「……あの、貴女は誰?」

 星崎春香は重力を失い始めた実験室の中で、石碑を守ろうと飛び出していた。

そこで自分より先に石碑に触れていた面妖な女に気がついた。

気がついたというより、忽然と姿を現した彼女に目が点となり飛び出したまま高い天井照明にぶつかりそうになって我に返った。

 警報が鳴った時、コロニー内部の重要な部屋は各所が個別の救命カプセルへと変わるため閉鎖モードに入る。

実験室も同じだ堅固に作られているからこそ、生存率を高めるためにドアを閉鎖する。

あの耳に痛い警報音と同時にシャッターを閉じた部屋の中で、ここにいた鷹夜博士、アイリ博士、アローン生徒以外の人がいたとは思えなかった。

なのに彼女は悠々と浮き石板を示して質問に答えていた。

質問で

【この石を見つけたのは誰だ、お前か?】

 警戒するには足りない穏やかな声と笑み、子供っぽい尋ね方。

透明度の高い泉に浮かんだ黒点のような瞳は楽しそうに身を揺らしている

「そうよ、私が見つけたの……ここの生徒でこれに興味がある人は珍しいわ」

【どうやって見つけた、詳しくその様子を述べよ】

「地球を規則正しく周回していたの、それで。もちろんそういう石は他にもあるけど、この石はどこか惹かれるというか」

 春香の話に一言一句を楽しむ顔は石を撫でる

【惹かれるだろう、そだろうそうだろうこの石は特別な石だ。ケンタウルスの蹄・ハダル星からとってきた特別な石だ】

「ケンタウルス? ケンタウルス座の事、どうやって見つけたの!!」

 春香の探究心に着火。

静かで機械の音だけが支配していた部屋の中に花咲く黄色い声き、隣に浮かぶ変な女の両肩を捕まえていた

「それも漂っていたの、いつ見つけたの、その時からこの文字が書いてあったの?」

 興味炸裂で迫る丸い瞳に、変な女は大喜びだった

【ハダル星から直取りだぞ、見つけたのは25万年前、文字を書いたのはちょっと前だ、そう12000年前だ】

「えっえっえっっ、星から取ってきた? 見つけたのは25万年前?」

【そうだ、いいだろう。この光沢、字体も格別だ】

「いいね、夢があっていい!! もちろん字も良いと思っていた!!」

 とんでもない、何かを突破した返事と不可思議な会話。

石を挟んで対話の形に浮く二人の下、鷹夜博士は奇妙な女が来ている服を観察していた目をあげた

「25万年前、そして12000年前に時を書いた。辻褄は合う、貴女も考古学者かな?」

 鷹夜博士の真面目な問いは、ここにジョージがいようものならとっさの罵倒が飛ぶようなものだ。

だが相手は虚量な若造のような反応はみせなかった、むしろ返る言葉や考えを楽しむ笑みをみせている

【なるほど鷹夜博士か、なるほど博識者らしい質問だが……今はもっと他に大切な事があるだろう】

 名乗っていないのに自分の名前を知っている。

多少は世に聞く名前であろう鷹夜は驚きはしなかったが、代わりに彼女の帽子から伸びている金色の管が自分を含むここにいる全ての手首に絡んでいた事に気がついた

「これはなんじゃ?」

【うん話を聞くのも好きだが、手っ取り早く貴様らが何者かを知れば更に楽しいだろう、宴が】

「宴……」

 壺のような実験室空間、その底でアイリは控えめな態度で浮いている帽子の女に目を輝かせていた

あでやか過ぎる衣装、宇宙の中で民族服のような彼女へと、アイリは爪先立ちして聞いた

「ならば名前を教えてください。私はアイリ・シュナイダーと申します。貴女の名前は……」

 石板共に宙に浮く不思議な女に、深くへりくだる顔

 下方にいる博士達を見る水晶の瞳は笑みとともに名乗った

【余は……】



 開かれたドア、管制室は機械の音だけが響く静寂の中にあった。

コントロールパネルにノイズはなく、青色と緑色、中空に浮く表示も整然と情報を流し続けている

「ミス・クレア? どうしたんですか? 隕石は……」

 各所の状況を確認しながら通路を蹴って飛んできたジョージの前で、クレア港長と数人の作業員は一方港へと視線を向けたままだった。

港を管理する内部管制室のグラスエリア、この衝突騒ぎの中にあって全てを見渡せるガラス窓にシャッターは降りておらずそこから何かを見る視線をジョージは追い、息を飲んでいた

「なんだ……これ……」

 目の前にあったもの、それは銀色の外盤を持つ三角形、横倒しになった三角錐。

そうとしか言えない物体が、港の桟橋にたのシャトルと同じく整然と並んでいた

「ひょっとして政府の船?」

 大騒ぎだった、こんな騒ぎを起こしたのだから現場検証に政府の船またはコロニー管理を行っている会社が来ていても不思議ではない。が……

「……あれから10分弱……」

 スポーツマンのジョージは常に時間を見る事を忘れていなかった。

自分が真正面で光を見た後、ここに来るまでを考えても10分はたっていない。そんな速さで政府の船が来るなどあり得ない。

不気味な横倒しの三角錐、白い物体こそがコロニーを目指して飛んできた隕石に違いない

「ミス・クレア、あいつがきたんですよね?」

「わかりません、一体何があったのかまったくわかりません」

 クレア港超は目を見開いたまま、ただ驚いている事だけを冷静に告げた。

それもそうだ、内部ハッチは完全に遮断できておらず、その隙間から滑り込んだこの物体がどうやって制動をかけたのかもわからない。

何事もなかったかのように桟橋の横につけられている事自体が、奇妙にして奇跡の形でしかなかった

「おい、どこのシャトルなんだ?」

 沈黙の続く部屋で、ジョージは管制官が流す型番に目をやり、情報を求めた

「わからない、見たことがない。というか試作品なのか? 大きさはクルーザー級だからそんなに種類はないはずだが。軍用か?」

 モニターには各国各種のシャトルの三面図がめまぐるしく映し出され、斜め読みでもわかる違いで管制官は首を振る

「該当なし、わかりません」

 すでにデッキにて実船の形を確認している者達の目と、デッキカメラの映像で見るに横倒しの三角錐、その底辺には複数のブロックが付いているだけで謎を助長していた。

推進システムが不明、穴も無ければ太陽光で動くソーラーパネルの一つもない。

何を推進力にしているのかさえわからない物体に、全ての者達が言葉をなくすのも無理のない状況だった。

「ただのデブリ?」

 並ぶ管制員達の間を抜いて見ていたジョージは素直な感想を口に出したがすぐに思い直した。

この物体は秒速30キロを超える速さでこのコロニーに向かってきていた。

目の前まで発光した姿ではあったが、しっかりとその危機を体で味わった。

 ゴミのわけがない、ゴミではコロニーに止まる制動はどうしてかかったのか説明できないが、ゴミでなくてもそのスピードをどうやって止めたのか証明できるものもない。

「なんなんだ……これ?」

 巡り巡った考えが、困惑に発言を控えたミス・クレア達と同じになるのに数秒とかからなかった。

誰もが困惑に沈黙する中、その女はひょっこりと広いグラスエリアに浮いて現れていた

【あれは余の船だ】

 極彩色のチンドン屋女が満面の笑みで立っていた

「「「誰?」」」

 集まった全てのものの声が合わさる。

それしか聞きようのない質問に彼女は大威張りで応えた

【余の名はアルファラリス!! さあ宴の場へと余を誘え!! 宇宙の海へと飛び出した余の臣民と、その同胞(はらから)達よ!!】

 見も知らぬ女、それが地球人でないことを理解するものはまだ誰もいなかった。





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