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03 最悪の来訪者

「今日は最悪な日だ、絶対にな」

 漆黒の宇宙、午前10時とはいえ地上のように太陽が真上に登ることのない世界。

ジョージ・キャラハンは実験室手前の控え室の長椅子で行儀悪く天を仰いでいた。

大学コロニーの船着場から重力エリアの実験室までは大した距離ではない、なのにマラソンしたような疲れを感じていた。

「ああ嫌だ、なんだってこんなことに」

 ミネラル水片手のジョージの顔には平手打ちをくらった赤い跡が残っている。

ほんの一時間足らずの間、父親との再会からここまでの間、目の回るような出来事に翻弄されていた。



「来てくださってありがとうございます!! 鷹夜博士、シュナイダー博士」

 エアロックを過ぎたところで小動物のような彼女は自然体で駆け込んできていた。

まるで久しぶりに会うおじいちゃんと孫娘のような図、黒髪黒目、なぜか高校生の制服に重力靴であるブーツを履いて待ち焦がれた二人の博士に飛んで挨拶を続ける

「私のような学生のメールに真摯な態度で応えていただけて喜びも絶頂です!!」

 東洋人なのに言葉に不自由?

あまりに早い滑り込みと、何事もなかったかのような挨拶に一同目が点になっているのを気にもしない。

「今日のために石碑はこちらに運んであります。すぐに見たいと思って」

「気のきく子じゃ……すばらしい」

 このテンションに素直に応じたのは鷹夜博士だった。

見たい、それを見に来た。そのオマケが息子との再会だった。

「あっ、自己紹介が遅れました。私、星崎春香と言います。よろしくお願いします!!」

 顔合わせから握手、自己紹介へと、回転寿司のようになめらかに続く行動。

春香のテンションにジョージは押され、そのまま後ずさりをしたところでこの小動物につかまった。

つまらなそうに睨んて急いたのが気に入らなかったようだ

「何してるのよジョージくん!! 私が招待したお客様に対して失礼じゃないですか!!」

 怖いもの知らず、不機嫌な顔面を晒していたジョージを下がらせた。

「なんだよ星崎……なんでこんなヤツを呼んでるんだよ」

「招待客よ!! 失礼すぎでしょ!! 鷹夜博士は考古学の第一人者、シュナイダー博士は宇宙電子学の権威。遠い地球からチョッパヤでバース大学コロニーに来てくださったのに騒ぎを起こす方がおかしいでしょう!!」

 口を尖らす小さな雀、さえずりの言葉がいちいち頭にくるが手を挙げるのはみっともない図。

飛び掛かりそうな爪先立ちの春香を避けるジョージ

「俺は別に……なんとも思ってねーんだよ、こいつがしつこく俺のことを」

「息子に息子と言って何がおかしい、それにこいつではなく父上だ」

 頭の中、怒りのゲージの上げ下げが激しい。

収めかかった鉾を煽るような鷹夜の一言に拳が硬くなる

「だからテメーなんぞ赤の他人だって言ってるんだよ。人様の前で自慢げに話してるんじゃあねーよ!!」

 一気に間を詰める動きにしがみついたのはアーロンだった。

こんなに怒ったジョージを見たのは初めてで、最初は遠巻きに見ていたが春香の乱入が火に油を注いだのを見てとり文字通り無重力を生かし壁を蹴って飛んで来た

「やめなって!!」

 反対側のドアからタックルをかけるように止めるアーロン、だが膂力の強さで微動だにしないジョージ。

「なんだ、インチキ石ころを見に来たのか!! あんなもんこの宇宙にゃ山ほど漂流しているゴミくずだぞ!! 失業したのか考古学者様よ!!」

「なんじゃと!! なぜそれを早く言わんのか!!」

 漂流していた石を拾ったのはジョージだった。

理由は珍しく起動を規則正しく描いていたからと、その観察結果を持って星崎春香が依頼してきたからだ。

依頼を承諾したのは春香の探究心に共感したからではなく、宇宙遊泳を正規の手続きを踏んで実技時間に加えるため、それだけだった。

「じじいは知らないみたいだから教えておいてやるよ。こんなインチキ遺跡はな、月にきっちり人が住んでコロニーが出来た頃にゴロゴロ漂った作り物なんだよ」

 地球からこんなところまでわざわざ飛んでくるようなものはない、中指を突き立てるような悪意の声は呆然としている父を地球に追い返す勢いだった。

 実際そうだった。

人類が宇宙でも近場ならば不足なく動けるようになった時代、笑ってしまうほどこの手のいたずらが横行した。

『月から謎の遺跡見つかる』『地球を回る謎の人工物見つかる』『月の先史時代人の骨見つかる』数えたらキリがないほど見出しが躍ったが、その全てが偽物だった。

 宇宙に上がってまで『宇宙人』や『UFO』果ては『謎の惑星ネビル』だ、ばかな話だった。

オカルトは世紀を超えた、そのぐらいに模造品と無責任な捏造を垂れ流すカルトが賑わった。

今でこそ多少の落ち着きを取り戻したが年に一回はこういうおかしな『ネタ』が飛び出してくる。

それを宇宙工学で名を馳せたバース大学で出るとはお笑い種だった

「みんな作り物なんだよ、古くてもせいぜい100年前だ。無駄足だったな」

「100年、それはお前が測定したのか?」

 一方的な嘲りをぶつけたジョージに鷹夜の目は鋭く聞き返した

「おおよ、そそんなものだろ、宇宙が退屈な場所だってわかった頃からだから」

「なるほどそういう物もあるということか」

 白ひげの顎をさすり一息つく、冷静だった父

「お前実験室まで一緒に来るのだろう、漂流していた石の初期状況など説明が欲しい」

「はぁ? 話聞いてなかったのか?」

「誰が何のために作ったか、それを知るのが考古学者だ」

「警察だろ、いたずらなんだから」

「誰のいたずらなのか、それに心が躍る」

 全く不変の意思だった。

自分に対して嘲りをくれる息子をなだめるように

「さあ、実験室に行こうバカ息子、どこの誰がそれを作ったのかを二人で確かめようぞ」

 どこまでも平行線

「ふざけてろ、石でも食って窒息死していろ!!」

「その暴言!! どういうことよ!! ジョージ・キャラハン、聞き捨てならないわ!!」

 相手に覆いかぶさるような大きな体躯のジョージの前にまたも滑り込んだのは春香だった。

親子の間を割って入り、そののまま厳しく人差し指を立てて注意した

「親に向かって死ねとかありえない、しつこいようだけど博士は私の招待客なのよ!! 失礼を言わないで!!」

「うるせーよ、そいつが勝手に……」

 言いすぎた、その感はすぐに感じ取っていた。

だから春香の強弁に逆らえなくなっていた。

「だったら下がって、ジョージに関係ないのなら余計に騒ぎを起こさないでよ!!」

「俺だってそうしたいね!! だけど……ミス・クレアに言われて」

「ならば静かに、深く礼儀を守って学生らしい対応を」

 睨む目には整然と注意を示す、怒られる息子の姿に鷹夜も少し引いた顔を見せていた。

ここが学校で、親子ゲンカの場ではないことに沈黙で合わせた。

「けっ……別にどうだっていいことだぜ」

 好んで糞爺こと鷹夜博士に付いているわけではないし、近くでまた騒動を起こすのはごめんだと。

一行から離れたジョージに満足したのか春香は振り返り改めて会話を始めた

「実験練はここからすぐです、電波実験屋波形の測定もできるよう機材も運んであります」

 小柄な鷹夜よりも小さい少女、大学生というには幼すぎる瞳は夢に希望にと色々な思いを漲らせ輝いていた。

子犬のような喜びぶりで二人の博士の手を引いた

「最初の実験データも持ってきてあります。波形を生み出すものは普通です、一般的な電気と思われます。宇宙空間で使われる大衆的通信網のそれが触媒になって反応を起こしているようなのです」

「ますます気になるな、そういう物を含有しているのかもしれないのぉ」

 即座の返事にさらに舞い上がっていた

「だとしても希少です、石同士の繋がりはこの種にしかない波形を生んでいます。地球の物なのか、それとも太陽系のものなのか、もっともっと果ての世界のものなのか、調べがいがあります!!」

 発見を喜ぶハイトーンな声、理解者を得た喜びでスピードアップして前を進む春香の姿をジョージは冷めた目で見ていた。



「星崎って頭いいのに、バカなんだな。あんなどこから流れてきたかもわからんような石ころに一生懸命って」

 唾吐く一言を耳にアローンの眉は下がったままだった

「ハルちゃんが来てくれてよかったね、あのままだったら大変なことになってたでしょう。ジョージ僕思うんだけどダメだよ、ああいう言い方は良くないよ」

 集団の後ろを歩いて実験室へと入ったアーロンは冷温タオルと水を持ってソファー座っているジョージに手渡していた。

コロニー内部、重力エリアをさらに奥に入った実験練は巨大シリンダーが並ぶ青白い部屋だ。

実験用の物質を回すターンテーブルも現在使用されるものよりはるかに大きなもので、大学に関係のない素人が見たら3メートル越えの新人類、または宇宙人の実験施設に見えてしまうかもしれない。

実験室に入る前室のクリーンルームで、物理的怪我をジョージは湿布で冷やしていた。

「星崎は知らんけど、ミス・クレアに逆らうつもりはねーよ」

「そうじゃないよ、お父さんなんだろ。久しぶりに会うのに……」

「あんなの父親じゃねーよ」

父親と名乗りジョージに馴れ馴れしく絡みついた鷹夜博士、息子と呼ばれたジョージの激怒はアーロンにとって今まで見たことのないものだった。

 基本温厚、言葉の端々にトゲを持っているが力で強く出ることのない男の激昂。

スポーツ選手として西洋人の体格に負けることのない体、身長180を超えるジョージが頭ごなしに父親鷹夜を抑える。

巨人に睨まれた小人の図で二人の言い合いは果てしのない平行線にあった。

そしてそれは星崎が介入する前に一度決着をつけられた争いだった。

 入港したその時に起こった言い合いで、ジョージはすでに罰を食らっていた

「ジョージ生徒は博士たちについて研究実験のせいかを客観的に見たレポートを提出しなさい」と。

 取っ組み合い寸前の親子に有無を言わさぬ指導、ミス・クレアに逆らうのはバース大学の生徒にとって大学生活の半分を棒にふることになる。

基本的礼儀作法のない者を徹底的に許さない鉄の女からの罰直にジョージは黙って従っていた。

「もうさんざんだ。くそジジイに星崎に……」

 張られた頬をタオルで冷やす、視線は壁一面をガラス張りにした実験室へ、せわしなく動く鷹夜とアイリ、そして曰く付きの石を発見した春香の姿を見ていた。

「あのインチキ石になんかあるのかよ?」

「何かあって欲しいんでしょ、ハルちゃんも学者さん達にも」

 アーロンは連帯責任を取らされていた、一人では姿を消しとしまうかもしれないジョージを監督する役目をミス・クレアから言付かっていた。

何かにつけて大きく作られた待合で、ジョージは背を伸ばし着っぱなしの宇宙服の上に大学のパーカーを羽織り、アーロンはストローをくわえた口でドリンクを手にしていた

「あるわけない、めずらしい鉱物が見つかれば御の字だ」

「だよね、でもあの石が発する波形っていうの、それが気になっているみたいだよ」

 問題の石はバース大学本館コロニーから遠い農業プラントで見つかった。

通常なら無軌道デブリはネットや取り餅に引っかかるものだが、この浮遊物は正確な軌道を描いて飛んでいた。

正確に1200年周期の弧を描き地球の周りを回っていた奇妙な石に春香が目を留めた。

 星崎春香。

日本からやってきた小型生物のような留学生は、この石についてしっかりとしたレポートを提出、その後デブリ回収をジョージたち外回りを担当する生徒に頼んでいた

「確かに変な石だったのは認めるよ。月の引力にも引かれない、もっと言えば木星にも引かれずにいる小型サイズなのに個別周回していたわけだし」

「それが出していた波形が地球で見つかった石と同じで共鳴しているって言うんだよ」

「共鳴? 地球のと?」

「うん、そうらしいよ」

 信じがたいことだった、石からなんらか微弱な音ないし電気が出ていてそれが共鳴しているという話にジョージは頭を振って否定と笑う

「ありえない、微弱すぎて届くわけがない。地球には分厚い大気があるのに」

「僕もそう思う、もしそれが通っていたとすれば「偽物」確定だよ」

 真偽はいかに。

話を聞くだけでもインチキくさい石、そんなものを見に来る暇人が自分の父親であったことに苛立ちが頭のなかに篭り始めていた。

思い出しても笑ってやらないと気が済まないという目が、実験室へと続くグラスエリアの向こう側を見た

「割ったのか?」

 覗き込んだ先、円形に作られた作業テーブルの上にあった石は真っ二つに割れていた。

運んだ時は高さ1メートル、横幅80センチ程度の石礫だったそれは真っ二つに綺麗に割れていた。

綺麗にというのはそれが機械によって切られたというよりもっと鋭利なレーザーによって焼き切られたよう鏡面を見せていたことにあった。

切断用の高圧レーザーなどここの設備にないのは知っていた。

思わずガラスに張り付き凝視するジョージ同様、その状態は鷹夜たち科学者が意図してやったわけではないことはよく見えていた

「なぜ割れた?」

 驚きながらも鷹夜博士は前に進み、まるで真剣で切られたウリのようになった石の中身を見ていた。

「文字がある……図も」

「本当ですか?」

 波形テストのために地上と連絡を取っていたアイリは応対を忘れたように飛び出していた。

アームで掴まれた外された石、残された側から出現した字は驚くほどに地球で見つかったものと酷似していた。

だが形式が少々違う様子だった

「天球儀に文字、下から上へ」

 地球で見つかったものとは少し違う形。

上に太陽を表すと思われる真円、そこから一筋下へと降りる放射状のライン。

直下には多数の言語が箇条書きに書かれており、最下部に地球では一番上に書かれていた天球儀の図が続く

「これがオリジナルなのか?」

 鏡面板にてを触れ、図と文字のエッジを確かめていく。

太平洋で触れたそれと同じ機械工作で作られたような文字の感覚を確認する鷹夜博士の隣、アイリは別の作業を開始していた。

大西洋石碑、太平洋のそれ

「完全な形で見つかった石板は2つですが、類似文字比較のために文字石板のデータがあります、これらを板に当てはめていきます……」

 立体に浮び出す2つの石板、そこに綴られた文字がパズルのように、今開かれた板の字へと重なっていく。

「太陽の王は告げる。余はこの場所にいたりし子らと再び出会うことを誓うと、その祝福をその手で放てと」

 最上部のずの下にある文字が、太陽王の宣下であることを告げていた

「これは世界に対して王が宣言した宣誓句、その内容が各国の言葉で書かれている」

 飛び交う文字のパーツ、解りやすい言語を探す鷹夜、目を輝かせ結果を待つ春香。

外でぼんやりそれを見ていたジョージの耳に緊急の警報が直通していた。



 甲高い音、エマージェンシーを告げる赤色と共にコロニー内部の隅々にまで聞きが知らされていた

ジョージは飛び起き、待合室の外へと飛び出していた。

通路にある内線用の受話器をもぎ取ると、優先で管制室へとつないだ

「どうしました!!」

「わかりません」

 返事はミス・クレアの声だった、焦っているという感じではなく確実な状況を伝えようとしているのは口調からわかった

「ジョージ・キャラハンです、そちらに向かいます」

「いえ、来てもダメかもしれません。あなたはあなたの父上と仲間達をシェルターに避難させてください」

 冷静の中の焦り、クレアの声の向こうで港に残った仲間達の声が雑然と響いている。

普通ではないことが起こっているをジョージが黙って見ていることはできなかった、走り出す体は一度振り返りアーロンに頼むと叫ぶ

「学者と生徒をシェルターに、非常用ハッチを開けて収容を!!」

 一足飛びのジョージの姿にアーロンしはただ頷く、コロニー内部は少なかった人があつまりシェルターへと走っているのがわかったからだ

「ジョージ、気をつけて!!」

 背中に響く声に振り向きもせず走る、同時にもぎ取ってきた受話器に向かって状況を確認する

「接触ですか!!」

 大学の周りは普通のコロニーもある。

いわゆる富裕層の持つ別荘の集合体や、環境実験で作られたコロニーの跡地にリゾートを作ったものまで。

まれにしか起こらないが、それらを搬送するシャトルが接触を起こしコロニーの外壁にあたる事故がある。

この場合、宇宙法にのっとりコロニーを保護するため救助が間に合わない場合は防衛ラインを割ったところで迎撃すると網による回収が決められている。

ジョージはエマージェンシーをそれだと考えていたが、答えは驚愕だった。

「隕石か? シャトルかわからない。何かが一直線にこのコロニーに向かっているよ!!」

 管制室に着く前に状況を教えてくれたのはアーロンだった。

自分が担当している部屋の監視ロボの映像と通信を傍受していたのだ

「隕石、ありえない。広域警戒もなく月まで寄れるものはない」

「でも、来てるんだよ!! 運が悪いことに接岸ブロック、そうだよ桟橋のある開口部に迫っている!!」

 隕石には等級があるが、コロニーに被害をもたらすレベルのものは常時監視されており、急に落ちてくることはないのだ

「桟橋に行く、非常用ハッチを閉じる!!」

 ハッチと言っても軽いものではない、港を仕切る内側の扉だ。

桟橋から向こうは捨てるという発言にアローンは驚き叫んでいた

「危なすぎるよ!! 管制室に任せて君も退避してよ!!」

「管制室では無理だ!! できない!! それに救助の手間でいっぱいだ、事故を最小限に防ぐためにはそれしかない」

 シャトルのような人工物が外壁にぶつかってもコンクリートで外殻を覆ったこのコロニーに大した被害はない、あるとすれば浮遊軸のずれでコロニー内部が一時的全部、無重力状態になることぐらいだが、桟橋のある開口部にぶつかられたのではたまったものではない。

人間でいうのなら開けた口に石を投げ込むようなもの、歯に相当する部分が桟橋であるならそれらは全部へし折れドックの中へと衝突と破壊を押し流すことになる

「外側はもう無理だ、内側のドック扉を閉じる。そうすれば中に大きな被害は届かない」

 コロニー大外の開放型桟橋を切り捨てる、鷹夜たちの小型シャトルが付いた内側にある扉を閉じ衝突物を迎える。

古いコロニーで装備はまちまちに付いていることが管制室にとっての悩みの種、それがこんな形で強襲されるなど騒然は当然である。

外の開閉は外殻に大きなカバーをつけることで対処してきたツケが回った

「ジョージ生徒、間に合いますか?」

 会話は全方向に流れていた、クレア港長の声にジョージは軽快に答えた

「任せてください!! その間に外壁作業の連中を下がらせてください」

 専門の作業員もいるが、緊急すぎる事態で外につないでいたシャトルや貨物箱の離陸を優先している。

減圧薬を口にジョージは走り、一気に宇宙へと飛び出していた。

警報が重奏を奏でる忙しさも、音のない世界ではヘルメットの中に響く残響でしかない。

「どうなってる!!」

 飛び出したそこに溢れるボート部の生徒たちは、七色に輝く警告灯に泡を食っていた。

「早く中に入れ、ボートのことはあとまわしだ」

 入れ替わるスーツたちの合間、ジョージの目に映ったのは光だった。

まっすぐに向かってくる光、これがコロニーを穿つ

「嘘だろ、そんなスピードで」

 即座に振り向き非常用閉鎖扉のボタンを叩く、普段はプラスティックケースに守られているそれを機材庫のスパナで力任せに叩いた

『緊急!! 緊急!! 非常事態により内郭部ドアを全て閉鎖します!!』

 電光掲示板も出される、音のない世界では発光だけが人の注意を煽るシステムだ

各所モニターに、桟橋のある港内にもビーコンがデタラメに輝き注意を最大限に光らせている

「間に合えよ!!! 頼むよ!!」

 近ずく光、光ることでスピードをよく表している。

隕石が光るほどのスピード、それは秒速30キロの世界。今から扉を閉じるのに少なくとも10分はかかる。

目の前にあるそれを止めることは不可能だった。

「やっぱり……最悪の日だ……」

 懸命の作業、ジョージは目を細め最後の時を待つだけとなっていた。



「どうなったの……」

 実験室には没頭しすぎてシェルターのことなど忘れていた鷹夜博士がいた。

ちなりで腰を抜かした春香、アイリの手を引いたアローン。

鳴り止んだ警報に、三人は顔を合わせ、鷹夜は相変わらず非常電源の中で石板とにらめっこをしたていた

「うむ、つまりこの石を手に入れる事ができた時人類は人類始祖の王と出会う技術を持ったということになるらしい」

 衝突という危機の中、文字を読み取り喜ぶ鷹夜博士の顔に、誰もがただ呆然とするしかなかった

「ところで急に暗くなったが、何かあったのかな?」

 その惚けっぷりにため息がでるほどに

「……ジョージ、ジョージ!! ジョージ!!」

 アーロンは端末に向かって友の安否を確かめようとなんども名前を呼んでいた。


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