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01 宙へと続く道

太陽王(ラー)が告げる、か、全世界に向けたメッセージのようなものだな……」

 潮風が轟音を立てる波際、口周りを白ひげで飾った考古学者鷹夜源助(たかや・げんすけ)はまぶしすぎる南洋の日差しの中で目を細めていた。

風の中に潮を織り込んだ苦味ある空気と、太陽の光をちりばめた波。

太平洋、赤道直下にあるこの島は深い海が蓄えていた香りを熱に晒し、草一つない奇妙な小島に初老の考古学者は立ち尽くしていた。

 彼の目が見るそれは、この殺風景な島において異様な美しさを持っていた。

目の前に立つ石碑、長年海底に沈んでいたとは思えない輝きに。

巨大な青いクリスタル、ラフカットされた結晶の一部を一面だけ綺麗に削り取った鏡面仕上げ。

海底の潮に磨かれたというには美しすぎる石には、奇妙な図と整然と書き連ねられた文字があった、それも一国の言語ではなく複数の国家の言語が段階順に整然と並んでいる

「……ぬーん、中ほどのはマヤ文字に似ているが、その下は楔文字……なによりもこれをどうやって作ったんじゃい?」

 吹き出す汗、顎にまで流れたそれをぬぐいながら鷹夜博士は思案する。

地球上に現存する楔や形象とは少し肌色の違う文字。

基本的には歴史上にあった文字と似ているのだが、手書きや人為的刻み込みの後は見られず、まるでレーザー刻印されたようなエッジが見える。

同一と思われる文字は寸分違わぬサイズから、製作者の高い技術が理解できた。

「どうですか、何か分かりますか?」

「いや上の文しか何も、しかしこれはとても面白い」

 しかめっ面を晒し石板とにらめっこをしている鷹夜に、軽く柔らかい声がかかる。

金髪を纏め上げた緑の瞳は世紀の発見を知らせここに招待したヨーロッパ共同体の学者。

この不可思議で殺風景な島にいては、目立ちすぎる花のような存在。

プロフェッサーと呼ぶには若すぎるアイリ・シュナイダーは資料を抱えた姿で顔を近づけた

「何か気がつく点はありませんか?」

「いろいろあるが、大まかな点は君の考えている事と変わらない。この石板がどうやって作られたのか、複数の文字が何故に一緒あるのか、何より気になるのは一番上の図じゃな」

「私もそれが一番気になっていたところです」

 石板、文字を飾っている部分は縦長のスペース。

その上には半円をかたどった絵が刻まれている。

半円の下はおそらく大地、そこからまっすぐ上ら引かれたラインにつながる太陽と思われる放射状の線を集める球体、その上にかぶさるように描かれる棒状の何か。

「太陽信仰……」

 古来、人の信仰対象は自然であった。

自然を擬人化、神格化することで同次元の「存在」として作り、それを形として崇める。

よくあるそれなのか?

深まる疑問を解くには一つの図ではなく、下に並ぶ各言語のヒントへと目線を走らせる

「しかし不可思議じゃ? これほどに離れた地域の言語が全て太陽を崇める種族によるものだと言うのか?」

 石板に並ぶ文字は共通の地域のものはなかった、むしろ太平洋を囲む古文明に限定されることもない世界各国の古文字と言って良い羅列だった。

「私は世界中の者たちがここに、太陽を崇める為に集まってきたのではと考えています」

「それは夢のような解釈だねぇ」

 考古学者鷹夜のまったくもって正直な意見だった。

現場は太平洋を周りにいただき、ミクロネシア連邦を隣に持つ場所だ。

歴史的に見てもこの海に高度な文明があったというのは聞かない、海洋文明のほとんどは字を持たず流通を介し海を支配した原始的にして自然の力を大いに利用した海の民である。

太平洋を回る地域との交流があったとしても、東欧や中央アジア、ヒマラヤを越える国と交流があり特使を立てて記念碑的石板に文字を刻むようなことができたとは思えない、というかまず不可能と考えるものだ

なのに石板には世界各国の古代文明文字の始祖的ものが見られるという不可解さ。

 赤道に近いこの島は自然にできたものではなかった。

軌道エレベーターの基底部を作るための海洋開発により突如隆起した場所だ。

そこからこの石板は現れた、その事自体が既に石板を胡散臭い存在としていた。

科学的年代測定では紀元前となるこ石板、この島にはそれ以外にも奇妙な出土品があった。

 祭壇を飾る銀でできた食器、石の器に祭事に使われた燭台。

まったく時代に反するものたちが、浮かんだ島で我が身を拾ってくれと言わんばかりに、一面に落ちていた。

 あまりにも怪奇な風景だった。

一貫性のない装束品、太平洋沿岸の古国家を匂わせる出土品の山。

今島を駆け出しの若造学者達が目を輝かせて調査をしている、半分は新発見を喜び、半分は真偽を疑う嫌悪の目で。

「大西洋でも同じような石板が見つかり、私はそれを読み解きました」

「謎は解けたのかね?」

「鷹夜博士、私の答えは決まっています。どうかあなたの見解を聞かせてください」

 心のバネに弾みをつけている動悸、白い肌を僅かに赤く咲かせる顔。

一方で謎問答を増やしたくない鷹夜博士はシュナイダー女史の視線に関心を示さず、ひたすらに石板を睨みながら会話を続けていた。

 他の学者たちが「嘘の掲示板」と言って避けた石板。

大西洋で見つかった写真と見比べながら

「上の図はおそらく天球儀……両方の石板と図は共通」

「著名な考古学者は誰も参加してくださいませんでしたが、鷹夜博士が来てくださって本当に嬉しいです」

 大西洋で見つかった石板は幾何学模様を飾った多数の壺と一緒に発見されていた。

たった半年前に見つかったそれは多くの科学者が興味を示し、そして失望していた。

あまりにでたらめだったからだ。

 壺の中から出てきた出土品はまさにここと同じ、地域に一貫性のないものばかり。

測定により出された年代が紀元前5000年を弾いたことで科学者の希望は失望に変わっていた。

その年代には存在しない出土品、意図的に年代を古く操作した偽物を海に投棄したのではという疑惑。

西暦2200年を過ぎた今、そういう技術はあり見破る技術もある。

石板はそうした懐疑の渦中に晒された為、考古学者の多くは自らの手を汚すことを避け新たに見つかった遺物の島への招待を断っていた。

「自分の目で見るまでは、何が本物なのかはわからんじゃろう」

 高名であるほどに一笑に付し、取り合ってくれなかったところに日本国を代表する考古学者鷹夜博士はやってきた。

アフリカで人類の起源を掘り起こす作業にあった中から、返事一つで一足飛びで

「私もそれを実践しております。目で見て、触れて確かめて、鷹夜博士が来てくださったことに心から感謝を……」

「感謝は待ってくれ、でもって慌てなさんな。これが本物で考古学に新しい扉を開いてくれるか? 偽物ならば何故このようなことを起こしたのかはまだ誰にもわからない」

 お辞儀をしようとするシュナイダー女史を止め、鷹夜博士は下に続く言語を読み取っていた。

「古ラテン語が一番わかりやすい、これが上に並ぶすべての言語と同じことを書き込んであるのか?」

 石板を読む、これはロゼッタストーンと同じ形式だと鷹夜は読んでいた。

それぞれの言語が別々の事柄を示しているのではなく、同じ事柄を多種族に伝えるためそれぞれの言語で紹介していると見たのだ。

「曰く、大洋を侍らす空の王たる者の元に、我らは集いし民。治世に寄り添った日を忘れず、治世を倣い地を治る。時の川流れて満ちる頃、星に近づく階梯を渡り再び相見える太陽の王のもとへ」

 鷹夜のかすれる渋い声は読み取った文字をつぶやく

「同じです、大西洋で見つかった石板も同じことを書いていました。私が読み取ったのはヒッタイト語でしたが同じことが書き込まれていました」

 発見に対する喜び、シュナイダー女史は手に持ったカバンからデータデバイスを開き大西洋で見つかった石板の写真を浮かべて見せた

「石碑は同じものとして作られているという確信もあります、これを」

 光のラインで図式化された大西洋石板を、目の前にある太平洋の石板へと重ねる。言語こそ違いがあれど一番上に描かれている天球儀は一ミリのズレもなく「マッチ」というサインを見せていた

「この技術における同一造形、偽物のラインが濃厚になるのぉ」

「物は同じでも作られた時代が違います。大西洋石板はこれより新しいのです。測定は真偽を問われるため何度も行われていますが大西洋石板は紀元前5000年前後とほぼ確定しています。ここにあるものは紀元前12000年のものなのです」

「7000年もの差がある? いよいよ本物と言いがたいではないか」

 さすがにその差を埋める歴史的リングはすぐに浮かばない、偽作を暴露するために呼ばれたのかと冷めた目線を見せた源助にシュナイダーは息が届く位置へと顔を近づけていた

「年代は瑣末なことです。言えば文字さえも」

 声はハツラツとしていた。不思議のもっと奥へ、そこに至る道を示す喜びで

「もっとも重大なことは、この石板と大西洋石板は同じ波形を出している事です」

「波形?」

 議題が一瞬にして考古学のそれから離れていた。

科学の混ざった研究に、鷹夜は一瞬惚けすぐに現世に戻る。

現在の考古学では発見され物質をあらゆる角度と、分野違いの角度で検証する。

石板に波形も、その石が持つ固有の波形が必ず発生するのは事実だ。

「同じ波形……同じ石から作られたという事?。にわかには信じがたい」

「さらに言えば石板は地球上にあるどの石にも所属しません、この石板だけが同種であるからこその共鳴なを起こしているのです」

「互いを知り響き合っている?」

「響き合いさらなる石へと繋がっているのです。博士、石板はこの二つだけではないのです」

 興味に心が揺り動かされる鷹夜を、シュナイダーは見逃さなかった。

物理的に手を引くように、心を引っ張り寄せる言葉を次に用意していた。

 蒼穹。

太陽輝く真っ青な空に緑の瞳は笑みを浮かべて視線を登らせていた

「宇宙へと道が繋がっているのです。博士が解読した空への道です」

 潮風が鷹夜博士の白髪を揺らす、頭脳に光を走らせる好奇心が腫れ上がった空へと視線を上げる

「空の道……これは面白い」

 西暦2215年、人類は地球と月、近場である火星に足を伸ばせる程度の進化していた。

足を延ばすほどに世界は謎の扉を開き不思議をプレゼントし、地球のに残った謎も未だ多く存在していた。

古びた学科と言われて久しい考古学の雄はその枠を超えられるのではという笑みを自然と浮かべていた

「そうか、そうか、空の道というものが本当にあったのだな」

 地べたを這って古代の地層を深く深く探る喜びが、空にあって何が悪い。

初老に入り始めた男の頭の中は、若造が夜のネオン街に走っていく勢いを得ていた。

「ついにこの老骨も星の海を行くか……」

「チケットは取ってあります、どうぞこの不思議を解く旅に私も共に連れて行ってください」

 月へと向かうチケット。

アイリ・シュナイダーが見せる、石板の謎解くロードマップにほのかな笑みを浮かべていた顔が大笑いする

「これはいい、久しぶりにバカ息子に会えそうだ。親父が立派に仕事している事を見せてやろう!!」

 宙の石板へと続く道、幸か不幸か獲物を収めたコロニーの名前は覚えのある学校の名前だった

「ご子息はバース大学へ?」

 喜ぶ鷹夜に、シュナイダー女史はそつなく聞く

「ああ、妻の元でそだってそのまま大学に行った。宇宙工学か、いずれにしろ楽しい旅になりそうだ」

 トキメキを失わなかった初老の男、鷹夜源助は初めての宇宙旅行へと進む事になった。


エンタテーメント。

映画で今年のラストはスターウォーズでしょうね!!

僕は宇宙モノ大好きです、ネージュリスもそうですがこちらはもっとぶっ飛んだ形のものを書いてみました。

1つずつも短めですが、全体的短めな作品になると思います。

子供の頃ムー大陸とか、アトランティスとか、レムリア大陸とか、世界地図の隙間を縫うような失われた大陸の話が大好きでした。

今ではプレートテクトニクスがある地球上にそんなものは存在しなかったと知っていますが、目を輝かせ夢見た時代を自分の手で今一度書いてみたかったのです。

父子鷹の二人の関係は、インディアナ・ジョーンズ、最後の聖戦をイメージしています。

箸休めの一品としてみなさんに読んでいただけたら嬉しいです。

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