ゴーレムと暗殺者
ギストンは、暗い部屋で誰かを待つ。時々差し込む日の光から、部屋の内状を伺う事が出来るが酷いありさまだ。そんな中、ポツンとある椅子にギストンは座っている。
「いったい、いつになったら来るんだ」
何度目になるか、その言葉を吐き悪態をつく。埃っぽい部屋で一人待たされるのを良しとはしない。いや、どこであろうとギストンは待たされるのが嫌いである。
それからどれだけ待っただろうか、その部屋にローブを着た二人組が入って来た。身長はギストンの半分ぐらいしかない子供もような成りをしているが、紹介してしてくれた人の話だと見た目で判断できない。
「てめぇがウサギでいいんだな?」
「「ええ、クマさん」」
ギストンの言葉に入って来た者は答えた。その言葉はなぜか重なって返って来た。その事にギストンはあまり気に留めない。この世界においてこの程度の事で驚いていては、やっていけない。自分に理解できない物は、こうであるのだと受け止めるだけである。そうやって生きてきたのだから。
相手が変わっているのは、置いておいて本題に入ろうとギストンは思う。さっきの会話でお互いに交渉の相手だと分かった。お互いが与えられた名前を呼び、お互いに名乗ることが依頼人と請け負う者との取り決めである。
「じゃ、早速話に入らしてもらうぜぇ。今回依頼したいのが、ある二人組を潰して欲しい。手段はぶっちゃけそっちに任すぜ。報酬の金額も弾む。どうだ?」
ギストンは、ウサギと呼んだ者に依頼を頼む。これは、逆恨みでしかないがこの世界ではやってはいけない事にルールはない。気に入らないのであれば、どんな手段を使ってでも潰すのが普通だ。それで、潰されたら運がなかったといっただけの事で誰も気にも留めない。
これで、現実の厳しさをガキどもめに思い知らせることが出来る。とこの依頼が達成された時の事を思い、心の中で吠える。
「「その依頼受ける。ターゲットの名前や特徴または行きそうな場所は?」」
ギストンの依頼にウサギは、すぐに食いついた。ニヤリとギストンは笑うが、確認のためにもう一度聞く。
「まだ、依頼金額の交渉なんかも終わってないのに、そんな即答でいいのかよぉ」
「「いいわ。依頼は受けるよ」」
またも即答。少し頭を悩ませるが、ギストンにとってこの状況は願ったり叶ったりだった。それに金額の交渉前に相手が依頼を受けるという事は、主導権はこっちが握った居るという事で金額を渋れるのだ。ここまで、いい条件がそろい過ぎるのも裏がありそうで怖いが。
「じゃ、依頼に内容だ。標的は最近入って来た新人だ。特徴は、そうだっなぁ。えらく白い武器を名乗る少女と、そいつに守られている男だな。ギルドに入ったばかりだから、周辺のゴーレム退治でするんじゃねえかな。そんなところだ」
「「なるほどね」」
「おいおい、俺が言うのもなんだけどそんな情報で分かるのかよ」
「「ええ、ゴーレム退治に出る新人が通りそうな場所で対象を見つければ良いだけだからね」」
「確かにこの町を出て、近くの遺跡に入るルートは限られえてやがる。それで、あのなりだ。目立ってしょうがねえだろうなぁ。なるほどなぁ」
豪快に唾を飛ばしながら、納得するギストン。その唾を綺麗にかわすウサギと呼ばれる者。ギストンはそれを少し不快に思いながら、値段の交渉を使用と話し出す。
「報酬の話なんだが、悪いが手持ちはそこまでねえそれを踏まえて交渉に乗ってくれるとあり難いんだが」
自身に出せる金額はあまりないと、開幕から金額を下げにいく。向こうが依頼を受けると確定している以上こっちが下手にです必要はない。ギストンはそう思い、交渉を続けようとするが相手から予想外の言葉が出て来た。
「「お金はいらないよ」」
「なに?金が要らないだと」
ギストンが不信そうに聞く、その言葉が相手に届いていたかどうかは分からない。ウサギは言い終えると同時に、二人組の片一方が足を踏み出しギストンの懐に潜り込む。ギストンはその動きに反応出来ない。自身の武器は、後方に置いてあるし会話の途中の思いがけない相手の行動にワンテンポ動きが遅れる。
その隙を見逃すはずも無く、ウサギは懐に潜り込んだ方が相方をまるで武器の様に振う。引き寄せられるようにギストンに向かうもう一人のウサギは、その勢いを殺さぬようにそのまま突っ込み瞬時に握られているのとは別の手に刃物を忍ばせ、そのまま斬りかかる。
「ぐぅ!」
その刃物はギストンの腹を切り裂き、辺りを血で染め上げる。憎々しげに睨みつけるギストンだが、言葉を浴びせる前に返す刃で喉を裂かれ、言葉も出ない。
そんなギストンには興味を無くしたのか、ウサギは手を握ったままギストンの後方、彼の武器が置いてある場所まで行く。
「武器だね」
「うん、そうだね」
「これを売ればかなりのお金になるよ」
「だけど依頼を受けたからには、そっちも片づけにと」
「だよね。私なら大丈夫だよ」
「そうだよね。私たちなら大丈夫だよね」
そう言うとギストンの武器を手に取り、キューブにしまう。そのまま、その場所を後にした。
ギストンはその光景をぼやけていく意識の中で見ている事しか出来なかった。そして、時間は経ち血が流れその場に倒れ込む。この世界で威張り散らしていたギストンは、それを後悔する事もなくそれが原因でその生涯を薄暗い部屋の中で終えた。
誠たちは、町を出た後近くの遺跡に入りゴーレムを探していた。町を少し出ると、人型をした土塊が何体も出てきてこちらを襲って来る。動きは遅いが、二メートルもある巨体が迫ってきたらビビるだろう。もちろん誠もビビって動けなかったりするのだが。
「大丈夫ですか、誠様?」
不安げに聞いて来るも、無表情な白が全て拳で倒していく。初めにあったゴーレムは出合い頭に、白が頭を砕き崩れ去り、次の二体目は足蹴りで胴体が砕け、といった感じで苦戦もすることなくあっという間早くも八体のゴーレムを倒している。
白以外にも、セフィやエンリがいるのだが彼女たちはのんびり観戦をしている。というかゴーレムを見つけるや否や白が一瞬で倒してしまうので、三体目以降おとなしく観戦しているのだ。
なぜか分からないが、張り切っているのがその行動から分かる。誠が本人に聞いたところ、
「初の依頼ですから」
との事だった。表情があれば満面の笑みだっただろう。彼女の笑顔が見れないのが非常に悔やまれると思う誠だった。
そんな感じで初のクエストを、無数に柱の生えた何かであったであろう遺跡の中で行っている。まるで、小人になったかのようなサイズに、そこを根城とするゴーレムたち。エンリが冗談半分に、その昔巨人の都だったと話していたのが、案外嘘ではないのではと思えて来る程だ。
「この調子なら一日で終わりそうね」
セフィの呟きにクエストに設けられた時間と照らし合わせて考える。
「これって結構、早いんですか?」
「ええ、早いわ誠が考えているよりか。このクエストは初心者がこの世界に慣れるための訓練のような物なの。初めはあの土塊を見ただけで、腰が抜けるわ。誠もそうだったでしょ。そうやって、逃げながら自分の武器と向き合い、どうにか戦っていくクエストなの。でも、誠の場合はねえ」
そう言ってセフィの目線は白に行く。言いたいことは、誠もよく分かっているのだがこればかりは仕方がない。なれるといってもどうすればいいのだろうか、と正直悩むが答えはでない。
「白におんぶに抱っこじゃいけないのは、分かっているけど・・・・」
そこから先の言葉が誠にはない。出てこないのだ。
「まぁ、そのうちなんじゃない。武器が武器だし」
セフィもそう言うと、この会話を切り上げた。
彼女が武器だというのなら、その力は誠の意思を持って振るわれるべきだ。今の形ではなく、守ってもらう形ではない共に戦場に立つような。そんな事をセフィは考えるが、具体的な案があるわけでもないので口にはしない。
意識を別に向けると、その会話を聞き変な笑みをエンリが浮かべていた。
セフィにとって不愉快なのだが、いちいち関わっていてはこちらの体力を奪われるだけであると分かっている。ここに来るまでに、幾度となく追い出そうとしたが綺麗にかわされたのを覚えている。誠も変な奴に目を付けられたものだ。いや、あの白の方か。とセフィはエンリについては無視する方針で今後の予定を固めた。
「熱源がこちらに近づいて来ている?なんでしょう?」
突然エンリが呟き、さっきまで歩いてきた方角を見る。時々、エンリは後方の物や人が見えているんじゃないかのような発言をする。
「あんたセンサーでも、搭載されているの?」
「ふふ、どうでしょう」
なんで会話が、セフィとの間であったぐらいだ。なので、彼女の感というか感覚を誠もセフィも信じている。だからこそ、振り返った。
だが、そこには誰もいない。いや、距離があるのだろう誰かがこっちに向かって来るのに。
人じゃないのかもしれないだが、ゴーレムでもない。ゴーレムでない事は断言できる。
「ゴーレムて冷たいので、どこにいるのか分からないのですよ」
彼女の感覚を信用した時に、誠が質問したがそう返された。ゴーレムの場所が分かれば、簡単にクエストを終わらせられると考えての質問だったのだが。
「それに、誠さん。ズルは良くないですよ」
と注意までされた。
そんな事を思い浮かべながら、見ていると誰かが駆けて来た。それは、ローブを纏った二人組。この世界ではローブを着るのが流行でもしているのだろうかと誠は思ったが、それよりも二人の駆けて来る姿が異常だった。
一人は普通に駆けて来ているが、もう一人が一人目の子に腕を引かれ宙に浮いていた。まるで、風船を持って走っている子供の様だった。そして、その二人は幼い少女のような顔をし、双子の様に見た目がそっくりであった。
その少女が駆けて来るのがこちらだろうと思っている誠の横で、轟音と共にミサイルが双子に向かって飛んでいく。エンリの袖から飛び出した弾頭は、双子の目の前の床目掛けて飛んでいき、誠たちの二十メートル手前で爆発した。
その爆風に態勢を崩し、衝撃から守られるように白が正面に立っている事を忘れて、誠はエンリに叫ぶ。
「なぜ、撃ったんだ!」
その言葉に、まだこちらの世界に慣れていない事が窺えるとエンリは思う。慣れて欲しい、こっちにいる間だけでもと。l
「いきなり、こちらに突っ込んで来る。こちらに襲撃を駆けて来ると考えるのは当たり前ですよ。それに誠さんには、見えていなかったようですが、あの双子片手に刃物を持っていましたよ」
「そうね撃って正解だわ。あれ、動物園のリストで見た事あるわ」
エンリの言葉を肯定しながら、セフィが話す。
「動物園。彼ら彼女らがそう言われているのは、自身と依頼主を動物の名前で呼び合うから。そうやって身元を隠して活動している、殺し屋だわ。たぶん、あの程度でくたばっていないでしょうね」
「え、殺し屋?」
いきなりの展開に動揺する誠を他所に、セフィやエンリは状況を把握し爆炎の先から目を離さない。白はすでに純白の刀を構えていた。すると爆炎上がる中から、黒い塊が飛び出してきた。
一人が、相方を盾にするような態勢姿を現した。そのまま、誠たちをいや誠に向かって突っ込んで来る。それを阻止するべく、白が突撃し刀を振るうが、
「遅いよね」
「うん。そうだね」
その一閃を、一人が軸になり相方を引っ張り大きく避けた後、今度は逆が軸になりとダンスを踊るかの様にかわし、そのまま白を避け誠に攻め寄る。
「「これでチェック」」
二人の声が重なり、一人がもう一人を軽々と振り回しその手に持つ刃物が誠に襲い掛かる。しかし、その刃は誠の前で何かにぶつかりはじけ飛ぶ。
「あたしが居るのに簡単に殺させねーよ」
いつの間にか、刀を取り出していたセフィが誠と双子の間に刃を割り込まし阻止する。
「「クスクスクス、それで防いだつもりなの」」
双子は不気味に笑い、刃に刃物と突き立てている子の口が大きく開き、口の中から閃光が飛び出す。それは、小さな爆発だったが刃に人一人を殺すなには十分な威力である。
「なに」
セフィがそれを確認した時には、遅かった。エンリのミサイルには劣るが、爆発と煙が上がる。そして、閃光を放った子の首が不気味な曲がり、セフィを向くともう一発放たれた。
「チィ、片方は兵器か。不気味な人形じゃんかよ」
悪態をつきながら間一髪でそれを避け、双子のいや片一方は人間ではないので彼女と人形の追撃に備え、構える。しかし、その追撃はなかった。彼女は一撃目を放った場所より後方を見ていた。
「大丈夫ですか?誠様」
「うん。なんとか」
そこには死んだと思われた誠と白の姿があった。セフィが一撃を防いだその瞬間に、白が後ろから追いつき誠を助けた。追いついた時に、白が斬り伏せる事が出来たがそうなると誠は爆発で死んでいただろう。白が誠を守るのは当然の事、だからこそそこに付け入る事が出来る。守りながら戦うということは、相手の出方を待たなければならない。
さっきのスピードから、白が脅威だと彼女は気づいた。だが自身を狙って来なかったし、足手まといがいる。今だこっちの分が悪いとは思えない、だからこそ彼女はまだ諦めない標的を殺すために。
まだ、向こうの戦意は衰えない。白は戦うために考える。誠を守りながらこの危機を乗り切れるかもしれないが、誠が傷つくかもしれない。もしかしたら、守り切れないかもしれない。だから提案する、一緒に戦うすべを。
「誠様、一緒に戦いましょう」
「へえ?」
この状況で突然の提案、誠の思考が追い付かないが状況は進んでいく。彼を置いていくようにして進んでいくのだが、いずれ彼も同じ場所で戦わなければならない。
だから白は誠を守るだけではいけない、自分を使って彼が戦わなければ仮にここを乗り切れても今後大丈夫であるはずがない。
だからこそ自らの能力を最大限に利用できる方法を提案する。自分の武器としての使用方法を。
白は誠に腕を突っ込む。セフィやエンリ、誠たちを襲っていた者でさえ白が誠を殺したように見えただろう。だが、その腕は誠の体を貫かない。そのまま、吸い込まれるように誠の中に入り込むと同時に白の体も光の粒となって誠の体にまとわりつく。
光が消えた後には、少年のような少女のような白髪の人が一人立っていた。