案内人
気が付くと目の前にはエジプトやギリシャにありそうな遺跡が所狭しと並んでした。いや、誠自身がそのどこまでも続く遺跡群の中にいた。
「すごい」
誠からはその一言しか出てこなかった。
今まで自分の部屋に居たはずなのに、目の前に広がる遺跡。空には太陽があり、日差しが確かな温かさを肌に伝える。また、風が砂を運びざらざらとした独特の感触を感じる。
Tシャツにジーパン、一様靴を履いてはいるが、実に浮いている。
そのため、これが現実なのか誠は疑おうとするが、五感がこれはリアルだと告げる。誠はついに来たのだと実感する。
「確か、セフィの話では初めに武器が与えられるて言ってたけど」
セフィから聞いた自分が初めに行う事を誠は思い出す。
異世界に初めて来た自分に、武器が与えられるはずだ。武器がどのように与えられるかは、人それぞれの為これからどのように武器が与えられるか想像のしようもないが、どのような形にしろ武器を探す事が最優先事項だ。
そう考え、その際の注意事項等を思い出していた時、
「初めましての方ですね。ようこそこの世界に」
突然声を掛けられた。
声は上の方から聞こえ、誠が上を見上げると大きな屋根の上から此方を見る影が見える。その影は屋根の上から飛び降り誠の前に着地した。
その人は深くローブを被り、全身だけでなく顔まで覆いその見た目からは男か女かすら見分けがつかない。さっきの声でかろうじて女性かなと分かるぐらいだ。
「えーと、あなたは?」
と誠は質問をしてみるが、誠の中では答えが出ている。
「私はこの世界で案内人を務めているものです。初めて来られた方が安全に武器を取得できるようにサポートさせて頂きます」
と彼女は答える。
その通りなのだ、彼女は武器のある場所までサポートしてくれる。だがその後の事を言っていない。その後、案内を終えると武器を横から強奪し、場合には殺して奪う略奪者なのだと。
セフィが誠に言った注意事項に案内人など存在せず、その名を語り武器を奪う略奪者が存在すると。その解決策として先に武器を取り、セフィが来るまで逃げ切ると。
元の世界でセフィのキューブに誠を登録しているので、こっち側での居場所はキューブを返して分かるらしい。そのため、セフィが来るまでの時間稼ぎが誠が生き残る為に必要なのだ。
「その、よ、よろしくお願いします」
誠は相手の目的に勘付いている事がばれないよう自然に返す。たじたじで全然自然ではないが。
「ええ、此方こそ宜しくお願いしますね。ただ・・・」
「ただ何でしょう?」
案内人の言葉に誠は不安になる。
何か対応を間違えたのか。まだ、武器も無いのに戦闘に入ったら絶対に勝ち目なんてない。誠の心は考えれば考えるほど不安で押しつぶされそうになる。
「あまり、驚いていないように感じまして。あなたの居た世界ではこのような事がよく起こるのですか?」
「え、あー。凄く驚いているよ!俺あまり態度に出ない方だから」
「そうなのですか。失礼しました」
何とか危機を乗り切ったと内心ほっとしている誠に対して、案内人を名乗る彼女はそう言って納得したようだった。
目の前の少年が仮に計画に気付いていたとしてどうする事もできない。彼女にとって気付いていようが、気付いてなかろうが関係の無い事なのだ。武器を持たぬ者が、どのような事を行おうが彼女に勝てぬ事は彼女自身がよく知っているのだから。
「では、案内の方を進めさせて頂きます。と言ってもあなたの直観によって進んでもらう為、こちらから道 について何か言う事はございません」
「え、それって案内人て居るんですか?」
彼女の言葉に誠は思わずそう返した。
彼女は自分の事を案内人と言った。誠は彼女が略奪者であると知っているのだが、さっきの言葉から案内人ていらないんじゃねえと感じたのだ。実際にいらないのはその通りなのだが。
「えーと、そうです!」
誠の言葉に少し混乱気味に慌てふためいていた彼女は、ひらめいたように手を打ち言った。
「私は、あなたが無事に武器のある場所にたどり着けるように護衛するのが仕事でございます」
と言って、彼女は解決したかのように胸を張る。
解決などしていなく、自分の事をもはや案内人では無いと言っているようなものなのだが、あまりにも自信満々に言う彼女を見て誠は追求する事が出来なかった。
「では、よろしくお願いします」
と返すしかない誠に対して
「お任せください」
と彼女は事務的に返した。
その後、誠は案内人と共に遺跡の中を歩いて行く。
普通であれば、様々な像や何のためにあるのか分からない奇妙なオブジェクトに感嘆したり、触ってその歴史に思いを馳せたりするのだが、自分の命が案内人の中にあると思っている誠にとって他の事が頭の中に入ってこなかった。
ただ自分が武器を手に入れる前に、セフィがこの状況を打破してくれる事を望み、そのためにどのようにして時間を稼ぐかばかり考えながら、遺跡の中を歩く。
「こちらが初めてという事ですが、こちらの世界について説明をしなくても大丈夫ですか?」
どれだけ歩いただろうか、ふと案内人の方から声を掛けてきた。
「え、説明って?」
「説明とは説明です。例えばこの世界は何なのかといった事から、この世界の情勢などですよ。基本そちらからいつも質問して頂いていたのですが、今回そういった事がありませんでしたので」
その言葉を聞き、誠は内心汗だくである。
普通であればこの状況、突然の異世界に慌てるのが正しい反応だ。しかし、誠は落ち着いていた。これを案内人が不審に思うのは当然の流れである。
「えーとその、せ、説明は以前の案内人についての、武器を見つけるまで守ってくれるて所で終わったと思っていて」
苦し紛れの言い訳だろうか、頭の中で思いつく言葉をひねり出す。言葉として正しいかはともかく、ひたすら思い浮かんだ言葉を並べていく。
今だ、武器も無く、セフィもいない中で案内人を敵に回すのはなんとしても避けてい。
誠の慌てている姿を見て、案内人はクスリと笑う。
「申し訳ございません。慌てている姿が実に可愛らしかったもので、笑ってしまいました。そうですね、歩きながら説明しましょう」
「じゃ、お願いします」
「はい」
なんとか疑われていないのだろうと誠は心の中で大きな溜め息を吐く。
誠が不安に思っているように、案内人も自分が信用されているのかどうか不安に感じている。この世界の説明を行うのも信用を得るため。
もしも、誠が先に武器を手に入れた時に、即敵対行動を取られてはまずい。
この世界において、経験は非常に大きなアドバンテージであり、武器を手にする以上技術を持っているかどうかは大きく戦いの流れを変える。しかし、それは対等な能力を持つ武器同士でしか起きない。相手が手に入れた武器次第で大きく覆る。万が一を考えた場合案内人も気を抜けない。
そんな事を考えていると誠は知らず、また案内人は武器奪取に来ている事を最初からばれているとは知らず、お互いに遺跡の中を歩いて行く。
「では、説明をさせて頂きます。まず、この世界はクフェントスと呼ばれています。この世界は一人の神によって創造されたと、元より住んでいる人々は考え信じられています」
「この世界に人がいるのですか?」
「ええ、あなたたちのようにこの世界に来たのではなく、元よりこの世界で暮らしている人たちがいます」
セフィから聞いた通りだ。
この世界には元から人が暮らしている。それとキューブにより飛ばされて来た人がいる。元より住んでいる人々はいくつかの国に分かれているらしく、キューブによって来た人たちも国に雇われていたりするらしい。どこにも属さずに自由気ままに流れている人も多くいるらしいが。
「それとこの世界には、モンスターと呼ばれる化物がいます。この世界を生み出した神が創造した者の一つとされています。ゴブリンやオーク、ゴーレムやドラゴンといった感じで数多くの存在が・・・・」
ふと言葉を止めて前方を眺める案内人に、底知れぬ不安を誠は抱く。
「どうしたんですか?」
声を掛けるが、前向いたまま案内人は動かない。そして突然、
「いい所に来ました。実際に見て貰う方が早いでしょう」
「え?」
そう案内人が言った時、二人の目の前の柱や像の影から数体の大きな物体が姿を現した。
だいぶ時間が空いてすみません。
これからも少しずつ書いていきたいと思います。
次はもっと早く上げたいです。