クエスト ドラゴンを倒そう! その2
白が突然、誠に飛び込む。その後、光が辺りに閃光のように広がった。
「お!待ってました!」
エンリは、見物客みたいな物言いでその光の先を見ている。もう、ドラゴンなんてどうでもいいかのように。全てのセンサーを導入し、誠を観測する。
「あ、録画を忘れる所だった」
エンリがそう言うと、ローブの下がもごもご動き出し一体の人形が出て来た。この前、ウサギと呼ばれる殺し屋から盗んだ兵器が、見事にエンリの姿をした人形として出て来た。
うげぇとぼやくセフィをしり目に、人形はその眼を輝かせ誠を見据える。
「録画モードオンと」
やけに楽しそうなエンリの声が聞こえる中、セフィは二人のエンリと二日酔いのダブルパンチでまた吐きそうになるのだった。
外野は楽しそうにはしゃいでいるが、誠はそうではない。二度目の突然の実践に戸惑っていた。
相手は、ドラゴン。一般的な大きな翼に、細身の体ではなく全身を黒い棘のような物で覆い、四つん這いでこちらを睨んでいる。
手をつき、足で立ち、肉付きの良いがっしりとした体格である。ワニの胴体を少しスリムにした感じの体型と表現すればよいだろうか。
そんな化け物が、誠を見据えて構えている。
「まずは、武器を出してください」
誠の頭の中で白の声が聞こえる。
前回の戦いでも、近接戦闘用であればどんな姿にもなれる白夜を使用して戦っていた事を誠は思い出す。
「び、白夜!」
近接武器をイメージしながら、具体的には一本の日本刀を思い描きながら誠は叫ぶ。
すると、その手に光が集まりやがてそれは一本の刀の形になる。手にしっかりと馴染むが、不思議と重量を感じない。
はたから、見ればウエディングドレスのような物と着た少女が、日本刀を持ちドラゴンに挑む絵面となっているのだが、客観的な視点から誠の心は不安で潰れそうだ。
「では、後は戦うだけです。サポートは私がしますので、誠様はこう動きたいとイメージしながら体を動かしてください」
脳内の白の声はいつも通りだが、それが少し誠の不安を取り除く。
「来ます!」
白の声に、意識を前方に集中するとドラゴンが飛び掛かってくる直前だった。
その光景は、誠にとってゆっくり見えた。これが、走馬燈ではないのだろうかぐらいはっきり見えた。だからだろう、ドラゴンが飛び込み狭間に放った一撃をすっとかわせた。
「な?」
その行動に一番驚いたのは、誠自身だった。驚きの声が漏れたのがその証拠だ。
ドラゴンから、距離を取るように見事に引いた。そして、自然と体は刀を構えドラゴンと対峙する。前回は、無我夢中だったが今回は自身の体に起こっていることが誠には分かる。
一つは肉体の強化。これは、人間の誠の肉体が阿保らしい程に強化されている。まるで、白の様だと誠は感じる。
そして、二つ目が経験だ。武道の心得などないに等しい誠が、剣を構え戦うイメージが頭の中にはある。また、構や歩方といった知識が流れ込んで来る。素人が達人の動きを出来るのだ。白の言っていたサポートとはこれの事なのではないのだろうか誠は思う。
「さぁ、ミンチにしてやりましょう」
白の声と共に誠は、ドラゴンに走って行く。
その動きはやはり洗礼された動きであり、人外の脚力によりまるで飛び込んでいく弾丸の様であった。
しかし、ドラゴンもドラゴンである。飛び込んで来る誠に合わせるかの様に、腕を振るいその爪で内臓を引きずり出そうとする。
しかし、その腕は綺麗な断面と共に地面に落ちた。
腕にも鋭い棘のような鱗がついていて、防御力には絶対の自信があったのだろう。大きく振りかぶった手を地面に置こうとした時に斬られた事に気づき、その巨体を倒してしまった。
グゴゴオゴゴゴゴゴゴオォォォォォォォォォ!
威嚇するような咆哮ではなく、苦痛に満ちた叫びが辺り一帯にこだます。
その光景に、ひるむ誠だったが、
「いまがチャンスです!」
白の声に、態勢を整え胴を狙う。
がドラゴンとてそれを許すことはない。口のあたりから炎が上がったかと思うと、咆哮に乗せて辺りを焼き尽くした。
辺りの煙が晴れるにつれ、それは現れた。煙が晴れるとともに出て来たのは、大きな盾であった。そしてその盾は光の粒子に代わり、やがて一本の日本刀になる。
「死んだかと思ったよ」
ふとそんな言葉が誠の口から洩れる。
炎に包まれる一歩手前で、刀は姿を大きな盾に変えた。誠の頭の中では、親指を立てる白の姿がある。
そんな白に感謝しながら、誠はスッとドラゴンが自身の間合いに入るように移動する。
自身のイメージ道理に動く体は少し不気味だが、着実にその体に誠は慣れてきている。それにより心に余裕ができ、相手に集中する事が出来るようになってきた。
ドラゴンは、体を瞬時に反転させるように回転する。不意打ちにも近い攻撃の失敗、腕を一本失った事による機動力の低下から、逃走の道を選ぶ。しかし、ただ逃げたのでは意味ない。後ろからバサッと斬られるだけだ。
体を反転させると共にドラゴンは自身の尻尾を勢いよく誠にぶつける。
その尻尾は、誠により綺麗に斬られるのだがそのままドラゴンは逃走。まるで尻尾を斬るイモリのような姿だった。
そのまま物凄い勢いで、走り出すのだがそれよりも誠の方が速かった。
ドラゴンの体を貫通するかのように後ろから、追い抜きざまに切り裂き、誠の初のドラゴン退治が終わったのだった。
「いやー、凄かったですよ誠さん。駆け出しの人がドラゴンなんて倒せる物ではないのですけど、そこは置いておいて。見事なドラゴン退治でした」
エンリが拍手をしながら、誠に近づいて来た。傍には、エンリそっくりの人形が控えている。二人並んでいる所を見ると不気味だ。
「て、エンリさん。ドラゴンが初心者向きじゃないってどういう事ですか。まさか、結構強い部類のクエストと発注してたんですか」
誠は、泣きそうな思いで聞く。
「嫌ですわ。誠さんには、白さんがいるじゃないですか。確かに第一世代の武器では相性などもあって、勝てない人は一生勝てないですが、第二世代、ましてや第三世代を持つ誠さんが負けるわけないじゃないですか」
誠はなぜか逆切れされた。
でも確かに、与えられた武器と呼んでいいの分からない少女は、チート級だと誠は思う。今までだって、白のおかげで様々な困難を、困難だと感じずにどうにかなって来たのだから。
「終わったのですから、帰りましょうか誠さん。このままでは、セフィさんがまた吐きそうですので」
エンリが、指を指した方向にはうずくまるセフィの姿があった。そして、その周りを囲む無数のエンリ達。きっと人形を複製したくさん出したのだろうが、どこか邪教の儀式のようになっていた。
誠がドラゴンと戦っていた時もきっとセフィは別の物と戦っていたのだろう。例えば、二日酔いとかエンリの嫌がらせとかと。
そんな光景が、緊張感を消していたのだろう。
「・・・・なぜ、いるの?」
この世界では決して聞くことのない幼なじみ声と共に、エンリが縦に真っ二つになる。そこから、覗くその者は、返す刀で誠を斬る。
いや、今の誠は白と同化、白から言わせれば装備している状態だったので、その外見は白に見えていただろう。そこにためらいもなく、最大限の殺意で。
誠は、白を装備していたがため瞬時に白夜でその刃を受ける。
隻眼が黒く染まったその者は言葉を続ける。
「・・・・白いの!」