クエスト ドラゴンを倒そう!
誠は、白を連れて家に帰っていた。学校で白の存在がばれるのはまずいと考え、午後の授業を受けずに抜けて来たのだった。
天理の事もあるが、白曰く無事らしい。精神的にはズタボロかもしれないが、彼女にはすこし反省してもらいたいのが、誠の本音なのであまり気にしていない。それよりもピンピンしていて、この復讐に燃えているのではないかと内心ビクビクしている。
「ただいま」
誰もいなくても、帰ればあいさつをしていた癖が出た。普段は、この言葉に帰ってくる言葉はなかっただろう。その静寂が、自信を憂鬱な気分にさせるのだが今は違う。
「おかえりなさい、誠さん。言っていた時間よりも早かったですね。学校で何かあったんですか?」
とエンリが迎えてくれた。
「うーん、帰って来たのか?おかえり・・・・」
リビングからは苦しそうだが、セフィの声が返って来た。
今まで一人で暮らしてきた家から、人の声がするのは嬉しい事だ。
「それでは誠さん。早速ですが、向こうに行きましょう」
「え、唐突過ぎません?だって昨日帰って来たばかりですよ。そんなに急に行く必要なんてないんじゃないですか」
帰って来ると同時に、エンリは向こう側への移動を提案した。
玄関先で、いきなりご飯、もしくはお風呂、それても異世界?と聞かれているのと同じだ。いや、そのご飯や風呂といった選択肢がない。
「理由ですか?確かに時間としては、次の制限までだいぶ余裕があります。しかし、向こうの世界はその間に変化していきます。ですので、あまり時間を空けない方が今後においても得策なのです」
「でも、少しのんびりしたいかなぁ。セフィの昨日の飲み過ぎで、向こうで倒れたまんまだし」
「いえ、行かなくてはいけません。是非に!」
断ろうとする誠の顔に、エンリは迫る。何とも言えない迫力がそこにはあった。だから、無意識のうちに誠は首を縦に振っていた。
「では、すぐに準備して行きましょう」
エンリは、ふっと離れると普段通りの笑顔を振りまく。
「はぁ」
誠の口からため息が漏れる。それが、安心か憂鬱から出たのかは誠も分からなかった。とにかく、すぐにあの世界に行く事が決まった。その為に、着替えないと考えていた。
キューブを使って、着いたのはダスクの町の中であった。誠たちは、ギルドの真正面に立っていた。日は高く上がっていて、空の模様から昼辺りではないだろうかと予測できる。
「はぁ、来てしまった」
誠の口からは、後悔の言葉が出る。
「さぁ、張り切って行きましょう。誠さん」
エンリはいつになく元気で、その横では白い顔をしたセフィがいた。今にも、吐きそうな顔をしている。早く休憩出来たらいいのにと誠は思う。
一行はギルドの門をくぐる。そんな、一行に様々な目線が集まる。ある者は、物珍しい物を見るかのように、または妬むように見る者いたが、幾人かは警戒の目線で見ていた。
しかし、そんな事は当の本人である誠は気が付かない。それよりも、この後の事を考えるだけで精一杯だ。きっと、クエストを受けるのだろうと。であれば、戦わないといけないのだが、あまり乗り気じゃないなと誠は考える。
「で、今日は何のクエストを受けますか?」
誠が、意識を手放している間にカウンターまで着いていた。まるで狐に化かされたような感じだ。しかし、考えても今さら遅い。ならば、一番簡単なクエストを行えば良いのだ。
「じゃあ、この中で一番・・・・」
「難しいクエストをお願い。そうね、量が多いのは面倒だから一匹で終わるやつがあれば良いかな」
「・・・・・・え?」
誠の横から、エンリが口を出す。誠は、空いた口が塞がらない。この前、初心者用のクエストをやっていたのにいきなりそんなクエスト無理だろとか、最高難易度で一体の討伐とか何考えてるのとか、頭の中をよぎるが声に出ない。
「でしたら、ドラゴンなんてどうでしょうか?最近、ある遺跡の内部に出現したのですがそれが強くて、なかなか倒す者が現れず遺跡の調査が難航しています。出来れば、お願いしたいのですが」
「うん。それにしようか」
誠がフリーズしている間に、エンリがクエストを受注してしまった。
「ド、ドラゴンて強いんじゃないの?初心者である俺が、そのクエストを受ける事自体間違えじゃないの?ねえ、無理だよね。そうだよね!」
誠は、掴みかかりそうな勢いでエンリやカウンターの受付嬢に当るが、
「誠さんであれば大丈夫ですよ。なんて言ったって、動物園の暗殺者と戦い勝つぐらいですから、ドラゴンなんて訳にあですよ」
「へぇ、動物園と戦ったのですか。その実力があればドラゴンとだって戦えると思いますよ。それに、クエストの受注に特に制限は設けていません。死んだら自己責任ですのでそれだけはご了承ください」
と誠の評価は本人の知らないところで妙に高い。
「大丈夫、私とあなたが居れば特に問題はない!」
白も断言する。
セフィは、先ほどどこかに駆けて行く姿が見えたので助けは呼べない。
仕方ないと、誠は腹を決めるしかなかった。一人でどう頑張ってもこのクエストを辞退する術がないのだから。
そんな、誠の心を見透かしたかのようにエンリが言う。
「それではドラゴン退治ですね、誠さん。ゴーレムたちとは強さが格段に違いますが、きっと大丈夫ですよ。誠さんが白と力を合わせればね」
やっぱり、あれを期待しているのかと誠は思った。
確かにあの時、暗殺者と戦った時は自分でも強かったと思う。しかし、あの時は無我夢中であったし、どこか自分でないような気がした。あのまま戦い続けていたら、どうなったのだろう。また、もう一度あの姿になれるのだろうか。
あの姿は誠にとって誠ではない。
あの後、白はあの姿については本来の姿と言っていたのだが、いったいそれがどういう意味なのか誠には分からなかった。ただ、なんの努力もせずその力に頼るといった事に自身も気づいていないが抵抗を覚えていた。
「クエストの受注が終わったのですか?では、行きましょう。ちょっとだけ体調が良くなってきたので、私は大丈夫です」
と青い顔をしたセフィが、ぬっと出てきた。
どこが大丈夫なのだろうか。
「先行きが不安だ」
周りのテンションと高さ、一名だけ死にかけだが、それに置いて行かれるように誠の気持ちは前向きとはいかなかった。
ダスクの町を出て、指定された遺跡の中に誠たちはいた。遺跡の中では、ゴーレムが襲って来る。だがそのゴーレムは、白とエンリによって倒されていった。
「楽勝ですね、誠さん。ゴーレム程度であれば、問題はないですね」
何体目かになるゴーレムを倒した時に、エンリが言った。
白とエンリが戦っている中で、誠はセフィを背負っていた。二人はゴーレムの相手を、誠は二日酔いの相手をしながら、遺跡の中を進んでいく。
白は時々、セフィを睨むように見ていたがきっと気のせいだろうと誠は思う。
ゴーレムを倒しながら、遺跡の奥へ奥へと進んで行く。
そして、それは突然現れた。
それは、古いが趣のある門であった。10メートルかそれ以上あるであろうかという、巨大な門で岩でできていた。受付嬢の話では、この先にドラゴンがいたとのことだった。
「この先にドラゴンが・・・」
緊張のあまり、誠はその言葉の先が続かない。想像しているのは、大きなトカゲのような体に、翼の生えた巨体。ゲームによく出てくるであろう姿を、思い浮かべる。
「じゃあ、行きましょうか」
妙に元気よくエンリが言う。そして、そのまま門に手を掛けた。
それは、奇妙な光景であった。一人の女性が巨大な門を片手で、開けている。力を入れているような雰囲気もなく、ただ家のドアを開けるような当たり前の事のように門を開けた。
そして、門が開けられた。
グウォォォォォォオ!
門の先には、黒い鱗に覆われたドラゴンがいた。鱗と呼ぶべきなのだろうか、棘のように物が生えた強大なトカゲのような姿だった。そのドラゴンには、翼がなかったがそれを除けば誰が見てもドラゴンだった。強大で肉付きが良く、そして腕だけで人ひとりを握りつぶせるのではないだろうと思える巨大な腕。その腕でには、人の頭分はある爪まで付いていた。
「化け物だ・・・」
誠は後悔した。どう考えてもこれを倒すのは無理なのではないだろうかと。その大きさはあの阿修羅より巨大に感じた。
「誠様、では失礼します」
どれだけ、誠が悩んでいただろうか。そんな事は関係なく、それは行われる。白はドラゴンの姿を見て、守りながら戦う事が不可能だと分析した。そして、白は誠と戦う。
だいぶ空いてしまいましたが、投稿します
読んでいただければ幸いです