決闘 その1
誠は、とぼとぼと学校に向かう。これからの事もあるが、いつもの事である。学校生活において良い思い出も無いし、これからだって良い事なんてないのだから。
学校の敷地を跨いだ頃から、それを強く意識できる。誰一人として、誠に声をかける者はいない。誰もが、誠を意識しないようにしているのがはっきりと分かる。いつの頃からだろう、こんな事になっているのは。
始めはただの噂であった。誠に近付く者は、呪われてしまうと。誰が言い出したのか分からないその噂は、数日を立たないうちに現実となっていった。誠と話した者は、その日のうちに何者かに闇討ちを受けていったのだ。そして、噂が真実になった。
以後、誠に関わる人は減っていった。
「・・・・おはよう、誠」
生徒会長、黒曜天理以外に話しかける者はいない。
「おはよう、天理」
誠に話かけたのは、長身の艶のある黒髪を伸ばした女性だ。その背とは対照的に、少し控えめな態度が彼女の印象をおとなしい子にさせる。
「・・・・誠、昨日何かあった?突然連絡が取れなかったりしたから」
傍から見れば、生徒会長が一生徒を心配している様子にも見えるのだがその本質は違う。誠の噂の原因や、部屋に仕掛けられていた盗聴器など全て彼女の仕業であることを誠は知っている。
天理と誠は、俗にいう幼馴染といった関係だ。昔はよく一緒に遊んだりと、仲の良いものであったと近所の人達も言う。それが、中学を過ぎた辺りから彼女の誠に対するアプローチが変わった。
天理は、誠の周囲を排除するようになった。それも、気づいた時には、全てが終わっている準備の良さだ。高校生活では、それがあまりにも完璧に成功したため、誠は言われのないレッテルをいくつも貼られている。しかも、発信元はいつの間にか生徒会長にまで登りつめた黒曜天理だ。社会的な信用度が、天と地ほどもついた後では、誰も誠の言葉に耳を貸そうなどとはしない。
「何でもないよ。天理には関係ない」
「・・・・そう」
その行動に誠と天理の中は、悪化しているのだがそれ以外が絶望的なので、唯一の人間関係になっていた。ついこの間までは。
「・・・・でも、後で詳しく聞く。全ての反応が消えるなんておかしいから」
そう言って、天理は先を歩いて行った。
「はぁ、先が思いやられる」
「そうですね」
誠の言葉に、いきなり返事が返って来た。周りには聞こえていなかったようだったが、誠にははっきりと聞こえた。確かにあの声は、白の声だった。しかし、周りを見渡しても白はいない。だが、確かに声が聞こえた。
「気のせいか」
気にしてはいけないと心で思いながら、誠も教室に向かう。幻聴が聞こえた事にすればいい、白が学校に来ているなんて大問題以外の何物でもないのだから。
白の幻聴を聞いてから、午前の授業が終わる間なにも起こらなかった。誠は、あの時の事を幻聴だと処理してほぼ記憶の中から消えていた。昼が終われば、最後の授業。それが、終われば家に帰れる。今日の夕ご飯はどうしようなんて考えていた。
それは、突然鳴り響く。
ピンポンパンポンーーーーー!
校内放送の開始の合図だった。
「二年C組の成瀬誠君、生徒会長がお呼びです。至急、剣道場までお越しください」
なぜ、と誠は思う。呼び出すのなら、生徒会室とかなら分かるがなぜ剣道場なんだ。どういった理由があるかは分からないが、行かない訳にはいかない。
「はぁ、なんでこうなったんだろうか」
独り言が漏れる。しかし、誠はそのまま向かう。このまま行かなければ、次にどのような手で天理が動くか分からない。家に乗り込んできた場合、白やセフィ、エンリと鉢合わせしたならばどんなことが起きるか想像もつかないからだ。
「確か天理のやつ、剣道部の主将だったけ。普通にしている分は、高スペックの女子高生なのになぁ。剣道昔やってたのが懐かしいなぁ」
誠は、昔の事を思い出しながら剣道場に向かう。弱い自分は、よく他の負けていたのだが。
そんな事を思い出している間に誠は、剣道場に着いた。
「・・・・待ってた」
そこには、ポツンと一人天理がいる。制服を着ているものの手には竹刀を握りしめていた。
ごくりと唾をのむ誠。
「・・・・朝の質問の続き。盗聴器どうしたの?」
首を傾げながら、聞くその姿に恐怖する。軽くホラーになっている。
「全部、外したよ。人の家に盗聴器付けてる方が、おかしいだろ!」
「・・・・そうなんだ。誰か家にいるんだね」
恐ろしい、嗅覚で言い当てる。そのまま黙る誠の行動を、肯定と受け取る天理。
「誠様、バイタルに異常が。極度に恐怖しています」
また、不意に白の声が聞こえた。
「・・・・誰?」
今度は天理にも聞こえているようだった。どこから聞こえるのだろうか、そう考えていた矢先、天理が竹刀で誠のポケットを突く。すると、そこからは今朝、エンリから貰った黒い球が転がり落ちた。
「・・・・何これ?喋る玉?」
天理が拾おうとした時、それは光出した。まるで、キューブが光るかのように。
その光が収まる頃には、白がその場に立っていた。
「白、なんで?」
「誠様が、心配だったからです。セフィが、何者かに狙われているのではないかとか言ってましたので。勝手ながら、着いて来ました」
あの小っちゃい球の中から、とか驚きはあるがあっちの世界を少し見ただけで抵抗が誠には出来ていた。何でもありでしょ、みたいな諦めモードになっている。しかし、初めて見る天理は違う。
「・・・・本当に誰なのあなた?」
白に竹刀を向け、天理は問う。
誠としては、そっちを聞くのかと思ったが緊迫した空気には変わりない。
「何、戦うの?」
白もやる気満々だ。無表情だが、その気合はひしひしと伝わってくる。何故だろうか、一度白と同化したからなのかもしれないと誠は思う。
「・・・・誠は、私の。あなたには渡さない」
呟くように言った言葉は、誠には聞こえなかったが、白ははっきりと聞いた。その言葉に、ピクリと体が反応する。そのまま、白は竹刀が置いてある場所まで歩き竹刀を取る。
「誠様は、私の主人。そして、私は彼の武器」
答えになっていない回答だが、そのまま竹刀を向ける姿からは戦いの意思をはっきりと感じる。故に天理は、竹刀を構える。
その勝敗は、あまりにも圧倒的に終わった。地力が違い過ぎたのだ。
天理は、確かに剣道部の主将でありかなりの実力を持っていた。しかし、相手は人ではない。その踏み込み、その軌跡を目で追う事は出来ず、気が付けば仰向けに倒れていたのだった。
「おい、白。天理は大丈夫なのか」
「はい、打撲程度でしょう」
誠が声を掛けれたのは、全てが終わった後であった。何もできない自分が情けない。
しかし、天理のもいい薬になったと思うと誠は考える。これで、少し暴走気味の天理がおとなしく、昔のような関係に戻れたらと。
しかし、白がここにいる以上今はそれどころではない。急いで白を連れてこの場を、いや学校を出ないとと白の手を引き、誠は学校を出る。
その姿を見ながら、天理は自身の力のなさに悔し涙を流す。
天理は、戦っていた。そこがどこだか分からない。しかし、戦わないと死んでしまうのは確かだった。目の前には、鬼の面を被った鎧姿の武者がいる。自分が持っているのは、こちらに来てから拾った一本の刀のみ。
それで、奴の攻撃を防ぐがどうしようもない。後手に回るだけで、だんだんと追い込まれていく。
「ふん」
その声と共に、天理の右目が赤く染まる。
痛い痛い痛い。
これは、剣道の試合ではない。どうしようもなく、実戦でそして、命の取り合いなのだから。
天理は、刀を握ったまま逃げるように駆け出す。奴から、または痛みから逃げるように。
いきなり襲われたので気が付かなかったが、ここはどこかの日本風の屋敷らしい。床は畳で、部屋は襖によって仕切られている。そんな襖を押し倒すように、隣の部屋に隣の部屋に逃げていく天理。
それをゆっくりとした足取りで、追いかける奴は、獲物を追い込むのを楽しんでいるように見える。
そして、それはやがて天理の目の前に姿を現す。
倒れこんだ部屋には、奇妙な物があった。その部屋の奥の神棚には、黒い眼球が浮いていた。その奇妙な光景に、
「・・・・ひっ!」
と悲鳴を上げるも、後ろから迫る脅威を思い出しすぐに他の部屋に移動しようした時、それは動く。
浮かぶ黒い眼球は、怪しげな黒い光を放ちながら天理のつぶれた右目に突っ込んで来た。死角から飛んできた物に反応する事もできず、そのまま黒い眼球は天理に寄生する。
鎧武者が、追い付く頃にはその眼球は天理に馴染んでいた。
そこには、さっきまで怯えていた少女の姿はなく、不敵に笑う姿がそこにはあった。
そんな事、気にもせず鎧武者は斬りかかる。しかし、その刀は少女に届くことはなく代わりに一太刀を浴び崩れ落ちる。
もう、天理の目には鎧武者の姿は写っていない。彼女の左目には愛しい人と、右目には白い少女が写っている。
「・・・・待っててね、誠」
その笑顔は狂気に歪んでいた。
上手くまとめられてない感じです(ーー;)
あと、エンリと天理は紛らわしいのでそのうちどっかで修正したいですね
こんな感じで幼馴染編かなを書いていきたいと思います
よろしくお願いしますm(__)m