帰還
そこには見慣れた小さな部屋だった。異世界に行き、武器を名乗る少女に会い、殺し屋と戦った誠は無事に元の世界に戻って来ていた。
あの殺し屋に襲われた後、ゴーレム退治を終わらしギルドに戻り報告した。一週間の期限であったが、半日程度の時間で二十体のゴーレムを探し破壊した誠はすぐさま噂の的になるのだが、本人の知るところではない。それに誠の実力というよりは、ほとんど白が一人で倒したのであり、化け物じみているのは白の方なのだが全て誠の評価になっている。
クエストが終わり、一区切りついたところでセフィが元の世界への帰還について切り出してきた。
「誠、そろそろ元の世界に戻らない?」
「え!帰れるの?」
「ええ、この世界で一日近く過ごせばキューブを使って戻って来れるわ。また、一週間が過ぎれば強制的に元の世界に戻されるの。それと、向こうでも一週間こっちに来なければ強制的にキューブが起動して連れていかれるから」
この世界から逃げることは出来ない無慈悲な通告を食らいながらも、誠は元の世界に戻れる事に安堵していた。両親とか学校とか気になる事があったので、その知らせは大きい。
「じゃ、帰りましょう。向こうでじっくり休んで、この後の事は後日ということで」
とセフィは誠の手を引く。同時にエンリを見て
「そう言う事なので、バイバイエンリさん」
良い笑顔で言う。全然、雰囲気とかはよろしくないのだが。
「そうですか。誠さん、また近いうちに会いましょうね。また近いうちに」
そう言うと、エンリは誠から少し距離を置いた。セフィにとっては少し拍子抜けであったが、相手が食い下がらないのであれば願ったり叶ったりである。そんな二人とは関係なく、白は誠にべったり着いている。
二人と違い、武器である彼女は誠から離れることなど決してないのだから。
そんな事があり現在、誠は白と共に自分の部屋に戻って来ていた。その後、後を追うようにしてセフィが光の中から出て来た。
「ふぅー。無事に戻って来れたって感じね。いろいろあったけど、生きててよかった。まずはお疲れさん」
セフィは自然な流れで、ベットに腰をつける。誠はどこか照れ臭かったりするのと対照的に、白は軽く殺意を抱くのだが相変わらずの無表情のためそれが相手に伝わる事はない。
「ところでセフィは、これからどうするんですか?住むあてとかあるんですか?」
「え、ここで暮らすけど」
「は?」
即答であった。あらかじめそうなる事が決まっていたみたいに。
一人暮らしの誠にとっては、部屋は余っているし問題がないと言えば問題ない。しかし、女性が一つ屋根の下一緒に暮らすというのはどうしたものか。あまり、気乗りの良いものではない。それに、あいつに感ずかれた日にはどんな事が起こるか。
「だめ」
誠の答えを待たずに、白が答える。白にその事について決定権があるわけではない。が家主より先に答える。
「へぇー、なんで白ちゃんが答えるのかなぁ?」
ヤクザまがいな笑顔が白に近づくが、効果はなし。ぷいっと顔を背ける。
そんな白を見ながら、誠は考える。セフィは何やかんやで、ここに住むつもりだろう。自分ではどうしようもない。それと白もいるのだ。これからの生活を考えると、胃が痛む。ラノベの主人公たちの様にはいかないものだ。
とにかく、誠は折れてしまったので思考の方向を変え、二人の部屋割りや食費なんかを考えていると、突然誠のキューブが出現し光り出した。
「なんで・・・」
そんな言葉がこぼれる誠と、光の場所を見つめる白とセフィの二人。二人は既に臨戦態勢をとっている。どんな事が起きても対応できるように。しかし、その突拍子のない光景に二人は固まる。
光の向こうからそれは、誠目掛けて飛び込んできた。普段の二人であれば、迷わず切り殺していただろう。どんな化け物が出て来ても、一太刀入れていただろう。しかし、それは油断出来ない者であり決してこちらに来るはずの者ではなかったのだ。あの冷静沈着な白ですら、驚きで固まっていた。光の中から出て来たのは、エンリであった。
誠は、突然柔らかいものに視界を奪われる。そして、甘い匂いが広がっていく。思考を放棄したいと頭が、その誘惑に屈しようとするがそれを理性を総動員して跳ね除ける。
力を入れ、顔を上げた先にはエンリがいた。
「誠さん、久しぶり」
「エンリさんこそ」
そんな他愛もない挨拶をするが、本当に話したいことはそうではない。
「なんであんたがここにいる?」
セフィがこの場を代弁する様に、聞く。その間にも、硬直から解放された白が誠を強引にエンリから引き離し、かばう様に誠の腕を抱きエンリを睨む。
「え、知らない?キューブにはランダムで人のキューブに飛ぶことができる機能があるって。本当に奇跡みたいな確率だけど、ゼロじゃないからこういうことも起きるよね」
そんな同意を求められても、知るかと内心セフィは思う。
それにしても、大博打なんてもんじゃない。下手をすれば何千万分の一だったりするかもしれないキューブの中から、一つセフィの分も入れれば二つだが、そのキューブに飛ぶなど馬鹿げた話だ。しかし、彼女がここに現れた以上、その馬鹿げた話が実現したのだ。化け物じゃんとセフィは思う。
「あなたもここに住むとか言うんじゃないだろうね」
「セフィちゃん当たり。てことで誠さん、よろしくお願いしますね」
とんとん拍子で決まっていく話に、誠の意思は反映されない。なし崩しに三人の新しい同居人が、誠には増えたのだった。そんなこんなで誠は、三人に家の中を案内している。二階建ての一軒家は、一人にとっては大きな物の四人が暮らすとなると丁度よいのかもしれない。改めて家を案内している時に、誠はそう感じた。
部屋は沢山余っていたので、部屋分けには困らなかった。問題は
「これは、何でしょう?」
とエンリが家中から、見つけた盗聴器と
「私は誠様の武器ですので、いかなる時も一緒にいます」
といった、白の鋼の意思であった。盗聴器に関しては、前々から分かっていた事だし犯人も知っているのでこれは自分の問題だと誠は一同を納得させる。
しかし、白に関しいては一向に折れる気配はなく、結局は同じ部屋で過ごす事になった。他の二人とは違い、白は徹底的に誠の傍を離れようとしない。今後ともそれを誠は、身をもって体験していくだろう。
一通りの事を決めた後、リビングに集まり今後について話していた。
「これからどうするんですか?」
「誠には、向こうの世界ではいくつものクエストを受けて、ネットワークの構築をして欲しい。まずはそれからかな。そのうち向こうの世界でやっていきたい事も見つかるさ」
セフィはそう言うだけ言って、つまみをを手にビールを飲んでいた。一体いつそんなものを持ち出したのか。そんな事を考えながらも、もう取り付く島がないため諦める。エンリは先ほど回収した盗聴器を様々な角度からいじり倒し、盗聴器に魔改造を施している途中であった。また、白はほぼ誠に一存であるため聞いても無駄であった。
唯一の希望であったセフィも、すでに良い状態に出来上がっているためどうする事も出来ない。
「はぁ」
ため息が出る誠であったが、そのまま寝る事にした。ソファで寝転がるセフィに毛布を掛け、機械を怪異にいじるエンリにおやすみと声を掛け、ベットに倒れ込む。
「あ、学校どうしよう」
今更みたいな事を最後に思い出しながら、彼はその意識を手放す。
年が明けて初めてのキューブの投稿です
結構時間が空いてしまいすみません
それとユニークが200人を超えていました
本当に嬉しいです
今後ともよろしくお願いします<(_ _)>