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キューブ  作者: あおまめ
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プロローグ

 一つの仕事を終えて彼女は帰ってきた。

 あの中世的でありながらこの世の物とは思えないような物であふれかえっていた世界から、自分が生まれ育った見慣れた世界へと。

 そんな彼女が帰って来るのを見計らったように男が声を掛ける。

「ご苦労様です。今回の成果はどうでしたか?」

 全身黒服で、サングラスをかけた仕事の出来そうな男であった。

 しかし、声が何故か遠い印象を受ける。

 彼女はこの男を、いや男の形をした物の事を知っている。

 最近開発に成功したと聞く、人型戦略兵器。

 俗にいうアンドロイドだと。

 とはいえ、AIによる完全自立型ではなく誰かが操作している遠隔操作型のアンドロイドであったと彼女は記憶している。

 AIによる完全自立型など向こうでもなかなか見かけることの無い技術である。

 それをこっちで実現できるのであれば私のやっていることなど何の意味も無いだろうと彼女は考えながら話し掛けてきた男を眺めながら答えた。

「なかなか成果は上げられないは、兵器の回収は結構骨が折れるものよ。殺してもよいのであれば多少はどうにかなるかもだけど、向こうでお尋ね者になるのはごめんだわ」

 そう言って彼女は今回の成果について話す。

 この依頼はなかなか成果を上げることが難しいのである。

 それは向こうも分かっているとは思うのだが現場との意識の違いがあるのだろうが、もう少し現場の意見を取り入れて欲しいものだと彼女は思う。

「そうですか。今回も。なかなか難しい依頼であるのは重々承知してます。ですが、そろそろ成果を出して頂かないとこちらとしましても困りますよ」

 まるで私が仕事をさぼっているような言い方、重々承知しているのであればそう急かすような事を言葉にしないで欲しいとは返さず、

「ええ、分かっているわ」

 と彼女はやんわりと返す。

 そんな事を言いに来ただけなら早々に立ち去って欲しいものなのだが、こんなケースは彼女にとって初めての事なのである。

 普段はメールによる仕事内容と、報告であった。

 それなのに今回、本人ではないにしろ接触してきたのだ。

 何か無い方がおかしい。

「どうかしたのですか?」

 顔にでも出ていたのだろうか、失敗したかなと彼女は思いながらこの疑問を解決するために鎌を掛ける。

「ええ、少し気になってたんだけど、ここ殺気が酷くない?」

 当然、彼女はそんなもの感じ取れはしない。

 ただこの嫌な感じを払拭するために鎌を掛けた。

 ここで彼もといアンドロイドが向こう側で疲れているだけなのではといった気の利いた答えが帰って来るのではと彼女は思っていたし、望んでいたのだが、答えは拳銃を突き付けられるといったものであった。

「よく気づきましたね。殺気なんて迷信だと思っていましたのに、人間離れした恐ろしいセンスですと評価しておきましょう」

「へぇ、ありがとう。ところで私、殺されそうになるような事したっけ?」

 そうは言ったが彼女に思い当たる節がない訳ではない。

 彼女の任務はある世界から兵器を回収してくる事ともう一つは人探しなのだが、基本的には兵器の奪取を目的としている。

 ある世界に行く都合上彼女も兵器と呼ばれるものを一つ所持しているのだ。

 それがないとあの世界では生きていけない。

 そのことから彼らは成果が出ないのであれば彼女から兵器を回収した方が良いのではと考えたのだ。

「そういうことですよ。上はあなたから兵器を回収した方が良いと考えたのです。このように人型戦略兵器の開発も順調に進んでいます。後は、装備する兵器次第となっていますので今回のような荒事になったのでしょう」

 彼は他人事のように淡々と話した。

 いや、実際に彼にとっては他人事であり、彼は悪くない、てかアンドロイドだしと彼女は思う。

 上の命令を聞くのが部下の務めといったものだし、どこの世界でも中間管理職は大変なんだろう。

 だからと言って素直に兵器を差し出すほど彼女もお人好しではない。

「抵抗しないのであれば命は取りませんよ」

 彼は付け足すように説明してくれたが、拳銃を突き付けられたままでは説得力がまるでない。

 彼の気を別に引き付ける必要がある。

 そう彼女は考えると何時ものように手元に四方形の物体を出現させる。

 それは、完璧な四方形ではなく様々に凹凸していた。

 しかも、少しずつ形が変化していき、まるで生きているかのようである。

「それが、キューブですか?」

 突然彼女の手のひらに、出現したそれについて彼は問う。

「ええ、そうよ。これで向こう側に行けるわ」

 そして、彼女はキューブと呼ばれる物に手を入れた。

 キューブの表面を手で触ると、トポンと波打ちそのまま彼女の手はキューブの中に入っていった。

 しばらく、彼女はキューブの中をかき混ぜるように手を動かし、その中から一本の刀を取り出した。

 その刀は直刀であり、長さにして一メートルと少しといった長さである。

「それが兵器ですか、ただの刀のように見えますが。確か名を・・・・・」

「紫雲よ」

 彼の言葉を遮るように彼女は答えた。

 彼女と共に死地を切り抜けて来た相棒であり、決して手放す事のできない彼女を支えるただ唯一の武器。

 そんな相棒を簡単に渡して堪るものかと彼女の頭の中では目の前の障害を排除するという敵意で満ちているのだが、まだ相手の気を引いていない。

 反撃は一瞬でと脳裏に手順を描きながら、彼女は自分の理性で感情を押し殺す。

 そして、刀に注意を引き付ける為に会話を続ける。

「なぜ、私の刀が紫雲と呼ばれるか知っているか?」

「いえ、知りませんよ。推測するに刀身が紫なのだからでしょうか?」

 そんな、彼の答えに彼女は刀身を見せるように鞘から刀を引き抜く。

 決して敵対行動に見えないよう。

 そして、戦闘態勢に入った事を悟られないように。

 鞘から抜かれた刀には刀身が無く、柄だけがあったのだ。

「これはいったいどういうことですか?」

 彼は驚きを隠せないようであった。

 もしかして偽物を見せられているのではないか、兵器など持っていなかったのではないか。

 そういった考えが指し示す答えは、彼女から兵器を回収するといった任務の失敗。

 彼にとってそれは命を失うに等しい答えであった。

 そしてその動揺は機械の体には出てこないものの声にはしっかりと出ていた。

「あなたの推論は半分ほど当たっているわ。一つ確かに刀身は綺麗な紫色をしている。でももう一つ、この刀は雲に例えられるの。例えば群がる雲なんかにね」

「だから、それがどうしたと・・・・」

 彼は悠長に解説を聞いている精神状態ではなかった。

 今後の事で頭がいっぱいであり、柄が自分の方を向いている事にも気づいていない。

 気付いていたとしても気にも留めていなかっただろう、刀身の無い刀など。

 だから、彼には何が起きたのか全く分からなかったのだ。

 彼女の説明が終わると共に柄から無数の刃が生え、貫いた事に。

 彼の体もといアンドロイドは持っていた銃を含め、紫の刃に貫かれたのだった。

 そして、彼女は無数の刃が生えた刀で何でもないように撫で斬りする。

 これが彼女の兵器であり、生きているように刀身を生やし、動かす。

 そして一番の利点は刃に重さといった概念がないことだ。

 とはいえ、向こうではこの程度ではさして脅威にはならないのだが、と彼女は認識している。

「さて、これからどうしようかしら、この状況」

 彼女は目の前の脅威を排除しただけで、彼が倒される事を想定していないはずがない。

 彼が倒されたと分かった時に私ならすぐに次の行動に移るだろう。

 この状況で敵に時間を与えるのは得策ではないと、ならばすぐに次が来るだろう。

「なら、次の手は遠距離からの弾幕かな?刀を回収したいのだから、焦土にしては意味がないだろうし」

 彼女が言い終わると同時に刀の刃が抜け落ち、地面にぶつかり砕け散った。

 それと同時に新しい刃が生えてくる。

 今度は、一本の細い刃がまるで寒天のようににゅるにゅると終わり無く生えてくる。

 その刀を彼女は振るい、あたりを甲高い金属音が響き渡る。

 まるで、体操選手がリボンを扱うかのように刃が彼女を囲み、銃弾の雨から身を守る。

 彼女が刀を振るいすぐに開始された攻撃は実に一分間にも及んだのだが、その弾丸は一度として彼女を傷つけるには至らなかった。

 その事実に、兵器奪還を命じられた部隊の誰もが恐怖するのだが、彼女は知らない。

 弾丸の雨が上がった後は、彼女の周りには何も無く、周りを囲む部隊と彼女だけが存在していた。

「ふぅ、まぁこんなところよね」

 そう言って彼女は落ち着いているものの、現状は全く変わっていない。

 相手は攻撃の手を止めているが、今後第二、第三と続いていくだろう。

 彼女としてもこれ以上続けていくのは泥沼に入るのと同じでいずれ体力もしくは気力が尽き、こちらが負けると自覚している。

 ならば、この問題を解決する手段は彼女にとって一つしかない。

「鬼が出るか蛇が出るか楽しみにしなくちゃね」

 彼女はそう言って、キューブを操作する。

 それを見た部隊の隊長は声を上げて叫ぶ、

「貴様のその行動は一時しのぎにしかならない。貴様が異世界に行く場所も帰る場所もここだ。それに向こうでは滞在時間が決まっていると報告に上がっていたぞ。ここで張っていれば貴様はまた戻ってくる。それまでに私たちは部隊を整えるだけだ」

 そうまくし立てる隊長をよそに彼女はキューブに吸い込まれ薄くなっていく。

 そして、彼女の表情は期待と不安といろいろな感情が渦巻く中、笑っていた。

「一つ、私はもうここには帰って来ないわ。貴方達に上げていない情報なんて沢山あるのよ」

 そう言うと彼女は光の中にキューブと共に消えた。

 その後、彼女は本当にその場に姿を現すことはなかった。

 彼等が知らないキューブの機能。

 誰かが遊び心満載で持たせた一度しか使用できないその機能は幸か不幸か一人の少年の運命を大きく変えていく。

初めての投稿となります。至らない点などがあると思いますが、温かい目で見て頂けると幸いです。

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