はじまり
「えーと」
目が覚めると、蒸気機関車になっていたら、どうすれば良いのだろう。
「いや、違うな。気が付いたら、かも」
最初からこんな姿で無かったという記憶があるので、ネット小説なんかでよく見かける転生モノとか憑依モノと呼ばれる類のお話と同じ流れなのだと思う。
「……と言うことは、僕は死んだ……のか?」
ただの夢と言う可能性も捨てきれないが、蒸気機関車の身体を知覚する直前の記憶が酷くあやふやで、良く思い出せないのだ。
「……参ったなぁ」
いきなり機関車、と言うだけでも嘆息したくなる状況だが、事態は更に酷い。
「線路はないし、周囲は森で人っ子一人居ないとか……一応、この身体で通れそうな道が有ることだけがせめてもの慰めだけど」
所々に草の生えた地面がむき出しの道は、おそらく馬車の為のものだと思う。轍の跡と、明らかに踏みたくない固形物のなれの果てを見つけたが故の推測だが。
「……線路もない土の道を進む? ないわー」
と言うか、今の身体は蒸気機関車だが、この身体は僕の意思で動かせるのだろうか。
「やっぱ、石炭とか無いと動けなかったりするのかな……うーん」
ダメもとで、車輪の辺りに意識を集中し、動けと念じてみる。
「現実は非情、と」
うんともすんとも言わなかった。
「……そもそも、まさかと思うけどこの身体、誰かに石炭をくべて貰わないと全く動けないと言うことなんて無いよね?」
ただでさえ線路はなく、認識出来た交通手段は馬車のみと言う状況下、自分の言葉通りであったなら、絶望しか出来ない。
「うん、いきなり嫌な予感がし始めた訳だけど、ついでに言うと僕、機関車なんてテレビで走ってるの見かけたことがあるだけのずぶの素人だったり……はっはっは、こいつぁ、参ったね」
乾いた笑い声をあげつつ遠くを見ると、木々の枝の間から見える空は泣きたくなる程青かった。
「ま、機関車じゃ泣けないかぁ」
動けない、泣けない。僕としてはしゃべってるつもりだけれど、この声、人が側に居たら知覚できるんだろうか。
「何だろう、泣けないって言った直後なのに悲しくなってきた」
何処かで小鳥は囀っているし、風に揺れる木々はざわめくけれど、どちらも僕の声に返事はしてくれない。
「機関車にされて森の中で放置プレーって、いったい誰が得するんだよ、こんなの」
助けて、欲しかった。
「動いてよ……馬糞が転がってる道だからとか、線路が無いからとかそんな理由で進みたくないなんて我が儘言わないから」
こんな所で、一人ぼっちは嫌だ。
「動いて、動いてったらぁ!」
声を振り絞り、もう一度車輪に意識を集中する。
「うぐっ、こんのぉ……」
ただひたすら、車輪に動けと念じ、力む。
「頼む、頼むから――」
動け、そう叫んだ時だった、前方に続く道のカーブして木々の中に消えた先から馬の嘶きが聞こえたのは。
初めましての方は初めまして、お久しぶりの方は、お久しぶりです。
連載作品手つかずまま新しい作品に手を出すのは良くないと知りつつも、コンテストの告知を見たら、つい、投稿してしまいました。
一応、参加タグは一定量文字数が達してから付けることになると思います。