④
☆ ☆ ☆
さて放課後である。…うん、まあ昼休みに義樹が来て三島と知り合ったとか色々あったが、別段特筆するようなことでもないので割愛させてもらう。
問題の三島はHRが終わると、準備があるからと言って先に行ってしまった。その時に指定の場所に先に行っておいてほしいと言付かっている。
「清水君、じゃあ向かおっか」
「了解」
二人で帰り支度を済ませさっそく指定場所に向かうことにした。
「ここか」
「そうだね~、ここは初めて来るな~」
指定場所に到着。して、その場所とは…なんてことはないただの空き教室であった。普段は倉庫みたいな役割になっているらしく、色んなものがおいてあった。しかし、わりと広めな教室であり、備品の量は多いがあまり窮屈には感じない。
「へ~けっこう広々してるね」
「文化祭かなんかで使うような小道具とかがあるな」
「あ、着ぐるみがある!」
「…これは、何のキャラだ?」
「なんかただの緑色の塊にしか見えないね…」
こんなのかぶってなんかするのか?なにがしたいのか分からんだろ。
とまあ色々物色してみたがこれといって気になるものはなかった。やっぱりRPGの基本は物色だよね!現実で壺とか割ったらヤバイが。
「むむ…清水君!見てみて!」
「ん?なんだ?」
「このテーブルとホワイトボード新品みたいにきれいだよ!」
教室の中央に会議室とかでみるような形で長テーブルとホワイトボードがおいてあるのだが、確かに見てみると他の備品より真新しい。
「確かにな、でもそr「分かった!」
…最近俺のセリフを遮るのが流行っているのだろうか。なんか悲しくなってくるな…
「…何が分かったんだ?」
そう伊東に問うと、わざとらしくポーズをつけて「謎は全て解けた!」とかやっている。…なんかちっちゃい子を相手してるみたいでほほえましくなるな。
「あたしの推理によれば…」
「よれば?」
「これは…」
「これは?」
「最近ここに運ばれてきたものなんだよ!」
ドーン!という効果音が伊東後ろに見える。伊東はすでにやりきった顔をしている。うわーどや顔ですよこの子。
「で?」
「え?」
「で?」
「…えっと…」
「それだけ?」
「あう…ごめんなさい…」
今度は一転ショボンとした顔になる。…やべえ、最近伊東をいじるの楽しすぎる。ちょっと自重しよう。
「まあ最近ここに入れられたってのは本当だろうな」
「で、でしょ!?」
「三島がここを指定したのを合わせて考えればこれらは三島の用事に関係があるんじゃないのか?」
「な、なるほど…」
でも、長テーブルと机って…なんかここで会議でもするのか?
「ま、あいつが来ないことには始まらないしおとなしく待ってようぜ」
「そうだね~」
さて、いついらっしゃるのやら…
☆ ☆ ☆
「二人とも、待たせたわね!」
三島のご登場である。実際そこまで待ってはない。
「あいちゃん!全然待ってな…あれ?藤枝先生?」
「待たせてすまんな~お前ら」
三島と一緒に入ってきたのは藤枝先生であった。今日も今日とて恐ろし…いや、渋いです先生。やっぱり、オーラが違いますよね!マジリスペクトっす!
…て、そんなことはどうでもいい。藤枝先生と一緒に来た、ということは先生にも関係あるのか?
そう目で三島に問うと、「今から言うからちょっと待ちなさい」と目で語ってくる。やべえ視線だけで会話出来てる。
「今日あなたたちに集まってもらったのは他でもないわ!私は今日を持って新しい部活を立ち上げることにしたの!」
「部活?」
「そう!」
「てことはその新しく作る部活に俺たちに入れと?」
「その通りよ!」
おいおい、いきなりだな。てことは藤枝先生が顧問ってことか?
「顧問は藤枝先生にお願いしたわ!」
やっぱり。
「部活か~、何をする部活なの?」
伊東が興味津々とばかりに食いついている。まあ、確かにそこが分からないと入るも入らないも判断できない。
「それはね…」
と言いつつ三島はホワイトボードに何かを書き出す。書き終わったホワイトボードにはこう書いてあった。
「まちおこし対策本部?」
まちおこし対策本部…なるほどな…
「私がこのまちを変える…か」
「その通り!」
三島はニコニコしながら語る。
「昨日も言ったけどこのまちは本当になんにもないわ。このままじゃこのまちは廃れてく一方なのは目に見えてるし、何より私が住んでて楽しくない!なら部活動としてこのまちの活性化案を考えて実践いけばいいんじゃないかと思ったの!」
「ほえ~なんかすごいね~」
伊東は三島の話を聞いて感心している。ちょっとアホっぽい顔になってんぞ。
しかし、俺はこの時あまりいい顔はしていなかっただろう。
「ちょっと待て」
「ん?何よ」
話を遮られて少し不機嫌になるが、そんなのは関係ない。俺は三島に言っておきたいことがあった。
「そもそもこのまちを現状から変える必要があるのか?このまま廃れていくだけだってなんで分かる?」
そう、昨日も考えていたことだ。なんでこいつは今の三崎町を否定してしまうのだろうか。引っ越してきて間もないというのに。
「そんなの少し見て歩いただけで分かるわ。あんただって何も言えなかったじゃない」
それは昨日聞かれた見所はないかとかいう質問のことだろうか。いや、コロッケって答えただろうが。
「俺はな、今のこのまちの平穏な空気が好きなんだよ」
「平穏な空気?ハッ笑わせるわ」
「…なんだと?」
三島の人を嘲ったような笑いに、カチンときてつい声がトゲトゲしくなってしまう。
「じゃああんたこのまちの嫌いなところ言ってみなさいよ」
「なんだよいきなり」
質問の意図が分からずに聞き返してしまう。
「いいから言ってみなさい」
そのかなり上からな言い方にまたもカチンときてしまう…くっ、体はちっちゃいくせに、と心の中だけで文句を言ってとりあえず落ち着く。
このまちの嫌いなところ…?
「そんなもんねえよ」
俺はこのまちに対して全く不満など持っていない。
「好きも嫌いもないのね…いい?よく聞きなさい?そういうのを無関心っていうのよ。あんたはこのまちに対してなんの関心も抱いてないってことなの」
その言葉は俺の心にグサリと突き刺さった。…無関心?
「…だから、俺は、このまちの平穏な空気が好きって」
「それはあんたがこのなにもないまちにみきりをつけて関心さえ失ってしまったことを、平穏な空気とかいう言葉に置き換えて言い訳にしているだけだわ。いい?好きの反対は嫌いじゃない、無関心なのよ。そしてこの無関心ってのが一番こわ「うるさい!」
怒鳴ってからハッと我に返った。気づくと立ち上がってしまっている。三島は憮然とした表情をし、伊東は呆然としていた。
「清水君…?」
「…すまん、ちょっと考えさせてくれ」
いてもたってもいられず俺は鞄をひっつかみ教室を出た。入口付近に藤枝先生がいたが止められはしなかった。
ちくしょう…なんで怒鳴っちまったんだ…後悔先に立たずとはよく言ったものである。
しかし、怒鳴ったことを後悔しつつも、俺の中では三島に言われた言葉がぐるぐる回っていた。
「無関心」
その言葉が俺の心に突き刺さってじくじく痛んでいるように感じた。