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☆ ☆ ☆
三島が発狂して教室を出ていった後。俺は学校でのことを思い出しながら帰路についていた。いきなり爆発したと思ったらほぼ一方的に話を打ち切っていくもんだから、その後俺は少しの間教室に残っていた。しかし、鞄を持って出ていったし戻って来ることもないかと考え直し、こうして帰宅することにしたのである。
それにしても…
ーー私がこのまちを変えるわーー
なかなかエキセントリックなことをおっしゃる。
このまちを変える?どうやって?そもそもこのまちは変えなきゃいけないほどひどいのか?
曲がりなりにもこのまちで生まれ育ってきた身としては、あそこまで言われるといい気分はしない。確かに何もないまちだが、だからといって非難される謂れはない。俺はこのまちの雰囲気を気に入っているのだ。
ーーつまらない!ーー
三島の叫びが頭の中で繰り返される。
「あぁぁもう!なんなんだよ!」
どうしようもないモヤモヤ感を拭えず頭を抱えてしまう。路上でいきなり叫び出した俺を通行人が奇異の目だ見てくる。恥ずかしい…
そう一人で悶えていると、携帯電話が鳴り出した。電話か、誰だ?しかし、画面に映っていたのは知らない番号だった。恐る恐る通話してみる。
「…もしも「あんたどこ行ったのよ?」
人のセリフに被せるように、電話の主がそう問うてくる。先程まで聞いていた声だった。
「三島か…なんで俺の連絡先知ってるんだよ」
「晴海に聞いたの」
個人情報保護法ぇ…
まあ今さら嘆いても仕方ないか。
「んで、何のようだ?」
「あんたなんで帰っちゃったのよ。まだ用があったのに」
「いや、かばんを持っていったからそのまま帰ったと思ったんだが」
用があったなら言ってけよ。
「ったく。まあいいわ、明日の放課後空いてるわよね?」
「なんで確定してるみたいに言うんだ」
「空いてないの?」
「まあ、空いてるが」
帰宅部だから基本放課後は空いてる。しかし決めつけられたくはないな!もしかしたら彼女とデートとかあるかもしれんし!…止めよう、言ってて悲しくなってきた…
「じゃあそのまま空けといて。それじゃあね」
「あ、おい!」
三島は言いたいことを言うとすくに通話を切ってしまった。
「ったく、難儀な性格だな」
可愛い顔してるからって何でも許されると思うなよ?
まあこんなこと面と向かっては言えないけどね、調子にのられそうだし。
そうブツブツと文句を言いながら再び家路につく。さーて今日の晩飯は何かなー。
☆ ☆ ☆
次の日の朝、登校するとすでに伊東がいた。三島はまだ来ていないようだ。
「うーす、伊東」
「あ、清水君!ちょっと!」
何故か伊東は俺の顔を見た途端表情を険しくした。なんだなんだ、俺なんかしたのか全然身に覚えがない。
「おい伊東。朝の挨拶をちゃんとしないやつは人としてどうかと思うぞ」
「あ、ご、ごめん…おはよう清水君…じゃないよ!」
一瞬動揺した伊東、ちょっと可愛かった。じゃなくて
「朝っぱらからどうしたんだ?」
「清水君あいちゃんに何したの!?」
「は?」
三島に何をした?どういうことだ?
「みんなから聞いたよ!昨日あいちゃんが清水君としゃべってたらいきなり叫び出して教室を飛び出していったって!」
「…ああ、なるほど」
確かに、俺としゃべっていて、いきなり叫びだして、教室を飛び出していった。この状況を見れば俺が何かしたと捉えられてもおかしくはないな…
「正直に白状しなさい!どうせちょっと仲良くなったからってエ、エ、エッチな話題でもふったんでしょ!」
「なんでそうなる!?」
必死になって問い詰めてくる伊東。ちょっとは落ち着いてほしい。今自分が何を言っているのか分かっているのだろうか。…あと、ちょっと恥ずかしそうに言うのヤメテ、ちょっと萌えちゃうから。
「とりあえず落ち着け!ちゃんと説明するから!」
やっとのことで伊東をなだめて席に座らせ、昨日の顛末を話して聞かせることにした。
ーー説明中ーー
「とまあ、そんなこんなで最後は俺の話も聞かずに出ていったんだよ」
「はー、昨日そんなことがあったんだ…」
説明を終えると伊東は納得したようだった。
「んで、その後連絡があって今日の放課後なんかやるみたいなんだよな」
「へー、なにやるんだろ?面白そうだから私もいていいかな?」
「まあ別にいいんじゃないか?」
…ていうか
「そういえばお前俺の連絡先勝手に三島に教えただろ…」
「え、あー…」
俺がジトッと非難の目を向けると伊東はアハハ…と苦笑いする。
「まあいいじゃん!これであいちゃんの連絡先が分かったんだし!」
…まあ、確かに…でも礼は言わないぞ?俺も知られたんだからこれは等価交換だしな!
「二人ともおはよう」
「三島か、うっす」
「あいちゃんおはよう!噂をすればだね!」
そんなことを話しているとご本人が登場なされた。
「あいちゃん昨日は大変だったねー、私心配したんだよ!」
「?何の話?」
「清水君と話してたらいきなり叫びだして教室出ていっちゃったって聞いたからあたし清水君に何か変なこと言われたのかと思っちゃって」
ちょっ、その話は誤解って言ったよね?なんで蒸し返すの?
「あーあれね。…ていうか変なことって何よ」
「そ、それは…その、エ、エッチなこととか…」
「…なっ!」
また伊東が顔を赤らめながら言い、それを聞いた三島も頬を染めて動揺している。
だから恥ずかしいなら言うなって…ていうか三島もダメなのかそういう話題。案外可愛いところもあるじゃないか。
「…何よ」
恥ずかしさをごまかすためか、キッと睨んでくる。だからその顔やめて本当に怖いから!
「…この男ならあり得るかもしれないけど、昨日はそんなことはなかったわ」
おい、あり得るかもとか変な事実を捏造すんな。俺は品行方正な好青年で通っているんだからな!
「まあ、ちょっと愚痴を聞いてもらったのよ…」
案外殊勝な態度で言われて少し恥ずかしくなってしまった。べ、別にあんたのためじゃないんだからね!
「うん、何となく事情は聞いたよー。で、今日の放課後なんかやるんだって?」
「そのつもり。ねえ、晴海って部活には入ってるの?」
「え?ううん、私はまだどこにも入ってないよ」
「じゃあ晴海も今日の放課後付き合ってくれない?」
「うん!私もちょっと気になってたから!」
「ありがとう。じゃあ詳しくは放課後説明するわ」
「オッケー」
二人が会話を一段落させると、三島はこっちを向いて
「昨日も言ったけど、あんたもね」
「…了解」
放課後か、昨日の今日だからあの話に関することなんだろうが、いったい何を始めるつもりなんだろうな?