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エピソード4前編 クラスタ攻防戦

 林の中を南へ数分歩くと、たしかにそこにはアッシュやレインの同胞たち――エリスルム王国軍中央師団特務防衛中隊に籍を置く兵士らが多数顔を(そろ)えていた。

 しかし、ようやく果たされた第三小隊の帰投は、アッシュが肩に担いで運んできたマクドネル・イェーガー曹長の無残な遺体と、彼が生前口にした断片的な情報によってひどく不穏当なものとして受け入れられ、諸手(もろて)を挙げて喜ぶ者はほとんどいなかった。

「マックの予想は当たってるに違いないぜ! こいつらはルドラーと一緒に帝国へ寝返ったんだ! 裏切者だ!」

 草木を簡単に切り拓いて各所に暗幕を巡らしただけという、いかにも急ごしらえの粗略な宿営地に男の怒鳴り声が響き渡る。

 彼はディックス・ランカスター伍長。第八小隊に所属する斧鎚兵(ふついへい)で、亡くなったイェーガー曹長とは隊の枠を超えた友人同士だった。

「少し、話を整理したい」

 アッシュがおもむろに口を開く。事情聴取の場となる簡易司令室にて、ディックス以下数名の隊員に周囲を固められ、今やその扱いたるや完全に敵国のスパイである。

「まず、クラスタは数日前にギルガメシュを旗隊とした帝国の大部隊の侵攻により陥落し、その時点で生き残った者たちは揃ってこの一帯に逃げ込んだ――ここまではいい。では、マックは。あいつはお前たちが襲撃の際に確認できなかったルドラーを、たしかに街で見たと言っていた。奴がクラスタへ送り込まれたギルガメシュの後発隊の一員だと仮定して、マックは逃げ遅れたのか。それとも何らかの理由で街へ戻ったのか」

「後者だ」

 抑揚を欠いた声で即座にそう答えたのは、アッシュの真正面で倒木に片膝を立てて腰かける細面(ほそおもて)の青年兵士。さらに、

「斥候だよ。マックは敵戦力の詳細を探りに駐屯地へ向かったんだ」

 彼の背後に立つ大柄な男が、その体格に見合った大声量で回答を明示する。

「少佐、不用意な発言は慎んでください。ザム伍長らの潔白はまだ証明されていませんので」

「おおっと、すまんすまん。遠征に出て死んだと噂されていた彼らがこうして生きてたんだ、嬉しくってついなぁ」

「そうですか。以後は気をつけてください」

 ともすれば酷薄とも取られかねない沈着冷静な態度の青年兵士は、名をワーマス・デュバルといって、若くして大尉の階級を与えられた第七小隊の隊長である。一方、ワーマスにたしなめられたにもかかわらず暢気に笑っているのがザックハルト・マッカージ少佐。同じく第二小隊を預かる隊長にして、当宿営地の実質的責任者だ。

「と――いうわけだから、ザム伍長。質問はこちらからさせてもらう。いいな?」

「ああ。だが、答えられることにはすべて答えたつもりだ。それともまだ他に()きたいことがあるのか」

 少佐――と言って無感情な瞳で見返してくるアッシュに、ザックハルトは嘆息した。

「あのなぁ、そんなだから貴様は出世できんのだぞ、アッシュ・ザム。仮にも上官に向かってあるのかはないだろ、あるのかは」

「すまない。気分を悪くしたのなら謝罪する」

「……もういいわ。貴様にそういうのを期待した俺が馬鹿だった」

 げんなり顔の彼の上官は、それでもどうにか気を取り直して部下に対し様々な疑問質問を投げかけた。

 アッシュはそれらすべてに対応した。廃村での惨劇は元より獄門街にてライやベアトリーチェを部隊へと編入した経緯から、魔物の実在に至るまで、彼も先述したとおりすでに一度話した内容を再度実直かつ正直に――ベアトリーチェの経歴についてはさすがに伏せたが――語ってみせた。

「うぅむ……」

 畢竟(ひっきょう)新たな情報は得られず、ザックハルトは唸った。ふさふさと豊かな顎ひげをしきりに撫でさすっているが、これはこの男が考え事をしているときの癖である。

「おい、テメェ、人形野郎。オレらを舐めんのもたいがいにしろよ」

 左側頭部に稲妻らしき剃り込みの入った短髪の男――ディックスが(すご)んだ。

「死なない帝国兵だぁ? 洞窟の奥に魔物だぁ? さっきから黙って聞いてりゃあ、よくもそんな与太話を次から次へと。嘘つくんならもちっとマシな嘘ついたらどうだ」

「ウソなんかじゃねぇ!」

 不意に耳慣れない声が舞い込み、その場にいる全員の視線がそちらへと殺到した。

 ライだ。

 アッシュを囲む輪から少し離れた場所で、少年はレインとベアトリーチェの制止も聞かずに啖呵(たんか)を切る。

「兄貴の言ってることは本当だ! 証拠だってある!」

 口を挟むなと、アッシュから事前に念を押されていた。

 話がややこしくなるからと、ベアトリーチェに(さと)されてもいた。

 でも、もう限界だ!

「ほぅ、証拠ねぇ。だったら見せてもらおうじゃねえか」

「イヤだね」

 せせら笑うディックスの額に青筋が浮かんだ。「小僧、大人をからかうとただじゃおかねえぞ」

「からかう? 別にそんなつもりはないってばよ。証拠ならちゃんとあるし、どうしてもって頭下げるんなら見せてやってもいい。けど、あんたはダメだ」

 形勢逆転。今度はライが相手を嘲笑(あざわら)う。

「どうせあーだこーだ難癖つけて認めないつもりだろ。敵に負けて街から逃げてきて、おまけに友達まで死んじまって、たまりまくってるあんたのイライラの解消なんかに大事な魔石を使えるかよ」

 ライが言い終えるか終えないかのうちだった。

 ディックスは無言で殴りかかった。

 殺意にも似た、怒気を(はる)かに超越した激しい感情が、軽微ながらも彼の瞳からは見て取れた。

「やめなって!」

 が――解き放たれた拳はライとは異なる人物を打った。はっとして我に返るディックスを、すかさず数名の隊員たちが取り押さえる。

「平気……?」

「お、おう」

「よかった。でも――」

 パンッ、という乾いた音と共に少年の左頬が熱をもった。

「ダメだよ、子どもが大人みたいな口利いたり、正論で相手を傷つけたりしちゃ」

 そう言ってライに微笑みかけると、女兵士は背後を振り返り、

「あんたもよ、ディックス。子ども相手にムキになるなんて、これじゃどっちが年上かわかんないわよ。反省なさい」

「けどよ、トレイシー!」

「き、き、た、く、あ、り、ま、せ、ん。だいたい先に吹っ掛けたのはそっちじゃない。第三が帝国に寝返ったとか、ルドラーに命じられてここを潰しに来たとか、それこそ証拠もなしに」

 殴打された箇所が痛むのだろう、トレイシーこと第八小隊の隊長トレイシー・ミューア少尉は肩甲骨のあたりをさすりながらも、決然とした口調でこう断言した。

「わたしはザム伍長を信じる。彼は嘘なんて言ってない」

 快活を絵に描いたようなつぶらな瞳には自信が満ち溢れている。

 一同は緘黙(かんもく)を余儀なくされた。

 事実――。

 ここに集う者の大半はディックスと同じ疑心を抱いていた。少なくとも数秒前までは。

 しかし今、それが(くつがえ)ろうとしている。

 ――トレイシーがそう言うのであれば。

 ――トレイシーの言葉が間違っていたためしはない。

 急速に高まりつつある気運は、すべて彼女の一途で一本気な性質によるものだ。男女問わず他人を強く惹きつける力を、トレイシー・ミューアは備えているのである。

「あんたはどう思う、ミルグラム中尉」

 ワ―マスに指名され、やたらと胸が豊かな蓬髪(ほうはつ)の女兵士が沈黙を破る。

「マックを部下として扱ってるジブンにそれを聞くかね」

「だからこそだ。あんたはイェーガー曹長の直属の上官であると同時に、物事を常に公正な目で見て判断できる能力の持ち主だ。あんたの意見が聞きたい」

「ミルグラム中尉、述べたまえ」

 ザックハルトによる重ねての下命(げめい)に、第五小隊を束ねるニキータ・ミルグラム中尉は伸ばしっ放しの茶色い髪をぞんざいな手つきでがしがしと掻き(むし)って、

「戦人形くんはシロじゃないかな。ジブンはそう思うよ」

 そうした雑な態度とは裏腹な極めて真摯(しんし)な顔つきで言った。

 ザックハルトは相づちを打ちつつ、「なるほど。では、そう思う根拠は」

「根拠? そんなの一つっきゃない。マックの死体さ。こいつが逆賊だとして、どうしてそんなものをここに持ち込む必要がある。おまけにオルフェン少尉の裏切りやクラスタ進駐まで我々にバラしてしまって、一体なにがしたいのやら理解不能だよ」

「それは――オレたちを油断させるための工作だ! ワザと全部バラして、裏をかこうって寸法さ!」

 再び声を荒げるディックスに対し、ニキータは苦笑を返す。

「いやいや、そんな自分たちが不利を背負う危険性のある工作なんか絶対しないって」

「馬鹿野郎! そう思わすことがヤツらの狙いなんじゃねえか!」

「野郎じゃないよ、ジブンは女。それじゃあ訊くけど、この二人は?」

 指し示す先にはライとベアトリーチェが。双方とも黙って今のこのやりとりを見守っている。

「そいつらだって同じだ! ありもしない架空の旅物語をでっちあげるために、おおかた帝国本国から引っ張ってきた民間人どもだろう!」

「民間人!?」

 ニキータは目を()いた。ひどく大袈裟な、芝居がかった仕草だった。

「それはまたずいぶんと奇抜な人材を選んだもんだねぇ。ジブンら兵隊でも使わないようなでっかい剣を持った美人さんに、もう一人はイチモツに毛も生えてなさそうなガキんちょとは。……で、第三小隊の他の連中は?」

「だから、でっちあげのためにクラスタで待機してんだろうよ、ギャロットもワイズもタロンもリッケルも!」

「そうなの? え、でも、ギャロットちゃんやワイズくんは別として、あの生真面目な『肉削ぎ』と実直なリッケル伍長まで祖国を裏切ったと? それはすごい。一体どんな美味しい条件を提示したんだろう」

「し、知るかよ、んなこたぁ! だったらアレだ、その二人は裏切りに反対して殺されたんだ、そうに決まってる!」

「大した想像力だよ、おまえ」

 それまでのおどけた態度はどこへやら、急に冷めた口調でニキータ・ミルグラムは言い放った。

「そういうことよ、ディックス。わたしたちの裏をかくにしても、ザム伍長の話はあまりに凝りすぎてて、逆にこうして不信感を買っちゃうの。もっと単純な成り行きなら、みんな納得するかもだけどね」

 トレイシーの言葉にディックスは(こた)えなかった。応える代わりに、自身を取り押さえる仲間の腕を強引に振りほどくと、暗幕をめくって司令室から立ち去っていった。

「さて、諸君。ここまでの一連のやりとりを受け、諸君はアッシュ・ザム伍長ら第三小隊の面々の帰還を認めるか、否か」

 そうして、指揮官であるザックハルトの号令による採決の結果は、

「……決まりだな。おかえり、ザム伍長にヒッチコック上等兵。よく生きて戻った」

 全会一致で承認。

 かくてアッシュたちに課せられた疑惑は晴れ、第三小隊は正式な戦闘部隊として特務防衛中隊へと再編入される運びと相成(あいな)った。

「では、これにて解散とする。各員持ち場に戻れ。なお、ミューア少尉を除く隊長及び隊長代理はここに残ること。まだ話がある」

「え……あの、わたしは」

 命令に従い隊員たちが次々と外へ流れていく中、トレイシーだけが当惑した様子で立ち尽くす。

「ミューア少尉、貴官には特別任務をこなしてもらう」

 ザックハルトはにやりと笑い、言った。

「軍隊の過酷さを教えてやれ。そこの新兵二人にな」



 司令室には先刻までの約半数、五名の隊員が居残った。

「本題に入る前に――ザム伍長、貴様には話しておく必要があるな。クラスタ襲撃時の様子、中隊の現況、それらのより細かな中身ってやつを」

「ああ、そうしてもらえると助かる」

 アッシュのぞんざいな物言いは相変わらずだったが、気にしていてもしかたがない。咳払いを一つして、ザックハルトは語り始めた。

「クラスタの襲撃は六日前の正午。敵部隊は爆薬を使って西門と北門を同時に吹っ飛ばすと、一斉に街の中へとなだれ込んできた。数は不明。だが、ざっと見ただけでも三百や三百五十はくだらない相応の規模だった。旗隊は黒い鎧で武装した――と、これは貴様も知るところだったな。そう、ギルガメシュとか名乗る凄腕の戦闘部隊だ」

 あっけないものだったよ、とザックハルトは小じわが散見される彫り深い顔に自嘲めいた色を浮かべた。

「そもそも不意打ちだったってのもあるが、それ以上に俺たちは(ゆる)んでいた。ああ、そうさ、貴様んとこのタロン軍曹が常々苦言を(てい)していたとおり、中隊の人間は誰も彼も平和ボケし、たるみ切っていたんだ。……皆殺しさ。さすがに民間人や非戦闘要員にまでは手を出さなかったが、それ以外は容赦なく()られ、生き残った俺たちは撤退を余儀なくされた」

「具体的な被害状況は」

「判らん。ただ、中隊長を含め、庁舎に詰めていた上級士官たちはたぶん全滅だろう。(やっこ)さんたち――特にギルガメシュの連中はいの一番にあそこへ攻め入ったからな」

「何を置いてもまず中枢を落とす。正しい選択だ」

 アッシュは冷静に分析する。

「あの鮮やかな手際は、今にして思えばオルフェン少尉の入れ知恵だった可能性が高い」

「ワ―マスの言うとおりだ。敵はクラスタの内部構造から人員の配置に至るまで、すべて事細かに知っているふうだった。それもあってな、とにかく現場は大混乱で、実際に誰が死んで誰が生きているのかは定かじゃない。どうにかこの林に逃げ込んだ者、及びそこから得られた証言なんかを総合して今もこうして話しているほどだ」

 司令室に集う面々を改めて見回し、アッシュは言った。

「ミューア少尉以外で生存が確実な小隊長は、これだけか」

「いんや、負傷治療のため欠席者が一名。浅いけどね。ちなみに敵の手を逃れて生きてここまでたどり着けた者は、ジブンらのような軍関係者が全体の二割程度、民間人に至っては一割にも満たない」

 ニキータだ。彼女は自らの豊乳を下から持ち上げるようにして腕を組み、

「助けている余裕はなかったよ、誰にも。後々(あとあと)のことを考えれば無理をして共倒れになるわけにもいかないしね。だから見捨てたんだ」

「承知している。俺がその状況下にいたとしても、同じことをしていただろう」

「よろしい。それでは、他に質問は?」

 白い歯を見せて笑うニキータにアッシュは問う。

兵站(へいたん)は。念のために聞いておこう」

「ご推察のとおりだよ。マッカージ少佐とデュバル大尉、あとジブンが死にそうになりながらもどうにか持ち込んだ食料、医薬品、野営道具が最低限。その中でも特に重要な食料は現地調達を駆使して今日まで持ちこたえてきたものの、そろそろ限界さ」

「となると、やはり王都へは」

「ああ、到底無理だよね。馬もないし、最寄りのリッツハイムへさえ辿り着く前に行き倒れてしまうよ」

「そうか」

 人員不足。物資枯渇。孤立無援。

 思っていたよりも遥かに状況は深刻らしかった。このままでは遅かれ早かれ中隊は全滅してしまうだろう。

「だからこそ、こちらから打って出ようという腹積もりか」

 アッシュの視線がザックハルトを(とら)えた。

「そういうことだ、ザム伍長」剛健なる初老の戦士は淀みない口調で明言する。「俺たちはクラスタに攻め入り、これを奪還する」

「決行はいつだ」

「明朝を予定している。気象観測兵の予報によれば、今夜半からは雨。その雨が上がった明日の早朝は濃霧だそうだ。それに、警戒されているのは夜襲だろうからな、ランカスター伍長ではないが裏をかく」

「ですが少佐、斥候部隊が全滅してしまった今、作戦は一旦白紙に戻すべきでは」

 卒然と二人の会話に割って入ったのは、この場に留まった五人のうち今の今まで一言も発することなく、終始青い顔で黙りこくっていたヴェン・ラブラ少尉。第六小隊を束ねる彼は非常な小心者として有名であり、薄くはげ上がった頭髪や貧相な体格も相まって、何故(なにゆえ)こんな男が隊長にと常々その立場を疑問視する声が各小隊から上がっている。

「たしかに、敵の情報がほぼ皆無の現状では作戦計画の立案さえ難しい。だがな――」

「このまま何もしないわけにはいかない。宿営地はもう限界だ。飢えと渇きで全滅するのを待つくらいなら、たとえわずかな勝機だとしても戦うべきだろう」

 持論を展開するアッシュにワーマスが言った。

「ザム伍長、もっと詳しく話せ」

 肩に担ぎ持つ彼の専用武器、ベイドナ鉱製のパルチザンが陽光を反射し冷たく光る。

「あんたたちが戦ったとかいう、死なない帝国兵のことを」



 トレイシーに連れられてライたちがやって来た場所は、宿営地である林地の南端に広がる小さな池のほとりであった。

「んっと、じゃあベアトリーチェさんは池で魚釣り、ライアスくんはわたしと一緒に(まき)割りね」

 そう。

 ザックハルトが部下に言い渡した特別任務とは、別に何ということはない、野営に必要な各種物資の調達だったわけだが、

「ねえ、あたしはどうすりゃいいのよ」

「え? ヒッチコック上等兵は……うーん……どうしようかな」

 なぜかレインまで三人にくっついてこの場所までやって来ていた。会って生きてるかどうか確認したいヤツなんていないし、ブラブラしててもつまんないし――というのが同行の理由だそうだ。

「あ――だったら、その辺りに生えてる食べられそうな野草とかきのことか採ってくれる?」

「りょーかーい」

 気の抜けた返事をしてレインは採取活動へと移った。一方、ベアトリーチェは水面に糸を垂らし、とっくに釣魚(ちょうぎょ)を開始している。

「所属部隊が違っても一応は上官なんだけどな、わたし」

 ほんとに第三って自由人ばっかよねぇ、と苦笑するトレイシーの隣、ライは薪木を持ったまま何をするでもなくぼんやりと突っ立っていた。

 低密度で密集する木々の向こうから、人々の話し声や足音が聞こえてくる。武具がこすれ(きし)む硬質な金属音も。

 植物の、食べ物の、薬品の、そして血のにおいが一緒くたになって鼻を撫でる。

 風はない。

 日差しが温かい。

 あちらこちらに吊り下げられた皮革製の暗幕を見ながら、ライは住み慣れた街を追われてきたという兵士たちが粛々(しゅくしゅく)と任務に従事する姿を思い起こす。

 負傷者を看護する者。

 食事の準備をする者。

 物資の整理をする者。

 彼らは皆一様に疲労を押して働いていた。そうなのだとすぐに解った。

 兵士としての自覚を取り戻したようだな――とは当地に着いて間もなくのアッシュの弁。それが一体何を意味するのかは不明だが、さすがは厳しい訓練を乗り越え洗練された一流の兵隊たちだと、ライなどはひどく感心したものである。でも、だからこそ先刻のディックスの傍若無人な振る舞いにはひどく腹が立った。ああいう辛い心境は、定めしここにいる誰もが同じはずなのに。

「さ、わたしたちも始めよっか、ライアスくん」

 呼びかけられて我に返った。トレイシーがこっちを見て微笑んでいる。

「あれれ、怖い顔。――あっ、さてはさっきのこと、気にしてるなぁ?」

 直後に彼女はライの鼻先数ミリの位置にまで、その端正な風貌を近づけると、

「ごめんね、ひどいことして。だけどお姉さんの気持ち、言いたかったこと、ちゃんと君に伝わってくれてると嬉しいな」

 たわやかに囁いた。

 ライは一瞬にして耳たぶまで真っ赤になった。

 潤んだつぶらな瞳に吸い寄せられる。白い頬、ぽってりとした薄桃色の唇からは、まるでもぎたての果実のような(かぐわ)しさが漂って――なぜだろう、心臓が狂ったみたいに早鐘を打つ。

「うん。オイラこそ、ごめん。あいつにひどいこと言って傷つけたのは、オイラだから」

 下を向き、かろうじてそう言葉を(つむ)いだ。からからに乾いた喉で最後までつまらずに言い切れて、内心でひそかに安堵している自分が恥ずかしかった。

「よっし! もうこの話は終わり! 薪、割るよ!」

 眼前からトレイシーの気配が離れたのを悟り、ようやく視線を持ち上げる。しかし、そこでまた心臓が飛び跳ねた。

 髪を後頭部でアップスタイルにまとめたトレイシーの、うなじ。ほっそりとしていて、繊細で、しなやかな首筋からライは慌てて目を逸らした。

「どうかした、ライアスくん」

 トレイシーが背後を見返る。彼女は地面にしゃがみ、薪割用の切り株の上に散らばる細かな木片を払い()けている最中だった。

「あ、えっと、キレイな髪飾りだなと思って」

 ライは咄嗟(とっさ)に誤魔化した。ひどくばつが悪い。

「ありがとう。これ、わたしも気に入ってるんだ」

「誰かからの贈り物か?」

「うん」

 自身の後ろ髪を()める、花の形をしたバレッタに触れながらトレイシーははにかんだ。

「恋人から、ね」

 その瞬間、さっきからずっと躍り続けていた心臓に()も言われぬ感覚が走って――

「そっか」

 ライは――

「いいんじゃ、ねえか」

 少年は――

「すごく、いいと思うぜ」

 そう言ったきり沈黙した。

 トレイシーもまた、それ以上は何も語ろうとしなかった。

 それからしばらく二人で薪割りにいそしんだ。ライが薪木を切り株に()え、トレイシーが手斧で割るという単調な作業を、黙々と。

 途中何度かレインがやって来て、採り集めたきのこだの山菜だのを置いていった。

 ベアトリーチェは動かなかった。そもそも釣れている様子がなかった。

「元気なのか、そいつ」

 やがて、うずたかく積まれていた薪木の山が元の半分ほどになる頃、ライの方から声をかけた。

「どうして?」

「いや……マズいこと聞いちまったんじゃないかって」

 恋人という言葉を口にしたときのトレイシーの顔が、ごくわずかながら曇ったのを少年は見過ごしてはいなかった。ただ、あのときはとにかく違うことで、生まれて初めて感じた奇妙な胸の違和感で、心がいっぱいだった。

「もう死んじゃってるとか、そんな話だと思った?」

「まあな」

「優しいんだね、ライアスくん」

「そんなこと――ないけど」

 ライは薪を据えた。すぐさまそれは真っ二つに分かれた。

「エドワードっていってね」

「え」

「隊長なの。第九小隊の」

 次お願い、と(うなが)されてライは止まっていた手をあたふたと動かした。

「マックと一緒に斥候部隊としてクラスタへ向かった――そう言えば納得してくれるのかな、君は」

「っ!」

「そんな驚いた顔しないでよ。逆にこっちがびっくりしちゃうから」

 笑って見せるトレイシーに、かける言葉が見つからない。

「平気だよ。自分と同じ兵士やってる男の人を好きになったときから、いつか必ずこういう日が来るって覚悟はしてたから」

「トレイシー姉ちゃん」

「それにね、まだ死んだって決まったわけじゃないし」

 作業を中断し、二人は互いの瞳を真っすぐに見つめ合った。

「なんでだよ……」

「ん?」

「なんでさっき、信じてくれたんだよ。だってそうだろ? オイラたちは姉ちゃんの恋人と一緒に斥候へ出たっていう兵隊の死体を持ってきたんだぜ? あのディックスってヤツみたいにさ、フツーは疑うんじゃないのか?」

「そうかな」

「そうだよ!」

 ライは我を忘れて立ち上がった。

 どこか達観したような、寂しげな微笑を浮かべてこちらを見つめるトレイシーの姿が、たまらなかった。

「わたしはただ、ニキータの推測に同意しただけだよ。色々な状況から判断すれば、君たちは斥候部隊を襲ったりしてないし、わたしたちを裏切ってもいない。だいたいさ、ザム伍長みたいな人がそんなことをするなんて到底思えないんだ、わたし」

「兄貴と仲いいのか、姉ちゃん」

「ううん、ちっとも。何回か話したことがあるってくらい。だけど、そのたった何回かでわかる。謀略を巡らしたり仲間を陥れたり、彼はそんな器用なことができる人間じゃないよ」

 ふ、と少しばかり緩んだかに思えたトレイシーの表情は、

「それにね、これ言っちゃうともうそれまでなんだけど…………戦争だから、わたしたちがしてるのは」

 しかしまたすぐに、今度はより深い悲しみを(たた)えてライの胸に迫った。

「もし仮に、君たちがほんとの裏切者で斥候部隊を全滅させていたとしても、それはそれでしょうがないっていうか。だって殺し合いだから、命の奪い合いだから、そうするのが当然でしょ? 敵は殺すのが当たり前。わたしもたくさん殺してきた。そして――」

 ライは()すくめられた。

「これからも殺すわ。わたしは兵士だもの」

 トレイシーの瞳の奥に宿った、その鮮烈な色彩に。

「そんな、それじゃあ……」

 同じだと、思った。この人はアッシュとまったく同じ人種なのだと。

「ライアスくん、君がもし敵なら、たとえ子どもでも容赦しない。だけどそれは、あくまで兵士として。エドワードの恋人としてじゃない。わたしは戦争に私怨を持ち込まない」

 だけど、でも、この人が――こんなたおやかで愛らしい女性が彼のような修羅の生き方をするなんて、そんなのは、それはあまりにも、


 ――悲しすぎるじゃねえか、なあ、トレイシー姉ちゃん!


「憎しみで殺せば、いつかきっと憎しみに殺される。憎悪の連鎖。わたしたち人間がいつまで経っても殺し合いをやめられないのは、そのせいよ」

「ぞうおの、れんさ」

「そうよ。だからね、ライアスくん」

 うちひしがれ、無防備になったライをトレイシーはしっかと抱きすくめた。

「君も絶対、誰かを憎む心を剣に載せちゃダメ」

「わかっ……た」

「約束よ、お姉ちゃんとの」

「ああ、約束だ」

 トレイシーの優しい香りとぬくもりに包まれながら、ライは彼の実の姉、バトゥトゥに残してきたメアリィのことを想った。

「ほいほーい、たっだいまー、たくさん採れ――って、ギャァァァアアアアアアア! な、ななな、なにしてんのよアンタたちぃ!」

 採集から戻るなり、仰天したのはレインだ。当然だろう。事情を知らない彼女からすれば、昼日中(ひるひなか)に妙齢の女性が思春期真っ盛りの少年を人目もはばからずに抱擁しているなど、一体どこの猥褻本(わいせつぼん)の一場面かと我が目を疑うのは道理である。

「し、知らなかった。ミューア少尉ってそういう趣味があるんだ。あれ、でも、たしかこの人って第九小隊の隊長とデキてるって噂になってなかったっけ?」

 小首を傾げるレインを置いて、二人は再度互いの目を見交わした。

「斥候が出るってことは、近いうちに街へ攻め入るんだろ。だったら探して見つけようぜ、トレイシー姉ちゃんの恋人」

 ライは力強く言って、トレイシーの手を握る。

「きっと大丈夫だ。エドワードさんは生きてる。だから――さ」

「うん。ありがとね、ライアスくん。頼りにしてるから!」

「おう、まかしとけ!」

 はつらつとした声が上がる場を背に、池のほとりでのんびりと釣りに興じるベアトリーチェは独り、かすかな笑みと共に呟くのだった。

 踏ん張りなよ、坊や――と。



 死なない帝国兵についての詳細をアッシュより聞き終えると、まず真っ先にニキータが口を開いた。

「なるほど、不死兵――か。しかし、絶対に殺せないというわけではなさそうだね、そいつら」

「どうやらそのようだ。あの時は確認が取れなかったが、実際に活動を停止している者も少なからず見受けられたからな。何かしらの弱点はあると俺は睨んでいる」

 廃村で感じた違和感はいまだアッシュの中で明確な形を成していない。

 頭部を、心臓を、もしくはその両方を失っても生き続ける異形の兵士たち。けれど、わずかに残る記憶の断片には――

「それだけ聞ければ充分だ。やつらは殺せる――そうだな、ザム伍長」

「ああ、殺せる。しかも、必ずしも爆薬などでばらばらにする必要はなさそうだった。ある程度肉体が損壊すれば、沈黙はまず間違いない」

「よし、なら決まりだ」

 そう言ってワーマスが一同を見渡すと、皆も腹をくくったらしく、クラスタ奪還作戦に異を唱える者はいなかった。

「ま、待ってください!」

 否、一名だけ、ヴェン・ラブラ少尉だけは反対の姿勢を見せた。

「その、不死兵……ですか? そいつらが倒せる相手とわかっただけで、それ以外の、そう、たとえば敵の人数や配置といった情報が一切不明のまま街へ攻め込むのは、いくらなんでも無謀ではないですか!」

「そうかね? ジブンは逆だと思うが」

「逆……。そ、それは一体どういう――」

「たわけ! 不明なのは、今おまえが述べた事柄だけだということだ!」

 ニキータは一喝した。黒いぴったりとしたインナースーツがあわや張り裂けんほどに、たわわに実った両乳房がぶるんぶるんと激しく暴れる。

「おさらいしよう。まず、こちら側の戦力だ。全十小隊総勢六十四名中、前線要員として今後すぐに動けそうな人員だが」

 愛妻家として知られるザックハルトは果たしてそれに目もくれない。淡々とした語り口で後を引き取る。

「第二小隊隊長ザックハルト・マッカージ少佐、同隊員ミケロ・デミートリアス曹長、同隊員レンダ・シーウェル軍曹。第五小隊隊長ニキータ・ミルグラム中尉、同隊員ノーラン・オルソン伍長。第六小隊隊長ヴェン・ラブラ少尉、同隊員ダンケル・ハミルトン軍曹。第七小隊隊長ワーマス・デュバル大尉。第八小隊隊長トレイシー・ミューア少尉、同隊員キャスリン・バスカ曹長、同隊員ディックス・ランカスター伍長、同隊員マイヤー・ダリン一等兵。第十小隊隊長代理ソフィア・スターリング曹長、同隊員ロザリア・ラムゼ二等兵。以上、十四名に加え、再編入された第三小隊――隊長代理アッシュ・ザム伍長、同隊員レイン・ヒッチコック上等兵」

「ライとベアトリーチェもだ。あの二人なら戦力として問題ない。俺が保証する」

「うむ。それでは、この十八名が目下(もっか)我々が保有する有効戦力だ。それ以外は死亡または消息不明もしくは重度の負傷により戦闘不能。無論のこと民間人や非戦闘員もだ」

 次に――と言いかけてザックハルトは苦笑した。

「作戦区域となるクラスタの街のことは、今さら確認するまでもないよな。なにしろ俺たちの庭だ。隅から隅まで、他の誰よりもよく把握している」

「武器や防具などの戦術物資はどうだ。足りそうか」

「余裕はないが、どうにかなる水準といったところだろう。逆にザム伍長、貴様らがドラゴンから(たまわ)ったという魔石はあてにさせてもらうぞ。あれが俺たちの切り札と言ってもいい」

「心得ている。使い方はまた後ほど説明しよう」

「イェーガー曹長とザム伍長、双方の情報によれば敵はルドラー・オルフェン少尉率いる帝国の不死兵部隊。規模及び配置は不明。なお、第一小隊のゲイル・フィチカ伍長も造反している可能性が極めて高いため、現地で見かけた場合は用心されたし……こんなところか」

 ワーマスの目配せを待ってましたとばかりに受け止め、ニキータは満面に浮かべた加虐的な笑みをヴェンへと向けた。

「さぁて、ラブラ少尉、ここで問題だ。これまでに入手している諸情報を踏まえた上で、我々が採用すべきもっとも妥当な作戦計画案とは?」

「う、え、えっと……」

「君が指揮官なら、どうするね?」

「そ、そうですね、私なら……」

 ヴェンはまごつくばかりで一向に答えようとしない。

 ため息交じりにザックハルトが言った。

「部隊を四つに分けるんだよ。そんなこともわからんのか、ラブラ少尉」

 続けてワ―マスが、こちらはいたって冷静な態度で、

「兵器保管庫を制圧して物資を確保する部隊と、庁舎に攻め入り敵中枢を叩く部隊。その二つから敵の目を逸らすべく陽動を担当する部隊。最後に、後方からの襲撃を未然に防ぐための要塞ゼロン攻略部隊。この四つだ」

「解ったかね、ラブラ少尉!」

 ニキータに厳しく(ただ)され、ヴェンはなで肩をさらに深く落とした。「勉強し直します……」

「待ってくれ。一つ提案がある」

 皆の視線がアッシュへと集まった。

「ゼロンへ向かう部隊だが、不足が否めない人員を一人でも多く街の攻略に()てるべきと考え、俺の単独潜入というのでどうだ」

 四人は一斉に目を(しばた)いた。あまりに突拍子もない彼の申し出に揃いも揃って唖然としているのだ。

 要塞ゼロンとは、クラスタから程近い北の丘陵地に建つ砦のことである。かつては自国の領地であったクラスタを防衛する目的でブロドキン帝国が築いたこの要砦(ようがい)は、小規模ながら堅牢な造りと、何より防衛対象との抜群の好立地によって、王国軍の手に渡った今現在も重要な拠点として機能している、否、機能していた。つい先日までは。

「無茶ですよ! いくらあなたが『戦人形』と皆にあだ名される中隊きっての精鋭でも、たった独りでなんて、自分からむざむざ死にに行くようなものだ!」

 ヴェンはまるで我が事のように狼狽(ろうばい)した。

 クラスタが陥落した今となっては、ゼロンもまた多くの帝国兵が巣くう敵の根城となっているはず。そんな危険な場所に単身で(おもむ)こうなど、正気の沙汰とは思えない。

「ずいぶんと大きく出たじゃあないか、えぇ、戦人形くん。それとも何か勝算があってのことかな」

「いや、総合的な観点に立った上でこれが最善手と踏んだだけで、勝算と呼べるほど確実なものはない。ただ――」

 にやつくニキータをアッシュは真正面から見据え、

「任務は必ず完遂する。敵は全員ゼロンに足止めし、誰一人としてクラスタへは向かわせない」

 静かなる宣言に、第五小隊隊長はまたぞろど迫力の乳房を盛大に揺らして大笑した。

「聞きしに勝る面白い男だなぁ、君は。いいよ、ジブンは賛成だ。その冷え切った気迫がどれほどの成果を生むか、とくと見させてもらおうじゃないの」

 ザックハルトは観念した様子で肩をすくめた。

「どうせ止めたってムダだろうしな。ま、せいぜい俺たちが背後から奇襲を受けないよう、踏ん張ってくれや」

「頼んだぞ、ザム伍長」

 ワーマスも同意したことで、アッシュの提案は半ばなし崩し的に承認された。

「大丈夫かなぁ、不安だなぁ……」

 ただ独りヴェンだけは、今もって納得できていないようだが。

「さてと、ゼロン攻略はザム伍長に任せるとして、あとは残りの人員の割り振りだ。これが済み次第、早速全員を集めてクラスタ奪還作戦を正式に発令する」

 いいな、とザックハルトから確認を取られ、アッシュとワーマスとニキータはきっぱりと、ヴェンはしぶしぶ(うなず)くのだった。



 それからしばくして、クラスタ奪還作戦に参加する総勢十八名の隊員たちが一堂に会し、同作戦の詳細説明が実施されることとなった。これだけの人数が集うには簡易指令室はいささか手狭ということもあり、場所はトレイシーがライたちを伴い〝特別任務〟をこなした池のほとり。そして、誰もがいよいよその時が来たかと緊張した面持ちで見守る中、意外にも先陣を切って議場上手に立ったのは、指揮官であるザックハルト・マッカージ少佐ではなくアッシュだった。

 アッシュは、先の遠征にて自分たち第三小隊が遭遇した一連の出来事の顛末(てんまつ)を丹念に語った上で、最後にこう締めくくった。

「今からでも遅くない。参加を辞退する者は申し出ろ」

 反応はない。彼の話をどう受け止めていいやら、隊員たちは皆一様に複雑な表情で口を閉ざしている。

「諸君、断言しよう。これより展開されるのは死が決定づけられた無謀な作戦だ」

 アッシュの隣に立つザックハルトが、静かでありながらよく通る声で告げた。

「だから心配するな。こんな自殺行為にも等しい作戦を辞退したからといって、その者を(とが)めたり、ましてや腰抜けと罵るようなことは決してない。よく考えてみてくれ。そうせざるを得ない状況だったとはいえ、不死兵なんていうふざけた存在と()り合ったがために、ドレイク・リッケル伍長は生きたまま五体を素手でバラバラにされたんだぞ。そんな目に遭うとわかっていて、それでもなお作戦に参加しようなんて思わないはずだ。さあ、誰か――」

「しませんぜ、辞退なんて」

 ザックハルトを(さえぎ)ったのはミケロ・デミートリアス曹長。ザックハルトと同じ第二小隊に所属し、彼を『親父』と呼んで慕う若手の槍兵だ。

「不死兵だろうとなんだろうと、帝国のヤツらには貸しがある。そいつをきっちり取り立ててやらにゃ、オレらの気がおさまらねえってもんですよ」

 ミケロが自信たっぷりにほくそ笑むと、その後ろで筋骨隆々の(いわお)のような女兵士が声を上げた。

「その通りです。聞けば、第七小隊は隊長のデュバル大尉以外全員戦死、第四小隊も全滅が確定。私たち第十も私とロザリアの他は皆殺しにされました。ここまで好き勝手にやられて、黙っているわけにはいきません」

 それに――と議場最後列の長髪の男が、第十小隊隊長代理ソフィア・スターリング曹長に続いて発言する。

「安否不明の隊員も大勢いるしな。そいつらが生きてるなら、助け出してやらないと」

 第五小隊の部下であるノーラン・オルソン伍長から「ね、隊長」とウィンクされたのに対し、ニキータはにやりとしてみせた。

「たまにはいいことを言うじゃあないか、ノーランくん。だが、胸は揉ませないからな、悪しからず」

「うへぇ、こいつは手厳しい。仲間思いのところを見せれば、身持ちがかたい隊長も少しくらいならおさわりを許可してくれるんじゃないかと期待してたんだけどなぁ」

「なにをたわけたことを。ジブンの美巨乳は旦那様のものと決まっている。……いつかきっと巡り合う、未来の旦那様のな」

「隊長ぉ、それって一体いつのことっスかぁ?」

 ノーランの呆れた口調に一同からぽつりぽつりと笑いが起こった。ザックハルトも苦笑しつつ、彼らに今一度問いかける。

「貴様ら、本当にいいんだな? 後になってやっぱり――なんてのは受け付けんからな」

 されど答えは瞭然(りょうぜん)だった。

 怯えている者も、躊躇(ためら)っている者も、隊員たちの中にはいない。顔つきを見れば判る。臆病なヴェン・ラブラ少尉でさえどこか頼もしげだ。

「ったく、どいつもこいつも救いようのない馬鹿どもだな。わかったよ、だったら馬鹿の貴様らにも理解できるよう簡潔に説明してやるから、心して聞け!」

 罵声とは裏腹に心底嬉しそうな語気で言って、ザックハルトは作戦内容の説明へと移った。

「まず、ここにいる十八名を四つの部隊に分ける。兵器保管庫の制圧、庁舎の襲撃、陽動、そしてゼロン攻略がそれぞれの任務だ。クラスタ内部へはゼロン攻略部隊を除く三隊で一斉に、街の南西の城壁を発破(はっぱ)し突入する」

「なる、最短距離ね。保管庫も庁舎も、街の西にある駐屯地区におっ建ってますから。でも、爆薬はどうすんですか」

「それならジブンが撤退の際に何本かくすねてきたものがある。問題ないよ」

「おっと、さすがはオレらの隊長だ。ただ胸がデカいだけじゃないっスね」

「一言多いぞ、ノーランくん」

 第五小隊の二人が黙るのを待って、説明が再開される。

「突入したら各隊目的の場所へ向かって進撃しろ。到着後の段取り、注意点は今から発表する部隊編成の後だ。それでは、庁舎襲撃部隊から。隊長ワーマス・デュバル大尉、キャスリン・バスカ曹長、ダンケル・ハミルトン軍曹、ディックス・ランカスター伍長、ノーラン・オルソン伍長、レイン・ヒッチコック上等兵――以上六名。続いて保管庫制圧部隊。隊長トレイシー・ミューア少尉、ヴェン・ラブラ少尉、ソフィア・スターリング曹長、ライアス・マサリク、ベアトリーチェ――以上五名。次に陽動部隊。隊長ザックハルト・マッカージ少佐、ニキータ・ミルグラム中尉、ミケロ・デミートリアス曹長、レンダ・シーウェル軍曹、マイヤー・ダリン一等兵、ロザリア・ラムゼ二等兵――以上六名。最後にゼロン攻略部隊だが、これはアッシュ・ザム伍長の単独任務とする。何か質問は」

「ちょっ――アッシュ単独で乗り込むって、マジなの!?」

 レインが目を丸くした。他の隊員たちも同様に困惑している。

「人員不足を(かんが)み、ザム伍長には少々無理をお願いした。だが心配するな。諸君も知ってのとおり、彼は中隊において『戦人形』の異名を取る根っからの兵士だ。無論、腕も立つ。必ずや無事任務を遂行してくれるだろう」

「ザム伍長は不死兵との戦闘をすでに経験し生き延びている。適任だ」

 ザックハルトとワ―マスの補足が奏功したらしく、動転しかけた場に落ち着きが戻ったかに思われた――そのとき。

「心配なんてするもんかよ。どうせなら死んでくれた方が、こっちはせいせいするね」

 第五小隊のディックス・ランカスター伍長が吐き捨てるように言った。

「おい、アッシュ・ザム。オレはな、まだテメェを信用したわけじゃないぜ。テメェはやっぱ裏切り者で、ゼロンからお仲間いっぱい連れてオレらを襲うって筋書きなら……今ここで、この手でぶっ殺してやるけどよ、どうなんだ?」

「やめなさいってば、ディックス」

 直属の上官であるトレイシー・ミューア少尉に(いさ)められても意に介さず、ディックスはアッシュへの敵意を剥き出しにしてさらに口撃を加える。

「この際だからはっきり言うが、オレは前々からテメェのことが気に食わなかったんだよ。ちょっとばかり剣の扱いが上手いからってお高くとまりやがって、どうせその仏頂面の裏でオレらのこと笑ってやがんだろ。――なあ、ミケロ、キャスリン」

 水を向けられたミケロは無言でアッシュをねめつけた。同じく第八小隊のキャスリン・バスカ曹長もきつい口調で言い放つ。「ゼロンで死んでこいって、ムカつくから」

「いい加減にしろよ、あんたら!」

 険悪な雰囲気が漂う議場にしびれを切らし、ライが怒声を張り上げる。

「どうしてわかんねえんだよ! 敵がうようよしてる場所にたったひとりで行くって言いだしたのが、兄貴本人だってこと! ザックハルトのおっちゃんが命令したんじゃねえ! 兄貴はな、他の部隊が少しでも多い人数で戦えるように、有利になるようにって自分からヤバい役目をおっかぶってくれたんだ! それなのに――それなのにお前らは!」

 ザックハルトは頭を抱えた。図星だ。けれどそのことを、今ここで明かしてしまうのは不味い。

「自分からだぁ? そら見ろ、やっぱり人形野郎は帝国のイヌだ。これではっきりしたな」

「な、なんでそうなるんだよ!」

「バカか、テメェは! ゼロンにうようよしてんのが敵じゃなく仲間だから、野郎はわざわざ単独任務を志願したんだよ!」

「ディックスの予想は的中。仲間と合流してあたしたちを背後から襲う気なんだわ、そいつ。サイテーね」

 ディックスに同調してキャスリンは嫌悪感をあらわにした。

「バレちまったもんはしょうがねえよなぁ、おい、アッシュ・ザム」

 ミケロがアッシュに詰め寄ろうとする。すかさずニキータとワーマスがその前に立ちはだかる。

 険悪をとうに過ぎ、一触即発の緊迫した空気が場を支配する中、

「黙りなさい」

 動いたのはトレイシーだった。喉元に突きつけられたブロードソードの切っ先に、ディックスがごくりと唾を飲む。

「もう忘れたの? ついさっき、第三小隊は潔白とされ正式に中隊へ再編入になったこと。それとも、司令官の決定に不満があるってことかしら。だったら――」

 続いて彼女が取った行動が、驚愕する一同をさらに震撼(しんかん)させた。

「ディックス、あなたを反逆罪で処刑します。その行き過ぎた処罰の責任を取るという形で、わたしごと」

 トレイシーは、自身の首にも腰から抜いたダガーをあてがったのだ。

「なぁ、トレイシー。なんでそうまでして、そいつをかばうんだよ」

「かばう? 一体なんの話?」

「だってそうだろ、お前はエドワードと」

 トレイシーは本気だ。本気で自分を殺して死ぬつもりだ。上官として、部下として、彼女と長年肩を並べて共に戦ってきたディックスには、それが痛いほどよく判った。

「エドがどうしたっていうの。彼は関係ないでしょう」

「…………だよな。お前がそんな女じゃねえってのは、百も承知だ」

 脱力したように、ディックスは地に膝をついた。そして、右手で双眸(そうぼう)を覆い隠し、一言――「オレが悪かった」

 (いわ)く言いがたい静寂が議場を包んだ。

 トレイシーが二本の得物を鞘に収める音で、皆はようやく今が作戦会議の真っただ中であることを思い出す。

「少佐、失礼ですがさきほどの部隊編成に、わたしは異議を唱えます」

「というと?」

「ディックス・ランカスター伍長は、わたしが指揮する保管庫制圧部隊で預かりたいと思います」

 ザックハルトはあからさまに眉をひそめた。

「それはいかがなもんかな。ランカスター伍長とライアス・マサリクはご覧の有様だ。同じ部隊に配属するのは――」

「お願いします。二人をわたしの部隊に」

 トレイシーのひたむきな眼差しを真っ向から見返しながら、ザックハルトは言った。

「本気か」

「はい」

「……了解した、ミューア少尉。それならスターリング曹長と入れ替えだ」

「ありがとうございます」

「他に異議のある者はいないか。いないのなら、これで決定だ」

 誰も何も言わなかった。部隊編成が固まった。

「よし、では話を続けよう。一同、気を取り直して聞くように」

 すでに太陽は西へ大きく傾き、夜の(とばり)がすぐ間近にまで迫っていた。

 


「ありゃ、トレイシー姉ちゃん、なんだってこんなとこに」

「ん――ああ、ライアスくんか」

 作戦会議が終了してしばし後、無人となった池のほとりにてライはトレイシーを見つけた。

「ちょっと独りで考えたいことがあってね。ライアスくんは?」

「オイラ!? お、オイラは、その……散歩。散歩のとちゅうで寄っただけ」

 実はトレイシーと話したくて探していた、とは言えなかった。

「わりぃ、考えごとしてる最中に。もう行くよ」

「いいよ、別に大したこと考えてたわけじゃないし。それにもうまとまったし」

 トレイシーがいたずらっぽく「隣に座りたまえ、少年」と誘ってくれるのにライは素直に応じた。

「それはそうと、ウチの隊員が二度もごめんね。気分、悪くしたでしょ」

「そりゃまあ、うん、ちょっとだけ。でも、オイラだってぎゃあぎゃあわめいちまったし、別に。おあいこっつーか」

 あんなことの後だ、どぎまぎしつつも思うところを伝えられて、少しほっとする。

「ディックスってちょっとつっけんどんだけど、根は明るくていいヤツだから、許してあげてね」

「――っ! おう」

 ちらりと垣間見(かいまみ)たトレイシーは困ったような微笑の前で両手を合わせていて、その姿がどうにも愛らしく、胸がドキドキして、直視できない。ライは赤面しているのを隠そうとうつむいたまま尋ねた。

「あいつ――ディックスとは長いんか?」

「そうね、わたしがまだ平隊員だった頃からだから、三年くらいかな。同じ部隊で戦ってる」

「ふーん」

 三年という歳月が長いのか短いのか、よく判らなかった。

「あいつってね、昔からずっとああなの。直情型っていうの? とにかく裏表のない性格で、思ったことはすぐ口に出しちゃう。だから友達多いくせに敵もたくさん作っちゃって、あとで色んな人のとこへ謝りに行くこっちの身にもなれって話ね」

「今みてえにな」

「そうそう」

 二つの小さな笑い声が重なる。

 周囲はもう暗い。

 夜空に輝く黄金の満月が、寄り添う女兵士と少年を静かに見守っている。

「そういう意味では似たもの同士――かな、君と」

 ライは否定しなかった。その通りだと思った。

「けど、仲良くするつもりはないからな、オイラ」

「わかってるって。二人の仲を取り持とうなんて、そんな意図があって部隊編成を変えてもらったわけじゃないから。そこは完全に戦術的判断よ。部隊長としての」

「どうせ聞いたって教えてくんねえんだろ、くわしいことは」

「まあね。こういうのは意識しちゃうと上手くいかなくなることのほうが多いし」

 なるほどそういうものかと納得した。なのでそれ以上は追及せず、月明りに照り()える池の水面を黙って見つめていると、

「ライアスくんは、どうしてザム伍長について獄門街を出たの?」

 唐突な質問に虚をつかれる。だが、この人に自分の過去を詮索されるのはちっとも悪い気がしない。ライは少し照れくさそうに頬をかいて、答えを口にした。

「強い男になりたいんだ、オイラ」

 トレイシーは無言だった。もっと詳しく聞きたいという意思表示なのだと思うと、わずかに胸が高鳴った。

「オイラの故郷、バドゥトゥの貧民地区には、親を亡くして一人ぼっちの子どもたちがたくさんいる。自分の身をけずってオイラを育ててくれた実の姉ちゃんも。それから、すっごいバカだけど、オイラなんかよりずっとずっと腕の立つ幼なじみのダチも。そいつらを、そういう大事な人たちを守れるような強い男にオイラはなりたい。そのためには外の世界のことをもっと知らないとダメだって、そう思ったから……」

 上手く伝えられただろうか。ライは隣にいるトレイシーの横顔を恐る恐る覗き見た。

「そっか、うん」

 彼女は晴れやかに言って、こちらへと向き直った。


「きっとなれるよ、ライアスくんなら」


 そのとき、その刹那にたしかに感じた深い安らぎを、泣きたくなるような切なさを――それの正体を、

「ありがとな、トレイシー姉ちゃん。オイラ、がんばるから」

 少年は今夜、ついに最後まで知ることはなかった。



 翌朝。

 気象観測兵の予報は完璧とまではいかないものの的中し、宿営地周辺には薄霧が漂っていた。

 予報の精度にはそれなりの定評がある彼女の見解によれば、夜半に降り始めた雨の勢いが見込みよりも弱かったためらしいが、果たしてこのぼやけた視程(してい)が今後の戦況にいかな影響を与えるのか――。

「諸君、準備はいいか」

 ザックハルト・マッカージはかすかな不安を振り払う。

 失敗が許されない本作戦。もしも自分たちがしくじり、クラスタが完全に帝国の手に落ちれば、王国全土が侵攻の危険にさらされる。無論、当宿営地に残していく者たちもすぐさま皆殺しにされるだろう。そんなことを許すわけにはいかない。絶対に。

「最後にもう一度だけ、重要なことに絞って確認するぞ。クラスタに突入する三隊のうち、保管庫制圧部隊と庁舎襲撃部隊は発破後迅速に双方の目標地点へ向かえ。いいな、音を聞きつけた敵が現場に殺到する、その前に必ず離散するんだ。こちらの狙いや戦力を決して相手に悟らせるな。俺たち陽動部隊はご承知のとおりだ。発破地点に集まった敵を片付けたら、事前に取り決めた道順に従い駐屯地区内を派手に暴れまわる。そして、全隊ともに忘れるな。街に取り残された民間人や仲間のことは、作戦終了まで極力無視せよ。残酷なようだが、クラスタを取り戻せなければさらなる犠牲者が出るのは必至だ、それも王国領内全土で」

 す、と双眸を細め、ザックハルトは重々しい口調で集まった隊員たちに言った。「俺たちは兵士だ」

「兵士の職務は任務をまっとうすることだ。それがすべてであり存在理由だ。耐えられないヤツは辞めちまえ。故郷(くに)へ帰って違う職を探せ。パン屋や宿屋がイヤなら涼しい顔で平気だとうそぶけ。武器を握り、目を開け耳を澄ませ、肝に銘じろ。これは奪還作戦である。救出作戦ではない。……以上、各員健闘を祈る。王国兵の誇りと意地を見せてやれ」

 赤いマントの裾をひるがえしてさっさと歩き始める指揮官の背に、三列縦隊で整列した部隊の一つ、ニキータ・ミルグラム中尉以下陽動部隊の面々が続く。さらにその脇を固めるように保管庫制圧部隊と庁舎襲撃部隊が同時に動き、単身ゼロンへと乗り込むアッシュもまた、彼らから少し離れた位置より進撃を開始する。

 見送りはなかった。

 集合場所である池のほとりの薪割り場から雑木林を抜けるまでに、民間人の男児二名がきょとんとした顔つきでこちらを見ていたことを除けば。

 朝霧の中を部隊は営々と進む。

 アッシュはいつの間にか隊から離れていなくなっていた。ライがそのことにまったくといっていいほど気づかなかったのは、前へ前へと足早に進む屈強な兵隊たちに遅れずついていくので必死だったからだ。

 そうして半刻強ほど行軍を続けた頃だろうか、一行の行く手にレンガ積みの城壁が姿を現した。高さにして約六メートル、灰白色の矩形(くけい)を規則的に積み上げたそれは、まぎれもなくクラスタの街を(めぐ)る防御壁であった。

 隊員たちの緊張がじわじわと高まる中、ふくよかな胸の上部から腹部、腰部へと及ぶ臙脂色(えんじいろ)のボディアーマーで美々しく武装したニキータが前に出る。その手には二本の爆薬とマッチ箱が。

 そして――。

 適当な場所を見定めて着火。ニキータは素早い動作で身を退()く。

 直後に鼓膜をぶち破るような爆音とともに城壁が吹っ飛び、クラスタ奪還の任を帯びた三隊は一気呵成(いっきかせい)に街の中へと突入した。



 ザックハルトら陽動部隊を発破地点に残し、他二隊は当初の計画どおり速やかに進撃を開始した。彼らが目指す兵器保管庫と庁舎は一般に『行政区』と呼ばれる軍駐屯地区の中枢にあって、その中でも前者は北端に、後者は中心部にそれぞれ屋舎(おくしゃ)を構えている。

 碁盤目状にきっちり区画整理された行政区において、双方の目的地へと至るもっとも簡略な経路は、南北を一直線に貫く目抜き通りを行くことである。しかし、それではあまりに敵の目につきやすく、途中で進行を妨げられるおそれがあるとの懸念から、一行はあえて狭い裏道を選んで慎重に先を急ぐ。

「前方の三叉路(さんさろ)に見えているのは図書館だな。よし、庁舎襲撃隊はあの次を右に曲がるぞ」

 隊長であるワーマス・デュバル大尉の指示に隊員たち――レイン・ヒッチコック上等兵、キャスリン・バスカ曹長、ダンケル・ハミルトン軍曹、ソフィア・スターリング曹長、ノーラン・オルソン伍長が各々(おのおの)首を縦に振る。

「気をつけてね。ここまではなんとか敵に見つからず来れたけど、この先もそうとは限らないから」

 ワーマスと並んで先陣を切るトレイシー・ミューア少尉が、彼らに注意を(うなが)す。

 トレイシーの(げん)相違(そうい)なく、ここへ到達するまでの間に遭遇した敵兵は皆無。幸いといえば幸いだが、敵どころか野良猫一匹とて見かけない現状はどこか不気味でもあった。

 (ある)いは何らかの罠だとして――しかしその全容はようとして知れない。今はただとにかく、何が起きても対応できるよう深く注意を巡らせて進む(ほか)(すべ)はない。

「わたしたちはこのまま直進よ。遅れずついてきて」

 間もなく差し掛かった分岐路で一団は元の二つの部隊に分離した。

 ワーマスを筆頭とした庁舎襲撃部隊は右折後すぐに左手の建物――軍司令部が入る目的の場所へたどり着き、石造りの高塀(たかべい)に揃って張りついた。

「一階から四階まで、くまなく捜索するぞ。どこかに指揮官のオルフェン少尉がいるはずだ」

「いるはずって、いなかったらどーすんのよ」

 レインが怪訝(けげん)な顔つきで言うも、ワーマスは落ち着き払った態度で、

「それなら他の場所を捜索するしかない。作戦会議でもそう説明されただろう」

 聞いていなかったのか、との相手の視線にレインは心底うんざりする。アッシュといいこいつといい、仏頂面の男はどうもいけ好かない。特に理由はないがなんだかムカつく。

「見つけたら殺っちゃっていいの?」

 キャスリンが問う。即座にうんざり顔を含み笑いに転じて、レインが言う。

「ムリムリ、ルドラーは化け物の中でも特別ヤバいヤツなんだから、アンタにはムリ」

「あぁ? よく聞こえなかったなぁ、もっぺん言ってみてよ」

「だからー、アンタじゃルドラーは殺れないって。雑魚はデカい口叩いてねえですっこんでな」

「てめっ――ヒッチコック! いっぺんヤツと戦ったからって、調子こいてんじゃねえぞ!」

「やめろ、貴様ら」

 静かに、だが威圧感たっぷりにワーマスから制止され、二人は口を(つぐ)んだ。苦々しい面持ちのキャスリンに対し、レインはべーと舌を出す。

「オルフェン少尉の戦闘力が未知数なのは、ザム伍長の報告にあったとおりだ。本来であれば捕縛(ほばく)して尋問したいところだが、そうもいかないときは全員で殲滅する。これで満足か、バスカ曹長」

「どーもご丁寧に。隊長さん」

 キャスリンは肩先まで伸ばしたショートヘアの毛先をしきりに指で(もてあそ)びながら、ひどく憎らしげに応えた。そんな彼女の苛立ちを知ってか知らずか、ワーマスはすぐ近くの朱塗りの木扉を庁舎裏手の通用口と見定め、隊員たちに告げる。

「突入するぞ。各員、気を抜くな」

 息を()らして建物内に踏み込んだ六名は、細い通路を早々と抜けて一階ホールへ出た。

 そこは案の定ひどく荒らされていた。室内の壁に沿ってL字型に配されたカウンターの向こう側を見れば、兵器保管庫からの物品持ち出しや休暇の取得など、各種許可申請を処理する事務方の部署は書類が散乱し、机も椅子もほとんどがなぎ倒され、さながら暴風が行き過ぎたかのような有様。おまけに血が――大量の飛沫(ひまつ)がそこここでどす黒く凝り固まり、かつてこの場所でどんな行為が繰り広げられたかは想像にかたくない。

「死体が見当たりませんね。やはり野放しにしておくと腐敗するからでしょうか」

 階段脇に大きく掲げられた部隊員用掲示板の前に立ち、ソフィアが言った。ここにも誰のものとも知れぬ血が点々と付着している。

「なぁ、ヒッチコックさぁ、不死兵って人間を喰ったりもするのか?」

「知らね。でも、そんなことしてるヤツ、少なくとも廃村にはいなかったっぽいけど」

「だったらスターリングが正解だな。腐って臭うとかなわないから、どっかよそに捨てて来たんだろ」

 カウンター内の惨状をためつすがめつしながら話し合うノーランとレインの横で扉が開いた。中から出て来たのはワーマスだった。

「倉庫の中は異常なし。これでこの階はあと便所だけだが――」

「それなら今、僕が確認してきました。死体も敵も見当たりませんでした」

 第六小隊所属の好青年ダンケルが、報告と共にワーマスの髪に絡みついた蜘蛛の巣を払う。つんつんと毛束ごとに逆立てた彼の髪型には凝固剤が必須であり、そのせいでなかなか取り除けない。

「ハミルトン軍曹、もういい。それより上階へ進むぞ」

「いえ、もう少しなので、じっとしててください」

 几帳面かつ清潔好きなダンケルの気持ちは理解できるが、あいにく今はそんなことを気にしている場合ではないと、一行は二階へと続く階段を上った。

 二階は財務、総務、都市整備部といった各部署の事務室が入っている。六名はそれらすべてを一室一室入念に検分(けんぶん)したが、どこも状況は一階と大差なく、帝国兵も生存者も一人たりとて確認できなった。

 続く三階も同じだった。二部屋ある作戦会議室と、広大な書庫に人影は見られない。

 残るは四階だけだ。この階がもぬけの殻なら捜索は振り出しに戻ることとなる。だが、庁舎でないとすれば敵の本陣は一体どこに――? 漠然と漂う諦観(ていかん)や焦燥感を振り切るように進んだ先にて、彼らははたと足を止めた。場所は円卓会議室と呼ばれる、もっぱら重要事項を合議するための特別な部屋。そこから漏れ聞こえてくる声にはたしかに覚えがあった。

「いるな。間違いない、オルフェン少尉だ。他にも二――いや、三人か。これなら数の上ではこちらに分がありそうだな」

 両開きの扉の前でワーマスは呟いた。次いで隊員たちに目配せする。準備はいいかとの問いかけに、緊張というよりは闘志を満面にみなぎらせる銘銘(めいめい)から承知の意が返ってくる。

 そして――ついにその瞬間が訪れた。

 扉を蹴り開けるワーマスの後に続いて部隊は室内へなだれ込んだ。

「やはり指揮官は貴様か。帝国に寝返ったというのはどうやら本当だったようだな」

 果たしてそこに標的となる人物はいた。文字通り円環状に組まれた卓の、こちらから見て最奥できらびやかな金色の全身甲冑を(まと)い、にやにやと冷笑を浮かべて頬杖をつく彼は、

「ようこそ、我が元同胞たちよ。待ちわびたぞ」

 かつて自らが率いる第三小隊の面々を地獄の戦地へと誘い込み、さらには不死兵としての正体を現し彼らと激闘を繰り広げた狂気の魔人――(まぎ)れもなくルドラー・オルフェン少尉その人だった。

「おおっと、怖い怖い。再会の挨拶も抜きにしていきなりそれとは、またずいぶんと嫌われたものだな、この私も」

 ボウガンや槍や剣、一斉に敵意をあらわにして差し向けられる数々の戎具(じゅうぐ)を見て、ルドラーはわざとがましく両手を挙げた。間髪入れずにレインが吠える。

「黙りやがれ、ルドラー! てめぇ、自分が一体ウチらに何してくれたか、まさか忘れたってんじゃあねえだろうなぁ!」

「おや、誰かと思えばヒッチコック上等兵ではないか。下品で下劣な女っぷりは、死に損なっても相変わらずというわけか」

「うっせえってんだよッ!!」

 左右非対称に引きつった顔面がいっそう醜悪な形にゆがむ。

「あんたの裏切りのせいであたしがどんだけヒドい目に遭ったか……! クソ気持ち悪い化け物どもに殺されかけて、(ふっか)い川に落っことされて、たどり着いた先ではガキのお守りに帝国の襲撃、どうにかやり過ごしたと思ったら今度はゴブリン!? オーク!? マジ信じらんない! それもこれも全部全部、みんなまとめててめぇのせいだろうがぁぁぁぁ、ルドラーーーーーーー!」

 レインの怒りは治まらない。相手の頭部に照準を合わせたクロスボウの引き金を、今にも絞りそうな気勢でわめき散らす。

「許さない! 許さない許さない許さない、絶対に許さない! あたしをコケにしやがって、てめぇだけは必ずぶち殺してやるから覚悟しろや!」

「――だ、そうだが、貴官もそのつもりかね、第七小隊隊長『突撃蜂』ワーマス・デュバル大尉」

「それはこれからの貴様の態度次第だ。こちらの質問に正直に答え、かつ無抵抗で投降して捕虜になるなら命までは奪わない」

 腰を浅く落とし、両手でパルチザンを構えるワーマスが無感情に言った。

「一問一答形式だ。遅滞(ちたい)なく答えろ。まず、貴様は帝国に寝返ったのか」

「そうだ」

「クラスタを占拠している部隊の隊長は貴様か」

「いかにも」

「不死兵について、詳細を述べる気はあるか」

「ない。残念ながらな」

「投降の意思は」

「そちらも同じく」

 さらりと言ってのけるルドラーに襲撃部隊の隊員たちは気色(けしき)ばんだ。投降しないということは、やはりこいつは今この場で自分たちと戦りあうつもりなのだ。

「では、これが最後の質問だ。この部屋には貴様の部下は何名いる」

 一瞬、ワーマスが何を言っているのか判らず、彼の仲間は誰もが昂揚(こうよう)しかかった戦意を持て余した。

「今現在、貴様の脇に控えているのは二名だが、こちらはたしかに扉の前で三人分の声を聞いている。答えろ。もう一人はどこだ」

 一同はそれを聞いてはっとした。

 そういえば、突入前にワーマスは言っていた。ルドラーの他に室内には三人いる、と。

 しかし、ラメラーアーマーで武装した奴の手下と(おぼ)しき兵士は、どこをどう見ても二人だけ。これでは辻褄が合わない。

 ――よもや、ワーマスの聞き違えでもあるまい。

 そう思った直後だった。

「ぐっ――ごぉ!?」

 刃が、ノーランの喉頚(のどくび)を刺し貫いた。



「中尉!」

「…………」

「ニキータ・ミルグラム中尉っ!」

 怒鳴りつけられるようにして名前を呼ばれ、ようやくニキータは我を取り戻した。

「失敬、マッカージ少佐。ジブンどうも声を聞いた気がしたので」

「声――だと? 一体なんの話だ!」

 ニキータは少し考えてから、

「いや、きっと思い過ごしでしょう。忘れてください。それよりも――」

 愛すべき陽気な部下の囁きを耳の奥より追い払って、周囲を見渡した。

 乳白色の朝霧の中にいくつも浮かぶ建物のシルエット。それを背に居並ぶ十数名の帝国兵は、いずれも度重なる攻撃によって深く傷つき、大量に出血し、もはや立っていることすらままならない――否、とうに絶命していて(しか)るべき、異常極まりない生物の群れと化してこちらを取り囲んでいる。

 彼らはクラスタ突入直後に現れた。その際すでに庁舎襲撃部隊と保管庫制圧部隊は現場を離れており、当初の計画では発破の音に驚いて駆けつけてきた連中を蹴散らせば、あとは駐屯地の中を敵の目を引きつつ駆けまわるのがザックハルトら陽動部隊の任務だったのだが、

「まさか不死兵がここまで厄介とは。話には聞いていましたが、ジブンも正直想定外です」

「まったくだ。これじゃあ俺たちの部隊は陽動どころか、このまま何もできずに全滅だな」

 互いに背中を預け合い、揃って不快な汗を流すザックハルトとニキータの足元には死体が一つ転がっている。

 ミケロ・デミートリアス曹長。

 開戦と同時にレンダ・シーウェル軍曹およびマイヤー・ダリン一等兵を(ともな)い敵陣に攻め入り、何名かの目標を得意の槍術で片づけたものの、死なずに襲い掛かってきた相手の剣に胸を貫かれ、それが致命傷となってあえなく死亡した。なお、同じくレンダは生きたまま全身の臓器という臓器を体外に引きずり出され、マイヤーは斧や戦槌を持った不死兵らに人としての原型を留めぬまでめった打ちにされ、いずれも死んだ。(むご)たらしい光景だった。

「しし、ししし、死にたくない、死にたくないよ。こっ怖い、怖い死にたくな、死にたくない、死にたくない怖い」

 下士官隊員勢の中で一人だけ生き残ったロザリア・ラムゼ二等兵がミケロの遺骸の横でうずくまり、がたがたと震えている。仲間の無残な死にざまを目の当たりにしたことで彼女の精神は深刻なダメージを負ったらしく、尿はおろか便まで垂れ流し、瞳の焦点はどこにも定まっていない。

「さてと、このいかんともしがたい状況を貴官ならどう切り抜けるね、ミルグラム中尉」

 ザックハルトが冗談めかして言うと、ニキータは薄い唇の端を不敵に吊り上げた。

「全力で行くしかありませんな。誠に不本意ながら、もうそれしかないかと」

「ほう、それでは」

「はい。少佐はラムゼ二等兵を頼みます。こいつらはジブンが責任を持って掃除しますゆえ、どうかこの場で待機を」

 ふ、とザックハルトは鼻を鳴らす。エリスルム王国軍内において『天才』との(ほま)れ高い彼女の言葉が実に心強い。事実、単純に戦闘力だけを比較するなら、自分よりもニキータの方が遥かに勝っていることを彼は知っている。

 アッシュも然りだが、ほんの少し世渡りが下手なだけで階級の上がらない古い軍の体質はどうにかならないものか。この作戦が無事終了した暁には、一度その点を上層部に強く申し立ててみてもいいかもしれない。

「それでは、エリスルム王国軍中央師団特務防衛中隊ニキータ・ミルグラム中尉、これより()して参り――」

「ママぁ、あたし死にたくないよ、ママぁぁぁああああーーーーーー!!」

 今まさに敵陣に(おど)り入ろうとしていたニキータは虚を突かれ、そして我が目を疑った。

 絶叫の主はロザリアであった。けだし精神の均衡(きんこう)を崩して狂乱したのだろう、突如として立ち上がり、戦死したミケロの槍を手に不死兵の群れへと猛進していく。ニキータは反射的に後を追う。

「ミルグラム中尉はそこにいろ!」

 と――そこへザックハルトが割って入った。ロザリアに追いすがろうとするニキータを置いて赤いマントが、マントに刺繍されたエリスルム王国の碧狼の紋章が、みるみるうちに遠ざかる。

「少佐!」

 差し伸ばした腕の先、すべてはあっという間の出来事だった。


 突き出した槍は敵の一人に深々と突き立ったが、その代償にロザリアの足は止まった。

 ザックハルトが追い付き、彼女の肩を(つか)んで引き戻そうとする。

 大量の不死兵が二人に殺到して、

「あぎゃ、ひぇ、ここ、ころしゃないで、いだっ、いだいいだいいっっっ、いだいいいいいいぎぎぎぎぎぃぃぇぇぇ!!」

 絶望と苦痛に満ちたロザリアの断末魔。

 立ち尽くすニキータの足元に何かが落ちてきた。

 ザックハルトの引き千切られた頭部だった。


「少佐…………はい、たしかに承りました」

 かっと見開かれた双眸に向かって、ニキータは呟く。

「王都におられる奥様とご息女にはジブンが伝えます。少佐は窮地に陥った部下を救うべく最後の最後まで勇敢に敵と戦い、名誉ある死を遂げられた――と」

 そのとき、一陣の風が吹いて、朝霧が消し飛んだ。

 駐屯地句の南端、広い目抜き通りの最果てに集う奇怪な軍勢の全貌がつまびらかになる。

「いやはや、いつの間にこんなに増えたんだか。それにしても君たち、よくもまあそんな状態で生きていられるなぁ。感心してしまうよ、ジブンは」

 ニキータは蓬髪をがりがりとやって、ざっと三十名ほどに膨れ上がった満身創痍の兵隊の群れを睥睨(へいげい)した。

「ま、いっか。これだけいれば研究には充分だ。せいぜい見極めさせてもらうよ、君らの弱点」

 素っ気なく言ったかと思うと石畳を蹴る。肉迫は一瞬。フルプレートを纏った兵士の胴に両脚を絡めて組みつき、ヘルムのバイザーを跳ね上げる。そして露出した顔面に針を突き刺す。何度も何度も右腕を前後させ、鉄串のような太く長い針で滅多刺しにする。

 ニキータの武装はかなり特殊だ。高強度が売りのバンデム鉱で鍛えたニードル三本が付属するこの手甲と、

「うん、死んだな。とすると脳なのか……おい、そっちの君」

 腰背部に水平に差した剣。こちらは内部に伸縮製の鉄索条(てっさくじょう)が走っており、ニキータが数メートル先の軽装兵に対して振るうとたちまち刀身が分離し、さながら鞭のような形状となって頭部を真横から切り飛ばす。しかし、脳を輪切りにされても事切れる様子はなく、敵は長剣をかざして向かってくる。

「ありゃりゃ? だったら次はあそこだ」

 横たわるフルプレートを足蹴にニキータは前進を開始した。元の形に戻った鞭剣(べんけん)を早々に鞘へ収め、代わりに太腿のホルスターから今度は分厚く短い刃が特徴的なカタールを抜いて左腕に装備し、

「あらよっと」

 軽装兵の左胸をレザーメイルごと(えぐ)り取る。実に鮮やかな手並み。心臓を丸ごと摘出された相手は地に伏して動かなくなった。

「ふーむ、どうも解せないなぁ。脳と心臓、どっちかが急所ってことなんだろうか」

 針を備えた手甲――ニードルアーム、伸び縮みする鋭利な鞭剣、カタール、さらには各部に柔らかい布素材を用いて豊満な肉体を締め付けないよう配慮された臙脂色のボディアーマー。これらはすべて、ニキータ・ミルグラムという希代の才能がより多くの敵兵を屠るために設計・開発された専用装備である。

「こうなったら全員解剖して調べてみるしかないね。面倒だけど」

 特務防衛中隊に所属する六十四人の隊員中、広く皆に知られた特別な通り名を持つ者は四名。

 任務遂行のためなら何でも壊し殺す戦争の申し子、『戦人形』ことアッシュ・ザム伍長。

 神速の二刀剣術で敵対者を完膚なきまでに切り刻む、『肉削ぎ』ことアンジェリカ・タロン軍曹。

 虚空を飛び回るおびただしい蜂を槍の一突きで何匹も串刺しにする、『突撃蜂』ことワーマス・デュバル大尉。

 そして、

「じゃあ、始めようか」

 エリスルム王国軍で唯一人、特定の兵科に属することを免除された戦闘の『天才』ことニキータ・ミルグラム中尉。

 火がついたように自身へと挑みかかってくる不死兵たちを、蓬髪巨乳の彼女は怯むどころかうっすらと笑みさえ浮かべて迎え撃つ。

 上から右から左から、一斉に仕掛けられた武器の数々が空を切り、地を穿(うが)つ。ニキータはもうその場所にはいない。武器が描く軌跡を事前に見極めることで、すでに回避を終えつつ目標の背後へと回り込み、攻撃態勢まで整えている。

 ミチミチッ、と右腕の筋肉が引き締まる。続けて繰り出されたニードルの一撃がスケイルメイルで武装した兵士の背中を突き破った。ニキータは貫通の手応えとほぼ同時に腕を引く。ニードルの尖端(せんたん)が体内に留まるようにして、肘の角度を強引に変え、かき回す。執拗に、徹底的に、金属製のニードルで骨も肉も内臓も破壊し尽くされ、不死兵は機能停止に追いやられる。 

 ニキータの攻勢は止まらない。同手法で他二体の不死兵を無力化すると、お次は手近にいる比較的軽装な者に的を絞り、カタールで彼らの胸から下腹部へと正中線(せいちゅうせん)に沿って切り開く。

 くびきを失い、色とりどりの臓器が鮮血を伴い次々と体外に吐き出される様を見ながら、

「当たらないよ、そんなものは」

 垂直に跳ぶ。槍による真後ろからの刺突を、まるで後頭部にもう一つ目があるかのような絶妙な間合いでかわす。そうして空中に居場所を移したニキータはすかさず鞭剣を抜き、目にも止まらぬ速度で一回、二回、三回転。周囲を取り囲む不死兵たちをずたずたに切り刻み、解体した。

 ほどなくニキータによる血みどろの解剖ショーは終了した。当初三十名以上いた敵は一人残らず殲滅され、あとには種々雑多な人体の部品だけが累々と横たわっている。

「こいつの脳には異常なし――と。こっちの奴の心臓はどうかな。あ、そうだ、念のため膀胱や前立腺なんかも見ておくか」

 ニキータはそれら一つ一つを手に取ってはしげしげと眺め、必要とあらばより細かく裁断し、調査を進めていく。その結果――

「ふむふむ、そういうことね。なんだ、タネが判れば意外とどうってことないな。まあこれはこれでなかなか厄介な敵と言えなくもないけどさ」

 不死兵にまつわる謎の一端を解明したのも束の間、天才兵士はこちらへと急接近する濃密な気配を察知しゆらりと立ち上がった。

「君か。ルドラー坊ちゃんと一緒に帝国へ寝返ったという話だったが――なるほど、同隊の連中も引き連れてとはね」

 ゲイル・フィチカ伍長ら諜報を主任務とする特務中隊付き第一小隊の隊員たちは、薄く(わら)うニキータの全身を今にも舐めまわさんとするように、トカゲのような長い舌をべろべろと蠢かせた。



 自分はもう助からない、すぐに死んでしまうのだと確信すると、今さらながらに後悔の念が沸き起こった。

 ――こんなことなら、もっとちゃんとオレの気持ち、隊長に伝えとくんだった。

 意識が消滅する間際、ノーラン・オルソン伍長が見たのはとある女兵士の凛とした横顔――その幻影であった。

 口から血を吐き、倒れゆく仲間の姿を庁舎襲撃部隊の隊員たちは茫然(ぼうぜん)として見送ることしかできないでいた。

 目の前で起きている事象に対して、頭では理解できていても、行動が伴わない。ノーランを助けるべきか、彼を襲った敵を攻撃すべきか、はたまた己が身に危険が及ばないよう退くべきか――事実上この三つしか選択肢はないのだが、それにすら考えが及ばず、ただただ放心して突っ立っていた。

 たった独り、ワーマス・デュバル大尉を除いて。

 突撃蜂とあだ名される愚直な兵は迷わず二つ目の選択肢を選び取り、即座に実行へと移した。

 敏速(びんそく)な踏み込みから一息に解き放たれるパルチザンの連続刺突。ぎらぎらと凶悪な輝きを発する三角の穂先が、頭上より卒然と舞い降りてきた奇妙な襲撃者をたちまち穴だらけの無残な姿に変える。さらにワーマスはとどめとばかり、鳩尾(みぞおち)付近への最後の一刺しをより深く決めると、相手を串刺しにした状態で槍を力任せに打ち振るう。ぐんっ、と一瞬天井近くまで高々と(かか)げられた襲撃者は、そのまま円卓へ。かくてすさまじい破壊音とともに一連の攻撃動作は完了した。

「そうか、第一小隊隊長オズワルド・カーン少尉。素手で天井に張りついていたとなると、こいつもすでに不死兵だな」

 砕け散った木片に埋もれてぴくりともしないかつての同胞から、槍を引き抜いた。

「追加の質問だ、ルドラー・オルフェン。街の人間はどうした。どこかへ隠したのか」

「さてな、答える義務はなかろう」

 ルドラーは革張りの豪奢(ごうしゃ)なアームチェアに座したまま、突きつけられたパルチザンの穂先を見て小さく嗤った。

「まあいい。せっかくこうして出向いてくれたのだ、少しは期待に添うてやろう。捕虜となった生存者は全員すでに帝国本国へ移送済みだよ。なに、彼らにはちょっとした実験の手助けをしてもらうだけさ。じきにまた会える」

 あの世もしくは戦場でな、との言葉が終わるや否や敵兵二名が襲い掛かってきた。

 ワーマスは瞬時に彼我(ひが)の距離を測る。射程内に入ったと同時、双方とも先のオズワルドのごとく蜂の巣にする算段である――が。

「帝国兵どもめ、そうはさせるか!」

「大尉、ここは僕らに任せて、大尉はオルフェン少尉を!」

 迎撃の必要はなかった。ソフィアとダンケルが敵の前に立ちはだかり、それぞれ斧と長剣で急襲を受け止める。

 即席の部隊にしては見事な連携だと、ワーマスは視線だけで二人に応じる。彼の背後では横並びになってクロスボウを構えるレインおよびキャスリンが。弩兵(どへい)らの黒星は無論、ルドラーの剥き出しになった頭部。呼吸を合わせて一斉に狙い撃つ。

「くだらん」

 空を切り裂き進む矢は、されど命中することはなかった。二本とも標的が眼前にかざした右手人差し指と中指の間に挟まれ、あっけなくへし折られた。驚くべき反応速度だ。

「まったく、どれも無能なクズばかりが揃いも揃ってきぃきぃ(わめ)き立てよって」

 椅子を離れ、ルドラー・オルフェンは地に降り立つ。

「よろしい、私もそろそろ()いたのでな、これにて感動の再会劇はお開きとしようではないか」

 甲冑の背面部を砕いて出現した蜘蛛のような六本の巨脚(きょきゃく)が、狂わしげに虚空を引っ掻く。

「来い。真なる絶望というものを、この私が教えてやる」

 魔人の額に開いた第三の眼が、ワーマスたちを無慈悲に見下ろしていた。



 庁舎襲撃部隊と別れて裏路地を進むことしばし、保管庫制圧部隊もまた無事に目的地周辺にまでたどり着いた。

「視認範囲内に敵兵の姿はなし……。よし、みんな、行くわよ」

 隊の指揮を執るトレイシー・ミューア少尉に付き従い、ディックス・ランカスター伍長とヴェン・ラブラ少尉、そしてライアス・マサリクとベアトリーチェの四名は大通りへと歩み出る。保安対策上、兵器保管庫には庁舎で見られたような勝手口が一切存在せず、建屋(たてや)内部へはこの通りに面した通用口を使う他に侵入の手立てがない。

 石畳で舗装された幅広の街路を、一行は迅速かつ用心深く進軍する。安全確認が成されたとはいえ油断は禁物だ。斯様(かよう)な開けた地形で敵と出くわせば、仲間を呼ばれてあっという間に包囲されてしまう恐れがある。おまけに朝霧の影響で視界も悪いとくれば、自然と足取りは慎重にならざるを得ない。

「な、なんとか到着できましたね。この先はどうしましょうか」

 間もなく長屋状の建物の外壁に無骨な金属製の扉が現れると、ヴェンが顎にしたたる汗を(ぬぐ)いながら言った。極度の緊張のせいか、発汗だけでなく顔色もすこぶる悪い。

「どうするもこうするもないだろ。オレらはここを押さえに来たんだから、中へ入るに決まってんじゃねえか」

「あ……やっぱ、そうですよね」

「ったりめーだ。そんなことも判らずによくもまあ小隊長やってられるな」

 ボケが、とディックスに罵られ、彼よりも上級であるずのヴェンはがっくりと肩を落とした。

「そうね、中へ入ってまずは生存者がいないか確認しないと。もちろん敵の排除も兼ねて」

「隊長さんよ、出入り口はこの一つっきゃないンだろ? だったらあたいが見張り役としてここに留まるよ。みんなで雁首(がんくび)揃えて突入して、あとから敵がやって来て袋のネズミ――なんてことになったら目も当てられないからね」

 ベアトリーチェの進言はもっともだった。彼女の実力を知らないライ以外の面子(めんつ)にとっては、女性一人を置き去りにすることにいささか不安や抵抗はあるものの、所持する武器の性質などから結局それが最善と判断された。

「では、これより内部に侵入します。暗くて狭い上に死角も多いから、各員警戒を(おこた)らないで」

 ベアトリーチェを戸口に残し、他の隊員たちは建屋内へ入った。

 扉を開けた先、保管品の入出庫を管理する受付は無人だった。特に荒らされた形跡もない。

 ディックスが受付台の下に掛けられた鍵束を取り上げ、トレイシーに差し出した。

「どっちから攻めるんだ。武器か、防具か」

「先に武器庫を調べましょ。そのほうが手っ取り早いしね」

 兵器保管庫は、現在地である管理室を起点として南北に伸びる縦長の建築物であり、南側に防具、北側に武器、南側の地下に爆薬などの道具類と、それぞれ分けて収蔵されている。

 物資の持ち出しを希望する隊員はまず庁舎にて申請を出し、許可証を受け取った上でそれを本受付に提示して、係員に該当箇所への扉を開錠してもらう。そして、必要な物資を集めた後はまた改めて受付に寄り、出庫品の内容に事前申請との齟齬(そご)がないか厳しいチェックを受け、合格の判定が出た場合のみ持ち出しが許可される仕組みとなっている。

 こうした厳重な管理体制は言わずもがな物資の横領を防止するためだが、中にはレインのように係員を何らかの方法で言いなりにして、ちょろまかす者もごく少数ながら存在するというのが現実である。

「ライアスくん」

 武器庫へと続く鉄扉の前で、トレイシーがすぐ後ろのライを振り返った。

「平気? 怖くない?」

「な、なんだよ、急に。怖くなんかねえってばよ」

 ライは思わず面喰う。いかにも兵士らしいきりりと引き締まった表情から一転、トレイシーは宿営地で見せたような優しげな微笑を満面に湛えている。

「ごめんごめん、子ども扱いして。怒った?」

「別に、そんなことねえし」

 そう。違う。ガキ扱いされたとは思っていないし、怒ってもいない。

 むしろ逆だ。

 トレイシー姉ちゃんは笑ってるほうが素敵だよ――なんて、そんな大人の男みたいな気の利いた台詞(せりふ)を胸中で呟く自分がなんだかひどく情けなくて、空しいだけだ。

「トレイシー、バカやってないでとっとと進もうぜ。時間がもったいねえ」

 最後尾のディックスがあからさまに険のある声で言ったのを聞いて、少年の気持ちはよりいっそう(ふさ)いだ。まるで彼に心中を見透かされ、嘲笑われたような気分だった。

「ほら、開いたぜ。進めよ、ライアスくん」

「わかってる。せかすんじゃねえよ」

 そうしたライのじくじたる胸のうちとは別に作戦は続く。

 武器庫はしんと静まり返っていた。一行は息を殺し、大人二人がどうにかすれ違える程度の狭隘(きょうあい)な通路を、一歩一歩踏みしめるようにして進んでいく。左右に連続する凹状の小空間には長剣や短剣といった各種刀剣類の他、槍、斧、槌、弩弓と様々な戎具がきっちり分類別に仕分けられ、整然と並んでいる。

「妙だぜ。ここも誰かが手を触れた様子がまったくねえ」

「本当ですね。まさか、敵は保管庫に入っていないのでしょうか」

「バカ言え。どこの世界に攻め落とした敵基地の兵站を奪わない軍隊がいるってんだよ」

 ディックスとヴェンがひそひそと話し合っていると、

「待って。前方に誰かいる」

 鋭い声でトレイシーが言った。

 えっ――と咄嗟に彼女の視線を追うディックスたちにも、見えた。

 人が、最奥から一つ手前の保管場所に座り込んでいる。ブリガンダインに身を包んだおそらくは男だろう、こちらに背を向けて壁にもたれ、床に両脚を投げ出した格好で。

「いい、みんな。わたしが合図するまで仕掛けないでね」

 生きているのか死んでいるのか。

 敵か味方か。

 それら一切が不明の相手へと、一同は各々武器を握る手に力を込めつつ、ゆっくりと近づく。

 窓のない乾いた石造りの部屋。

 ぴんと張り詰めた空気。

 鎧のこすれる小さな音。

「エ…………エド、ワード……?」

 やがて、煌々(こうこう)と灯るランプの下で、まず真っ先に息を飲んだのはトレイシーだった。

「それって――」絞り出すようにして紡がれたその名にライは目を剥いた。「それって、なあ、トレイシー姉ちゃん!」

「しっかりしろ、エド! オレだ、ディックスだ!」

「アーミテージ少尉、聞こえていますか!? 助けにきましたよ!」

 敵に発見されるおそれも(かえり)みず、仲間が口々に呼びかけるも、年若い男性兵士は一向に反応を示さない。

 ――どこにも目立った外傷はないのになぜ。

 困惑の色を浮かべるディックスたち。まさかもう手遅れなのではと、誰もが最悪の結末を思い描いて押し黙るのとは裏腹に、

「エド、待たせてごめんね。さ、目を開けて、一緒に帰ろう」

 トレイシーは――彼の恋人だけは、己が愛する人の生存を信じて疑わず、そっとそばに寄り添った。

「もう二度と、あなたを独りになんてしない。約束するから」

 兜を脱いで下に置き、頬と頬をすり合わせる。

「だから、起きて。起きてわたしを見て、名前を呼んで。お願いよ、エドワード」

 或いは彼女も覚悟していたのかもしれない。

 切なげに閉ざした瞳から、一滴の涙が。

「うっ……トレイ……シ……」

「――っ」

「トレイシー、なのか……」

「そうよ、わたしよ、エド!」

 ぱっと華やぐトレイシーの顔を見て、エドワードは言った。


「ぅお、ぅおレぇにぃ、ぢがヅぐなぁ」


 温かな液体が皆を濡らした。


「あぁ」


 ライは無意識の内に、

 トレイシーの左側頭部からこぼれ出た灰色の物体に手を伸ばし、

 慌てて中へ戻そうとして、

 でも失敗して、

 ライは、

 ただぼんやりと掌の上を、

 灰色の物体を、

 まばたきもせずに見つめていた。


 トレイシーの頭部を素手で易々(やすやす)と破壊した不死兵エドワードが、次の獲物はお前だとばかりに隠し持っていた戦鎚(せんつい)をディックス目がけて振り下ろした。

 ディックスは頭上に掲げた戦斧の長柄で辛くも奇襲をしのぎ切る。しかし、人外化した友人はなおも彼を亡き者にせんと、鋼鉄製の鈍器を尋常ならざる膂力(りりょく)で押し下げてくる。

「おい、小僧――ライアスとかいったな、テメェ、しゃんとしろ!」

 早くも地に片膝をつき、苦悶の表情でディックスが叫ぶ。

「テメェにはやってもらいたいことがある! テメェにしかできないことなんだよ!」

 ライはトレイシーの脳髄に釘付けになったまま微動だにしない。

「そんなものさっさと捨てちまえ! そいつはテメェの惚れた女なんかじゃねぇ、ただの肉の塊だ!」

「…………」

「それより見ろ、トレイシー本人を! 死にきれずに苦しんでやがる!」

「…………」

「お前がとどめを刺せ、ライアス! お前のその手でトレイシーを殺せ!」

 耳を疑った。オイラにトレイシー姉ちゃんを殺せ――だって?

「い、いやだ。オイラ、そんなこと絶対に」

「ぐだぐだ抜かすな! 腰抜け野郎のヴェンは傷を治せる魔石とやらを持ったままとんずらしやがった! だから、もうお前しかいねえんだよ、そいつを楽にしてやれんのは!」

「でもっ――」

 まるで引き寄せられるかのように、少年は(かたわ)らを見た。

 頭どころか顔面すらも左半分をほぼ失い、にも関わらずまだ息のある女兵士が、小刻みに痙攣する手でこちらに何かを差し出している。


 髪飾りだった。

 咲き誇る大輪のヒマワリを(かたど)った、トレイシーの髪飾り。


「ねえ……ちゃん」

 逆刃の鉄剣が返される。

「小僧、ビビるんじゃあねえぞ! ビビって失敗したらトレイシーはもっと苦しむ!」

 刃こぼれ一つない美しい峰が冷たく光る。

「ねえちゃん、なあ、とれいしいねえちゃん、おいらずっとずっとねえちゃんのこと、とれいしいねえちゃんのことをっっっっっ――!」

「やれぇぇぇぇぇひと思いにぶった斬れぇぇぇえええええーーーーーーー!!」

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 慟哭は止むことなく続いた。

 そしていつしかライアスは墜ちていった。

 自らが切り離した彼女の首に取り(すが)り、髪飾りを握って、どこまでもどこまでも、真っ暗な穴の底へ。


 後編に続く



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