95話 ファンタジーでは定番のあれ!?
次は水曜日に投稿しまっす。
昨日に深夜と言って良い時間帯にエレオノーラを箱詰めして城に届けた所為で、起きるのが若干遅めだった次郎衛門達はのんびりと宿の朝食を摂っていた。
すると宿屋の扉が勢いよく開け放たれた。
何事かと視線を向けてみればそこにいたのはフード付きのローブを目深に被って顔を隠した何者かが立っており、怒気を孕んだ声で次郎衛門に向かって話しかけてきた。
「ジロー!」
「ん? 誰?」
「ん? 誰? じゃない! 私よ。エレオノーラよ!」
「姫さんかぁ。何その格好? やっぱあれか? 有名人だから顔を隠さないと危険だったりするのか?」
「どの口でそんな事いうの! あなたが私を弄んだ所為でしょ!」
「弄んだって人聞きの悪い事言わんでくれ。ひょっとしてこの世界じゃ、あの程度の事でも色々問題だったりするのか?」
昨日次郎衛門はフィリアの妨害を物ともせずにエレオノーラに悪戯しまくったので弄んだと言うのもあながち間違いではない。
着衣をはぎ取り素肌にラクガキをしたりしたのである。
次郎衛門はこの世界じゃ等と言っているが、むしろ地球で同じ事をやった方がまずいだろう。
相手は少女だ。
しかも一国のお姫様でもある。
間違いなく100%完全にアウトだ。
地球ですらアウトだというのに何故に異世界ならセーフだと思えたのか次郎衛門を小一時間程掛けて詳しく問いただしたいところだ。
そして今はローブで全身を隠しているので見えないが、エレオノーラのその体には結構な数の次郎衛門テイスト溢れるアートと言っても過言ではない数々の傑作が描かれていると思われる。
「大変な事になってるんだから! 責任とって何とかしてよね!」
エレオノーラはちゃっかりと次郎衛門と同じ席に座ると何がどう大変だったのか語りだした。
という訳で話は昨日に遡る。
まずエレオノーラと従者である女騎士が晩餐の時間になっても食堂に現れなかった事で彼女達の行方が不明である事が発覚した。
末っ子を溺愛するダインによって即座にドルアークの街が封鎖され厳戒態勢が敷かれた。
それにも関わらず一向にエレオノーラが見つかる事はなかった。
これは次郎衛門が周囲に騒ぎが伝わらない様に空間を封鎖していた所為で捜査の目を掻い潜ってしまった為だ。
これはいよいよ誘拐でもされてしまったのかと城の主だった者達が相談をし始めた頃にエレオノーラは梱包されて見つかった。
だが見つかったエレオノーラは着衣は靴下のみ、全身ラクガキだらけという有様だった。
こんな事をする下手人は次郎衛門しかいないだろうと言う事でその場は何とか落ちついた。
落ちついたと言っても姫に悪戯された事を激高した者達が次郎衛門を逮捕するべきだと主張してみたものの結局は実力行使は無理だと言う事で諦めただけだったりするのだが。
そんな事より問題はラクガキの方だった。
まずどんなラクガキがされていたかを大雑把に説明するとしよう。
瞼の上に『目』
頬に『猫の様な髭』
額には『ビーフ』
『鼻毛』『わき毛』『スネ毛』『アンダーヘア』等が剛毛に。
背中には『折れた翼』
お腹には『小汚いおっさんの顔』
まだまだ細かい点を挙げればきりがないのだが概はこんな感じだ。
エレオノーラは気を失ったままだ。
もし目覚めて今の自分の姿を知ってしまったらショックは大きいだろう。
という事で侍女達がラクガキをふき取る事になった。
だが、このラクガキがさっぱり落ちない。
姫の体を乱暴に扱う訳にもいかないのでそっと丁寧に拭うのだがインクが落ちる気配は全くない。
暫く侍女達は消えないインクを消す為に無我夢中で頑張っていたのだがここで更なる問題が起きる。
瞼に描かれた『目』がぎょろりと動いたのだ。
「ひぃっ!」
思わず恐怖に悲鳴を上げた侍女に『目』が反応し侍女達と『目』との合ってしまった。
唐突だが魔眼というものに聞き覚えのあるものもいると思う。
視線で相手を石化したり、即死させたり、魅了したりするファンタジーでは定番のあれだ。
この『目』にも恐るべき魔眼が備わっていた。
そして侍女達に変化が訪れた。
体が見る間に変形していく。
己の変わりゆく体を恐怖で呆然と見つめるしかない侍女達。
訪れた変化は恐るべきものだった。
端的に表現するならば
ボンッキュッボン
ぽっちゃりだった侍女もやせ気味だった侍女も皆一様にボンッキュッボンだ。
瞼の『目』と視線があってしまっい抵抗に失敗してしまった者はボンッキュッボンのナイスバディに変わっていく。
痩せていてもボンッキュッボン
太っていてもボンッキュッボン
老女もボンッキュッボン
幼女もボンッキュッボン
小年ですらボンッキュッボン
おっさんだってボンッキュッボン
さあ、皆一緒にボンッキュッボン
効果時間は約2時間
それがこの『目』の魔眼の能力だった。
「うん? それってそれほど問題なくね?」
今まで黙って話を聞いていた次郎衛門が思わず口をはさむ。
「ええ。でも私が目覚めた時に何故かボンッキュッボンの群れに囲まれる中で、私だけがボンッキュッボンじゃないという。そんな絶望に打ちのめされた私の気持ちがあなたに分かる?」
「お、おう。さっぱり分からん。でも何かごめん」
「しかもお父様までボンッキュッボンだったのよ! 寝起きであれを目撃しちゃった私の気持ちが分かる? 目覚めて速攻もう一度夢の世界へ旅立っちゃったよ!」
「お、おう。それは本当にごめん」
確かに世紀末覇者のボンッキュッボンはトラウマになりかねない破壊力がありそうだ。一度目の謝罪に関しては適当に謝っていた次郎衛門だったが、二度目の謝罪はちょっと悪い事しちゃったかなといった程度の気持ちは見て取れた。
「でもボンッキュッボンはまだ始まりに過ぎなかったの」
世紀末覇者のボンッキュッボンですら序章に過ぎなかったらしい。
ここまでの話も大概に碌でもない話だったがこれですら序章となると流石の次郎衛門も冷たい汗が流れるのを感じざるを得ないのだった。




