94話 エッチなのはなしの方向で!?
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次は日曜日に投稿しまっす。
ここは次郎衛門達が泊まっている宿屋の部屋だ。
今この部屋には次郎衛門達一行と何故か次郎衛門を尾行していたエレオノーラ姫と従者の女騎士の姿があった。まあ、そのうちの二人は嫁の幻影に怯えてたり、ファーストキスが中年のおっさんに奪われてしまっていたりでそれぞれ別に部屋の一角を占拠して体育座りで殻に引き籠ってしまっているのだが。
「それで姫さんよ。何で俺達を尾行なんてしてたんだ?」
「あ、それは本当は直ぐに声を掛けるつもりだったんだけど、声を掛けるタイミングを失ってしまっていただけなのよね」
あっけらかんと言い放つ姫。彼女の兄であるシグルドやラシルドはそれなりに王族らしい優雅さを持ち合わせていたが末っ子である彼女は甘やかされて育ったのか何だかお姫様らしくない口調だった。それでも身に付けている物や立ち振舞いから育ちの良さは感じられるのだが。
「姫さんの所為で既に二人も犠牲者が出ているんだ。事と次第によっちゃ姫さんもあちら側グループに仲間入りする事になるぞ?」
次郎衛門は体育座りで部屋の片隅をどんよりと空間に染めている二人を指差しながら言った。
誰がどうみても彼、彼女があんな風になってしまったの次郎衛門の所為だと思うのだが、さり気なく二人があちら側の世界に引き籠ってしまった責任を姫に押し付ける次郎衛門である。
エレオノーラはそんな彼等の様子を改めて確認すると幾分か引きつった笑みを浮かべながらも決意に満ちた顔で口を開く。
「私をパ」
「断る」
即答である。恐らく次郎衛門はエレオノーラが言おうとした言葉の半分も聞いていないだろう。
「はや!? 少しくらい話を聞いても良いんじゃない!?」
「いや、必要ないぞ。謎は全て解けた。つまりあれだろ、確か姫さんは12才だったよな。シグルドの話じゃ王族は12歳になると冒険者として修業するのがシキタリらしいじゃん。サクッと修行終わらせる為に手伝えって話なんだろ?」
「そ、その通りだけど何でダメなのよ!」
「そりゃダメだろ。修行になんねぇじゃん。むしろ何でOKって思えるんだ? そこら辺を詳しく説明して欲しいんだが」
次郎衛門が若干呆れた様子でエレオノーラに問いかけてみれば。
「それは仲間の実力も私の実力に含まれるからよ! 仲間の実力は私の実力、私の実力も私の実力なのよ!」
「なんだかどこかで聞いた事があるような理屈だなぁ。でも成功も失敗も分かち合うってスタンスは悪くないな」
エレオノーラの言葉に次郎衛門は意外と見どころがあるかも知れないとエレオノーラの評価を少しだけ上方修正する。
「だから私をパーティーに加えてよ。パーティーに入れるなら何でもするから!」
「な、な、な、何でもだと!」
「え、ええ。何でもする!」
次郎衛門の食い付きっぷりに若干後ずさるもののエレオノーラは再び同じ言葉を口にした。
「な、何でもって事はリアルお姫様にあんな事やこんな事も……」
エレオノーラの何でもする発言に何やらブツブツと妄想し始める。
「ジロー…… あんたまさか……」
「ハッ!? フィ、フィリアたん!? 何でここに?」
「何でって最初から居たでしょうが! 何激しく動揺してんのよ! この変態が!」
フィリアの存在をすっかり忘れてしまう程に次郎衛門は浮かれていたらしい。
「し、失敬な。フィリアたんはそんな目で俺の事を見てたのか…… ショックだ……」
次郎衛門はそう言うと背を向け肩を小刻みに震わせる。そしてその足元にポタポタと滴がこぼれ落ちる。フィリアの発言にショックを受けた悲しみの涙なのだろうか。
答えは否。
涙ではない。涎である。
「ジロー。あんた涎たれてるんだけど?」
「ハッ!? ばれたか」
フィリアがゴミを見る様な目で次郎衛門に言い放つ。神によって次郎衛門の監視を命じられ、ずっと一緒に居たフィリアにはこの程度の小細工は通用しない。
次郎衛門は悔しそうにハンカチで涎を拭う。
しかしエレオノーラはこの時にある事に気づいてしまう。
それは次郎衛門の手に握られているものがハンカチではないと言う事だ。
「そ、それって私のパンツ? えぇぇ!? 何時の間に!?」
そう、それは今、エレオノーラが身に付けている筈のパンツであった。
そのパンツが何時の間にか次郎衛門の手の中にあったのだ。
つまりスカートの下はノーパン状態だ。慌ててスカートをめくれないように抑えつけるエレオノーラ。
「クハハハハ! 王妃様の妊娠術。夢精転送だったか。あれにヒントを得て今さっき思いついたんだ。空間魔法を応用して触れたい物にだけ触れ、盗み取る魔法を。名づけて抜盗術といったところかな」
恐ろしい魔法である。
この抜盗術を使えば盗みは勿論の事、人の心臓を抜き取って即死させる事すら可能になる。
つまり相手に気付かれずに暗殺も出来てしまう魔法だ。そんな魔法をお姫様のパンツを奪う事に使ってしまう辺りが非常に次郎衛門らしいと言えるが。
「あ、あのエッチなのはなしの方向で……」
次郎衛門の様子に恐れを抱いた様子のエレオノーラは18禁的な要求はやはり嫌なようだ。お姫様といえど思春期を迎えたばかりの少女なのだ。
そういった事にはロマンチックな展開を夢見がちなお年頃なのでこの反応も当然なのだろう。
「お姫さんよ。馬鹿にしないで頂こうか。この鈴木次郎衛門、痩せても枯れてもロリコンではない。断じてロリータコンプレックスではないのだよ!」
男らしく宣言する次郎衛門は正に紳士の佇まいだった。
そしてエレオノーラの元へと歩み寄り、涎に塗れたパンツをそっと差し出した。
「あ、ありがとう」
元々エレオノーラの履いていたパンツである。
それを涎まみれにして返されて一体何がありがとうなのか分からないところではある。
だが紳士然と佇む次郎衛門の様子にホッとした様子のエレオノーラ。
「でも……」
「え?」
不穏な気配を感じたエレオノーラが思わず次郎衛門の顔を見上げる。
そこには……
「やっぱりロリも好きぃぃぃぃ!」
一匹の変態紳士が降臨していたのだった。
「ひぃ! いやあああああああ!」
「クハ! クハハハハ! 良いではないか! 良いではないかぁ!」
「あ、コラ! 馬鹿ジローやめなさい!」
「クハハハ! 当たらんよ!」
「避けるな! 馬鹿!」
「いやああああああ!」
「クハ! 靴下だけは残してやろう!」
などとアイリィやピコまで入り乱れて非常に賑やかに夜は更けていったのだった。
その日の深夜、エレオノーラの失踪に大騒ぎする王城に、靴下のみ着用のエレオノーラと女騎士が綺麗に梱包されて届けられたのだった。




