93話 ナチュラルに!?
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次は水曜日に投稿しまっす。
ドルアーク城からの帰り道。
次郎衛門達は行きと同じように徒歩で帰っていた。
あれだけやりたい放題やらかしといて帰るから送ってくれとは流石の次郎衛門でもちょっぴり言いづらかったらしい。
「いやぁ、ラシルドきゅんも終わった後は吹っ切れたように笑ってたな」
「単純にヤケクソになってただけでしょ。3本目の怪我は治療せずに放っておいたら、ウヘヘヘヘ、いっそ殺せええええ、とか言ってたし」
「ラシルドさんの伸びた鼻っ柱も折れた事でしょう。これを糧に一回り成長してくれると信じますわ」
鼻っ柱だけでなく心までぽっきり圧し折れてる可能性もかなり高そうな気もしないでもない。
まあ、何だかんだ言っても弟の子孫の事なのでエリザベートなりに真剣に考えての行動でもあったようなのだが少々加減を間違えていやしませんかと少しばかり問い詰めたいところだ。
「それでさっきから気になってたんだけどさ。あれって尾行してるつもりなのかね?」
あれというのは城を出た時から後ろに着いて来ている一人の少女の事である。
本人は立派に尾行しているつもりのようなのだが次郎衛門達から丸見えなのである。
たまに後ろを振り返ってみれば少女は慌てて視線を逸らし音の鳴らない口笛なんぞを必死に吹いて誤魔化せているつもりらしい。更にその後ろには少女を初めてのお使いを見守る保護者ばりにがっつりと見守っている騎士らしき結構美人な女性もいたりする。
「さあ? あそこまで丸分かりだと毒気抜かれてどういう風に扱ったら良いのか悩むわね」
このフィリアの意見には次郎衛門も同感であるらしい。
基本的に次郎衛門は悪意や敵意には敏感でそういった類の相手には容赦はしない。だがそれ以外の相手には比較的フレンドリーに接する傾向にあるのだ。
今回の場合は少女は何らかの意図を持って次郎衛門達を尾行しているのだろうがあまりにもお粗末過ぎてどう対処したものか悩んでいるのである。
「ずっとこのままってのも面倒だし人気のないところに誘い込んでちょいと仕掛けるぞ」
次郎衛門はそう宣言すると大通りから寂れた裏通りへ足を進めるのだった。
一方の少女の方と言えば未だに尾行がバレているなどと思いもよらずに次郎衛門達の後を着いて行っていた。当然の如く自らも尾行されている事になど気づいてもいない。
元々はタイミングをみて声を掛けるつもりだったのだが、次郎衛門の人相の悪さから少女はなかなか声を掛ける勇気が出ないまま何時の間にかストーカー紛い尾行になってしまっただけだったりする。
次郎衛門が振り向いた時に慌てて視線を逸らしてしまった事を後悔していた。次郎衛門の人相、特に目が怖くて条件反射的に動いてしまったのだ。
そんな事を考えている間に何時の間にか周囲には人の気配がなくなり治安もあまり良くなさそうな雰囲気になってきた。少女の心にむくむく不安な気持ちが芽生えてくる。
もし今次郎衛門達を見失ってしまったら即迷子確定である。しかもこんな場所をうろうろと彷徨っていた日にはチンピラどもに襲ってくれと言っているようなものだ。
こんな事なら自分の従者である女騎士を連れてくれば良かったなどと考えたその時である。
とある交差路を曲がった後、次郎衛門達が忽然と姿を消したのである。
曲がるところを間違えたのだろうか。そんな筈はない。彼等は確かにこの角を曲がった筈だ。
いや、今はそんな事を考えている場合ではない。スラムと言ってしまって良い場所に少女一人という状態になってしまったのだ。
「そ、そんな…… どうしよう!」
少女の心は不安で埋め尽くされていく。
その時だ。
「動くな! もし動いたらこの女騎士がどうなるか分からんぞ!」
少女がその声に驚きそちらを振りむけばそこには自分の従者である女騎士が次郎衛門に捕まっていたのだった。しかもただ捕まっているのではない。がっつりマウントポジションで抑えつけられているのである。
「な、何を」
「やっぱり尾行してたのは姫さんだったか。確か名はボラ○ノールだったな?」
正解はエレオノーラだ。姫の名をうろ覚えだったので似たような語感の言葉を適当に言ってただけの癖に何故ここまで自信満々に言い放てるのだろう。ちなみにボラギ○―ルは地球で売っている痔の薬である。仮にも一国のお姫様を痔の薬扱いとあまりに酷い。そりゃこの男がモテないのも当然の話というものだ。
「エレオノーラです! それよりその者をどうするつもりなの!?」
「クッ! 姫! 私の事など気にせずにお逃げください!」
次郎衛門にマウント取られているにも関わらず女騎士は気丈にも自分の事は良いから逃げるようにとエレオノーラに向かって叫ぶ。
「うーん。どうしよう? このまま顔に唾を垂らすとか?」
「そんな脅しに屈するか! 好きにすれば良い!」
ショボイがメンタルにダメージを与えるには絶大な効果を発揮しそうな脅しにも女騎士は怯む様子もなく跳ね除ける。
「んじゃ、ほんのり汗ばんでるっぽいし胸に顔を埋めてくんかくんかするってのもありだな」
「な!?」
「ほむ。胸じゃまだ効果が薄いのか…… わき……だな。わきをくんかくんかしたりペロペロする事にしよう」
「い゛やああああああああああ! ひ、姫お願いです。そこから一歩も動かないでください!」
ナチュラルにゲス。
略してゲスラルな次郎衛門にあっさり屈した騎士が姫に縋るような声で懇願しだす。
「どうしようかな。あなたいつも私に口煩いし一度酷い目にあった方が良いと思うの。この機会にジロー様に処女捧げてみるのも良いんじゃないかしら」
元はと言えば自分が次郎衛門達の後を尾行したから女騎士が捕まってしまったというのに中々酷いお姫様である。とてもさっきまで不安そうにしていた人物とは思えない。
そして処女である事をバラされてしまった女騎士はゆでダコの様に顔色を真っ赤に変えて暴れ出した。
「クッ! 離せ! 一度で良いからあの馬鹿姫を叩っ斬らせてくれ!」
「うお! 暴れるなって! あんた一応姫さんに仕えてるんだろうが! 気持ちは分かるが斬っちゃまずいだろう! パンダのおっさんちょっと抑えるの手伝ってくれ!」
何時の間にかお姫様を守る立場がスクランブル大逆転である。
既に自分が人質であると言う事すら忘れて暴れ出した女騎士に悪戦苦闘した次郎衛門。思わずパンダロンに助けを求めた。助けを求められたパンダロンも流石にこの状況はまずいと思ったのか慌てて次郎衛門達の元に駆け寄る。そして次郎衛門は駆け寄ってきたパンダロンの頭をガシっと鷲掴みにすると何とかマウントポジションから抜け出そうとしていた女騎士の顔に押し付けた。
つまり強制キスである。
最初は何が起きたのか分かっていなかった女騎士だったが徐々に状況に理解が追いついてくると女騎士は口を2、3度パクパクと動かした後に気を失って倒れてしまった。
まあ、初心な女性がいきなり良く知らない中年のおっさんと強制キスとかちょっとどころではない罰ゲームなので倒れてしまっても仕方のない事なのかもしれない。
そしてパンダロンはこの後、指輪の呪いが発動し暫くの間メアリーさんの幻影に悩まされガリガリとメンタルを削られる羽目になってしまったのだった。




