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92話 弱い者は、戦場で死にかたを選ぶ事も出来なくてよ!?

シモネタ系コメディ裏美道シリーズの第三弾も投稿しました。

良かったら見てやってくださいませ。

次は日曜日に更新しまっす。

 ここはドルアーク城にある武官達の訓練場だ。

 今からこの場で宝剣エスペランサーの所有者を決める戦いが始まろうとしていた。

 挑戦者は国王ダインの二人の息子、シグルドとラシルドの両王子であり、受けて立つのは元コツレンジャーにして現ジロー商会のエージェントであるエリザベート2世である。

 ルールは魔法なし、闘気あり、使う武器は木剣で3本先取で勝利となる。

 先に挑んだ者が勝った場合はそのまま勝った者が宝剣の所有者になり、後で挑む予定だった者は挑む事すら出来なくなる。

 だからといって先に挑む方が有利かと言えばそう単純でもない。

 何故なら後の者は先に挑む者とエリザベートとの勝負を観察出来るからだ。

 つまり先か後かを選ぶところから既に勝負は始まっていると言えるのである。


「どちらからやりますの? 怖いのでしたら二人がかりでも良ろしくてよ?」


 挑発的なエリザベートに対し王子達はお互いに視線を合わせる。

 二人は兄弟であると同時に幼い頃から王位を競い合うライバルでもあった。

 お互いが憎い訳ではない。

 むしろ認め合っていると言ってよいだろう。

 現状ではラシルドの方がAランクとリードしているように見える。

 だがそれはラシルドがシグルドに負けたくない一心で綱渡りにも等しいリスクの大きい依頼を率先して受け続けた結果なのだ。


「ならば兄である私から挑ませて貰うとしましょう」


 シグルドはそう言い放つとエリザベートの前に進み出る。

 先程の騒動でエリザベートの実力の片鱗を垣間見ているラシルドは見に回るつもりらしく特に異論はないようだった。


「では立ち合いは余が務めるとしようか。準備は良いか?」

「いつでもよろしくてよ」

「はい!」

「それでは始め!」


 ダインは双方に声を掛け準備が整っている事を確認すると試合開始を宣言した。


 静かな立ち上がりであった。

 シグルドは闘気を身に纏い油断なくエリザベートの様子を伺っていた。


 「来ませんの? ではこちらから参りますわよ!」

 

 エリザベートは気負った様子もなく宣言するとスッと動きだした。

 特別速かった訳ではない。

 だがその動きは滑らかで警戒していた筈のシグルドの間合い内にあっさりと入り込んだ。


「クッ!」

 

 完全に後手に回るのはまずいと判断したシグルドは咄嗟に剣を振るう。

 しかし、そう思わされた時点でシグルドは完全にエリザベートの後手に回らされていたと言う事に他ならない。

 エリザベートは繰り出された斬撃を柔らかく受け流す。

 その流れのままにシグルドの首筋にピタリと剣先を突き付けた。

 結局この後の2本もエリザベートが巧みにペースを握り続けエリザベートが勝利したのだった。


「完敗です。良い勉強になりました」


 シグルドは潔く負けを認めたがその表情には悔しさが滲んでいた。

 だがそれで良いのだろう。

 まだまだシグルドは若く伸び代があるのだ。

 隠しきれないこの悔しさをバネにするべきなのだから。

 エリザベートはそんな様子のシグルドを愛おしそうに見送るとラシルドに向かって声を掛ける。


「それでは次はラシルドさんの番ですわね」


 声を掛けられたラシルドは厳しい表情をしていた。ラシルドとシグルドとの実力は拮抗しているのだ。勿論実戦で戦う事があるならば遅れをとるつもりは欠片程もない。

 だがあそこまでシグルドを容易く打ち負かす事は不可能だった。

 それでも勝算がない訳でもなかった。

 エリザベートとシグルドとの試合を観察してエリザベートに付け入る事が出来そうな癖を見つけたからだ。

 その癖とは変幻自在の多彩な攻撃の中で唯一突きを放つ瞬間にだけはほんの一瞬力を溜める為に隙が出来るのだ。

 それが分かったからといって余裕で勝てると言う訳ではない。

 むしろ分の悪い掛けと言えるだろう。それでもラシルドは僅かな勝算を抱きエリザベートの正面に立つのだった。


「勝算ありって顔ですわね」

「ふん。応える義務はない」


 ラシルドの表情から何かしらの勝算がある事を見てとったエリザベート。この辺の腹の探り合いはシグルド同様にまだ年若いラシルドは未熟であった。


「双方準備は良いな? それでは始め!」


 ダインの声が響き渡る。

 開始と同時に闘気を身に纏いエリザベートから一先ず距離を取るラシルド。

 対するエリザベートもシグルド戦では一切使って居なかった闘気を身に纏う。


「な!? 馬鹿な! 闘気だと!」

「あらあら? 私はこれでも剣聖シドルウェルの元で学んでいた事もあるのですわよ? 闘気くらい扱えて当然でしょう?」


 エリザベートはそう言うとゆっくりと突きの構えをとった。

 今のエリザベートから放たれるプレッシャーは既にAランクに収まるものではなかった。

 次郎衛門に与えられた魔力とエリザベートの魂自体が持つ魔力をブレンドした結果、その実力をSランクの領域にまで踏み込ませていた。


「それではこれからラシルドさんが狙っている突きを繰り出しますわ。ゴーレム如きの突きで精々死なないように気を付けあそばせ?」


 その言葉を聞いたラシルドの顔色が一気に変わる。

 それも当然だ。

 ラシルドが狙っていたのはシグルドとの対戦で使われていた突きであって、闘気で爆発的に高まった威力の突きではない。

 ましてや狙いがエリザベートにバレてしまっている以上は最早ラシルドに勝算は0.1%たりともなかったのだから。

 ついでにエリザベートが自分の事をラシルドにゴーレム如きと呼ばれた事を根に持っていた事も判明したので手加減も期待出来そうにない。


「ま―――――」

『ズガガガガガガァァァアァンンン!!』


 自身の状況を把握したラシルドが慌てて降参しようとするが、既に突きはラシルドの額を捉えていた。

 額を突かれたラシルドは音をも置き去りにし、城壁をぶち抜き、そして消えていく。

 その様子を確認したエリザベートは次郎衛門達の方へ向って話掛ける。

 

「ボス。フィリアさん」

「クハハハハ! 俺達に任せとけ!」」


 次郎衛門はそう言うなり空間魔法で開けた穴にゴソゴソと手を突っ込むと穴からラシルドを引っ張りだした。

 引っ張り出されたラシルドは既にラシルドというよりは挽肉と言ってしまった方がしっくり来るほどボロボロで辛うじてまだ生きてるといった具合だ。


「ほい、フィリアたん」

「任せなさい」


 フィリアは次郎衛門からラシルド改め挽肉を受け取ると、得意の回復魔法でラシルドの傷をあっという間に癒していく。エリザベートが加工を行い、次郎衛門が回収する。そしてフィリアがリサイクルと見事な連携である。


「はい。治療完了よ」

「グ…… ここは?」


 どうやらラシルドは現状が理解出来ていないらしい。まぁ、一瞬で挽肉へと加工されてしまったのだから無理もない話ではあるのだが。


「私は一体…… 確か宝剣を見つけて…… それで勝負を…… !!!」 


 暫く呆然としていたラシルドだったが漸く状況を思い出してきたらしくドンドン青ざめていく。


「元気になったのでしたら2本目始めますわよ?」

「こ、降参する。私の負けだ」

「却下ですわ。三本先取で勝敗を決めるというルールだった筈ですわよ?」

「そ、そんな馬鹿な! 負けを認めたのだからそれで良いではないか!」

「弱い者は、戦場で死にかたを選ぶ事も出来なくてよ?」


 悪魔が居た。

 実際にはゴーレムなのだがラシルドには本物の悪魔に見えているだろう。

 どうやらエリザベートはエスペランサーを譲る気は欠片たりとも持ち合わせて居なかったようである。

 自身に浴びせられたゴーレム如きという言葉と主人である次郎衛門を成り上がり呼ばわりされたのが、腹に据えかねたので尤もらしい事を並べ立ててこの舞台を整えたらしい。しかも降参不許可の3本先取という念のいれようだ。

 宝剣を餌に、人の欲望を巧みに突いた罠は悪魔の所業と言っても差し支えないだろう。


「エリザベート殿。流石にそれは無茶ではないか?」

「あなたは立会人なのでしょう? 双方が納得して決まったルールなのですから中立の立場で発言するべきですわよ?」

「む、むう。しかしだな」


 見かねたダインが何とか取りなそうとするもエリザベートの主張の前にどうにも劣勢を覆す事は出来なさそうな気配だ。



「それに死線を潜るというのも貴重な体験ですわよ? ダインさんも潜ってみます?」

「うむ。エリザベート殿の言う通り死線というものを肌で感じてみるというのも貴重な経験であるな。それでは二本目始め!」

「ちょ!? 父上!?」


 あっさりとエリザベートの脅しに屈っし勝負開始を宣言するダイン。ダインなら意外と平気そうな気もするのだが基本的にやせ我慢で耐えるだけなので苦痛なのは嫌だったようだ。父として、それ以前に王としてあっさり脅しに屈してしまっても良いのだろうかと思わなくもないが誰だって痛いのは嫌なので仕方のない事なのだ。



 結局ラシルドは強制的に勝負を続けさせられる事になり、二本目は頭を痛烈に打ちつけられて釘のように地面に突き刺さり、三本目は打ち上げ花火の様に天高く舞い上がる事になったのだった。

  

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