91話 わけわかめだっちゅーの!?
読んで頂きありがとうございまっす。
次は水曜日に投稿しまっす。
「結論から言いますと私がエリザベート2世本人だと言う事ですわ。エスペランサーは金属生命体がオリハルコン鉱山に現れる前に採掘されたオリハルコンから作られた剣。それをレッドサン帝国との決戦に向けて当時の女王、つまり私の母であるエリザベート一世から授かったものですのよ」
「ちょっと待て、って事はエリザベートって王族だったのか?」
「これでも在位していた時期もありますのよ?」
次郎衛門の質問にチャーミングにウインクしながら応えるエリザベート。その様子に僅かに頬を赤らめる王子達。ダインも見惚れそうになるが妬いたらしいマルローネに足を刺されたお陰で何とか耐えたようである。ちなみに次郎衛門とフィリアには催眠用の謎電波は通用しないので普通にマンドラゴーレムがウインクしているように見えている。なので二人は、うわっ何こいつキモ! って感じていたりする。
「うむ。エリザベート2世はレッドサン帝国を撃退した後、国民の圧倒的支持を得て女王になったというが、僅か3年で弟に王位を譲り? その後…… 行方を眩ました…… という話であったか?」
ダインがエリザベートの言葉に補足を加えなかった。ドヤ顔で語り出した割には徐々に勢いがなくなり最終的は何故か次郎衛門に確認し始める始末である。
「いや、知らんよ。まだこの世界に来て一年未満の俺には、わけわかめだっちゅーの。 歴史の話を聞くのならせめてこの世界出身の人に聞けよ」
次郎衛門が冷静にツッコミを入れる。直前のエリザベートのウィンクによって若干テンションの下がっていた次郎衛門のツッコミはまるで永久凍土のような冷たさを帯びている。そして基本的に次郎衛門のやる事を真似する傾向にあるアイリィも道端に打ち捨てられたゴミをみるような目でダインをみていた。だがダインはそんな空気を一切気にする様子はない。パンダロンの心を圧し折り続けてきた幼女の視線ですら動揺する様子は見受けられなかった。
「可愛らしいお嬢さんよ。余をそんな目でみないでおくれ。流石の余も少し辛いのである」
前言撤回、しっかり動揺していた。表情こそ世紀末覇者のままであったが結構メンタルには来るものがあったらししい。しかし本人が心情を吐露しなければ周囲はその心内を察する事が出来ないというのは王の器としては相応しいのかも知れない。やせ我慢恐るべし。
「話続けますわよ? ダインさんが仰っていた通り私は弟に王位を譲り、王国の貴重な資源であるオリハルコン鉱山に現れたという金属生命体の討伐隊にこっそりと加わったのですわ。そして剣も魔法も碌に効かない金属生命体に殺されてしまったのですわ…… その後はアンデッドとして鉱山に呪縛され彷徨い続けていたところをボスに新たな肉体を与えられ、エージェントとして仕える事になり今に至るのですわ」
かなり端折った説明ではあるがエリザベートはこれまでの経緯を話し終えた。しかし救国の英雄姫から女王そしてアンデッドへジョブチェンジとか落差が物凄い。超一流メジャーリーガーのフォークボールでもこれ程の落差は無理だと断言出来る。次郎衛門達との邂逅時にエリザベート達が遺骨戦隊コツレンレジャーとか訳の分からないものに迷走してしまっていたのも仕方がなかったのかも知れない。そう考えると己の身を守る為とは言えエリザベート達を殺してしまったピコの業はかなり深い気がする。そんな業の深い筈のピコはポケーっと能天気そうに事の成り行きを見守っていた。どうみても罪悪感の欠片たりとも感じてなさそうではある。
「俄かには信じ難い話ではある。だがエスペランサーがこの場にある以上信じぬ訳にはいかぬであろうな」
「父上! そんな与太話を信じると言うのですか!」
どうやらラシルドは何としても次郎衛門達を悪者にしたいようである。あれだけ散々馬鹿にされまくったら嫌いになっても仕方ないとは思う。というか、もし好感度が上昇などしていたらそれはただの変態である。
「ラシルドよ。いい加減にせぬか。王である余が認めたのだ」
「しかし!」
「くどい! 清廉潔白であれとは言わん。王族たるもの清濁併せ呑む度量も時には必要である。だが今回の手は悪手であった。引き際を心得よ」
「ハハッ」
どうやらダインは馬鹿なだけの王ではなかったようだ。きっちり息子の魂胆を見抜いており、その事を匂わせる事によってラシルドを黙らせ、尚且つラシルドを守ったのである。これはダインの評価をフリーダムな馬鹿から油断出来ない馬鹿に引き上げる必要がありそうだ。でも結局は馬鹿という評価なのは変わらないところがダインがダインたる所以かも知れない。
「んで、結局どうなるんだ? 剣はエリザベートに返して貰えるのか?」
次郎衛門はもしもダインが返却に応じなかった場合は力づくで奪う気であるという事がありありと分かる緊張感を孕ませて問いかけた。
「うむ。英雄姫が返せと言うのならば返す。だが国宝級の宝剣だ。出来れば譲って貰えないだろうか?」
「それはエリザベート次第だな。どうなんだ?」
「構いませんわよ。ただし一つ条件がありますわ」
実の母から送られた剣だと言う割には条件さえ飲めば譲っても良いというエリザベート。国宝級の宝剣であるだけにその条件が一体何なのか興味深い。
「ふむ。その条件とは何だ?」
「この剣は未来という希望を切り開く願いを込められた剣。民を、王国を、そして私の希望を託すに相応しい使い手に託したいのですわ。私と勝負して勝つ事、それが条件ですわ」
エリザベートはそう言うと挑発的に微笑んだのだった。




