90話 究極の妊娠術、その名は!?
今回は多少シモネタがあったりします。拙作の短編作品裏美道シリーズに比べればかなりマイルドではありますが。
次回の投稿は日曜日になりまっす。
「中々楽しい余興であった」
何時の間にか傷も塞がったダインが満足そうに頷いていた。ダインの傍らには何時間にか王妃である小柄な女性マルローネの姿もあった。しかし関係ない話ではあるがこの夫婦は身長差が物凄い。普通の女性と比べてもかなり小柄な女性と世紀末覇者である。ちゃんと愛の営み出来てるのか疑問に思わなくもないが子供が三人もいる以上はその辺の問題はクリアしているのだろう。
「何時の間に父上達は来ていらっしゃったのですか? ラシルドにばっさり斬られた時には少々焦りましたよ」
「フハハハ! マルローネの空間魔法を使えばこっそり交じる事など造作もない事よ!」
どうやらダイン達はマルローネの魔法によって転移してきたらしい。空間魔法というものは極めて使い手が少ない魔法である。それでもアイテムボックス程度ならば使える人間は稀に存在するのだが転移まで使いこなせるものほとんど存在しない。その理由は消費魔力がとんでもなく多いからだ。いくら上手くイメージ出来ようとも成し得る魔力がなければ使えないのだ。その事に気が付いた次郎衛門とフィリアは感心したような反応を見せた。そんな次郎衛門達の反応にダインは気を良くしたようだ。
「シグルドはマルローネの空間魔法の秘技があったから産まれたのであるしな」
「その話は私は初耳ですね」
「そうであったか? ならば少し語るとしようか」
ダインはそう言うと少し遠い目をしながら語りだした。
「そもそも余はこのような巨体であるしマルローネは見ての通り小柄である。契りを交わそうにも無理であった。当然子を成す事なども出来よう筈もない。そこでマルローネは夢精した余のパンツに付着していた精を自らの体内に転送するという秘技を編み出したのだ」
ダインはここで一息入れた。既にドン引きしている周囲を満足そうに見渡すと再び語りだす。
「その技こそが夢より転じて精を授かる究極の妊娠術。
これ即ち『夢精転送』也!
その秘技は成功しマルローネは処女でありながら受胎するという古の聖母の如き奇跡を起こしたのだ。そして十月十日の後、マルローネの処女膜を突き破りながら誕生したのが…… シグルド、お前であった」
何とも衝撃的な暴露だった。特にシグルドの受けたダメージは計り知れない。何せ自分のルーツがパンツにこびりついてたあれだったとか、実の母親の初めてを奪っていたというある意味近親相姦紛いの誕生だったとか知りたくもなかった事実を突き付けられたのである。ゴリゴリとHPを削られ僅か数分の間にシグルドの目は完全に死んだ魚のそれになってしまっていた。
「流石に余のアレも赤子の頭よりは太くはないからな。シグルドが誕生した後は普通に交わる事が出来るようになり、ラシルドとエレオノーラも授かる事が出来たという訳よ。今でも毎夜激しく愛し合っておるわ! フハハハ!」
既にHPがマイナスに突入しようかというシグルドに気付く様子もなく上機嫌で夫婦生性活まで語り出すダイン。マルローネもほんのりと頬を染めており満更でもなさそうだがもう少し二人とも息子のメンタルを気遣ってあげて欲しいところであった。
「それでジロー殿達と一体何を騒いでいたのだ?」
一通り夫婦性活の暴露を終えたダインが漸く状況を確認する為にシグルドに問いかけた。
「そ、それが父上。実は謁見の前にジロー殿達の武器預かったのですが、その中に王家から失われたとされる宝剣エスペランサーがあったとラシルドが言うのです。そしてジロー殿達を盗人であるかのように騒ぎだしたというのが事の顛末です」
まだショックから立ち直れてはいないシグルドだったが話題が変わった事を幸いに何とか心の切り替えが出来たようだ。多分彼の中では今聞かされた衝撃的事実はなかった事になったっぽい。それほど見事な切り替えっぷりだった。
「ふむ。そうであったか。ラシルド、シグルドの言う事に相違ないか?」
そう言い放つダインはさっきまでの悪ふざけっぷりがまるで幻であったかのような威厳に満ちた振舞いだっだ。
「ハッ。鑑定魔法を使える者に確認させました。これは宝剣エスペランサーに間違いありません!」
剣を恭しくダインに差し出すラシルド。こっちもさっきまで喚き散らしていたとは思えない落ち着きっぷりである。
「ふむ。余は鑑定魔法は使えぬがこの剣に刻まれた紋章は我が王家のものだ。ジロー殿はどこでこれを手に入れられたのか?」
ラシルドからエスペランサーを受け取ったダイン。その剣に刻まれた紋章を確認すると今度は次郎衛門に問いかけた。
「その剣は俺の物じゃないぞ。ゴーレムで部下でもあるエリザベートの物だ」
次郎衛門が特に気にする事もなく言い放った言葉であったがそれに対する王族達の表情が一変する。
「不遜な! 救国の英雄姫エリザベートの名をゴーレム如きに名乗らせるとは!」
「落ちつけラシルド。ゴーレムに英雄の名を付けると言う事は罪と言う訳ではない。確かに王族に連なる者としては愉快なものではない。だがそれだけでジロー殿を責めて良いというものではない」
「しかし父上!」
例によってまたしてもラシルドが激高し剣を抜きかけたのだがダインによって遮られる。落ちついたかと思えばいきなりキレたりこの王子は導火線が妙に短い様である。仮にもAランクの王子ともあろうものが短絡的であったり、逆に頭可笑しいんじゃないかという印象だったダインがここに至ってまともな面を見せたりと、何だか狐に抓まれたような何とも言えない奇妙な感じがしないでもない。
「英雄姫? なんだそりゃ?」
「その昔、攻め入ってきた50万のレッドサン帝国軍を20万の兵を率いて撃退した王家の姫君の名をエリザベート2世という。その姫が振るっていたとされる宝剣の名こそがエスペランサーなのだ。さて、ジロー殿。貴殿のゴーレムの名とこの宝剣。偶然の一致というにはいささか不自然である。説明して頂けないだろうか?」
まともモード継続中のダインが次郎衛門に問いかける。
「説明って言われても俺にもよく分かんねぇんだよなぁ。フィリアたんどういう事?」
「私が知る訳ないでしょうが。どういう事よ?」
返答に困った次郎衛門はフィリアに助けを求めてみるもののフィリアもそんな事分かる訳がない。恐らく真相を語る事が出来るのはエリザベートだけだろう。
結局同じようにフィリアからピコへ
「どういう事でしょうか?」
ピコからアイリィへ
「どういう事?」
アイリィからエリザベートへと伝言ゲームの様に伝わった。
そしてエリザベートは微笑を浮かべながらも意を決したように口を開く。
「パンダさんどういう事ですの?」
ここに来てまさかのスルーパス炸裂。
「ちょ!?」
エリザベートの言葉にその場にいる全員の視線がパンダロンに集まる。最早この場には質問をたらい回しに出来る様な者は居ない。全員が固唾を飲んでパンダロンの発言を待つ。
「お……」
「「「お?」」」
「俺が知る訳ないだろうが! 何なんだよ、この仕打ち! 曝し者かよ! 俺はお前等の仲間じゃねぇ! ただの付き添いなんだよ! いつもいつも! いつもいつもいつもいつもいつもいつも!! 俺を巻き込むんじゃねぇ!!!!」
まぁ、このパンダロンの反応は当然だと言える。主である次郎衛門が知らないものをパンダロンが知っている訳がないのだから。
「クハハハ。そう怒るなって。んで、エリザベート本当のところはどうなんだ?」
若干涙目で怒鳴るパンダロンを次郎衛門は適当に宥めると、エリザベートに問いかけた。エリザベートは主である次郎衛門に直接問いかけられ今度こそ核心を語り出すのだった。




