89話 こんな最後も!?
感想欄にて今回エリザベートの素性が明かされる的な事を言っていた割にそこまで辿りつきませんでした。キャラ達が自由に動きだすと話が脱線しまくってしまいますが書いてる方は凄く楽しいんですよね。次回こそ話が進むと良いなぁ。
次回は水曜日の投稿になりまっす。
ラシルドがカッコ良く登場する為にスタンバっていた事を次郎衛門が暴露し、笑い者にした結果どうなったかというと
「この成り上がり共が! 調子に乗るな!」
「うぇーい。ラシルドきゅんが怒ったぞ~」
「にっげろ~」
「ラシルド王子落ちついて下さい! うお! あぶねぇ! 剣はヤバいですって!」
城の中で鬼ごっこ大会に突入していたのだった。鬼のような形相でラシルドはエスペランサーを振りまわし襲いかかるのだが、次郎衛門にはかすりもしない。
別にラシルドが弱いという訳ではない。ラシルドとて総合力でみるならAランク相当の能力はありそうなのだ。それでも次郎衛門は隙あらばラシルドの背後を取り「脇が甘い」とか「力み過ぎ」とか「諦めたらそこで試合終了DESUYO!」とかアドバイスを囁いていくのである。
これによってラシルドは熱くなる一方だった。しかしどれほど次郎衛門を叩っ斬りたくても出来そうにない。次郎衛門の仲間達もだた者ではなくラシルドの剣は空を切るばかりだった。
そこで白羽の矢が立ったのがパンダロンである。パンダロンは次郎衛門とそれなりに近しくはあるがパーティーメンバーと言う訳ではない。今回も一緒に城に来たのはギルド側の付き添いとして意味合いが強い。ぶっちゃけて言うととばっちりも良いところだったりする。
「クッ。このちょこまかと!」
「ちょ!? 髪の毛が! 髪の毛がぁ!」
パンダロンとラシルドの実力は拮抗してはいる。だがパンダロンは王子に剣を振るう訳にもいかず防御に徹するしかない。しかし完全にラシルドの攻撃を防御しきれずに折角生え揃ってきた髪の毛をちょこっと切られたりもしている。
その間も次郎衛門は「男女間の友情って成立すると思う?」とか「ラシルドきゅんって胸派? それとも尻派?」とかラシルドの耳元で囁き続けている上に既にアドバイスでも何でもなくなっている。
更にラシルドにとって最悪だったのがアイリィだった。次郎衛門と同様に隙あらば背後を取り舌っ足らずな口調で「ラシルドきゅん。おこなの?」「激おこなの?」と囁くのだ。
勿論ラシルドはわざわざ聞くまでもなく怒髪天を衝かんばかりに怒っていた。アイリィの囁きに合わせるならば激おこぷんぷん丸だ。
ラシルドは第二王子として何一つ不自由なく育った。冒険者として兄であるシグルドよりも一足早くAランクに至り、順風満帆に人生を歩み続けてきていたのだ。だがしかしポッと出の成り上がり冒険者の弱みを運よく見つけ、Sランクの座から降ろし自らがその座に就く良い機会だと画策してみれば、逆に小馬鹿にされる有様だ。
間違いなく殺す気で剣を振るい続けているにも関わらず当たらない。
これ程の屈辱を味わった事はなかった。何より屈辱なのは己は全力であるにも関わらず連中にとっては遊びでしかないないという点だ。
下がる事のない溜飲に溜まり続ける屈辱。
この手の感情と向き合った事のないラシルドは――――
「あ゛あ゛ア゛あ゛アぁあァア゛あ゛アあぁぁぁ!!!」
壊れた。
「げ。ちょっと遊び過ぎたか? それにしてもメンタル弱過ぎだろ。これだからボンボンは困る。ラシルドきゅん大丈夫か?」
その場に崩れ落ち意味不明な言葉発し続けるラシルドにその場に居た全員が駆け寄った瞬間
『ザシュッ』
ラシルドは心配して駆け寄った内の一人を斬り捨てた。不意打ちだった。斬られた者は声もなく倒れ、巨体から流れる血で床が見る間に染まっていく。
「はっははは! 馬鹿め! 成り上がりの分際で図に乗りおって」
ラシルドは漸く自尊心を取り戻し、斬り捨てた者の末路を見届けようと向けた。だが視線の先には期待していた人物の姿はなかった。
そこに倒れていたのは――――
ダインだった。
どうやら楽しそうな事をしている途中からこっそりと紛れ込んでいたようだ。この巨体で目立たずに紛れ込めていたのは中々に凄い事ではある。だがその所為で実の息子に斬りつけられるとはこれまた中々に悲劇である。
「父上!? ち、違う! そんなつもりじゃ…… 誰か治療士を早く!」
血の海に沈むダインの手を取りラシルドは必死に叫ぶ。
「フハハハハ…… 一刀の元に余を斬り捨てるとはラシルドも強くなったものよ…… シグルドよ。決してラシルドを恨むでないぞ…… フハハ…… こんな最後もわる…… く…… な――――――」
そしてダインはガクリと力尽きた。その死に顔は不思議と安らかなものだった。
「ち、父上? そ、そんな。父上ぇぇぇ!!」
ラシルドの絶叫が響き渡る。その慟哭は城中に響き渡った――――
「―――― 誰だ、余の眠りを妨げる者は?」
てっきり死んだと思っていたダインがRPGの裏ボスの様な台詞を吐きながら起き上がる。漫画だったら背景にゴゴゴゴゴと効果音が書かれていそうな雰囲気である。ちょっと眠そうだが肩口からばっさりと斬られた割には元気そうだ。つくづくフリーダムな人物だ。
「な!? 父上!? 御無事なのですか!」
「うむ。余がこの程度の事でどうにかなる訳がなかろう。ちょっと雰囲気に流されてしまっていただけのことよ」
「この程度の事って王様の傷って明らかに致命傷だったろ? どうなってんだ?」
事も無げに言いきるダイン。そんなダインに次郎門ですら不思議に思ったらしく問いかけた。
「まぁ、大したタネはないのだがな。余は一応Aランクという事になっておるが本来の冒険者としての実力は精々Cランクといったところなのだ。では何故Aランクに名を連ねる事が出来たかというと、生まれつきとある能力を持っていたからだ。その能力をあえて名づけるのならば――――」
ダインは一旦言葉を切り一息つく。
そして改めて息を吸い再び言葉を解き放つ。
「やせ我慢だ」
「「「え?」」」
「やせ我慢と言ったのだよ。余は並みの者よりも遥かに我慢強いのだ。ただそれだけの事よ」
これの言葉には次郎衛門ですら絶句だ。
大したタネどころの話ではではなかった。
タネそのものが存在していなかった。
フィリアですらタネを見破れていない以上は魔法的なトリックがある可能性は低い。
その上本人がやせ我慢と言い張っているのだから腑に落ちようと落ちなかろうと理不尽だろうと受け入れるしかない。それにしてもラシルドのメンタルは弱過ぎだったが致命傷ですらやせ我慢で耐えきってしまうダインはダインでメンタル強過ぎだろう。
なんだかんだ言っても自分達も結構理不尽な存在である事を承知している次郎衛門達は結局は、ああ、この人はそういう人なのだと、意外とあっさり受け入れたのだった。




