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85話 とてもとても親切な設計

 結局、決闘のあった日は、朝まで王都の至るところでお祭り騒ぎになった。

 勿論、次郎衛門達も一緒に騒ぎ明かしたのだが、案の定凄まじい二日酔いに悩まされる羽目になったのである。

 パンダロンだけが。


「パンダのおっさんもだらしねぇなぁ。

 あれぽっちの酒で二日酔いとか」

「オエップ……

 気持ち悪い。

何でお前等は一人一樽とか呑んで平気なんだよ……」


 次郎衛門の言葉に力なく反論するバケツとお友達なパンダロン。

 ちなみに何故次郎衛門達が平気なのかといえば、次郎衛門は愛用の作務衣に強力な耐性が付いているし、フィリアは魔法で幾らでもアルコールを分解出来る。

アイリィは生物としてのスペックが異常に高いので一樽位では碌に酔わないし、ピコやエリザベートに至っては内臓がないというか、構造自体が違うので酔いようがなかったりする。

パンダロンが多少酒が強いといったところで、あくまでもそれは一般的な範疇の話な訳で、他のメンバーと同様に酒を呷れば、そりゃ二日酔いにもなるってものである。

 むしろ、急性アルコール中毒で死ななかっただけでも、大したものだと言えるかもしれない。

 ちなみに一応パンダロンはフィリアに頼んで治して貰おうとしたのだが、法外な請求を求められて諦めてたりする。

 生臭な女神も居たものである。

そんな訳で、今日一日ゆっくりと休む事になったのである。


「しっかし、Sランクの依頼で稼いだ金を一晩でほとんど使っちまったなぁ。

 まぁ、必要経費と考えて割り切るっきゃないか」


 そんな事を呟く次郎衛門。

 別に次郎衛門は浪費家という訳ではない。

 なのに何故今回の様な金の使い方をしたのかと言えば、一応次郎衛門なりの理由はあったりする。

 次郎衛門がSランク云々に関わる事になった元々の発端。

 それは、次郎衛門が竜族の姫であるアイリィの保護者になった事を快く思わない連中からの嫌がらせだ。

 そんな連中を黙らせる為にSランク依頼をこなした。

 それでも、不十分だと感じた次郎衛門は、バラルを一蹴する事で直に実力を見せつけたのだ。

 そのお陰で、Sランク冒険者にもなり、表立って次郎衛門達にちょっかいを出せる者は居なくなったと言っても良いだろう。

だが、次郎衛門は実力はあっても実績がない。

 一般市民にとって何か得体の知れない奴が急に冒険者のトップになったのだ。

 将来的には、ギルドマスターにまでも昇り詰めるかもしれない。

 その事を不安に思う者は少なくない筈だ。

 そこで、次郎衛門は少しでも市民の不安を払拭する為に、豪快に10万人に奢ったという訳である。

 その効果は恐らく奢らないよりは奢った方がちょっとはマシなんじゃね? といった程度なのだが。

 まぁ、そんな事が出来たのも、決闘での興行収入がSランク依頼の報酬に匹敵するだろうと予想出来ていたからこそなのだったりする。

 余談ではあるが、次郎衛門に賭けた者達の多くが払い戻しを受けていないらしい。

 これは投票券を記念品として保存している為のようだ。

 つまりぶっちゃけて言うと


「へへーん。

 俺はジローの方に賭けてたんぜ!

 俺の見る目って凄いだろ!」


 と、自慢する為の証とするつもりなのだ。

 恐らく、将来的には普通に払い戻すよりも価値が付くのは確実だと思われる。

 そのお陰で、Sランク依頼の報酬に匹敵するどころか、遥かに上回る収入になってしまいそうだったりする。 


「ところで、ジローに話があるんだが」

「ん?

 どうしたんだ。

 そんな顔をして?」

 

 急に深刻な様子でパンダロンが口を開く。


「お前から提供して貰った結婚指輪がな。

 何時の間にか外れなくなってるんだが……

 これはどういう事だ?」

「ああ。

 その事か。

 ラスクを出る時にさ。

 メアリーさんからパンダのおっさんが火遊びしないように見張ってくれって頼まれたんだよな」

「メアリーの心配性め……」


 言葉とは裏腹に若干嬉しそうなパンダロン。

 だが、その事と指輪が外れない事との繋がりが謎である。


「だから……」


 この接続詞が、そして今までの経験が、パンダロンにヒシヒシと嫌な予感を覚えさせた。

 そんなパンダロンの様子を次郎衛門は楽しそうに見つめ、更なる言葉を紡ぎだす。


「ずっと監視するのも面倒だからさ。

 おっさんが酔いつぶれてる間に指輪に脈拍や汗、そして感情を計測して性的興奮を読み取る機能を付けといたんだ。

 そして、ある一定以上の値を計測した場合は、ペナルティが科される。

 んで、ペナルティは幾つかの段階があってだな。

 一番軽いやつなら足の小指を、しこたま打ちつける程度の痛みで済む。

 でも、一番重いペナルティの場合は……

 さめざめと泣くメアリーさんの幻覚と幻聴に苛まれる事になるから気を付けろよ」

「ぅおい!

 お前一体何してくれてんだよ!

 うっぷ。

 怒鳴ったらまた吐き気が」


 何とも嫌なペナルティである。

 抗議するべく次郎衛門に怒鳴ってみたものの、二日酔いが酷過ぎて、結局バケツとお友達になるパンダロン。

 そんなパンダロンに、次郎衛門から更なる追い打ちが掛かる。


「あと、ペナルティが発動した場合。

 お互いの指輪を通じてオートでメアリーさんにチクッてくれるオマケ機能付きだ」


 どちらかと言えば、オマケの機能の方がペナルティとしては厳しい様な気もしなくもない。

 ちなみに、メアリーの方の指輪は浮気してもパンダロンには何も伝わらない仕様だったりする。

 例えメアリーが間男引っ掛けていたとしても、指輪の所為でそれを知るという事はないのでパンダロンの心が傷つく事がないという、とてもとても親切な設計なのである。


「お前は本当に何時もやりたい放題だな!

 何時か絶対に復讐して…… うっぷ」

「クハハハ!

 おっさんにゃ無理っぽそうだけどな!

 出来るならいつでもバッチコーイだぞ!」


 こうして王都での休日を、パンダロンを弄り倒して過ごす次郎衛門なのであった。

 

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