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84話 巨星落つ!? 

「ク…… 試合開始前に攻撃するとは!

 この卑怯者が!」


 バラルが治療され意識を取り戻し、現状を把握した後の第一声がこれである。

 マイクパフォーマンス中に攻撃を受けるなど、そうそうあるものではないので、気持ちは分からなくもない。

 しかし、意外とまだやる気は満々の様で、ギルドマスターは一安心といったところだろう。来年のお年玉争奪戦も無事に開催出来そうだ。


「お? まだ心折れてなさそうだな。

 んじゃ、マイクパフォーマンスの続きと行こうか。

 言いたい事は2つある。

 まずは今回俺に賭けてくれた少数の者に宣言しよう。

 損はさせないと。

 そしてもう一つは巨星落つ。

 これが明日のドルアーク新聞の見出しになるって事だ」


 自信たっぷりに宣言すると、アイテムボックスから普段のピコハンではなく金属製のハンマーを取り出す次郎衛門。

 そのハンマーは柄の部分だけでも150センチはある。

 ハンマー部分は直径50センチはあろうかという巨大なものだった。


「それほどの大物を片手で扱う貴様は確かに規格外の存在だと言う事は認めてやろう。

 だが、むしろ私にとって好都合だ。

 これ以上の言葉は不要!

 さあ、ギルドマスターよ。

 開始の合図を!」


バラルはそう言い放ち炎を纏う魔剣を構える。

 対する次郎衛門は気楽な様子でハンマーを肩に担いで開始の合図を待つ。


「両者準備は良いようじゃの。それでは始め!」


『さーて遂に始まりました。Sランク決定戦。ハーティーさんはこの勝負どうみますか?』

『私の予想では、さっきの件も含めて考えて戦力的にはジロー選手7、バラル選手3といったところね。

 事前情報では空間魔法を使った強力な攻撃がジロー選手の得意技と言う事なので、バラル選手がそれにどう対処するかが勝負のカギとなりそうね』


 そんな実況が流れる中、バラルは開始と同時に懐から不思議な輝きを放つ水晶を取り出す。 


 パキーン!


 水晶は甲高い音と共に粉々に砕け散る。

 その破片は粒子状に不思議な輝き放ったまま、闘技場内に漂った。


「おお?

 何だこりゃ?」

「フハハハ!

 油断したな!

 この輝きの中では、魔力は吸収されて魔法や闘気を使う事は出来ん!」

「まじで?

 おお、ほんとだ。

 アイテムボックスも開けないぞ?

 これは、すげーなぁ」


 本当に魔法が使えない事を確認すると、感心したように呟く次郎衛門。

 バラルの扱う魔剣から吹き出ていた炎も消えてしまっているが、ならば、何故わざわざ火を灯したのかと問い詰めてみたい気もしなくもないところである。


『おおっとバラル選手は封魔の水晶を使ってきたあああ!

 封魔の水晶、それははアンチマジックフィールドを形成する使い捨ての魔道具です!

 効果は強力ですが、敵味方の区別なく全ての魔法を無効化する為に、使い勝手はいまいちなアイテムです!

 これはバラル選手、思い切った手段を使ってきましたね!』


「もう貴様はその無骨なハンマーで戦うしか手段はない!

 このまま決めさせて貰うぞ!」

「やべ。これは本格的まずいかも知れん」


 一気に勝負を決するべく、バラルは次郎衛門に襲いかかる。

 次郎衛門は闘気をも封じられ、それでも常人には持ち上げる事すら困難であるハンマーを操り、バラルの攻撃を何とか凌いでいく。

 だが、その動きに余裕はない。

 防戦一方なのだ。

 お互いに魔法や闘気を封じた状態ではある。

 バラルの剣は、闘気を纏わなくても存分に振るえるのだ。

 対する次郎衛門は、闘気で強化した能力での使用を前提としたハンマーだ。

 次郎衛門は闘気を封じられ、必死に振るってもその攻撃は鈍重だ。

 普段の軽量なピコハンから、巨大なハンマーに武器を変更したのが完全に裏目に出たのである。


「流石バラルだ!

 烈火の巨星の異名は伊達じゃない!」 


 試合開始直前に、バラルの何とも情けない姿を見てしまって、何とも言えない微妙な気分で観戦していた観客達も、バラルの絶対的優位を確信し再び熱狂的な歓声を上げ始める。


「魔法を封じたられた貴様はアイテムでの回復も出来ん!

 ゴーレムを呼び出す事も出来ん!

 既に手詰まりだ!

 大人しく負けを認めたらどうだ?」

「くそ! 誰が認めるか!」


 だが、次郎衛門はバラルの宣告を無視。

 当たれば逆転出来ると言わんばかりに、大上段から渾身の一撃を繰り出す。


 ドガ!! 


 次郎衛門の一撃は空しく大地に突き刺さる。

 バラルは冷静にバックステップして回避していた。

 ここで渾身の一撃を外した次郎衛門に大きな隙が産まれた。

 その隙を見逃すバラルではなかった。


「遊びはこれまでだ! 決めさせて貰う!」


 再びバラルが次郎衛門との間合いを詰める。

 誰もが。

 バラルの勝利を確信したその瞬間だった。


 次郎衛門の足元のハンマーがツインテールの美少女、つまりピコに変身したのである。

 

 そして、バラルの踏み込みに合わせて、その可愛らしい拳を握る。


 ピコが放つはアッパーカット。


 ピコが狙うは、眼前に無防備に曝されているバラルの―――





 

 パキャ!




 


 ――――――金玉だ。




「○×△■×□~~あふん!?」


 カウンターで急所を強襲されたバラル。

 何とも言えない意味深な悲鳴を上げ、立ったまま意識を飛ばしたのであった。

 予想の斜め上の展開に、理解が追い付かずに観客達は静まりかえる。

 


「そこまでじゃ! 勝者ジロー!」

「クハハハ!

 ゴーレムは既に呼び出していたりするんだよな!

 これがホントのピコハンってな!

 大勝利ぃ!」

「マスター!

 私やりました!

 金玉獲ったどーです!」


 沈黙に包まれた闘技場をギルドマスターの声が響き渡る。

 そして会心の笑みを浮かべる次郎衛門とピコ。

 とりあえず、金玉獲ったというよりは、金玉粉砕と言った方が正しいような気がする。

 そんな二人とは対照的に、支部長達を含め多くの者はあまりにも異様な出来事に、一体何が起きたのか、いや、自分の見た光景が信じられずに場の雰囲気は困惑に満ちていた。


『え、えーと優勢に進めていた筈のバラル選手が負け?

 一体何が起きたのか映像記録魔道具でリプレイしてみましょうか』

『そ、そうね。そうしましょう』

『ここですね。ここからスロー再生ぽちっとな。!? っと、ここですね。

 美少女です!

 ハンマーが美少女に変形して、バラル選手の股間を強襲!

 これはキツイ!

 バラル選手、完全にノーガードです!

 見ているこちらも思わずキュッとなってしまう衝撃映像です!』

『な、なんて嫌な負け方なの……

 これもう使い物にならないんじゃないの?』

『使い物にならない……?

 ハッ!?

 ハーティーさん!

 私は恐ろしい事実に気が付いてしまいましたよ!』

『な、なによ?』

『ジロー選手は試合開始前にこう言っていましたよね。

 巨星落つ……と。

 しかし、これにはもう一つ別の意味があったのですよ!

「去勢乙」

 という恐ろしい意味が。

 つまり、ジロー選手は完全にこの展開を狙っていたと言う事です!

 バラル選手が比喩で遊びという言葉使った訳ですが、ジロー選手にとっては、最初から最後まで全て遊びだったと言っても過言ではないかもしれません!

 Aランク冒険者でさえ容易く手玉にとる存在。

 それがSランクに至る者という事なのでしょう!』


 解説のマクスウェルの言葉によって観客もようやく気付く事になった。

 かませ犬はバラルの方だったのだと。

 そんな中で決闘に勝った次郎衛門が観客に向かってマイクを手に口を開く。


「ってな訳で、Sランク冒険者って面倒臭い称号を背負う事になっちまった鈴木次郎衛門ってもんだ。

 以後宜しくな。

 さて、今回俺に賭けてくれた奴!

 どうだ損はしなかっただろ?」


 次郎衛門の言葉に次郎衛門に賭けていた少数の者達から熱狂的な歓声が起こる。

 そして再び次郎衛門は口を話し始める。


「んで、巨星のおっさんに賭けちゃった多くの皆さん。

 今どんな気持ち?

 ねぇどんな気持ち?


 ってのは冗談だよ。

 ほら、荒んだ目で睨むなって。

 さて、そんな心が荒んでしまったあんたらにも朗報だ。

 冒険者ギルドに協賛している飲食店で、今から明日の日が昇るまでの時間限定で入場券の半券を見せれば食べ放題の飲み放題だ!

 金の心配は要らんぞ! 

 俺の奢りだ!

 派手にやってくれ!」


 どうやら、次郎衛門が毎日飲食店巡りをしていたのは、この時の為の仕込みだったようだ。

 Sランクの報酬を使って協賛店に金をばら撒き、話をつけたらしい。

 最初は次郎衛門が何を言ってるのか理解出来ずに茫然としていた観客達。

 だが、次郎衛門の奢りで今夜は好き放題飲み食いが出来ると理解すると、競技場は熱狂的な大歓声に包まれたのであった。

  

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