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82話 ジローさんが1の方です!?

『烈火の巨星バラル遂にSランク昇格か!?』


 いきなり何のこっちゃと思うかもしれないが、これはドルアーク新聞の見出しである。

 見出しの後にどこぞのスポーツ新聞のように、不自然に小さな文字でSランク昇格決定戦と書かれていたりもする。

 一応、烈火の巨星バラルと剣聖シドルウェル推薦の冒険者が決闘をして勝った方がSランク昇格が決定するなど書かれてはいるが、それ以外の内容は既にバラルがSランクに昇格したかのような記事である。

 中にはバラル氏、Sランクまでの軌跡などとバラルの今までの武勇伝がこれでもかといった具合に書かれたりもしていた。

 ちなみに記事にはジローのジの字すらない。

 恐らくバラル側が何らかの情報操作を行っているのだろう。


「Sランクって新聞の一面トップに来る程の事なのか。

 それならもうちょっと条件を吊り上げてやれば良かったかな」


 宿屋の食堂の一角で新聞を読みながら呟く次郎衛門。

 何となく察して頂けたと思うが、結局次郎衛門は決闘を受けたのである。

 その際に様々な条件をギルドマスターに認めさせている。

 例えば次郎衛門が勝ってSランクになった場合、特例として強制依頼の免除を認めさせたり、フィリアも一緒にSランクになる事を認めさせたり、決闘の事を大々的に公表し、客を集め勝敗に関わらずその純利益の3割を要求したり、何故かSランク依頼の報酬を決闘の前日までに次郎衛門に支払うという事、更には王都に存在する冒険者ギルドに協賛している全飲食店の情報など、かなり欲張ったものから意味の分からないものまで様々だ。

 尚、決闘の日取りは集客や準備期間なども考慮して一か月後という事になった。


「あれほどの条件を飲ませておいて、まだ足りないどれだけ強欲なのよ」

「でもさ。実際のところ俺の我儘なんて強制依頼の免除位のもんだぞ?

 少なくともフィリアたんがあのバラルとかいうおっさんに負ける事はなさそうだし、決闘を一大イベントに仕立て上げて荒稼ぎしてやろうって提案には秘書っぽいお姉さんの方がノリノリだったしな」

「それにしても3割はエグイでしょ。

 Sランク冒険者ってギルドマスター以来300年位ぶりの偉業らしいじゃないの。

 10万人入る競技場なのに、間違いなくお客が入りきらないって聞いたわよ」

「そこは俺が居なければ、このイベントは成立しないって強みがあったからな。

 強気な交渉するのは当然だ。

 色々準備しなきゃならん事もあるし、当日まで忙しくなりそうだな」


 次郎衛門は不敵な笑みを浮かべると慌ただしげに街へと繰り出すのであった。




 ◆◆◆◆


 そして迎えた決闘当日。

 王都ドルアークの競技場は数百年ぶりのSランク冒険者の誕生の瞬間を一目見ようとする人々で埋め尽くされていた。

 闘技場の周囲には露店が立ち並び、競技場内では勝敗を賭けの対象にした投票権の販売もされていたり、そういった客相手に酒や軽食などを売り歩く売り子たちも元気に声を張り上げている。


「クハ! クハハハ!

 まじで大盛況だな。

 この純利益の3割が俺のものになるとか美味し過ぎるよな!」

「美味しいのは分かるけど、そのゲス顔なんとかしなさいよ。

 ただでさえ邪悪な面構えなのに更に酷くなってるわよ。

 幼い子供なら一目見ただけでトラウマものよ」


 控室でこれから己の懐に入ってくるであろう大金に思いを馳せ、ヤバい位に表情が緩みまくってる次郎衛門にフィリアの辛辣な忠告が突き刺さる。


「え?

 そんな顔してた?

 いかんいかん。

 今日から皆のヒーローSランク冒険者になるんだから、気を付けなきゃなぁ」

「あんたがヒーローって一体どんな悪夢なのよ。

 それよりもピコの姿が見当たらないんだけど、あんたまた余計な事を企んでるんじゃないでしょうね?」

「クハハハ! おっと感付かれたか。

 まぁ、企んでるって言えば企んでるけどな」

「ふーん。ま、私に害さえなければどうでも良いわ」

「ボス。そろそろ時間ですわよ」

「お? んじゃ、戦場に行くとするか!」

「パパ、頑張ってね!」


 エリザベートの言葉に次郎衛門は立ちあがる。

 アイリィの頭をポンと一撫でして控室を後にしたのであった。

 会場には既にバラルとギルドマスター、そして審判役として4支部長が来ていた。

 急な開催だったにも関わらず、現ドルアーク王の3人の子、第一王子と第二王子、末娘の王女が来ており、他の貴賓席には王国の重鎮だけではなく近隣諸国の貴族も何名か訪れていた。

 観客席からはバラムコールが響き渡っている。

 次郎衛門にとっては四面楚歌といったところだ。

 その中で次郎衛門は見覚えのある男達を見つけると気さくに声を掛けた。


「よぉ! 確か警備兵の人達だったよな」

「あ、あぁ。その…… ジローさんて烈火の巨星に匹敵する位の冒険者だったんですね!

 サイン貰っといて正解でしたよ!

 もしSランク冒険者だなんて事になったら家宝にしますよ!

 応援してます!」


 警備兵の連中はスリを捕まえまくった時の聴取ではパンダロン以外にはタメ口だったのに凄腕の冒険者らしいと知り思いっきり敬語になっていた。

 中々に見事な変わり身である。


「おう! サンキュ!

 しかし応援してくれるって事は俺に賭けてくれてたりするのか?」

「ア、ハイモチロンデスヨ! HAHAHA!」

「いや、絶対買ってないだろ!」

「だって、相手は烈火の巨星ですよ?

 数々のAランク依頼でも華々しい戦果をあげてきた国民的英雄ですよ?

 オッズ知ってます?

 999:1らしいですよ?

 勿論ジローさんが1の方です。

 立ち見の入場料だけでも、一般庶民の収入の一月分くらいの値段で結構な出費なんですから、流石にこの状況ではジローさんに張るだなんて怖くて出来ませんよ」

「999:1ねぇ。

 王都じゃ、無名だから仕方ないっちゃ仕方ないけど、それにしても酷すぎるだろ。

 って入場料収入一か月分!?

 ぼったくり過ぎだろ。

 それでも超満員とかこの街の街の連中どんだけ冒険者好きなんだよ……

 っと、何か烈火のおっさんがすんげーこっち睨んでるから、そろそろ行くわ」


 警備隊の者達に軽く手を振ると、烈火の巨星バラルの元へと歩き出す次郎衛門なのであった。


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