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80話 そんな優しさ要らねーよ!?

 翌日警備兵が紹介してくれた宿を出た次郎衛門達。

 パンダロンの案内で、この旅の目的地である冒険者ギルドの総本山、冒険者ギルド本部にやって来ていた。


「うぉ…… 

 デカい建物だなぁ。

 ラスクの街のギルドの何倍あるんだこれ?」

「世界規模で影響力を持つ冒険者ギルドの本部だ。

 粗末な小屋という訳にはいかんだろう。

 歴史を紐解けば、王国の建国と同時期に冒険者ギルドは創設されたらしい。

 その当時はここに二千人の冒険者達が集っていたそうだ。

 今は王都の東西南北にそれぞれ支部を置いてほとんどの機能をそっちに移している。今はここを利用できるのはBランク以上の冒険者に限られているな」

 

 眼前に広がるギルド本部の大きさに呆れた表情で呟く次郎衛門。

 そんな次郎衛門の呟きにパンダロンがギルドに関する豆知識を披露する。


「ほえー。

 つまり、ここはエリート専門の窓口って事なのか」

「そういう事だな。

 それより頼むから、揉め事起こさないでくれよ」

「俺達に揉める気がなくても、絶対に何かしらの問題は起きると思うぞ?

 王都のエリート冒険者様から見たら、俺達は出過ぎた杭だなんてものじゃない位に飛び出た存在だろうしなぁ。

 何か王都に入った時から尾行されてるっぽいし、売られた喧嘩なら躊躇わずに買うぞ?」

「とりあえず自分からは喧嘩を売らないでくれよ……」


 二百年という長きに渡って誰も成しえなかったSランクの魔物を討伐した次郎衛門という存在は、否が応にも注目される事になるのは間違いない。

 これが元からある程度名の通った冒険者ならば、そこまで問題は起きないのかも知れないが、次郎衛門はまだ無名の冒険者に過ぎない。

 そんな次郎衛門を妬んだり、己の名を上げる為にちょっかいを出してくる連中は必ず出てくるだろう。

 というか、尾行されているという事は既にちょっかいを掛けられていると言える。

 そしてそんな連中を次郎衛門が嬉々として迎え撃つ姿も容易に想像出来てしまうパンダロンである。

 

 

 ギルド本部の中は建物の規模の割には閑散とした様子だ。

 広大な受付やロビーには二十名程度の冒険者しか見当たらない。

 見慣れない次郎衛門達の事をさり気なく伺っている辺り、彼等も一流の冒険者なのだろう。

 そんな雰囲気の中、パンダロンは至って平静な口調で受付嬢に話しかける。


「いらっしゃいませ。

 何か御用でしょうか?」

「ラスク支部のパンダロンだ。

 申し訳ないが、ギルドマスターに取り次ぎをお願いしたい」


 パンダロンの要求に受付嬢は僅かに眉根をよせる。

 支部長級の人物ならまだしも、その部下程度の者がいきなりギルドマスターに会わせろと言うのはかなり非常識な要求だからだ。


「あの…… 面会の予約はされているのでしょうか?」

「細かい日時は決まっていなかったが、話は通っている筈だ」

「それでは確認を取って参りますので暫くお待ち下さい」

「いや、その必要はないな。ギルドマスターの所へは俺が連れていく」


 受付嬢が上司に確認を取りに行こうとしたその時。

 次郎衛門達の背後から声が掛かる。

 そこに立っていたのはシニカルな笑みを浮かべた細身の中年男。


「西支部のクロッコ支部長!?」


 声の主の姿を確認した受付嬢が驚きの声を上げる。

 どうやらこのクロッコと呼ばれたこの男、王都に4つある支部の一つ西支部の支部長であるらしい。

 クロッコは驚きの声を上げた受付嬢に手を振っている。

 存外気さくな男であるらしい。

 そしてパンダロンに視線を移すと、これまた気さくに声を掛けてくる。

 

「よう!

 パンダロン!

 ガイアスの旦那は元気でやってるかい?」

「クロッコさんお久しぶりです。

 ガイアス支部長は元気過ぎな位ですよ。

 遂この間も勝負してねじ伏せられましたよ」

「クックック。

 旦那らしいな。

 さて、受付のお嬢ちゃん。

 君はここで仕事を続けてくれれば良い。

 彼等は俺が責任もってギルドマスターの元へと連れていく。

 何、この事はギルドマスターもこの事は承知している。

 何も問題はないさ」

「は、はい。わ、分かりました。

 それでは宜しくお願いします」

「それじゃ、お前達は着いて来てくれ」


 クロッコは次郎衛門達を先導するように歩きだす。


「さて、パンダロン以外は、はじめましてだな。

 俺は王都西支部の支部長をやっているクロッコだ」

「ずっと尾行しといて、はじめましてもないと思うけどな」

「気付かれていたか。

 これでも隠密行動にはそれなりに自信あったんだがなぁ」

「皆気が付いてたけどな。

 むしろ気が付いてない事を気が付かれないように振舞うのに苦労した位だ」


 どうやら王都に入ってから次郎衛門達を監視していたのはクロッコだったようである。

 しかも、気が付いていたのは次郎衛門だけではなく他のメンバーも知っていたっぽい。

 そんな中、アイリィが微妙にそわそわしながらも当然知っていたと言わんばかりの振舞いのパンダロンに対して何か言いたそうにポンポンとその体を叩く。


「な、なんだ?

 どうかしたのか?」

「なーに誤魔化してんだ!

 この嘘つき野郎が!

 ペッ!」

「な!?

 ああ、そうだよ!

 俺は何も気が付いてなかったよ!

 鈍くて悪かったな!」

「アイリィたんってば、中々キツイ事を言うなぁ」


 幼女らしかぬ中々に痛烈な言葉を受けたパンダロンは、ちょっと涙ぐみながらヤケクソ気味に自分だけは尾行に気付けなかった事を認める。

 次郎衛門達がとある頭痛薬の成分の半分位入ってるという優しさの更に半分位の優しさで、あえて触れなかった部分を容赦なく抉るアイリィ。

 基本的にアイリィは誰にでも懐く。

 だが、何時もパンダロンにだけは容赦がない。

 それには一応彼女なりの理由があったりするのだ。

 アイリィが産まれる前にはパンダロンは次郎衛門の被害者になっていた。

 その為、日頃から次郎衛門に対して好意的な発言はほとんどないのだ。

 大体文句か愚痴である。

 事情を把握している大人であれば、パンダロンに同情こそすれど、悪感情を抱く事はないのだろう。

 だが、幼いアイリィにとってはそうではない。

 弱っちぃ足手まといの癖に、大好きなパパの悪口しか言わない屑にしか見えなかったりするのだ。

 そんな訳で、アイリィはパンダロンにちょいと厳しいのは仕方のない事なのだ。


「パンダのおっさんも、子供相手にそんなにムキるなって。

 俺達はバレバレなのに一生懸命尾行してたクロッコのおっさんや一人だけ尾行に気が付かないパンダのおっさんを笑いそうになるのを必死に我慢して見守ってたんだぞ?

 むしろ、俺達の優しい気遣いに感謝しても良いくらいだろ」

「うるせーよ!

 そんな優しさ要らねーよ!」

「…… 何となくこいつ等が悪夢王ロード・オブ・ナイトメアって呼ばれてるのも分かる気がするな」 


 一応パンダロンやクロッコの名誉の為に言っておくが、クロッコの尾行技術は超一流である。

 速攻で見抜ける次郎衛門達の方が異常だったりするのだ。

 そうこうしているうちにとある扉の前でクロッコが立ち止る。

 どうやら目的地についたらしい。


「この部屋にギルドマスターや幹部、そして王都の他の支部の支部長がいる。

 全員冒険者上がりだから堅っくるしい礼儀作法は要らん。

 それじゃ、入るぞ」


 それだけ言うとクロッコは扉を開くのであった。

   

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