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77話 お届けします! 夢ある暮らし!?

 次郎衛門達がラスクの街へと戻り、旅の疲れも取れたある日の事である。

 従業員達を集めた次郎衛門は彼等に向かって語りかける。


「人材も確保出来た事だし、そろそろ商会を立ち上げようと思う」

「遂にその時が来たんですね。

 それで、一体何の商売を始めるんですか?

 経営が成り立つ見込みはあるんですよね?」


 次郎衛門の宣言に対してメルが問いかける。


「おいおい。

 管理職候補が何言ってんだよ。

 雇い人が何の商売始めるかも知らずに雇われちゃうとか、危機管理意識低いんじゃねーの?

 そんなんじゃ、気が付いたら場末の娼館で働いてましたって事になりかねないぞ?」


 自分でスカウトしておきながらこの駄目出しである。

 確かに次郎衛門の指摘通り、まだ少女と言って良い年頃の女性が騙され、娼婦として働かせられるといった事は充分に起こりえる。

 だが、仕事内容を告げずに勧誘した次郎衛門にそれを指摘する権利があるようにも思えないのだが、この男の面の皮の厚さには驚くばかりだ。


「この街に来て色々な人からジローさんの噂を聞いてみたんですよ。

 碌でもない話ばかりだったけど、少なくとも悪い人じゃなさそうだと判断したから、そのままここに居るんです。

 悪い人だと判断していたら頂いていた当座の生活資金を持ってそのまま逃げていたでしょうね。

 それに親切に生活費を渡した様に見せかけて、実は私が信頼に足る人材かどうかを見極める採用試験だったんでしょう?」

「そ、その通りだ!

 よく俺の意図に気が付いたな。

 文句なしに合格だ!」


 どうやら思った以上に、メルは色々考えていたらしい。

 よくぞ見破ったといった表情で感慨そうに頷きながらメルに合格を言い渡す次郎衛門。


「あんた、絶対にそこまで考えてなかったわよね?」

「ありゃ、フィリアたんにはお見通しか。

 正直なとこメルが金持って逃げてもしゃーないかなって位にしか思ってなかったわ」


 次郎衛門はそこまで深く考えていた訳ではなかったっぽい。

 フィリアの突っ込みにあっさりと白状し特に悪びれる様子もなくあっけらかんと言い放つ。


「それで? 

 一体何を始めるつもりなんですか?」

「考えている事は主に2つ。

 この街のギルドには報酬が少なくて受ける人が少ない雑用の依頼も多い。

 そういったものを請け負う便利屋的な商売をしようと思う。

 ゴーレム達の維持コストはぶっちゃけ俺の魔力だけだから採算は十分取れる筈だ。

 メルには経理や事務を担当して貰う。ってか、元スケルトンのゴーレム達を従業員ゴーレムって呼ぶのも面倒だよな。

 これからは元スケルトン達はカッコよくエージェントと呼ぶ事にしようぜ」


 次郎衛門の言葉にゴーレム改めエージェント達は頷いている。

 やる気は十分そうである。

 今までずっと暗い坑道で彷徨っていた事と比べればやるべき事があるというのは嬉しい事なのだろう。


「でも、それってギルドのお客さんを掠め取るって事になりませんか?

 流石にギルドを敵に回すのは危険だと思いますよ」


 ギルドに睨まれるのは不味いんじゃなかろうかという非常にもっともな問題点について意見を述べるメル。


「いや、ギルドからの業務委託って形にするつもりだから、ギルドとしてもこの案には乗り気なんだ。

 何せ実入りの少ない不人気な依頼をまとめて処理出来ちゃう訳だからな」

「それなら問題はなさそうですね」


 次郎衛門の説明にメルは納得し頷く。

 そんなメルの様子を見て次郎衛門も再び口を開く。


「2つ目は将来冒険者目指す若者やルーキーを対象にそういった技術を教える学校を開こうと思う。

 うちのエージェント達は元々Sランクの依頼を受ける程の凄腕だからな。

 講師陣には事欠かないだろ?」

「学校ですか?

 元々冒険者を目指す人というのは裕福ではない産まれの家が多いので、学校に通える程余裕のがあるとも思えませんけど?」

「確かにな。

 だが、少し考えが足りないな。

 俺達はこの国で唯一のSランク依頼達成パーティーなんだぜ?

 冒険者として上を目指すなら俺の作った学校に入るのが手っ取り早い。

 生徒を確保出来ない訳がない」


 再びメルは問題点を指摘する。

 冒険者の国とも呼ばれているドルアーク王国。

 冒険者の地位はかなり高い。

 だが、それは一部の高ランク冒険者、つまりは成功者の話であって、そんな冒険者を夢見る若者達は大抵貧しい出自の者なのだ。

 だが、そのメルの指摘は次郎衛門によって一蹴される。

 確かにこれは次郎衛門の言う通りなのかも知れない。

 問題点があるとすれば、学校を建てる為の土地の確保と、次郎衛門がゲコリアス達の時みたいにやらかしちゃわないように見張る必要があるという事だろうか。

 次郎衛門に関しては、フィリアが監視役の役割を果たしてくれる事を願うばかりである。


「むしろ入学希望者が殺到しそうですね。

 その辺りはこの先しっかりと考えていく必要がありそうですね」

「冒険者の質の底上げが狙いだからな。

 そんなに豊かではない連中にはさっきギルドから委託された雑用をこなす事で学費を賄えるようにしてやるつもりだよ。

 まぁ、学校に関してはすぐに始められるって訳でもないし、じっくりと詰めていく事にしよう」

「そうですね。それで商会の名前は決まっているんですか?」

「ジロー商会じゃ駄目なん?」

「駄目じゃないですけどありきたりかなと」

「ほう。遂に俺の名もありきたりと言われるほど世間に浸透しちまったか」

「違いますよ!?

 何でそこまで自分に自信が持てるんですか!

 そうじゃなくて、自分の名前を屋号にする事がありきたりって言ってるんです!」


 次郎衛門はSランクの依頼を達成した人物として、ラスクの街では既に知らぬものは居ない存在ではある。

 しかし、世界的にみれば現時点では一般常識といえる程の知名度ではない。


「冗談だって。

 良いんじゃねーか、ありきたりでも。

 どうせ俺の名前は王国中どころか世界中に知れ渡るんだ。

 そのネームバリューを使わないって手はないだろ」

「言われてみれば、その方がメリットありそうですね」

「だろ?」


 こうして『お届けします! 夢ある暮らし!』をモットーとするジロー商会が誕生したのであった。


 


 

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