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75話 ラスクの街のクリスマス!?中編

 一人の男が夜道を歩いていた。

 その男は最近Aランク冒険者に昇格し、行く行くはラスクの冒険者ギルドの支部長の地位がほぼ内定している。

 更には長年想い続けてきた女性との結婚も決まり、今が人生で一番幸せだと公言して憚らない人物である。

 現に今も愛する彼女の待つ家へと足早に帰る途中である。

 そんな男に怪しげな影が背後から忍び寄る。

 仮にもAランクの冒険者だというのに、怪しい影に気が付く様子は全くない。

 遂に影は背後から男を羽交い絞めにすると、男の鼻や口に布を押し当てる。


「グ!? な、なにもの……」


 どうやら布には何かしらの薬品が含まれていたっぽい。

 男は地面に崩れ落ちる。

 そして徐々に薄れゆく意識の中で、鮮血に染められたかの様な真紅の衣服を着た男の姿を見たところで意識が途絶えたのであった。




 ◆◆◆◆



 ラスクの街を納める辺境伯の館の執務室。

 今、この部屋には、街で起きているとある事件の報告をする為に、ゲコリアスが訪れていた。


「失礼します。

 父上に報告しなければならない問題が起きております」

「ふむ。聞こうか」


 辺境伯は領主として様々な仕事を抱える忙しい人物である。

 当然、息子であるゲコリアスもその事は百も承知している。

 そして後継者としてある程度の裁量を与えてもいるので滅多な事でゲコリアスが辺境伯の仕事を邪魔する事はない。

 つまりゲコリアスが報告に訪れているという時点で、ゲコリアスの手に余る問題が起きたという事なのだ。

 


「最近、若いカップルや夫婦が何者かに襲撃されるという事件が起きているのです」

「何だと!

 犯人は……

 いや、それより被害者の安否はどうなっている!?」


 ゲコリアスの報告に一瞬激高しかけた辺境伯。

 だが、直ぐに冷静さを取り戻し、被害者の安否を気にする辺りは流石だと言えよう。


「幸い死者どころか怪我人すら出ていませんが……

 その……

 何と言いますか……」

「どうしたというのだ!

 ハッキリ言わんか!」

 

 怪我人すら出ていないという報告に、辺境伯の心には安堵と共に疑問が浮かび上がる。

 その疑問はゲコリアスの煮え切らない態度によって更に膨らみ、思わず怒鳴ってしまう辺境伯。


「……のです」

「聞こえん! もっとハッキリ言え!」

「被害者の眉毛が異常に太くなっているのです」

「は?」

「だから被害者の眉毛が異常に太くなっているのですよ」


 ゲコリアスの報告の通り、この事件の被害者には一切怪我はない。

 だが、眉毛が異常に太くなっているのだ。

 そのバリエーションは多い。

 一子相伝の暗殺拳の伝承者風。

 背後に立つ事がNGなスナイパー風。

 キーボード担当のお嬢様風。

 某ファーストフードのマークっぽいものもある。

 しかも性質の悪い事に、眉毛を剃っても、抜いても、あっという間に生え揃うらしい。

 ゲコリアスの報告に間の抜けた呆けた声を上げてしまった辺境伯であったが、意味を理解すると苦り切った表情で口を開く。


「何となく犯人が分かってしまったのだが……」

「ええ。父上の想像通りでしょう」

「ジロー殿は一体何だってこんな事を……」

「周辺への聞き込みによると、どうやらクリスマスにあの方だけパーティーなどに呼んで貰えなかったらしいのです」

「一方的な妬みで幸せそうなカップルや夫婦の眉毛を濃くして周っているのか! 彼らを良い雰囲気にさせない為に!? 馬鹿な!」


 本当に馬鹿丸出しである。

 だが、そんな馬鹿な事に全力を尽くしてしまう男なのである。


「どうしますか?

 放っておいてもクリスマスさえ過ぎれば、収まるとは思いますが」

「いや、ここで見逃せば来年再来年も同じ事が起きる可能性が高い。

 鍵はフィリア殿だ。

 至急フィリア殿の元へ向かえ!

 無関係ならば、引き込め!

 何としてもこちら側に引き込むのだ!

 金は幾ら掛かっても構わん!」


 次郎衛門との全面対決を決意した辺境伯。

 次郎衛門唯一の弱点と言っても良いフィリアを確保するべくゲコリアスに命令を下す。


「父上ならそう仰るだろうと思って既にお呼びしております。

 どうぞ入って下さい」

「うちの馬鹿が迷惑掛けてるみたいね」 

「おお。フィリア殿ここに来たという事は協……」

「その前に、この部屋に結界を張るわよ。

 あの馬鹿の空間把握能力と聴力は、その気になればこの街全ての会話を傍受するわよ」


 流石に息子なだけあってゲコリアスは辺境伯の行動を読んでいたようだ。

 いや、読んでいなかったとしても現状で次郎衛門に対抗出来るのがフィリアしか居ない以上、フィリアを味方に付けるしか選択肢はないのだが。

 そしてフィリアは部屋に入るなり次郎衛門の盗聴を防ぐ為に結界で部屋を閉ざす。

 

「これで大丈夫よ。

 情報があの馬鹿に漏れる事はないわ」

「フィリア殿済まない。

 我々だけでは分が悪いどころでの話ではなくてな。

 どうか協力して貰えないだろうか?」

「あの馬鹿に関する問題なら協力しない訳にはいかないわ。

 で? 何か作戦はあるの?」

「ああ。

 一つ思いついた事があるのだ。

 正直なところ我々にジロー殿の居場所を突き止める事は不可能だ。

 だが、おびき寄せる方法ならある」

「あの馬鹿をおびき寄せて罠に掛けるのね。

 でも、そう簡単に罠に嵌る奴じゃないわよ」

「いや、フィリア殿を囮にすれば間違いなく掛かる。

 方法はこうだ。

 先ずはクリスマスの夜、ゲコリアスがフィリア殿に告白するが振られてしまう。しかし用意周到なゲコリアスは事前にフィリア殿に一服盛っており、薬が効いた頃合いを見計らって襲い掛かる。

 必死に抵抗するフィリア殿だが、薬のせいで絶対絶命となれば必ずジロー殿は姿を現すだろう」


 何とも大雑把な計画である。

 だが、下手に小細工重ねるよりはこの位ざっくりとした計画の方が結構迂闊なところがある次郎衛門には有効かも知れない。

 しかし、この作戦はぶっちゃけゲコリアスの死亡フラグがビンビン物語である。

 何せこの作戦は次郎衛門を激怒させかねない。

 というか間違いなく激怒させるだろう。

 下手したら一撃でスクラップ……

 殺される可能性だってありありである。


「ちょ!?

 父上!?

 そんな事したら私が殺されます!

 計画雑過ぎです!」

「悪くないわね。

 ゲコリアスなら多少壊れてもある程度なら修理出来そうだし」

「しゅ、修理?

 フィリアさん!?

 人を物みたいに言わないでくださいよ!」


 次郎衛門の手によってサイボーグ化されているゲコリアスは多少壊れたところで結構簡単に直せる。

 ゲコリアス自身は自分がサイボーグだという事を知らないので、凄まじく必死である。

 まぁ、知っていても必死になるとは思うが。



「ゲコリアス。

 確かに危険な役割だ。

 だが、お前しか任せられる者がおらんのだ」

「父上!

 ですが!

 余りにも危険過ぎます!」

「私では年齢的にも、立場的にも、不自然になってしまうのだ。

 頼む」


 結局、ゲコリアスは息子に頭まで下げて頼み込む辺境伯の頼みを断り切れずに引き受けてしまうのであった。

 そして次郎衛門捕獲作戦の詳細を詰めてく。


「何度も打ち合わせなんてしてたら、気付かれる可能性が高いわ。

 クリスマスイブにぶっつけ本番で行くわよ」

「それでは当日まで被害が続く事になってしまいますよ」

「この作戦はジロー殿に少々灸を据えてやる事が目的なのだ。

 焦って仕損じたら元も子もない。

 被害者には悪いが、この際少々我慢して貰うしかあるまい」


 どうやら辺境伯は事件を解決する事よりも次郎衛門に目に物を見せる事を優先するつもりの様だ。

 死人や怪我人が出るならまだしも、被害は眉毛が太くなるだけなので、辺境伯もこの際割り切ってしまっているようである。


 こうして次郎衛門捕獲作戦は一週間後のクリスマスイブに決行される事が決定したのであった。


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