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70話 お姉さん良く聞こえなかったわ!?

 無事に討伐も完了? して、ラスクの街への帰路に着いた次郎衛門一向。

 その人数は従業員ゴーレム達30名と、金属生命体の核が加わっている為に大幅に増えている。

 ちなみに金属生命体の件に関しては、従業員達にとって自分達を殺した張本人となるので秘密にしている。

 そんな訳で核は自宅に戻るまではアイテムボックスの中に待機させていた。


「もう少しでラスクの街か。

 2週間程しか離れてなかった筈なのに、凄く長い間留守にしていた気がするなぁ。

 サラちゃんとか孤児院の皆は元気かな」


 ラスクの街に近づくにつれ懐かしそうに周囲を見回す次郎衛門。

 それとは対照的にパンダロンの足取りは凄く重そうだ。

 何だかんだで頭髪が焼け落ちたり、走馬灯だか臨死体験だかの中でどっかの爺さんと面会したり、アイリィに心をへし折られた揚句に次郎衛門の悪事の方棒を担がされる羽目になったのだから、その足取りが重くなるのも仕方ないといえる。


「おお。やっと門が見えてきたな。

 って、あれ?

 何か妙に人が多くないか?

 ああ、そうか俺達を監視してた密偵達から情報が流れたのか」


 確かに次郎衛門の言う通り。

 ラスクの街の門には守衛達だけではなく辺境伯や支部長、サラを始めとしたギルド職員、そして孤児院の子供達まで集まっていた。


「ジロー殿。

 無事で何よりだ。

 その様子からすると無事に依頼は達成したのだな?」


 ジロー達の無事を労いつつ依頼の成否を問いかける辺境伯。


「おうよ!

 ばっちりだ。

 その辺の情報はずっと俺達を監視してた密偵達から行ってるんだろ?

 そうじゃなきゃ、何時帰るか分からん俺達を出迎える事が出来た理由が分からんからな」

「やはり密偵の件は気付かれていたか。

 確かに鉱山は解放されていると密偵達から報告は来ている。

 本当によくやってくれた。

 金属生命体の討伐は王国を治める貴族の一人として礼を言おう」

「ま、今回の依頼は色々楽しめたよ。

 金属生命体の素材も良い物っぽいし、礼を言われる程の事はしてないさ」


 辺境伯は次郎衛門の指摘にも動じず密偵を付けていた事を認める。

 半端に言い訳などをした方が、酷い事になると理解しているっぽい。

 そして長年王国を悩ませ続けてきた金属生命体の討伐を成し遂げた次郎衛門達に礼を言うと頭を下げる。

 次郎衛門は頭を下げる辺境伯に手をひらひらと振りながら気楽に応える。


「王国どころか、世界中の冒険者達が手も足も出せなかったSランク依頼だ。

 謙遜は嫌味にしかならん。と、言いたいところだが。

 ジローの場合は本気でそう思ってそうだな」

「フフフ。

 ジローさんらしいと言えばそれまでですけどね。

 ジローさん、フィリアさん、アイリィちゃんお帰りなさい」


 支部長が呆れ、サラは嬉しそうに次郎衛門達に話しかける。


「ただいまサラちゃん。

 孤児院の子供達も迎えに来てくれたのか。

 サンキュー!」

「ジローのおっちゃんおかえりー!

 フィリアおばちゃんも…… ヒィィィ!」

「今…… 何て言おうとしたのかしら?

 お姉さん良く聞こえなかったわ。

 もう一度教えてくれる?」

 

 子供の一人がフィリアに対してさりげなく爆弾を放り込かけるが、フィリアは次郎衛門ですら反応しきれない程の速度で子供に接近する。

 子供の顔面を鷲掴むフィリア。

 目だけは全く笑っていない笑顔で再び問いかける。

 フィリアの目。

 幾多の逢瀬を重ねあった恋人でさえも、躊躇わず葬りさる暗殺者のそれだ。

 そんなフィリアに顔面を鷲掴みにされた子供は恐怖のあまり凍りついてしまった。

 見かねた次郎衛門が子供に助け舟を出すべく口を開く。

 

「おいおい、落ちつけって。

 子供相手に大人気なさすぎるだろ。

 大体そんなに間違った事も言ってないんじゃね?

 フィリアたんって、俺よりも相当とし……」


 次郎衛門は最後まで言葉を紡ぐ事が出来ない。

 子供を鷲掴んでいた筈のフィリアが、次の瞬間には次郎衛門の鳩尾に拳を突き刺していたのだ。

 その攻撃は正に神速無音と表現するしかない。

 無言で崩れ落ちる次郎衛門。

 辺境伯達はあまりの出来事に声も出せなくなっていた。

 何せあの次郎衛門が一切の抵抗も出来ずに無力化されたのだ。


 下手に動いたら死ぬ。


 そう確信させる程の鬼気を今のフィリアは身に纏っていた。

 そんな中、フィリアは大地に沈んだ次郎衛門に目もくれず、首だけをグリンと回し、先ほどの子供に視線を送る。

 


「さっき何て言おうとしたのかしら?

 お姉さん、良く聞こえなかったわ。

 もう一度教えてくれる?」


 子供は産まれたての小鹿のようにガクガクと全身を震わせながら、フィリアと崩れ落ちピクリとも動かない次郎衛門を交互に見る。

 ここに至って子供も本能的に理解していた。

 選択を間違えたら死ぬと。

 だが、子供はこのまま誤魔化す事も不可能だという事も同時に理解していた。

 それ故に子供は―――


「お、お帰りなさい。フィ、フィリア…… お姉ちゃん……」


 ありったけの勇気を振り絞って言葉を吐きだした。

 その言葉を聞いたフィリア。

 ほんの少し目を細めるとユラリユラリと歩みよる。

 震える子供に手を伸ばし頭に手を伸ばすフィリア。

 子供は祈る。

 神に祈る。

 もう悪い事はしませんと。

 院長先生のいう事もキチンと聞きますと。

 だが、子供は知らない。

 目の前の存在が神の一柱だという事を。

 そして―――――


「はい。ただいま」


 細い指が己の頭を優しく撫でる感覚。

 子供は紙一重で生き残った事を理解する。

 そしてヘナヘナとその場にへたり込む。

 良く見れば、下半身を濡らし、足元には地面に染みを作っている。

 死の緊張から解き放たれた子供はどうやら失禁してしまったらしい。

 その場にいた者達は、ピクリとも動かない次郎衛門と、地面に力なくへたり込んだ子供を見て、フィリアに年の話をする事だけは絶対に避けようと心に誓ったのであった。


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