69話 そしたら彼女はどうなるんだろうなぁ!?
「さて、これで無事に依頼完了だな!
ん? どうしたんだ、フィリアたん?」
「別に。
あんたが決めた事だから、文句を言うつもりはないわ。
だた、もうちょっと情に厚い奴だと思っていただけよ」
どうやらフィリアは、次郎衛門が問答無用に金属生命体を倒してしまった事に思う所があったっぽい。
今までも結構冷たい視線を次郎衛門に向けていたりしたが、それとは違う一段冷めた視線で次郎衛門を見ている。
「フィリアたんは、止めを刺した事がお気に召さなかったみたいだな。
確かに奴の境遇は同情する。
だけど、だからと言って見逃す理由にはならんだろ。
エリザベート達は奴に殺されたんだぞ?
それに今はあんな状態とはいえ、ギルドの回し者のパンダのおっさんもいる。
あんなんでも幹部やってるんだ。
一部始終を映像記録の魔道具で隠し撮り位はしているだろ」
そう言うと次郎衛門はパンダロンの方に視線を向ける。
蹲っていたパンダロンはビクリと体を震わせる。
どうやら次郎衛門の言葉通り、散々な目に遭いながらも、自分の仕事だけはこなしていたようである。
「悪く思うなよ。
俺の証言だけで依頼の完了を認める事が出来る程、今回の依頼は軽くない。
貴重な鉱山の奪還は、王国の悲願と言っても良い程の重要な案件だからな。
それにお前達の実力を正確に王都の連中に把握させる為にも、映像記録は都合が良いからな」
「ま、そういう事になる事は織り込み済みだ。
気にしちゃいないさ。
そういう訳で貴族共を黙らせる為にもキチンと依頼は完了させなきゃいけなかったんだ」
「そう……
あんたなりに考えた結果だという事は分かったわ」
フィリアは納得は出来ないが理解はしたようだ。
そしてこれ以上話を蒸し返すつもりもなさそうだ。
「パンダのおっさん。
依頼は無事に完了したって事で良いんだな?」
「ああ。ラスクの街のギルド幹部として確かにSランク依頼達成を見届けた。
街に帰ったら莫大な報酬が支払われるだろう」
「それじゃ、映像記録もここまでにしてくれ。
余り気分の良いもんでもないしな」
パンダロンの言葉に次郎衛門は一つ頷くと、空間転移を利用してパンダロンから映像記録用の魔道具を取り上げる。
「ほむほむ。
全部で4個も持ってるとかすげー念の入れようだな。
む?
これは勝手に編集出来ないようになっているタイプか。
ま、今回の依頼内容からすれば当然か。
レンズを壊しちまえばこれ以上は記録出来ないだろ。
ほらよ。」
次郎衛門はパンダロンから取り上げた魔道具のレンズ部分を壊し、パンダロンへと放り投げる。
「この魔道具は安い物じゃないんだぞ!
これの修理に幾ら掛かると思ってるんだ!」
「うるせーよ。
こっちの許可なく勝手に盗撮したんだろう。
依頼達成まではこっちも我慢したんだ。
その気になれば撮影すらさせない事も可能だったんだぞ?
ここら辺が落とし所としては丁度良いだろ。
さてと、金属生命体の破片を回収して帰ろうぜ!」
次郎衛門はそう言い放つと何処かで見たような不思議な光沢の金属球をピンと指で弾き飛ばす。
数メートル程、宙を舞う金属球。
そしてパシッっと小気味良い音を鳴らしながら掴み取る。
「!? おい、ジロー!
お前それ……
金属生命体の核じゃないのか!?」
「ん?
これは俺が金属生命体を研究して作り上げた金属生命体の核のレプリカだぞ?」
パンダロンが慌てて次郎衛門に詰め寄る。
そんなパンダロンに向かって金属球を見せびらかしながらニヤニヤと笑う次郎衛門。
その金属球はどうみても金属生命体の核に見えた。
幾ら次郎衛門が規格外だとしても、流石に討伐したばかりの金属生命体をあっさりと複製出来る筈がない。
となると金属生命体は討伐されていなかったという事になる。
パンダロンが慌てるのも当然だろう。
そんな次郎衛門を見ていたフィリアが突然笑い出す。
「ぷ……
アハハハハ!
あんた、核を踏み潰す振りをして、足でアイテムボックスを使ったわね?
液状化していた金属も消えたんじゃなくて、単純にアイテムボックスに流れ込んだだけ。
あんたは本当に悪知恵働かせさせたら天下一品よね!
アハハハハ!」
フィリアはさっきまでの表情が嘘であったかの様に心底楽しそうに笑っている。
これ程楽しそうに笑うフィリアは、この世界に来て初めてかもしれない。
そんなフィリアを満足そうに見ながら次郎衛門も楽しそうに口を開く。
「クハハハ!
おいおい。
滅多な事言うんじゃねーよ。
それじゃ、俺達がパンダのおっさんと共謀して依頼達成の詐欺をしたって事になっちまうじゃねーか。
俺達はキチンと討伐依頼を完了した。
エリザベート達の仇も討った。
そして俺の手元にあるこれは俺が作った俺の所有物。
な?
そうだろ、おっさん?」
「な!? 誰が共犯だ!」
確かに撮影したのがパンダロンである以上、次郎衛門達が口を揃えて共犯だと主張した場合その主張を覆す事は難しいかもしれない。
ただ、依頼を失敗したとしてもペナルティがある訳でもない。
次郎衛門としては生活に困っている訳でもないので失敗となってもそこまで問題がある訳でもない。
だが、このままでは鉱山の問題は解決したのに依頼者であるドルアーク王国が報酬を支払わなくて良いという貴族達が一方的に得をするという展開になる事は目に見えている。
駄目元で一芝居打ったのである。
「なーに、黙っておけば分かりゃしねーって。
俺達はちゃんと金属生命体を討伐した。
それで良いじゃねーか。
そしたら、俺達ぁドルアークの英雄なんだぜ?
おっさん、あんた帰ったらプロポーズするんだろ?
きっとプロポーズも上手く行くぜ?」
パンダロンを芝居がかった口調で説得(脅迫?)し始める次郎衛門。
そんな二人に強烈なデジャビュを感じるフィリア。
ちなみにアイリィは何の話題なのかよく分かっていない。
だが、次郎衛門が何だか楽しそうなのでニコニコと笑いながら「共犯! 共犯!」と連呼していたりする。
「グ…… だがしかし…… 」
次郎衛門の真摯な説得に、かなりグラついているものの、未だに抵抗を続けるパンダロン。
更に追撃を仕掛けるべく口を開く次郎衛門。
「馬鹿正直に依頼達成してないだなんて言ってみろ?
あんたの人生お先真っ暗だ!
何せ共犯なんだからなぁ!
そしたら彼女はどうなるんだろうなぁ?」
「な…… んだと?」
「女盛りの未亡人なんだろ?
独り寝の夜で我慢できると思うか?
それこそちょっと頼り甲斐のある男が現れたら……
ふらふら~っとなっちまうんじゃねーの?
おっさんは耐えられるのか?
惚れた女が他の男に抱かれるって事によ?」
「う…… あぁ……」
延々とパンダロンの心を蝕むような説得が続く。
そして―――――
「俺達は無事に討伐を完了したんだ。
それで皆ハッピーOK?」
「オレタチハブジニトウバツカンリョウシタ!
ミンナハッピーOK!」
次郎衛門の熱意ある説得に、パンダロンは快く応じたのであった。




