68話 金属生命体戦決着!?
次郎衛門と金属生命体による、しょうもない消耗戦は既に2時間が経過していた。
「ハア、ハア。
やっと奴の再生の速度も落ちてきたか。
だが……
俺の指も限界が近い。
予想はしてたが、やはり厳しい戦いになったな」
数え切れない程鳴らし続けてきた次郎衛門の指。
既に真っ赤に腫れ上がって見るからに痛そうである。
対する金属生命体の方も最初は10秒と掛からずに再生していたのだが、今では30秒程掛かっている。
「指鳴らさなくても、魔法使えるんじゃないの?」
「使えるか使えないかで言うなら、使えると答えざるを得ない」
フィリアの疑問に答える次郎衛門。
その表情は苦しげだが、負わなくても良いダメージという事だ。
茶番であると言わざるを得ない。
「それじゃ、何でわざわざ指を鳴らしてるのよ。
大体、最初からこうやって戦っておけば、あんたも怪我しなかったし、パンダロンもハゲずに済んだんじゃないの?」
フィリアの疑問はもっともである。
そんなフィリアの疑問に応じるように口を開く次郎衛門。
ちなみに指は鳴らし続けている。
「指を鳴らす事に関しては理由がある。
先ず、1個目の理由は地球に居た頃にやってたアニメだな。
雨の日は無能な野生馬な人が、指を鳴らしてカッコよく敵を倒してたの見て、俺も何時かやってみたいと思ってたんだ。
2個目の理由だが、無詠唱魔法だと絵的に地味な気がするんだ。
そして、何故最初からこの魔法を使わなかったかという質問に対しての答えはな。
俺がファンタジーなこの世界をなるべく堪能したいから……
ってのは冗談で、この魔法は切り札だったんだよ。
フィリアたんやアイリィたんはともかく、ギルドの回し者のパンダのおっさんには知られたくなかったんだ」
フィリアの質問に答えながらも攻撃の手は休めない次郎衛門。
指を鳴らしている理由に関しては、やはり下らないと断言出来るどうでも良い理由だ。
それでも何故最初から空間魔法使わなかったかという理由に関しては、最初は適当に誤魔化そうとした次郎衛門だったが、フィリアの冷ややかな視線に耐え切れなかったらしい。
確かに、対象を問答無用で切断出来るこの魔法は強力の一言に尽きる。
切り札として隠しておきたかった魔法だったらしい。
「それじゃ、何で使ったのよ」
「思ったより強敵だったからな。
特に目からビームはヤバイ。
万が一くらいの確率でフィリアたんや、アイリィたんが傷つくかも知れん。
例え万が一程度の危険だとしても、家族を危険に晒してまで手の内を隠そうとは思わんよ」
「ふーん。あっそ」
質問に答えながらも、指を鳴らし続ける次郎衛門。
フィリアは自分の質問した答えの一つが自分の為になら切り札ですら次郎衛門は躊躇いなく使うという話になるとは思ってなかったらしい。
素っ気無い返事をして動揺を隠しているつもりらしいが、若干頬が染まっていたり。目が泳いでいたりと、バレバレだった。
それを指摘したところでフィリアが素直に認める筈がない上に、逆上する事は確実なので指摘はしないらしい。
それよりも、正式なパーティーメンバーではないとはいえ、危険に晒したくない面子にパンダロンが入っていない辺り、彼の扱いはフィリアとアイリィに比べて格段に酷い。
特に次郎衛門の発言を聞いた後だと、未だに片隅で座り込みながらブツブツと何事かを呟いているパンダロンに何時か幸あれと願わずにはいられない。
「さて、再生もそろそろ打ち止めらしいな」
「そうみたいね。
魔力もほとんど使い切って核を隠す事も出来ないようね。
さっさと破壊しちゃいなさいよ」
「ああ。そうだな」
次郎衛門の言葉通り、金属生命体の再生には限界が来ているっぽい。
液状になったまま、それ以上の再生は進んでいない。
そして液状化した金属生命体の本体の中。
フィリアの言うところの核と思わしき丸い物体が見えている。
次郎衛門は核の傍らにまで歩み寄る。
そして核を踏み潰そうとした時、次郎衛門の頭に急に声が響いた。
(嫌だ。死にたくない。助けて!)
「喋った!?」
「喋ったと言うよりは思念に近いわ。核がむき出しになったから聞こえるようになったのかしら?」
(声が聞こえる!? ここに住んでいる。生命は言語体系違いすぎる。誰とも意志の疎通が出来なった。お願い。殺さないで。ここで静かに暮らしていただけ)
言語形態が違うのに言っている事が分かるのは、神の加護の効果であろう。
結構微妙な翻訳具合であるが、宇宙語にまで効果が有効であるというのは流石は神と褒めるべきだろうか。
「こんな事言ってるけど、どうするのよ?」
「どうするって言われてもな。
同情すべき点はあるが、流石に見逃す事は出来んだろ。
こいつに殺された人間もいるからな」
(襲われたから身を守った。私は一度も攻撃していない。ただ生きたかっただけ)
金属生命体が鉱山の外に出てきたという記録はない。
犠牲になった者も討伐隊の者達だけである。
そういった意味では、金属生命体は正当防衛の為に戦ったと言えるのかも知れない。
「それでも駄目だな。
少なくともお前は、この世界の住民にとって侵略者でしかないんだ。
余り喋り過ぎても情が湧きそうだからな。
せめてもの情けだ。
サクッと終わらせてやる」
(嫌だ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死に――――)
グシャッ
必死に命乞いをしていた金属生命体の核を容赦なく踏みつける次郎衛門。
それと同時に金属生命体の声は途切れた。
核の周囲に液状化していた金属も地面に吸いこまれる様に消えていく。
次郎衛門が足を退けると、そこあった筈の核は跡形もなくなっていたのであった。




