67話 不幸な偶然!?
次郎衛門の本番宣言とは関係なく、金属生命体は密かに次郎衛門達を排除するべく動き出していた。
キュィィィィィィ
甲高い機械の作動音のようなものを発し始める金属生命体。
仄かに金属生命体の目が眩く輝く。
「マズイ!
おっさん避けろ!
間に合え!!」
状況を素早く察知した次郎衛門。
空間転移を使い腕だけをパンダロンの元へ移動させ突き飛ばす。
それとほぼ同時。
金属生命体が目からビームを撃ち出す。
突き飛ばされたパンダロンは間一髪のタイミングでビームの直撃を避ける事が出来た。
だが、突き飛ばした勢いが強すぎた。
結局、もう一方の閃光の方へと飛んで行ってしまう。
「どわぁあぁぁ!
し、死ぬ!?」
パンダロンは悲鳴を上げ、ビームに向かって飛んで行く。
『ジュッ』っという音が聞こえた様な気はするものの、紙一重でビームの直撃を避けたっぽい。
そして突き飛ばされた勢いそのままに壁にぐしゃりと衝突して止まる。
再び金属生命体が閃光を放とうとする。
だが、次郎衛門が先手を打つ。
即座に金属生命体の周辺空間を封鎖。
金属生命体を隔離した。
次郎衛門によって封鎖した空間は、次郎衛門の込めた魔力量に比例して強度が上がる。
封鎖空間の中でもお構いなしにビームを放つ金属生命体。
封鎖空間を撃ち破る事は出来ない様である。
「ふう。
これで一息つけるか。
おっさん大丈夫か?」
次郎衛門がパンダロンへと声を掛ける。
だが、パンダロンは壁に張り付いたままピクリとも動かない。
不安になった次郎衛門。
様子を見る為に歩み寄りパンダロンに手を掛けたその時。
急にパンダロンが動き出す。
「テメー!
ジロー!
殺す気か!?
死ぬかと思っただろうが!
爺さんが手を振ってるのが見えたぞ!」
「いや、悪い悪い。
ちょっと加減をまち…… 」
怒髪天を衝く勢いで怒るパンダロン。
軽いノリで謝ろうとしていた次郎衛門だったが、パンダロンの顔を見て思わず言葉が止まる。
そして別の言葉を紡ぎ出す。
「キモパンダが、パンチパンダになってる!」
何という悲劇だろう。
パンダロンの頭をビームが掠めた所為で頭部の毛が見事にチリチリになっていたのだ。
一体どういう掠りを方をすれば、ここまで満遍なくパンチパーマ状態になるのかは謎だが、それはそれは見事にパンチパーマになっている。
パンチパンダの誕生である。
「何ぃ!?」
パンダロンが慌てて頭部を確認しようとして、更に悲劇が巻き起こる。
パンダロンが触れる端からパンチパーマ状態の頭髪が崩れ落ちたのだ。
パンチパンダ改めハゲパンダ誕生である。
「おっさんが、3段階変身可能なフ○ーザ様だったとは知らなかったぜ!
これは恐れ入った!
クハハハハ!」
これには次郎衛門のみならず、フィリアやアイリィすら大爆笑だ。
獣化してキモパンダで変身1回目。
パンチパンダで変身2回目。
ハゲパンダで最終形態といったところだろうか。
とんだ○リーザ様も居たものである。
「クハハハハ!
やべぇ!
超腹痛い!」
「おい!
笑うんじゃねーよ!
くそ!
コイツに関わるとやっぱ碌な目に遭わん。
疫病神め!
だから来るの嫌だったんだ!
どうしてくれ…… 『バキィ!』グハ! 何しやがる!」
泣きそうな顔で次郎衛門に文句を言っていたパンダロン改めフリー○様。
だが、突如アイリィがフリー○様を殴り飛ばす。
今まで笑っていたというのに一転してどうやらアイリィは怒っているっぽい。
「五月蝿いハゲ!
パパが助けなきゃ死んでたよ?
何でパパの事悪く言うの?」
「グ……
そ、それは」
「それは?」
「い、いや。何でもない…… です」
ここにきて、幼女アイリィによるまさかの正論&鉄拳コンボ炸裂である。
パンダロンは黙らさせられるが、アイリィはそれだけでは納得していないっぽい。
拳を固め振りかぶりるアイリィ。
「それだけ?」
「グ…… た、助かった。
か、感謝す……る」
「良く出来ました」
内心はどうあれ、パンダロンが感謝の言葉を口にした事でアイリィの怒りは納まったらしい。
ニッコリと微笑み、まるで年下の弟に接するかのように、ポンポンとパンダロンを撫でながら褒める。
ここで完全にパンダロンの心は折れた。
その場でぺたりと崩れ落ち、目から透明の液体を流しながら「どうせ俺なんか」とか呟いている。
確かにアイリィの言う通り、次郎衛門が咄嗟に突き飛ばさなかったら、パンダロンは閃光の直撃を喰らっていた筈である。
そしてパンチパンダになったのも、ハゲパンダになったのも不幸な偶然が重なっただけで、決して次郎衛門が悪意を持っていた訳でも、パンダロンが生きて帰ったらプロポーズするという決意によって立てられたお約束的なフラグを回収する為に起こされた一波乱という訳でもない。
ないったらない。
しかし、パンダロンの心のダメージは深刻かも知れない。
何せ元々がりがりに痩せた病気っぽい見た目の獣化状態だったのに、更に頭部の毛がごっそり無くなってしまっているのだ。
キモさに一層の磨きが掛かっている。
更に幼女であるアイリィから鉄拳を交えた教育的指導を喰らうというコンボまで炸裂したのである。
涙も出ない程に乾いてしまった目で体育座りをし、ブツブツと「生まれてきてごめんなさい」とか言っている。
時間が彼の心を癒してくれると良いなぁと、心の底から思わずにはいられない。
「何だか愉快な事になってるおっさんの事は置いといてだ。
そろそろ決着を付けようか。
フィリアたん!
おっさんとアイリィたんも結界で守ってやってくれ」
フィリアにおっさんとアイリィの事を託すと、未だに封鎖空間の中で暴れている金属生命体の方へと向き直る次郎衛門。
「あまり遊んでると、この坑道自体が崩落しそうだからな。
悪いがここから先は一方的に俺のターンで決めさせて貰う!」
次郎衛門はそう宣言すると封鎖空間を解く。
同時に金属生命体はビームを放とうとするが。
パチン
音と共に、金属生命体の首が落ちる。
次郎衛門が一つ指を鳴らしただけで、金属生命体の首があっさりと切り落とされたのだ。
更に指を鳴らすと、金属生命体の五体がバラバラに切断される。
「ふーん……
今のって空間魔法よね?」
「ああ。魔力に物言わせて空間を無理やり断ち切ってみた。
この方法なら金属生命体がどれ程堅かろうが問題なさそうだな」
フィリアの問いに答える次郎衛門。
呆気ない幕切れかと思われたが、バラバラに切断された金属生命体はどろりと液状になり一つに集まって再び人型をとろうとしている。
「げ。何か昔みた映画であんな感じのいたよな。
バラバラにしても元に戻っちゃうのか」
「でも、全く無駄って事はなさそうよ。
再生するのに魔力を消費してるわ」
「ほむ。魔力が尽きるまで切り刻めば良いって事か。
どっちが先に力尽きるか勝負だな!」
フィリアの言葉を受けて、次郎衛門は再び指を鳴らす。
同時に切り刻まれる金属生命体。
こうして金属生命体の魔力が尽きるのが先か、指が腱鞘炎になって音を鳴らせなくなるのが先か、という非常に地味で無意味な消耗戦に移行したのであった。




