66話 あばばばばばばばばばば!?
左足を砕かれ地面に崩れ落ちた金属生命体。
だが、その闘志は衰えた様子もない。
次郎衛門を叩き潰すべく、ゴツゴツとした巨大な腕を振り回し始める。
そんな敵の様子を見て溜息混じりに呟く次郎衛門。
「足を砕いたってのに、まだまだ元気が有り余ってる感じだな」
「今、砕いたのは所詮外殻に過ぎないわ。
恐らく中心部にいる本体をどうにかしないと止まらないわよ」
「モビ○スーツみたいなもんか。
足なんて飾りってか? って事は、頭だけになっても動きそうで怖いよな」
「馬鹿な事を言ってないで、さっさと攻撃しなさいよ!」
「おう、いえい!
フィリアたん。このまま援護ヨロシコ!」
フィリアに急かされ、再び金属生命体にヒットアンドアウェイを繰り返し始める次郎衛門。
その動きは淀みなく、フィリアとの連携も相変わらず素晴しい。
先ずは残りの足を砕いていき、そしてその後は振り回している手にタイミングよく攻撃を叩き込んでいく。
「こいつの外殻ってすんげー堅いよな。
これを加工したら良い装備が出来そうな予感」
「そうね。
終わったら鑑定してあげるから、今は戦いに集中しときなさい!」
既に金属生命体の外殻もかなり削られている。
反撃にも精彩がなくなってきた為に、次郎衛門も軽口を叩く余裕が出来たようだ。
そんな次郎衛門をフィリアが戒め気を引き締めさせる。
何だかんだ言っても、二人は良いコンビなのだ。
「ほーい。了解…… !?」
フィリアに戒められ再び金属生命体に接近を図る次郎衛門。
だが、金属生命体の様子に違和感を感じ、踏み止まると同時に叫ぶ。
「ヤバイ!
フィリア!
結界を張れ!」
次郎衛門は相当に焦っているらしい。
呼び捨ての上に命令形で叫ぶ。
そして、自らはフィリア達を守る位置に立ちはだかる。
次の瞬間。
金属生命体の体が爆散。
無数の金属片が坑道自体を崩落させかねない凄まじい破壊の嵐を撒き散らす。
その破壊の嵐を至近距離でまともに受けた次郎衛門。
無数の金属片が直撃し、勢い良く吹き飛ばされると2~3度地面でバウンドしながらもフィリアが咄嗟に張った結界に『ビタン!』という音と共に激突。
「あばばばばばばばばばば!?」
結界の特殊な効果でバチバチと何だかホネまで透けて見えそうなコミカルなエフェクトを発生させた後に倒れた。
「あんた結界に飛びついてくるとか。
馬鹿なんじゃないの?」
奇妙な悲鳴を上げて倒れた次郎衛門にフィリアの辛辣な言葉が刺さる。
別に次郎衛門は結界に飛びついた訳ではない。
むしろ、フィリアを守る為に自らの体を盾にした結果。
金属生命体の攻撃をまともに喰らい吹き飛んだ先にフィリアの結界があったのである。
フィリアもその事は分っているのだが、どうやら素直に心配する言葉を掛ける事が出来ないらしい。
逆に罵ってしまう辺り中々難儀な性格をしているものだ。
その上フィリアが張った結界は触れたものにダメージも与えるタイプだったっぽい。
次郎衛門の体からはプスプスと煙が立ち昇っており、見た目がかなり不憫な事になっている。
「…… 」
そんな中、次郎衛門は何事もなかったかの様に立ち上がる。
無言でパンパンと作務衣についた汚れを払いながら、視線を金属生命体の方へと向ける。
金属の体を持つ人型のマネキンの様な存在がいた。
どうやらこれが金属生命体の本体であるようだ。
先ほどの破壊の嵐は外殻部分の維持を諦めた本体が攻撃に利用したのものだった様らしい。
そんな本体に向かい不敵な表情を浮かべて口を開く次郎衛門。
「漸く本体のお出ましか。
お前の外殻部分を使った攻撃が効いたと思ったか?
だが、残念だったな。
お前が俺だと思って攻撃したものは俺の……
残像だ!」
残像? それが次郎衛門の発言を聞いたフィリアとパンダロン共通の疑問だった。
あまりに突飛すぎて次郎衛門が一体何を理解出来なかったのである。
だが、僅かな間を置いて次郎衛門の意図を理解した二人。
思わず全力で叫ぶ。
「「う…… 嘘吐けええええええええええ!」」
「残像は無理があるだろ!
強がりにしても嘘が下手過ぎる!
もうちょっと何か良い言い訳を思いつかなかったのかよ!」
「そうよ!
あんた思いっきり吹き飛んでたし、あばばばばってキモイ悲鳴もあげてたじゃないの!」
どう見ても直撃を喰らっていたにも関わらず、残像だと言い張る次郎衛門。
そんな次郎衛門に味方である筈のパンダロンとフィリアから一致団結した容赦なく入るツッコミの嵐。
勿論、二人の指摘通り残像な訳もなく、次郎衛門の発言は嘘も嘘、大嘘だ。
次郎衛門は額から出血もしているし、愛用の作務衣も破れたり焦げたりでボロボロである。
その上、ちょっと涙目なのに平気そうな態度をとる様は、やせ我慢をしているという雰囲気をこの上なく醸し出している。
何故わざわざ一瞬でばれる嘘を吐いたのか。
次郎衛門を小一時間程問い詰めたいところなのだが、今はそれどころじゃない。
非常に残念である。
「軽い冗談じゃん。
見破られたから本音を言うけど、結構痛かった。
主にフィリアたんの結界が!」
「私の結界が強力なのは当然でしょうが!
あんな鉄屑の攻撃なんか目じゃないわ!」
「この状況で冗談を言えるとか、どんな神経してるんだよ…… 」
フィリアは何だか自慢げに胸を張っているし、パンダロンが次郎衛門の本音に呆れている。
だが、本当に呆れるべきは坑道そのものが崩落しかねない程の破壊力を持った無数の金属片の直撃を受けて冗談を言える程度のダメージしか受けていない次郎衛門のタフさなのかも知れない。
「さてと、金属生命体さんよ。
お互い前戯はもう充分だろ?
そろそろ本番開始と洒落込もうじゃねぇか!」
そう言い放つと、金属生命体へと好戦的な視線をを向ける次郎衛門なのであった。




