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64話 何度も言ってるけど既に死んでるけどな!? 

「良し。

これで最後だな。

封印っと」


 満足そうに呟く次郎衛門。

 だが、無理やりマンドラゴーレムへと押し込められた元スケルトンの連中は、不満がありありな感じだったりする。


「無理やりこんな体に押し込めてどうするつもりですの!

 ハッ!?

 実体を与えたところで、犯すつもりですわね!

 この鬼畜!」

「犯す犯すって何度も叫ぶんじゃねぇよ!

 今のお前のマンドラゴーレムな姿を見て犯そうと思える程に、俺の守備範囲は広くねぇ!

 憑依状態なら、自由にこの鉱山から移動出来そうなんだろ?」

「まさか……

 私達を生かす為に?」

「まぁ、何度も言ってるけど、既に死んでるんだけどな。

 でも、折角見逃したってのに、結局始末されちまうってもの何だか寝覚め悪いだろ?」

「そ、そうでしたのね。

 そうとも知らずに酷い事を言ってしまいましたわね。

 ごめんなさい」


 次郎衛門の言葉を聞き素直に謝罪し始めるエリザベート達。

 だが、次郎衛門が衝撃の一言を言い放つ。


「ああ。

 気にするなって。

 俺も丁度手駒が欲しかったところだしな」

「? 

 何の話ですの?」

「その体は俺が作ったゴーレムだ。

 当然、俺の命令には絶対服従となる。

 つまり、お前等は俺の言う事には逆らえない。

 そして俺は丁度商売で、一旗上げようと思っていたところでな。

 要するにお前等は、俺が立ち上げる商会のローコストな従業員ってな訳だ!

 御就職おめでとう!」


 元スケルトン達は、次郎衛門が何を言い出したのか理解出来なかった。

 フリーズ状態に陥いる元スケルトン達。

 それはそうだろう。

 何せ無理やり体(骨)から魂を引っぺがされ、ゴーレムに移植され、挙句の果てには、勝手に就職内定なのである。

 今まで暗い坑道の中で鬱屈していた彼等には、想像も出来なかった予想外の展開なのだ。

 だが、我を取り戻した元スケルトン達。

 代表してエリザベートが反抗の狼煙を上げようと動く。


「高貴な生まれの私が従業員ですって?

 冗談ではないですわ!

 こんな体、出て行って……

 出れない!?」

「クハハハ!

 無駄無駄ぁ!

 お前等に貼り付けた御札は霊験あらたかかも知れない女神。

 フィリアたんのお手製だからな!

 しかも効果は数百年は持続して欲しいなって思ってる素晴しい逸品だ。

 一応アンデッド対策に作って貰っといて正解だったぜ!」

「かも知れないって何よ!

 霊験あらたかに決まってるでしょうが!

 本来は女神である私がアンデッド如きに姿を見せる事自体有り得ないのよ。

 その私の力を体験出来たんだから、光栄に思いなさい!」

 

 次郎衛門の言い様はとても胡散臭い。

 御札に本当に効果があるのかは、非常に疑問であるが、実際に効果を発揮している以上、御札を製作したフィリアの腕は確かなのだろう。


「おい。ちょっと待てジロー。

 お前、商売始めるって冒険者はどうするんだ?

 正直、お前は居れば居たで扱いに困るが、だからといって今更冒険者辞められても困るぞ!?」


 突然の展開に思わず口を挟むパンダロン。

 確かに、次郎衛門は普段から碌でもない事ばかりやらかす男である。

 だが、冒険者としての実力は既に他の追随を許さないのだ。

 むしろ冒険者として活動しているからこそ、普段の行動もある程度は仕方ないと御目こぼしして貰っていると言ってよい。

 まぁ、捕まえようにも無理だという面もあるのだが。

 だが、冒険者としての活動を辞めるとなると、何かやらかしても見逃す訳には行かなくなるのだが、捕まえる事も無理なのである。

 そうなると辺境伯や支部長、そしてパンダロンが非常に困るのだ。


「安心しろ。

 俺は冒険者は辞めない。

 おっさんが何を焦ってるのかは知らんけど、ギルドや辺境伯にとっても、悪い話じゃないと思うぞ?」

「どういう事だ?」

「俺達が冒険者になった頃、住民の手伝いとかやってただろ?

 でも、あれって報酬が安いから、受ける奴が殆どいないじゃん。

 だから、それを引き受ける商会を作ろうと思ってたんだよ。

 元村長の娘っていう中間管理職に向いてそうな娘も確保してる事だしな。

 それにこいつ等だって元は人だったんだ。

 なるべくなら、人の中で生活させてやりたいって思うってのが、人情ってもんだろ?」

「受け手の居ない依頼は、ギルドの方でも扱いが困るからな。

 そういう事なら、確かにギルドにとってもメリットは大きいかも知れんな」


 そういって納得するパンダロン。


「だろ?

 俺はこいつ等を使って小銭を稼ぐ。

 こいつ等は街で暮らすことが出来る。

 街の連中はいつでも人手を確保出来る。

 win-winどころかwin-win-winで万々歳って訳だ」


 傍若無人かと思えば、意外と心遣いが出来る男。

 それが鈴木次郎衛門なのである。

 ここら辺が問題起こしまくっているにも関わらず、ラスクの街でも受け入れられている理由なのだろう。

 次郎衛門の考えを聞かされた元スケルトン達も、話を聞く前はギャーギャーと文句を垂れ流していたのだが、今は誰一人文句を言うものは居なくなっている。


「私達……

 街で、暮らせますの?」

「ああ。聞いての通り給料は安いがな」

「こんな姿ですのに?」

「そこも安心しろ。

 特殊な催眠効果のあるアンテナを作った事があってな。

 それを支給してやる。

 身に付けていれば、周りからお前達は人の姿に見えるように調整してやる」

「それじゃ、本当に街で暮らせますのね!」

「一応、扱いは俺に使役されているゴーレムって事になるけどな。

 既に人ではないお前達が街の連中に受け入れられるかどうかは、お前達の頑張り次第だろうな」


 エリザベートを始めとする元スケルトン、現マンドラゴーレム達の脳裏に、と言ってもマンドラゴーレムには脳などないのだが、彼等が人だった頃の思い出が蘇る。

 魔物に成り果てた今でも夢にみるあの日常。

 もはや人ではない自分達には、届きえぬものだと諦めていた人との触れ合い。

 それが再び味わえるかもしれない。

 希望の灯がそれぞれの心に灯っていく。


「構いませんわ!

 そうでしょ、皆さん?」

「「「うおおおおお!

 こんな真っ暗な何もない墓穴を彷徨うだけなんてもう嫌だ!

 再び日の光の下を歩く事が出来るというのなら、我々は喜んで従者になってやろうじゃないか!」」」


 歓喜の咆哮が坑道中に響き渡る。

 こうして次郎衛門は使い勝手の良いハイスペックな部下を手に入れ、いよいよ鉱山の主、金属生命体との対決の時がやって来ようとしていたのであった。  

  

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