62話 主人公TUEEE!?
グダグダと色々あったものの。
結局襲い掛かってくる様子を見せるスケルトン達。
迎え撃つべく次郎衛門が更に一歩前へと進み出る。
「今回は、俺に任せてくれないか?」
どうやら一人でスケルトンを殲滅するつもりらしい。
次郎衛門の声からは漲る闘志が溢れており、その目には不退転の力強さ宿っている。
「好きにすれば?」
「ジロー、本気か!?
Bランクの魔物の1体倒すのでも、普通はパーティー単位で挑むものなんだぞ!
オークキングと同ランクの魔物を、30体同時に相手にするのは幾らなんでも無茶過ぎる!」
そんな次郎衛門の提案をフィリアはあっさりと認め、パンダロンは反対をする。
「パンダのおっさんの言い分は分る。
だが、スケルトンの言い分を信じるなら、ここのボスはあいつ等を単独で撃破する程の強さを持っているという事になる。
それなら俺も、スケルトンに圧勝出来るくらいじゃないと、ここのボスに勝つことは難しいと言えるんじゃないか?」
「ぐ……
それは確かに。
だが……」
「心配してくれるのは、ありがたいんだけどな。
おっさんはギルドから派遣された随行員の筈だ。
パーティーメンバーのフィリアたんが認めている以上、おっさんは黙って引いてくれ」
「チッ。勝手にしろ!」
予想外に正論をぶつけられたパンダロン。
それでも何とか反論しようとするが、それを次郎衛門が制す。
パンダロンは渋々ながらも、次郎衛門が一人で戦う事を認めたのだった。
「悪いな。
本音を言うと、一度やってみたかったんだよ。
異世界転移物ではテンプレの、主人公TUEEEEって奴を!」
そう言い放つと、単身で愛用のピコハンすら持たずにスケルトン達へと突撃を仕掛ける次郎衛門。
そんな次郎衛門に対して、前衛らしき装備を身に着けているスケルトンが、肩口を目掛けて剣を鋭く振り下ろす。
「クハ!
クハハハ!
その程度の攻撃なんざ効くか!」
「ホ、ホネェ!?」
次郎衛門は叫びつつ左腕で斬撃を受ける。
次郎衛門の腕に触れた瞬間。
剣はどろりと赤熱して熔け落ちた。
あまりに理解不能な光景。
スケルトンの動きは、ほんの一瞬だけ止まってしまった。
その隙を見逃さず、次郎衛門は右腕でスケルトンの顔面をを殴りつける。
するとスケルトンは衝撃で吹き飛びながら炎に包まれ、あっという間に全てを焼き尽くされ、崩れ去ったのだった。
「これぞ。
触れた物を瞬時に焼き尽くす魔法スキル。
名づけるなら『炎点火』と言ったところか」
そう呟き佇む次郎衛門。
今度は後衛のスケルトンから無数の矢が襲い掛かる。
すると次郎衛門の全身から炎が噴出。
襲い来る矢を焼き尽くしてしまう。
「更にこれが。
炎点火の発展系。
我が身を炎で覆い尽くす『炎纏化』」
「流石にこの場にやってくる冒険者だけはあるホネ!
矢が効かないのなら、魔法で一気に決めるホネ!」
矢が効かないとみるや、魔法に切り替えるスケルトン。
元一流冒険者だけはあり、その判断は素早い。
炎や氷などで作られた矢が次郎衛門へと襲い掛かる。
スケルトン達は、元々ドルアーク王国最強だったというだけはあるっぽい。
攻撃の引き出しは多いようだ。
だが、その魔法の矢が次郎衛門に届く直前。
次郎衛門の全身が熱せられた金属の様に赤くそして眩く輝き出す。
炎の矢は次郎衛門の肉体に飲み込まれ、氷の矢は触れる事もなく蒸発。
「そしてこれが最終型。
その身を灼熱の炎そのものと化す。
『炎転化だ!』」
炎の化身と化した次郎衛門。
スケルトン達は早くも手を出せずにいる。
そして主人公気分を堪能している次郎衛門は凄く楽しそうだ。
だが、次郎衛門とは対照的にフィリアやパンダロンは冷めた表情である。
それ故にフィリアの口から疑問が飛び出す。
「何で全部同じネーミングなのよ。
意味不明なんだけど」
「フィリアたん何を言ってるんだ?
あ!?
叫んだだけじゃ、漢字が違ってても伝わらないのか!
おっふ。
俺とした事が痛恨のミス…… 」
主人公気分から一気にテンションを沈ませる次郎衛門。
いや、沈んでいるのは気分だけではない。
自らの発する高熱によって、足元がマグマ化しているので、本当にズブズブと沈んでいっていた。
如何に次郎衛門がカッコ良いつもりで、ノリノリでスキル名を叫ぼうとも、聞いている人からしてみれば、全部『エンテンカ』でしかない訳で、フィリアやパンダロンが何言ってんだコイツ? といった表情になるのも当然と言える。
そんな事にも気が付かなかった次郎衛門。
余計にさっきまでの浮かれていた自分の事が恥ずかしくなったっぽい。
「あぁ……
凄く恥ずかしい。
このまま沈んで母なる大地に帰っちゃおうかな……」
「馬鹿ね。
ジローはこの世界の出身じゃないでしょうに。
生んだ覚えも無いアンタみたいなのが、息子として勝手に帰ってきても、大地も困るわよ。
迷惑だから他の家の墓に勝手に入るような真似はやめときなさい」
何だか一気にやる気のなくなった次郎衛門に、フィリアの更ならる追撃が叩き込まれる。
確かにフィリアの言い分も分らないでもないし、更に今回は勝手に次郎衛門が失敗しただけなので誰も庇う人間はいない。
「ジローのネーミングセンスは一先ず置いておくとして、威力自体は凄まじいの一言に尽きるな。
こっちまで焼けてしまいそうだ」
凄まじいまでの熱気に噴出す汗を拭いながら呟くパンダロン。
そんなパンダロンをフワリと心地よい風が包みこむ。
「風の結界を張ったから、じっとしてなさい。
ジロー!
さっさとそこの死にぞこない共を始末しちゃいなさいよ。
このままだと、パンダロンが酸欠で死ぬわよ」
「ああ。
そう言えばそうか。
何か白けちまったな。
サクッと始末したら御褒美におっぱい」
「却下よ!
でも…… そうね。
この依頼が無事に終わったら、て、手を繋ぐくらいならしてあげても良いわよ?」
「ふむ。
鉄壁の処女膜キーパーのフィリアたんにはその辺が限界かぁ」
「誰が鉄壁の処女膜キーパーよ!
馬鹿言ってないでさっさと終わらせなさい!」
「うひ。
怖ぇぇぇ!
ま、いっちょやりますか!」
次郎衛門はスケルトンを片付けるべく視線を巡らせる。
だが、機先を制してスケルトン達が一斉に動き出す。
その動きには淀みがない。
その淀みない動きから繰り出さるるは。
「ごめんなさいホネ!
我々、調子乗ってましたホネ!」
土下座なのであった。
それは見事なDOGEZA☆だった。
一糸乱れぬ完璧に統率された動きだった。
そこにはドルアーク王国最強とか言ってた割りに、プライドを完全に捨て必死に生き残ろうとするスケルトン達の姿があった。
流石の次郎衛門もこれは呆気に取られてしまう。
「フィリアたん、どうする?」
「依頼達成の条件には、スケルトンの討伐は入っていないんだから、ジローの好きにすれば?」
ここでフィリアの鶴の一声が入る。
こうしてスケルトン側の全面降伏という形で決着するのであった。




