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60話  自分で聞けよ!?

「蝙蝠共は、これで打ち止めかな?」

「そうみたいね」


 ふざけた鑑定結果の所為で態勢も整わないままなし崩し的にキラーバットとの戦闘に突入してしまった次郎衛門一行。

 それでも、キラーバットは低ランクの魔物だ。

 被害を出さずに何とかなった。

 次郎衛門達の周囲には返り討ちにあったキラーバットの死体が無数に転がっている。


「爺さん。聞こえてるんだろ?

 次…… やってくれたら、前回の3倍はキツイ御仕置きするからな?」


 次郎衛門がこの状況を盗み見ているだろう神に向けて呟く。

 そして、今度は気分を切り替えるように明るい声でパンダロンに話掛け始める。


「おっさん。この蝙蝠って金になるの?」

「キラーバットは肉の部分は食用に売れる。

 あとは牙と羽も錬金術の材料になるとかで確かギルドで買取もしてた筈だ。

 所詮Eランクの魔物だから大した金額にはならんがな」

「ま、そりゃそっか。

 んじゃ、うちには異常に食べ盛りの娘もいるし食べるか。

 牙と羽は俺が錬金術の研究に使っちゃおう」


 そう決めると、キラーバットの牙と羽を優先してアイテムボックスに収納していく。

 そして残った死体を美味しく頂いていくアイリィ。


「ん? アイリィたん?

 何時の間に火を吹けるようになったんだ?」


 次郎衛門の言う通り、アイリィは炎のブレスを吐いていた。

 単調な味に飽きない為に、炎のブレスを吐き、様々な肉の焼き加減に調節しているっぽい。

 次郎衛門の記憶が確かならば、オークを討伐した時には、まだ炎は吐かずに生で食べていた筈である。

 いや、既に吐く事は出来たのかも知れない。

 アイリィの生が好き発言を考えるとあえて生で食べていた事も考えられるからだ。

 そんな次郎衛門の質問をアイリィは可愛らしく顔を傾げてほんの少しだけ考え込む素振りを見せた後に口を開く。


「今?」


 どうやらアイリィの様子からして、何となく無意識のうちにブレスで肉を焼いていたっぽい。

 特に意識もせずにブレスの威力を調節出来てしまう辺りは、流石ドラゴンの姫君と言えるだろう。

 次郎衛門の能力の成長も尋常ではないが、次郎衛門の魔力を糧に生まれて来たアイリィもまた尋常ではなさそうだ。

 生まれた時点で、実の親以上の能力だったというのに、どこまで成長してしまうのか将来がとても不安…… じゃなかった、楽しみである。


「さて、アイリィたん。

 一旦ストップだ。

 今度はスケルトンが来るみたいぜ!

 数は30体ってとこか。

 このままここで待機しとけば5分もしないうちに現れる筈だ」


 どうやら今度はスケルトンが接近しているらしい。

 次郎衛門は油断無く洞窟の奥を睨み付け、臨戦態勢に入っている。


「ジローの感知能力はちょっと便利すぎやしないか?

 俺としちゃありがたい事なんだけどよ。

 空間魔法ってのはここまで凄いとは思わなかったぞ」


 パンダロンは呆れと賞賛をない交ぜにしたような表情でぼやく。


「勘違いしちゃダメよ。

 こんな芸当が出来るのはジローくらいのものよ。

 普通の人間がジローと同じ事しようとしても魔力が足りないし、魔力が足りたとしても、入ってくる情報量が膨大すぎて脳が負荷に耐えられないわ。

 実行すれば、あっという間に廃人確定よ」

「確かに、フィリアたんの言う通りかも知れないな。

 必要じゃない情報まで大量に入ってきちまうからな。

 例えば、パンダのおっさんがギルド職員の未亡人の女の人の事が、ちょっと気になってるとか、今回無事に帰る事が出来たらプロポーズしようと思ってるとか、俺にとってはすげーどうでも良いけど、頭に入って来ちまうもんな」

「な!? おま!」


 パンダロンは内に秘めた思いを次郎衛門にばらされて絶句している。

 というか、無事に帰れたらプロポーズとか完全に死亡フラグだ。

 これは何やら一波乱ありそうである。

 それ以前に、付き合ってもいないというのに、いきなりプロポーズとか、パンダロンも恋愛においては相当ダメな人であるらしい。

 女性を口説きたいのならば、それなりにキチンと手順を踏むべきである。

 そして次郎衛門は次郎衛門で、他人の恋心を暴露したあげくに、『すげーどうでも良い』と言い切っちゃうとか別のベクトルで相当ダメな男である。

 ついでにフィリアも世間知らずに育ってきた為に。

 アイリィは生まれてまだ数ヶ月である為に。

 恋愛に関してはダメな感じなので、このパーティーは揃いも揃って恋愛方面は壊滅状態であるらしい。


 いきなり恋心を暴露され絶句していたパンダロンだったが、急にハッとした表情をになると、次郎衛門の方へ向き直り、なにやらモジモジした様子で次郎衛門に問い掛ける。

 中年のおっさんのモジモジとした姿は結構キツイものがある。

 ちょっとした精神攻撃であるが、やっている本人にはその自覚はなさそうだ。


「なぁ、ジロー。

 その、あの、なんだ……

 相手は俺の事どう思ってるかも知ってたりするのか?」

「ん?

 ああ。気になるのか?

 何かスリムなパンダってキモイな」

「ゴフ…… 俺はもうダメだ」


 次郎衛門の言葉にパンダロンの顔が絶望に染まる。

 サラに思いっきり振られたムキ男の憐れな姿。

 その鮮烈な姿がパンダロンの脳裏を過ぎる。

 同じ運命を辿る未来の自分の姿を想像してしまう。


「……って、俺は思った」

「お前が思っただけなのかよ!

 ちょっと泣きそうになっちまったじゃねぇか!

 後、キモイって言うなよ!

 頑張っても太らない体質なんだから仕方ないだろ!」


 見事に次郎衛門にからかわれてしまったパンダロンは次郎衛門に怒鳴る。

 顔真っ赤になったり、絶望して泣きそうになったり、ホッとしてみたり怒鳴ったりと、中々の振り回されっぷりで少し可哀そうである。

 まぁ、でも恋とはそういうものなのかも知れない。


「クハハハ!

 そういった類の事は、ズルしないで帰ってから自分で聞けよ。

 さて、来るぞ!」

「チッ!

 普段はろくでない事ばかり言う癖に!

 たまに真っ当な事言いやがる!

 こうなったら絶対に無事に帰ってやる!」


 必ず生きて帰ると決意を新たにするパンダロン。

 同時にスケルトンが姿を現したのであった。


 

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