59話 いざ、坑道へ!?
村を出発してからの道中。
何泊か野宿し、遭遇したゴブリンを圧倒的な憎しみを持ってフィリアが焼き尽くしたり、オークをアイリィが生のまま丸かじりしたりと、紆余曲折あったものの、一行は無事に目的地である鉱山に辿り着いたのである。
「やっと着いたか。
ここって金属生命体の他にはスケルトンが出るって話だったけど、スケルトン以外は魔物出ないのか?」
この世界に来たばかりの頃は何をするにしても異常に慎重だった癖に、現場に到着してから出現する魔物を気にしだすといういい加減っぷりの次郎衛門。
最近調子に乗りすぎな気もするが、結局何とかしてしまっている為に、痛い目に遭うまで反省する事はなさそうだ。
「基本的にはスケルトンがメインだな。
スケルトンは生前の能力がある程度反映される。
彼等の生前は超一流の手錬だ。
かなりの強敵と見て良いだろうな。
後はキラーバットやゴブリンも住み着いたりしているらしいが、こっちは油断さえしなければ、特に問題もないだろう」
次郎衛門の質問に答えるパンダロン。
ベテラン冒険者であるが故にそのコメントは的確で分かりやすい。
アドバイザー的ポジションに納まりつつある。
スケルトンが生前の能力をある程度とはいえ反映させているのだとしたら、パンダロンの言う通り、かなりの強敵になるのは間違いない。
何せ生前の彼らは、鉱山に出現した金属生命体を討伐する為に送り込まれた最精鋭と言うべき人材だったのだから。
因みにキラーバットとは、体長80cm程の肉食蝙蝠である。
群れで人やゴブリン等を襲って食べるEランクの魔物らしい。
「ある程度ってのが、どの位なのか気になるところではあるけど、いざとなったらフィリアたんに纏めて成仏させて貰えば良いっしょ」
「前にも言ったけど、ターンアンデットって面倒臭いから嫌よ。
それに女神たる、この私に歯向かう悪霊は成仏だなんて生温い事言わずに、問答無用で滅ぼせば良いのよ!」
幽霊ちゃんの時もそうだったが、相変わらずフィリアはアンデットを毛嫌いしているらしい。
女神としてそれで良いのか甚だ疑問ではあるが、人にも十人十色の個性があるように、神にもそれぞれ個性があるのだろう。
そういった面では人とそれ程大差ないように感じるところだ。
まぁ、最近はあまり自分が女神である事を隠す気もないっぽいが。
フィリアの女神発言に関しては、次郎衛門が問題児過ぎる為、そのパートナーと目されるフィリアも美人だけどやっぱりちょっと残念な人なんだ。って、くらいの認識で周囲に受け流されていたりする。
「金属生命体はギルドから聞いた情報だと、基本的に殴る蹴るって感じの物理攻撃オンリーだったよな?」
「ああ。記録ではそうなっているな。
もっとも知能はかなり高いのではないかという説もある。
だしたら今もそうだという保障はないな」
「うーん。ぶっちゃけ、どうやったら討伐出来るかってのも謎なんだよな。
ゴーレムみたいに核を砕けばOKだったりすれば分り易いんだけどな」
「王国やギルドとしても完全にお手上げの相手だからな。
情報が少ないのは仕方ないだろう」
この鉱山以外では存在が確認された事のないユニークモンスターである為に、本当に生命体であるかどうかすら確定していない。
分っている事といえば、一定の範囲に近寄ると攻撃してくる事と、物理魔法共に非常に高い耐性があるらしく、以前に戦った連中の攻撃は通らなかったといった程度の事なのだ。
「後はぶっつけ本番で鑑定に頼るしかないのか。
でも、毎度鑑定しても碌な情報が入って来ないんだよな。
そろそろ第二回を開催するべきかもな」
「ん? 第二回って何の事だ?」
次郎衛門の意味深な発言にパンダロンが反応を見せる。
「いや、気にしないでくれ。
それじゃ、気を引き締めて入りますか!
フィリアたんも明かりの魔法を使ってくれ。
俺も使うけど、不足の事態に備える為にも、光源は多い方が良いだろうからな」
次郎衛門自身は、持ち前の気配感知や魔力感知、そして空間魔法による感知によって暗闇でも全く問題なく行動できるし、実は金属生命体の位置も把握出来ていたりする。
フィリアも一応神なだけあって暗闇を見通す事くらいは造作もない。
だが、アイリィはいずれは問題なく行動できるようになるだろうが、現状では暗闇は若干苦手である。
パンダロンはパンダの獣人であるので、夜目は効く。
だが、流石に洞窟などの全く光源がないところでは流石にお手上げな訳で光源は必要なのだ。
次郎衛門を先頭にアイリィ、フィリア、パンダロンの順番で坑道に入って行く。
明かりは充分に坑道を照らしており、これなら暗闇からの不意打ちも受けることはなさそうだ。
次郎衛門の感知によって既にマッピングは終わっている。
便利な男である。
迷う事もなくサクサクと進んでいき、そして広場のような所に出そうな位置で次郎衛門が立ち止まる。
「さて、多分この先の天井付近にいるのがキラーバットだと思うんだが、フィリアたん、鑑定頼めるかい?」
どうやらこの先の広場はキラーバットの住処であるらしい。
次郎衛門の頼みにフィリアはキラーバットに感づかれないように鑑定魔法を発動させる。
「何よこれ!? 情報量が多すぎるし、キャンセル出来ない!」
だが、どうも様子が可笑しい。
フィリアが焦る中で現れたウィンドウ。
凄まじい勢いで延々と上下に伸びていく。
天井に突き刺さっても止まる気配はない。
ジャックと豆の木の豆もびっくりな勢いである。
下の方に伸びたウィンドウも地面に突き刺さってもまだまだ伸び続けていた。
幸い鑑定のウィンドウは実体を持っていないので、坑道が崩落することはなかったのだが、ぶっちゃけ鑑定結果の大半は天井と地面にめり込んでて見えない。
辛うじて見える部分には、キラーバットのDNAや塩基配列など戦う上では全く役に起ちそうにない情報という有様だ。
しかも直ぐ近くでこんな事態が起きれば、当然キラーバットは刺激されまくり次郎衛門達に猛然と襲いかかって来るという負のスパイラル付きである。
「だぁぁぁ!
神の爺さんめ!
第二回開催の件を盗み聞いてやがったな!?
それに対する嫌がらせにしても悪質過ぎるだろ!
覚えとけよ!」
そう、神は確かに次郎衛門の第二回開催の話を聞いていたのだ。
だが、決して嫌がらせしようと思った訳ではない。
餅つき大会の件が完全にトラウマとなっていた神。
第二回開催を予感させる次郎衛門の呟きに、相当なレベルで恐慌状態に陥った。
そんな精神状態で、少しでも詳しい情報を送ろうとした結果、鉱山の中なので次郎衛門達には分らないが鑑定ウィンドウの上下の長さが3kmにも及び天井どころか山肌をも突き抜けて聳え《そび》立つ程に情報量の多い異常な鑑定結果になってしまったというのが真相である。
ちなみに鉱山の外には王都の貴族の派遣した密偵がおり、突如出現したウィンドウを目撃し、中で一体何が起きているんだと恐れ慄いたという小話も出来ていたりもした。
結局、神の必死の思いとは裏腹に、また一つ神のトラウマが増える日が近づく事になったのであった。




