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58話 どこから調べてくるの!?

 村長が、自爆し元村長になってしまった翌日。

 旅立つ次郎衛門一行を、宿屋のお姉さんや他の村人達、ついでにムキ男達が見送りに来ていた。

 村長はちょっとあれな人物であったが、他の村の住民はかなり気の良い人達っぽい。


「くまモンさん。

 助けて頂いたのに、色々と迷惑を掛けてしまって申し話ありませんでした。

 メルちゃんの事も宜しくお願いします」

「お姉さんってば、100%俺の名前を覚える気がないんだモン?

 誰が熊本県営業部長だモン! ってかこの世界の人は何なんだモン?

 一体どこからジローラモとか、くまモンって言葉を調べてくるモン?」

「…… 何の事ですか?

 それよりメルちゃんの事宜しくお願いします」


 次郎衛門の質問も渾身のクオリティの超低い物真似もお姉さんには通じない。

 ニッコリと笑ってスルーされるのみである。


「いや、だからね?

 何処からジローラモとか、くまモンって言葉を調べてくるのか聞いてんだけどね?」


 確かに日本の知識があるフィリアが、レイザーラモンとか良かろうもんと言ったりするのは、まだ理解出来なくもない。

 まぁ、良かろうもんは兎も角、レイザーラモンを引き合いに出してくるフィリアのセンスは理解し辛いものがあるけども。

 しかし、この世界の人からジローラモとか、くまモンとかという言葉が出てくるという事に、疑問を持たない方が可笑しいだろう。

 だから、次郎衛門も疑問を口にしたのだが、結果はというと。


「それよりメルちゃんの事宜しくお願いします」


 完全に無視である。

 ここまで不審であるとひょっとしたら神の爺さんが悪戯で仕込んでる可能性すら浮上し出すが、流石の次郎衛門もこの程度の事で第二回餅つき大会を開催したりはしないだろう。


「…… まぁ、メルの事は任せてちょんまげ。

 折角手に入れた貴重な人手だ。

 生かさず殺さずの精神でこき使ってやるから、死ぬことはないさ」


 次郎衛門は物凄く腑に落ちない表情をしているが質問に関しては諦めたようだ。

 そしてメルは死ぬことは無さそうだが、かと言って幸せに生きる事も出来なさそうである。

 メルを借金奴隷とする事を良しとしなかった割には、待遇面では奴隷とほとんど変わらなさそうだし、次郎衛門の性格からしてちょっとしたセクハラもするのだろうし、メルの前途もかなり多難になりそうだ。

 そんなメルの未来を想像してしまったのか、宿屋のお姉さんも思わず苦笑いをしている。


「ムキ男にはいつか貸しを返して貰うから覚悟しとけよ!」

「ふざけんな!

 お前が一方的に言い出したんだろ!」


 お姉さんとの会話に一区切りがつき、今度はムキ男へと話し掛ける次郎衛門。

 だが、相変わらずムキ男は次郎衛門の事が嫌いであるらしい。

 まぁ、決闘の場であったとはいえ、火達磨にされたりもすれば、嫌いで当然だと思わなくもない。


「ふーん。

 ま、認めないなら俺はそれでも良いけど。

 そんなんだからお前モテないんじゃねぇの?

 お姉さんはどう思う?」

「どうって言われても困っちゃいますけど、助かったという事実があるのにそれを認めない不義理な人は私はお断りですね。

 更に今回の件はムキ男さんがジローさんに押し付けようと画策していた事は村人も皆知っていますからね。

 それなのに逆ギレ気味の態度を取るとか有り得なさ過ぎてドンビキです。3m以内に近寄らないで下さいね」


 不意に話を振られてびっくりした様子のお姉さんだったが、困っちゃいますとか言ってる割にスラスラと痛烈な批判を繰り出す辺り、お姉さんも結構な性格をしている気がする。

 そしてお姉さんに完膚なきまでに心を圧し折られたムキ男は崩れ落ちて蹲ってしまった。

 顔は下を向いているので見えないが小刻みに震えており地面にぽたぽたと染みを作っている。

 ひょっとしたらムキ男は宿屋のお姉さんに結構な好意を抱いていたのかも知れない。

 数年来想っていたサラに振られてから、まだそれ程の時が経っていないというのに切り替えの早い男である。

 まぁ、お姉さんのこの様子では、その思いが報われる事はなさそうだが。

 そんなムキ男を満足そうな様子で、眺めていた次郎衛門が口を開く。


「ほらな?

 もうちょっと日頃の行いを鑑みた方が良いと思うぞ?」


 一体どの口がそんな事言い出すんだと思わなくもないが、言っている事自体はそんなに間違っていないというところが、何とも言えない微妙な空気をこの場に醸し出している。


「あんたが言える立場じゃないでしょうが!」

「クハハ! 違いないな。さてと、そろそろ出発するか。またねー」


 思わず突っ込みを入れるフィリア。

 だが、次郎衛門はあっけらかんと笑い飛ばす。

 見送りに来てくれた人々に別れを告げ、歩き始める。


「オークの討伐有難うございました。

 どうかお気をつけて!」


 次郎衛門はヒラヒラと手を振り、お姉さんや村人達に見送られ、一行は鉱山へと向かうべく旅立のであった。



 村から充分に離れた頃。

 フィリアがこっそりと次郎衛門に話しかける。


「そういえば、村長とか宴のドサクサで効き忘れてたけど。

 オークキングの時に、あんた全身刺青みたいな状態になってたのは一体何なのよ?」

「何のことやら?」

「惚けるんじゃないわよ。

 あの力は異常だわ。

 天使や精霊どころか下級の神族、悪魔ですら滅ぼしかねない程よ」


 どうやらフィリアはオークキングを倒した時の次郎衛門の変化がずっと気になっていたっぽい。

 問いただす機会を伺っていた様である。

 次郎衛門に惚けさせる気は無さそうだ。


「特に秘密してた訳じゃないから良いけどね。

 元々はマンドラゴーレムの、ヤバイオーラを放出させない為の研究の副産物って感じだよ。

 今のところゴーレムでは成功してないのが珠に傷だけど。

 成功すればゴーレムもAランク級の戦力になる上に、味方に精神攻撃もしなくなる筈なんだよな」

「ゴーレムの為の研究を自分に転用とか、あんたって奴は何処まで人外になれば気が済むのよ……

 何が人でありたいと思っている、よ?

 自分から人の枠を勝手にはみ出て行ってるんじゃない!」

「あらま、聞いてたのか。

 ま、今はフィリアたんを守れるなら俺は人外でも良いさ」

「あっそ。

 良いんじゃない。

 こう言ったらあれかも知れないけど、私もアイリィも人間じゃないしね」


 次郎衛門の愛の告白ともとれる言葉に相変わらず素っ気無い風の態度を取るフィリア。

 だが、自分を気遣うようなニュアンスを含むフィリアの言葉に、自然と頬が緩む次郎衛門なのであった。


 

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