4話 いざ異世界へ!?
次郎衛門の居た世界とは異なる世界。
ドルアーク王国に属する辺境の街ラスク。
その近郊の森には、転移してきた次郎衛門とフィリアの姿があった。
(無事に転移に成功したようじゃの?)
「うお? 爺さんの声っぽい幻聴が聞こえる!?」
(幻聴ではないぞい。所謂テレパシーというやつじゃな。
転移も成功したようじゃし、ワシも忙しい身である故に、この先あまりテレパシーを送る事もないじゃろうがの。
この世界が、お主達にとって住み良い世界である事を祈っておるぞい。
フィリアも元気でのう、ではさらばじゃ~)
「ああ、またな!」
「お父様もお元気で」
神との会話を終えた後、興味深く周囲を観察する次郎衛門。
「ほえー。ここがファンタジーな世界かぁ」
「ええ、そうよ。ラスクの街の近くのようね。
先ずは……って若返ってる!?」
次郎衛門の突然の変化に、思わず二度見してしまうフィリア。
次郎衛門の実年齢は31歳だった筈だ。
それが、どうした事か、肌は瑞々しくなっており、声も何だか若々しい感じになっている。
人相はともかく、年相応の見た目だった筈だが、今は20歳前後に見える。
「え? まじで? 自分で自分の顔は、確認出来んからな。
どのくらい若返ってんだろ?
…… ふう…… 良かった。
とりあえず毛は生えてる。
夜の営みに影響が出るほど若返って無くて本当に良かった」
真っ先にパンツの中を確認し、安堵する次郎衛門。
この辺りは、ファンタジーだろうが何だろうが、全くブレない男である。
「あんたと夜の生活を営んでくれる相手がいるとは思えないけど?」
そんな次郎衛門に対して遠回しに自分は相手にしないと言い放つフィリア。
「あらま、フィリアたんってば、連れない事いうねぇ。
まあ、営みの話しは置いといて、どういう事だろう? 」
「きっと、あんたの出鱈目な魔力が影響したんじゃないかしら?
特に問題ない様だしほっとけば良いでしょ」
フィリアは他人事のように言い放つ。
まあ、実際に他人事ではあるのだが。
「ま、特に違和感もないし良いか」
他人事では済まない筈の本人も、あっさり現状を受け入れる。
メンタル面はかなり強そうというか、鈍そうな男である。
「それじゃ、突っ立ってても仕方ないし、ここから一番近いラスクの街に向かいましょ」
「ラスク? 何だか、美味そうな名前の街だなぁ」
「ラスクってのは街を起こした人の名前よ。その子孫が辺境伯として街を治める領主をしているのよ」
「ほむほむ。それでここら辺って、魔物とかでるの? 」
「そりゃ、出るわよ。でも街も近いし、そんな強力なのは出ないから大丈夫。
でも街から3日も離れれば、辺境だけあって、かなり強力な魔物も出たりするわ」
会話をしながらテクテクと街に向かう2人。
強力ではないにしろ、魔物が出るかも知れない状況にいるとは思えない程の暢気さだ。
「そいえば、フィリアたんは荷物って何も持ってないけど、どうすんの?
ずっと嫁が同じパンツはき続けるのは、旦那としてどうかと思うんだけど」
「誰が嫁なのよ! それになんでパンツ限定なのよ!
せめて着の身着のままとか言いなさいよ!
ハァ…… アイテムボックスって空間魔法があってそれに入れてるのよ」
「アイテムボックス!
うおおお、まじでファンタジー!
俺も覚えれるかな?
このキャンプセット結構重いから大変なんだよな!」
「あると便利だし、落ち着いたら教えてあげるわ。
でも、必ず覚えられるとは限らないし、保管できる量も個人差があるから余り期待しないことね」
「そっかぁ。覚えれると良いなぁ。
んで、魔法って他にどんなのがあるんだ?」
「基本的に魔法っていうのは、イメージが大事なのよ。
イメージさえ完璧に出来ていて、それに見合う魔力があれば、大抵の事は出来るわよ…… それこそ死者を蘇生すら可能よ」
人差し指を軽く振りまわしながら、ざっくりとした説明をするフィリア。
その人差し指は、ほんのり光っている。
どうやら簡単な魔法を実演してくれている、というか、次郎衛門へと、見せびらかしているようだ。
どうやら魔法に関しては、かなり使用者の技量が重要なようだ。
そんなフィリアの指先を、次郎衛門は視線で追う。
「生き返りすら可能なのか…… 魔法ってやっぱ半端ねえな」
「イメージと見合う魔力があればって言ったでしょ。
蘇生魔法を使うには膨大な魔力が必要だし、死者の蘇生を正確にイメージ出来る人間はこの世界には、多分居ないんじゃないかしら?
大抵は失敗して発動しなかったり、半端に発動してアンデットになっちゃたりするわ」
「アンデットも居るのか。ゾンビとかあまりぞっとしないな」
アンデットと聞き、映画に出てくるような、ぐずぐずに腐ったゾンビをイメージしたらしく、ゲンナリとした表情をする次郎衛門。
確かに、ゾンビなどと鉢合わせたりしたら、あまり楽しい光景ではないだろう。
「そりゃいるわよ。
戦場跡地やダンジョンなんか、ワッサワッサ沸いてるわよ。
気持ち悪いったらないけどね」
どうやらフィリアもそういったものが余り好きではないらしい。
まぁ、映画ならともかく、現実にそんな物がおり、それが大好きだと言う者は、そう多くはないだろう。
「この世界の人は、魔法について結構大雑把なイメージしか出来てないわ。
精々、火水土風光闇の単純な魔法くらいが一般的ね。
後は、特殊な魔法として、鑑定魔法、空間魔法、召喚魔法、契約魔法などがあるわね。当然、女神である私は全系統使えるわ」
フィリアは若干自慢気に胸を張る。
そんなフィリアの豊かな胸を余さず脳に焼き付ける次郎衛門。
やはりこの男、あらゆる意味で油断がならない。
そして2時間も歩いた頃。
やっと目的地であるラスクの街の門が見え始めたのであった。
「やっと着いたぁ。って、俺達このまま普通に門に向かって大丈夫なん?」
「ええ。打ち合わせ通り気がついたら、この付近に居たって事にすれば、多少の手続きの後に街に入れる筈よ。
無事に入れたら、冒険者ギルドで登録して身分証を作って貰いましょ」
「警備体制ゆるいなぁ。うーん、何かドキドキするわ」
そして、いよいよ門に近づき守衛に声を掛けようとしたその時である。
「動くな!! 女性を開放して荷物をおろせ!!
少しでも怪しい動きをしたら即刻突き殺すからな!!」
守衛が尋常じゃない剣幕で、次郎衛門に槍を突きつけたのだ。
「ほえ?」
状況についていけず、間抜けな声をあげる次郎衛門。
あまり強調してこなかったかも知れないが、次郎衛門の人相は滅法悪い。
その上、作務衣というこの世界では見ない衣服を着用してるのだ。
守衛から見たら不審者以外の何者でもなかったのだ。
こうして次郎衛門と異世界人との、記念すべきファーストコンタクトは、次郎衛門が現地人に不審者扱いされるという、ちょっぴりほろ苦いものとなったのであった。