56話 フラグ立つ!?
「よう、ムキ男。
無事にオーク共は全滅させてきたぜ」
無事にオーク討伐を完了し、村へと戻ってきた次郎衛門。
「もう終わったのかよ。
素直に認めるのは悔しいが、テメーの強さだけは認めざるを得ないな。
ってか、俺の名前はロイドだって言ってるだろ!
いい加減に覚えやがれ!」
「クハハハ!
覚えてはいるぞ?
自分の保身の為に他人を炊き付ける様な奴は、ムキ男で充分だっての。
むしろ、尻拭いしてやったんだから感謝しろよ。
これは貸しだからな?」
次郎衛門の言葉で一気にその表情が凍りつくムキ男達。
もし、次郎衛門達がオークキングを討伐しなかったら、近いうちに村はオークキングに襲われていた可能性が高い。
そうなれば、恐らく村には壊滅的な被害が出ていただろうし、ムキ男達もそれなりに腕の立つ冒険者だったとしても、多勢に無勢で死んでいた公算が大きい。
だからこそムキ男達は村長を炊き付け、紆余曲折あったものの。
結果としては目論見通りに次郎衛門達がオークキングを討伐し、内心ほくそ笑んでいたのだが、次郎衛門はそんなに甘い男ではない。
「クハハ!
まぁ、そう怯えるなって!
命に関わる事態での貸しだからって、そんなにビクビクするなよ。
とりま、村長に報告してくるわ」
「ちょ!?
お前に借りを作るだなんて冗談じゃねぇぞ!
「五月蝿いな。
村長に報告に行くって言ってるだろうが!
ちょっと黙ってろ!」
「おい、ちょっと待…… グフ!」
次郎衛門の破天荒さを、身を持って体験したこともあるムキ男。
今回の件で押し付けられた借りが、未来の自分を確実に苦しめるだろうという事を0.2秒で確信する。
何とか悲惨な未来を回避しようと抵抗するムキ男であったが。
「フウ…… 要らん手間掛けさせやがって。
これも貸しに追加しとくからな」
しかし鳩尾に良い感じの角度で拳をめり込まされて悶絶。
そして更に何故か借りが追加されてしまうという、闇金融も真っ青な余計に酷い事態に陥る羽目になったのであった。
「村長。無事にオーク共は駆逐してきたぜ!」
「ほ、本当ですか?
上位種だけを倒したのではなく?」
「ああ。きっちり全滅させてきた。
まぁ、アイテムボックスが使えるとはいえ、流石に全てを回収する事は出来なかったけどな。
まぁ、一応オークの耳を討伐の証拠に持って帰ってきたぞ」
村長は次郎衛門の顔色を伺いながらも、無事に村の危機を回避する事が出来た事でほっとした表情を作っていた。
だが、全てを回収出来なかったという言葉でほんの一瞬だけ目をぎらつかせる。
それもほんの一瞬の事で、直ぐに村の平和が守られて良かったと笑顔を作り出した。
いや、作り出したというのは、少し語弊があるかもしれない。
村の危機が去って良かったと思っているのは間違いないのだから。
「オークの討伐を祝って、今夜は村を挙げて宴でも開きましょう」
「それじゃ、大量にあるオーク肉を使ってくれよ。
腐らせちゃっても仕方ないしな!」
「おお。それはありがたい。
ワシは差配がありますので一旦失礼しますが、宴が始まるまでは自由にしていてください」
「流石に疲れたし、始まるまでは宿で休ませて貰うわ。
始める時にでも呼びにきてくれ」
村長に伝え、宿屋へと向かう次郎衛門達であった。
「お早いお帰りですね。
今日はオーク見つからなかったんですか?」
宿屋に戻ると、次郎衛門達に気がついたお姉さんが、出かけた時と特に変わった様子のない次郎衛門達に問い掛けてくる。
オークの群れの事は、やはりお姉さんにとっても心配な事であるらしい。
その表情はどことなく不安気である。
「そんな顔してたら折角の美人さんが台無しだぞ?
女の子は笑顔が一番だ。
大丈夫、ちゃんと狩ってきたから。
ささ、笑いなされ」
「び、美人!?
え、笑顔ですか!?
……こほん。
こ、こんな感じでしょうか?」
次郎衛門に表情のダメ出しをされたり、ルックスを褒められたり、笑顔を要求されたり、すっかりペースを乱されるお姉さん。
若干顔を赤らめながらも、ぎこちなく笑顔を作る。
「おお!
良いね!
営業スマイルも悪くないけど、こっちの笑顔の方が全然良い!」
「そうですか?
ありがとうございます」
褒め称える次郎衛門。
お姉さんも満更でもなさそうだ。
ぎこちなさも徐々に消え、ニコニコと自然体な笑顔がこぼれる。
次郎衛門にしては珍しい事だが、どうやら宿屋のお姉さんフラグを立ててしまったっぽい。
酒場兼宿屋の看板娘にしてはチョロすぎだろうと思わなくもないが、この村にはあまり他所から旅人は来ない。
酒場に来る常連はお互いに子供の頃からの顔なじみである。
従って新鮮味といったものは全くない。
そんな生活も悪くはないのだろうが、些か閉塞感を感じていた時に、街からフラッとやってきた冒険者がサクッと村の危機を救ってくれたのだ。
そしてそんな村の英雄と言ってしまって良い冒険者が、自分の事を美人だとか笑顔が良いと褒めまくってくるのだ。
純朴な村娘とまではいかないまでも、お姉さんがちょっとその気になってしまっても仕方のない事なのだ。
だが、そんなフラグですらも平然と自ら圧し折る男。
それが次郎衛門である。
「それでこれお土産。
沢山あるから好きなだけ使ってくれよ」
「へ? ヒィィィ!!!」
ニコニコと嬉しそうな笑顔を見せているお姉さんの目の前に。
ドサドサとオークの死体をアイテムボックスから無造作に放りだす。
フィリアに頭部を吹き飛ばされたものや、パンダロンに頭部を切り落とされたされたもの。
色々なバリエーションの死に様のオークは総じてグロい。
幾らお姉さんがファンタジーの世界の住人だからと言っても、ただの村人である。
最初から見えていたなら兎も角として、お姉さんの視界いっぱいに突然生々しい魔物の死体が出現したのだ。
その光景はお姉さんには、ショッキングに過ぎたらしい。
お姉さんは笑顔を浮かべたまま、気を失ってしまったのであった。




