53話 フィリア、今回はセーフ!?
「先ず、俺の空間魔法で逃がさない様に周辺一帯を封鎖する。
特に問題がなければ、フィリアたんは先制して魔法で片っ端から殺ってちょ。
パンダのおっさんは、一応フィリアたんにオーク共を近づけさせないでくれ。 アイリィたんと俺は手当たり次第にぬっ殺しまくるって事でOKかな?」
作戦とも言えない様な雑な作戦であるが、それぞれが己の実力に結構な自信があるので全員特に異論はないようだ。
全員の意思を確認した後。
次郎衛門が空間を閉鎖し始める。
だが、オークキングが空間が閉鎖されたと同時に周囲に満ちた魔力を感じとったらしい。
「ブヒ!?
何事だブヒ!
第一種警戒態勢をとるんだブヒ!」
オークキングの声に慌しく周囲の警戒を強めるオーク達。
もはや奇襲は出来そうにない。
「クソ。気付かれたか。
流石オーク系の最上位種なだけはある。
ちょっと舐めてたか」
奇襲は失敗と見てその姿をオーク達の前に晒す次郎衛門。
その表情には若干の悔しさが滲んでいた。
「ブヒヒ。
やはり人間だったブヒか。
態々食われに来るとは愚かな人間だブッヒッヒ」
「神の爺さんめ。
相変わらず何て適当な翻訳してんだよ。
それっぽい語尾を付ければ良いってもんじゃねぇだろうに」
「ブヒ?
人間の癖に、我等の高等な言語を理解出来るブヒ?」
「豚肉の分際で偉そうになによ!」
「女? 女がいるブヒ!!」
オークキングの高慢な態度。
そっれをプライドの高さには定評のあるフィリアが罵り返す。
だが、大好物の人間の女が混じっていると知ったオークキングは、まじまじとフィリアの全身を舐めるように観察しだす。
「!!?」
フィリアの脳裏に忌まわしき屈辱の記憶が蘇る。
そう、ストライクゾーンの広いゴブリン共に罵られ、唾を吐きかけられた時の記憶である。
フィリアの体が硬直し、事情を察した次郎衛門が珍しく心配そうな表情でフィリアを見守る。
そして審判の時は訪れる。
「ブッヒヒッヒヒ!
良い女だブッヒ!」
オークキングの言葉にフィリアは思わず目を輝かせそうになるものの、紙一重で踏み留まり、嫌そうな表情を作り口を開く。
「ぶ、豚の癖に見る目はあるのね。
でも豚に褒められても嬉しくとも何ともないんだから!」
必死に嬉しさを隠しているのが丸分りである。
どうやら多少は自信を取り戻した様だ。
そんなフィリアの様子をを事情を知らぬアイリィやパンダロンは不思議な生き物を見る目で、次郎衛門は優しくもどこか生暖かい目で見守っていた。
「気の強い女だブヒ。
気に入ったブヒ。
力づくで嫁にして毎日突っ込んでガバガバにしてやるブッヒヒ!」
「ハッ。冗談じゃないわ!
ジローの粗末なモノを突っ込まれるのもゴメンだけど、豚のモノだなんでもっとゴメンだわ!」
フィリアが吐き捨てる様に言い放つ。
売り言葉に買い言葉でオークキングを罵倒するのは仕方ないとしても、今の今までフィリアの心配をしていたのに粗末なモノとか言われてしまった次郎衛門はとんだとばっちりである。
「ちょ!?
フィリアたん聞き捨てならねえぞ!
誰のモノが粗末だって?
見たことあるんか?
何なら今から見せてやろうか?」
「五月蝿いわね!
汚いものなんて見たくないわよ!
ちょっとした言葉の綾じゃないの!」
オーク共をほったらかして口論を始めちゃう次郎衛門とフィリア。
「パパ大丈夫だよ。
お風呂でつつくと固くなって大きくなるのアイリィ知ってるもん!
パパいつも俺のツチノコは世界一! って言ってるもん!」
「な!? アイリィたん!? 何言い出すの!?」
「ジロー……
あんたって奴は、以前のおっぱいの件といい、今回の件といい、まさか本当にアイリィに手を出してるんじゃないでしょうね?」
「ジローお前……」
「「「ブヒヒ……」」」
恐らく次郎衛門の援護をしたつもりであろうアイリィ。
だが、ぶっ込んだ援護射撃がちょっと強烈過ぎた。
フィリアやパンダロンはおろかオーク共ですらドンビキだ。
辺りが沈黙に包まれる。
そして次郎衛門へと突き刺さる冷たい視線。
「い、いや。皆、誤解なんだ。
ほ、ほら、一緒に風呂入るとさ。
アアアイリィには付いてないからさ?
ききき、気になるらしくてさ、つ、つつつ、つつくんだよよよ?」
滑稽なほど同様しまくりである。
ここまで挙動不審だと本当に如何わしい事させていたのではないかと本格的に疑わしくなってくる。
「我等オークですら、こんなに幼い子に性的にどうこうしようとは思わんブヒ。
精々食べるだけブヒ。
無垢で何も知らない子になんてゲスな事させてるんだブヒ。
恥を知るブヒヒ!」
ほんの少し前までフィリアをガバガバにしてやるとか言ってた癖に、次郎衛門に説教を始めるオークキング。
子供に性的に食べるのはNGでも、食事的に食べるのはOKだとか中々奇妙なモラルを持っている様だ。
「だから違うって言ってんだろうが!
何で信じてくれねぇんだよ!
お前等血も涙もないんか?
それでも人間か?」
「血も涙も持ってるブヒ。
でも、人間じゃないブヒ。
見て分らないくらい頭が残念だブヒ?」
何だか必死に弁解をしているが、討伐対象であるオーク共を相手に何をやっているんだろうと思わなくもない。
しかも頭に血が上り過ぎて言ってる事がかなりおかしい。
オーク達に揚げ足を取られたあげく小馬鹿にまでされる始末である。
「言わせておけば!
こんの豚野郎共がぁ!
ぬっ殺してしてる!」
怒りに打ち震え、オーク達へと飛び掛る次郎衛門。
こうして何だかぐっずぐずのまま戦闘へと雪崩込むのであった。




