52話 お肉の匂い!?
「自信満々に先頭歩いてるけど、道は合ってるんでしょうね?」
「一応、ムキ男達が群れを見たって方向に歩いてる。
まだ俺の索敵範囲にはそれらしい群れも居ないっぽいなぁ。
俺達が居ない間に村が襲われたら本末転倒だし、目撃現場付近まで行っても見付けられなかったら、村が索敵範囲から外れない様に注意しながら探そうぜ」
フィリアの問いかけにアイリィを肩車をしたまま、大雑把な方針を答える次郎衛門。
勿論しれっとした表情を装ってはいるが、アイリィの太股の感触も堪能する事を忘れてはいない。
そんな次郎衛門に肩車をして貰って御機嫌のアイリィが口を開く。
「パパー。何だか美味しそうな匂いがするー」
「美味しそう?
こんな場所で美味しそうな匂いって何だろ?
蜂蜜とか果物みたいのでもあるんかなぁ」
「違う! お肉の匂い!」
「お肉…… つまりオークか!」
オークの肉は比較的安価で出回っている割とポピュラーな食材である。
アイリィは以前に食べたオーク肉の匂いを完全に覚えているらしい。
この辺りに微妙に漂うオークの匂いを嗅ぎ取ったようだ。
ちなみに次郎衛門も嗅覚は相当優れている筈であるが、嗅ぎ取る事は出来ていない。
この事からも、アイリィのお肉への情熱は並々ならぬ事が窺い知れようというものだ。
やっぱりドラゴンなので肉食なのだろう。
「アイリィたん。どっちから匂いがするか分るかい?」
「んーと。こっち!」
次郎衛門の問いかけに指を差し示すアイリィ。
その方向は目撃現場の方向と一致している。
どうやらオークが村の周辺に居るという事は間違いないようだ。
「よっしゃ行くぞぉ!
今夜の晩飯はオークキングのフィレ肉100g398万円だぁ!」
高いにも程がある。
次郎衛門がやる気充分なのは伝わってくるが、オークキングの肉が如何に高級品とは言えいくら何でも高過ぎである。
何故に日本円で言っているのか理解に苦しむところではあるが、仮に日本円に換算するとしても最高級A-5ランクの松阪牛が100g2万円程度だと考えるとして、入手するのに命の危険や存在自体が希少であるとは言え、流石に100g10万円はしないように思われる。
何にせよ、この世界での最高級肉の一角を担う存在である事は確かなので、気合が入りすぎて可笑しな事を口走る事も仕方のない事なのかも知れない。
「はぁ?
ちょっと高級な豚肉でしょう?
精々100g30円くらいでしょ」
フィリアはフィリアで安過ぎである。
一応は神である上に箱入り娘でもあるので、地球の一般的な常識に詳しくないとは言え酷すぎである。
まぁ、次郎衛門の発言に対して即座に反応出来る辺り、二人の息は合っていると言えるだろう。
フィリアは絶対に認めないだろうが。
「む?
索敵範囲に捉えた!
数は……
多いな。
200匹くらい居るぞ」
暫くお肉の相場談義に花を咲かせながら、アイリィの指し示す方向に移動していた次郎衛門達だったが、遂に次郎衛門にもオークを捉える事が出来た様だ。
「200匹か……
間違いなくキングが発生してやがるな。
200匹程度の群れならばまだオークキング単体のランクはAには届いてないだろう。
群れの討伐依頼としてランクはAランク依頼となるだろうがな」
次郎衛門の言葉を受けてパンダロンが冷静に分析する。
流石に辺境の街ラスクでも屈指の一流冒険者で、尚且つギルドの幹部でもあるだけあってその言葉には中々の説得力がある。
そうこうしているうちに視界にオーク達を捉える。
群れの中心にやけに体格の良いオークの集団があり、その中でも一際デカイ固体がおそらくオークキングなのだろう。
「フィリアたん鑑定魔法お願い」
「仕方ないわね。いい加減あんたも覚えなさいよね」
何だかんだと文句を言いつつもフィリアは鑑定魔法を使いオーク達を片っ端から鑑定し始めた。その鑑定結果がこれである。
オーク
ランクD
この世界ではゴブリンと並んでポピュラーな魔物。
知性もあり独自の言語を持っている。
ゴブリンと同様に人系の女性が食べ物としても性的な意味でも大好物である。オークの肉は食用として安価で出回る程度には一般的な食材なんじゃよ。
ハイオーク
ランクC
オークが突然変異を起こして進化したもの。
並みのオークとは一線を画すステータスを誇っている。
たたがオークだと舐めた冒険者は結構な割合で死ぬ。
食べると美味。
やはりオーク同様に女性が大好物なんじゃよ。
オークキング
ランクB
ハイオークが更に進化したもの。
際限なく成長をするので、長く生きた個体は単体でSランクに到達するものもいる。
オークキングに統率された群れは爆発的に数を増やし、近隣一帯の生物を色んな意味で食べ尽くす。
肉は滋養強壮効果が高く高値で取引されるんじゃよ。
「神の手抜きっぷりが半端ないな。
こんな雑学的な小ネタよりも、弱点とか役立つ攻略情報を表示するべきだろ……」
確かに次郎衛門の言うことはもっともである。
何せ鑑定して分った事を端的に纏めると、肉は食用になるって事と女好きという二点だけなのである。
もはや手抜きと言うよりは嫌がらせに近い。
結局詳しい事は分らなかったが、何とか気を取り直し、ハイオーク討伐経験のあるパンダロンの意見を参考に作戦を立てる次郎衛門であった。




